ブラッド族三男坊の道楽記   作:大枝豆もやし

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今回もまた翼さんには曇ってもらいます。
いや~、二人の心の在り所を潰した甲斐がありました。


風鳴翼の場合

 

 とある病院の中庭、一人の女性がベンチに座って俯いていた。

 帽子を目深く被っているせいで顔は分かりにくいが、蒼く美しい髪とスタイルの良さから美人であることが伺える。

 当然である、彼女は風鳴翼。かつて人気アイドルグループであったツヴァイウィングの片翼なのだから。

 

「(なんで、こんなことになっちゃったんだろう…)」

 

 あのライブ事件以来、ツヴァイウィングは活動を停止した。

 原作では片翼である奏がいなくなったせいだが、この世界では大和(ゼウス)のおかげで生き永らえている。

 確かに怪我のせいで入院を余儀なくされたが、退院さえすればアイドル活動は続行出来る。

 彼女達の役目はシンフォギアを纏う事だけではない。ツヴァイウィングとして活動する事での資金確保も大事な仕事の一つだ。

 では、なぜソレが出来なくなったのか。ソレは他でもない彼女たちが守りたいものたちの仕業だった。

 

 

 ツヴァイウィングの歌のせいでノイズが現れた。

 この噂のせいで彼女たちは活動する場も機会も失われた。

 

 コレの根拠になるのはゼウスが登場した際のセリフ。

 ツヴァイウィングの歌はノイズを引き寄せるのか。コレを真に受けたファンたちが拡散してしまったのだ。

 事実、ライブ事件ではありえな程のノイズたちが現れ、その被害は歴史上に残る程だった。故に思ってしまったのだ、本当にそうじゃないかと。

 状況証拠ですらない。何も知らない者が聞けばただの偶然だろと、むしろ彼女たちは被害者だと言うだろう。

 しかし点と点があると結びたくなるのが人の性。まして、怒りの矛先を求める大衆は強引でもいいから結び付けようとする。………まあ、実際に直結しているからなんともいえないのだが。

 

『ツヴァイウィングってあのライブの時、自分達だけ専用の逃げ道から逃げたらしいよ。観客たちは放っておいて』

 

『歌姫とか何とかいっても所詮はそんなもんだよな。アイドルなんて顔と事務所の力でやってけるんでしょ?』

 

『オリコンとかもどうせ社長とかと寝て取ったんでしょ?美人は得だね~』

 

『やっぱアイドルって顔と身体だけなんだよな~』

 

 一度ついた火は消える事なく燃え盛る。

 商売敵や彼女たちのアンチも便乗し、更に炎上していき、うわさ話やガセネタによってスクープとしてさも事実のように取り上げられていった。

 ライブ事件の生き残りたちを叩くのと同じ現象。

 こうして生贄となった彼女たちは社会に排除されてしまった。

 

「(私たちは、そんなことしてない!一所懸命頑張って練習して、努力してきたのに!)」

 

 悔しさのあまり涙が流れる。

 

 頑張って来た。

 辛い練習と鍛練を重ね、アイドル活動と防人としての使命を全うしてきた。

 しかし何だこの仕打ちは。あんなくだらない発言を真に受けて、簡単に崩れてしまうのか。

 

 

 

 私たちが築いてきたものはこんなにも脆いのか。

 私たちが守ってきたものはこんなにも醜いのか。

 私たちがやってきたことはこんなにも無意味なのか。

 

 じゃあ、私たちは何のために頑張って来たんだ。

 

 

 

 一度抱いた疑念は罅となって刀を脆くする。

 徐々に大きくなり折れそうになる彼女の心の刀。

 周囲の大人たちは何とか修復しようと尽力するが、疑念の元が無くならない限り罅は入り続ける。

 

 

 

「お隣、いいですか?」

「………え?」

 

 そしてそんな少女は悪にとって格好の餌食だ。

 

「よかったら俺と話しませんか?」

 

 毒蛇が少女に寄り添う。

 深く傷ついた弱弱しい乙女に。

 弱った彼女を支えながら、毒を流し込む為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(驚いた。杞憂だと思っていた事態がまさか本当に、しかもここまで大事になるとは)」

 

 スマホを眺めながら大和―――ドゥゼスは呆れかえっていた。

 ツヴァイウィングの炎上ニュース。しかもその発端は自分の発言だという。

 こんなバカな話に呆れるなというのが無理だ。

 

 確かに、あの発言はわざとした。

 だがこれはあくまで対象はネフシュタンの鎧を知っている者にのみ向けたものだ。決して何も知らない大衆ではない。

 俺は真実を知っているぞ。お前らの浅はかな実験のせいでこうなったと、ノイズを操って民衆に犠牲を出したお前は間違いなく悪だ、そう伝える為の発言だ。

 しかし、まさか曲げに曲げられてこういう意味に捉えられるのは予想こそしていたがそうはならいだろうと思っていた。そこまでバカではないと思いたかった。

 だが実際はどうだ。マジでバカな行為をやりやがった。

 

 原作を知っている者たちが叩くのは仕方ない。

 正確に叩く対象はノイズを操って観客を巻き込んでネフシュタンの鎧を強奪しようとしたフィーネだが、そんな大事な実験を無関係な人間が集まるコンサートでやるなとはドゥゼスも前世の頃から思っていた。

