少しぐらいはお兄さんに似たところ出さないとね。
「大和さん、今日もいないんだって。お仕事らしいよ?」
リディアン音楽院の教室。
響は親友の未来と机をくっつけて喋っていた。
「ホントかな?前みたいに新しい女の子確保してるんじゃない?」
「未来って時々大和さんへの当たり強くなる時あるよね。まあ否定できないけど」
溜息をついて窓を眺める響。
「………けど、私たちはそんな大和さんに救われたんだよね」
「………うん、あの人がいたおかげでまた親友に戻れたのね」
二人は大和に出会った時を思い出した。
「この人殺し!なんでアンタが生き残っているのよ!?」
「兄ちゃんもおじさんも殺された!なのに何でお前だけ!?」
とある橋の下。
一人の少女が複数の男女に囲まれ、暴行を受けていた。
立花響。彼女はライブ事件の生き残りだった。
ライブ事件。
ツヴァイウィングというアイドルグループのライブ中、突如ノイズという認定特異災害に指定されている怪物が大量に現れ、無差別に殺戮を行った。
犠牲者の家族や友人などの関係者は突然の理不尽に怒りと悲しみを覚えるが、ノイズ相手に人間は何も出来ない、よって行き場のない感情を事件の生き残りに向けている。
生き残った者たちは他者を押し退けて自分達だけ逃げた。このデマを大義名分にして彼らは人殺しまでして生き残った罪人を断罪しているつもりだ。
そう、つもり。ただのごっこ遊びだ。
響にリンチを下している彼ら彼女らの大半はライブ事件とは無関係だ。
当然だ、いくら国民的に人気なアイドルグループとはいえ、いやだからこそ大半の物がライブに行けるわけがない。よって親類をライブで失って恨みを抱いているのは一部である。
では、何故こんなことをしているか。答えは簡単、大義名分があるからである。
大義名分を掲げて悪者を討伐すのは気持ちがいい。
しかし、悪を為す者とは強者或いは狡猾な者が多い。何も努力せず準備もしない者は簡単に返り討ちに遭う。だから大衆は悪者に対して怒りや侮蔑の目を向けるが、何も出来ずに泣き寝入りするのだ。
では、その悪者が無力なものならどうか。普通はあり得ないが、何かしらの理由で弱者が悪者になればどうなるか。答えは簡単、恰好の獲物になる。
その悪者がなぜ悪者になったのか、そうするに足る理由があったのか、そもそも本当に悪者なのか。そんなものは関係ない。
大事なのは悪者を倒したという爽快感。悪者を痛め付けて得られる優越感。悪者を皆でいじめる統一感。ソレらが全てだ。
何の努力もせず、一方的に安全圏から悪者を倒す。これ以上の娯楽は彼ら彼女らにとって早々ない。
今日も悪者は討伐される。
何も成せず、何者にも成れない有象無象たちによって。
レッテルを張られ、大義名分を振りかざされ、一方的に搾取される。
ただ一つ想定外があるとすれば…。
「い、痛いよぉ…」
「な、なんでこんなことに…」
そんな弱者共の幻想は、少し強い力が動くだけで容易く潰される。
所詮は弱者がより弱い者を虐める大義名分。強者には適わない。
いきな乱入した一人の男の手によって、彼らは蹴散らされた。
御門大和。彼の前では文字通りの有象無象である。
「さっさと失せろ。次は怪我するかもしれないぞ」
「「「・・・」」」
大和が怒気を込めた声で言う。
途端、有象無象共は蜘蛛の子を散らすかのように逃げて行った。
「………ぁ」
「ん?ああ、すまない。忘れていたわけじゃないんだ」
大和が片手を向けた途端、響は震えながら目を強く瞑る。
殴られる。反射的にそう思ってしまった彼女は、ほぼ無意識にそうした行動をとった。
しかしソレは杞憂に終わる。
「………ぇ?」
暖かな感触。
柔らかいが弾力的な硬さのある何かに包まれている。
悪い心地はしない。むしろ逆に安心感を響は覚えた。
そして、仄かに香る花のような甘い香りが更に安心感を強めた。
何の花かは知らない。しかし無性にその香りを嗅ぎたくなった。
ソレが目の前の青年に抱きしめられていたからだと気づくのは少し後だった。
「え?」
抱擁から解放され、改めて大和の顔を見る。
瞬間、彼女は息をのんだ。
美形。
実に陳腐且つありふれた言葉だが、ソレでしか表すことができなかった。
顔面とソレを形成する全てのパーツが最高の黄金比で作られているとしか思えないような、あまりにも美しすぎるかんばせ。
響を安心させようと微笑むその表情は、慈愛の天使のようであった。
十人十色という言葉があるように、美的センスなどある程度まで行けば個人の好みだと響は考えているが、この男は全ての色において美しいと言わせるに足る。ソレほど美しかった。
一目でそう思わされる圧倒的な美貌。
響の眼前いっぱいにソレが映り、先程の辛い感情も吹っ飛んだ。
「………え、あの……えと、その……」
言葉が出てこない。
あまりに予想外の出来事に頭の中のもの全部吹っ飛んでしまった。
顔が熱い。主に全体的に。間違いなく今自分の顔は真っ赤になっている。そう実感した
「どうした?もしかしてさっきの子たちにされて痛むのか?」
「ぁ……、いや、その……」
美声。
さっきは気づかなかったが、今思えば声までカッコいい。
優しく囁かれたせいでほんの少しだけ落ち着きかけた興奮がまたヒートアップした。
「すぅ~…はぁ………」
深呼吸して息を整える。
大丈夫、大丈夫だ。もう落ち着け自分。
響は心の中で自分にそう語り掛けて無理やり落ち着かせる。
「よかったら、少し話をしないか?」
「………はい」
男に免疫のない生娘はアッサリと頷いた。
その間、響と大和はありきたりな雑談を数十分程した。
男性と近しい距離で会話するなど初めての事。
しかも相手は絶世の美男子で、自分を救ってくれた。
まるで少女漫画のような出来事に、彼女は少し浮かれていた。
兎に角、大和との会話は響にとって楽しいものだった。
大和という男は会話が意外と上手い。
先ず、自分がぺらぺらと一方的に話すのではなく、質問するような形で話題を振る事で話を進める。
次に、聞き手に回る事で響が気持ちよくなるように応対してくれる。
最後に、相槌やリアクションのタイミングが良い。
おかげで響は全てを話すことが出来た。
自分がライブ事件の生き残りだとも。
あのライブから、彼女の世界は一変した。
学校での居場所がなくなった。
最初は無視されたり睨まれる程度だったが、徐々にエスカレートして物を隠されたり水を掛けられたり、今ではこうして集団で暴力を振るわれるようになった。
学校の教師も見て見ぬふり。学校で彼女を守ってくれる者はいなかった。
家も安全圏ではなくなった。
石を投げられて窓を割られてから、毎日のように落書きされたり、外から罵詈雑言で叫ばれ、ゴミを捨てられるようになり、ネットにも晒されるようになった
近所の人たちはむしろ迷惑そうにしており、完全な村八分となった。
父親が突然いなくなった。
生き残った娘の父親ということで上司からパワハラされ、徐々にエスカレートして響同様にいじめられ、家もこのような有様。遂に耐えきれなくなった。
唯一の肉親にも置いていかれ、彼女は一人になった。
「なんで…なんでこんなことになったのかな? 私、ただライブに行っただけなのに………」
「………」
ふと、暖かい感触を感じた。
抱きしめられたからだと理解したのは、それから少し後のことだった。
「辛かったろうね。なのに君はよく耐えた。………頑張ったね」
ソレは、響にとって一番欲しかった言葉だった。
自分を肯定し、認めてくれる言葉。
先程の事も相まって、大和の心は文字通り彼女の心に染み渡った。
普段なら決してここまで気を許さないだろう。
いくら彼女が人を疑わないとはいえ、そこまでバカではない。
もし仮にそこらの男が今のように近づいてきたら警戒するであろう。
しかし、大和が相手だと話は別だ。
「頑張った。十分頑張った。だから響はもう頑張らなくていい。耐えなくてもいいんだ」
自分の欲しい言葉をくれる。
自分を守ってくれた男の人から。
自分の話を真摯に聞いてくれた絶世の美男子から。
その誘惑には到底抗えない魔力があった。
「俺は君の助けになりたい。」
毒蛇が入り込む。
少女の心の奥深、脆くて柔いところに。
鋭い毒牙を立て、侵食して塗り替えるために。
毒を。
甘くて心地よい、夢を見せる毒を。
「なんだ、今日も来たのか。いいぞ、何話す?」
「一人の家が寂しい?なら俺の家はどうだ?ちょうど一人なんだ」
「抱いてほしい?響みたいなかわいい子となら光栄だ。むしろ俺から望むぐらいだ」
響が大和に恋をして、彼の存在が不可欠になるのはあっという間だった。
もう彼女は彼無しでは生きれない。既に奥底まで入り込んでしまった。
しかしそれでいいのだ。
「(帰ったらどんなことしてあげよっかな?)」
今の彼女は、幸せだ。
主人公の顔はまんまコードギアスのルルーシュです。憑依先がたまたまイケメンだったのではなく、主人公が取り憑いた結果、様々な遺伝子が混じり合い、主人公がイケメンに生まれたいと願った結果、ルルーシュになりました。
声もルルーシュですが、これは自前です。ですから本来のドライバーのボイスも福山潤ボイスです。高笑いもルルーシュのアレです。