 だが、ソレを知らない民衆たちが、あんな状況証拠にすらならないような軽口を根拠にして彼女たちを叩くのは間違っている。

 もしドゥゼスがまともな人間ならそう考えていたであろう。

 

「(だが好都合だ。この状況、最大限まで利用させてもらう)」

 

 しかし、彼は所詮宇宙人(ブラッド族)だった。

 

 

 ドゥゼスは他のブラッド族と違って感情が理解できる。

 おそらく前世が人間、しかも弱者寄りだったおかげだろう。

 王族だからか彼は他のブラッド族にはない能力を持っていたが、一番特異なのはコレであろう。

 本来ならブラッド族にとって不要であり、理解できない筈の感情による非合理的な行動が分かってしまう。そのせいで他のブラッド族から不気味に見えたであろう。

 けど、人間の頃そのままというわけではない。

 

 確かに感情は理解出来るし、振り回されることもある。

 しかし、目的の為なら好意を持つ相手に平然と嘘を付けるし、切り捨てる事も出来る。

 彼は人の痛みは分かっているつもりだ。なにせ前世は常に痛みを伴う立場にいたから。

 けど、ドゥゼスはソレを利用できる。しかも相手に共感し、好意を持ちながら。

 

 イカれている。

 人間なら到底出来ない行為。

 しかし彼ならば、前世地球人のブラッド族である彼なら出来てしまうのだ。

 これこそブラッド族の異端と言われる所以。ブラッド族であると同時に地球人の要素を持ち、どちらでもありどちらでもない。

 そんな彼だからこそ、もう一人の異端であるキルバスと並び立つ存在となった。

 

 

『防人としての役目よりも、大事な人を優先した?ソレの何が悪い?君はただの女の子なんだ。君を責める事なんで出来ないよ』

 

『君は優しいんだね、自分のことよりも誰かを思いやる。そんな君が傷つく方が友達は辛いと思うよ?』

 

『逃げたっていいんだ。そのゼウスってやつがノイズを全部やっつけてくれるんだろ。ならいいじゃないか。住む場所は俺がなんとかしてやる!』

 

 

 傷心した彼女に寄り添う。

 自分で壊しておきながら、平然と優しい嘘を吐く。

 おそらく二課の大人たちも本当は彼女を叩きから遠ざけたかったが立場がソレを許さない。彼女の周囲はそんな環境だ。

 だからこそ、彼女をその場から掬い上げようとする者は、その力がある大人の男性はシンフォギア奏者以外に価値を与えようとする異性は。それはそれは魅力的に見えたであろう。

 まあ、何時かは夢から覚めてもらうが。

 

「(将を射んとする者はまず馬を射よ。まあ、この馬も将と同格なんだが)」

 

 翼との縁は作った。

 後は彼女との縁を使えば、奏とも近いうちに会える。

 

 奏は全てを失った。

 無くしたもの具合はむしろ翼よりも多い筈だ。

 復讐の為にシンフォギアを纏い、適合率を無理やり上げるために命を削った。

 なのに、ソレが全て無駄になったのだ。その喪失感は死の絶望にも匹敵するだろう。

 そんな彼女に光を与える。甘い毒に満ちた夢と希望という名の嘘を。

 これでツヴァイウィングは俺の物だ。

 

「(ッフ、人間の身体にいすぎて大分思考がピンクに染まっているな。けどまあいい。復活以外の楽しみがあるのはいい事だ)」

 

 彼の目論見は上手くいった。

 傷心している翼に付け入り、篭絡しつつ奏を紹介させる。

 奏もまた翼以上に傷心…否、翼以上にやり易かった。

 当然だ、彼女は心の在り処を粉々に破壊されたのだから。

 だから、壊した本人が責任もって修復する。

 壊したのはドゥゼス自身だ。だから、其の逆をすればいい。

 

 

『そっか、奏はノイズが怖くなったんだね。けど仕方ない、ソレが普通なんだ』

 

『そっか、君は家族が欲しいんだね。君と家族になれる人はとっても幸せだろうね』

 

『何なら俺が立候補しようかな?俺なんかじゃ不釣り合いだと思うけど、お前を想う気持ちはその二課って人たちに負けるつもりはないぜ?』

 

 

 代償行為になるものをまた用意してやればいい。

 このために心の拠り所である敵と戦う力(シンフォギア)戦う理由(憎しみ)も奪ってきたのだから。

 

「(計画は順調。ハーレムコンプが楽しみだ)」

 

 ハーレムを作った後はどうするか。

 こんな星なら食っても問題なさそうだな。

 そんな下らないことを考えつつ、少女たちを惑わす毒蛇は次の獲物に毒牙を向ける。

 




前々から思ってたんですけど、あの世界のモブって情報に踊らさせすぎじゃないですか?
いくらライブ事件で大事な人無くしたとはいえ、生き残った人にあそこまで強く当たる?
で、シンフォギアが表に出て響が命懸けで戦っても謝罪の言葉すらない。ホントにこんなのを守る価値あるのか?
皆さんはどう思います?
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