もしかしたらこれとは別にスカーク師匠の話を書くかもしれません。
なんか書いた気がする描写がある気が……。
「……はぁ。どうしよう」
カナデは心底困った様子で顔を両手で覆った。今朝早くからこの事ばかり考えていたが、解決策が全く浮かばない。
手を離し、自分の手を再度確認する。
やはり小さくふわふわとした掌がそこにあった。
今日、カナデはとある秘境へと足を運んだ。この秘境はレアな素材やらが手に入りやすいと知人に聞いたからだ。
確かに今日は普段行く秘境よりも多く手に入り、上機嫌で帰路につく途中だったが……地脈が金色に輝いて見えた為、触れた途端──……幼い姿になっていた。
先程身支度用の手鏡を見てみたが、やはり幼い子供になってしまっている。
「これじゃあ依頼なんて受けれない……」
働くことが苦ではないカナデからすれば、働けないことに困っている。そのお陰で金稼ぎが趣味、では無いがしばらく働けなくても大丈夫なくらいの蓄えはある。
しかし、動いてないと落ち着かないのだ。だからといってこんな姿で歩いていると、保護されかねない。
とりあえず家に戻り、今日は家事をする事にする。明日になったら何か戻る手段はないか探す事に決めた。
「ただいま〜」
部屋の中は静かだ。
カナデの壺の精霊は今日は買い出しに行くのでいないだろうし……とりあえず飼っている鳥たちのエサをあげたり、掃除を始める。
ある程度片付け終わり、窓の外をぼーっと眺める。カナデは時々そうやる癖がついている。
景色を見つめながら、考え事をするのだ。
少しして、庭に出ると花々を眺める事にした。この場所には虫は来ないのでゆっくりと鑑賞できる。
庭にあるガーデンの椅子に座り、空を眺める。
穏やかな風が吹き、花々を揺らす。心地よい陽気に包まれ、カナデはそのまま寝てしまった。
※※※
庭の静寂の中、カナデは深く眠り込んでいた。
午後の陽射しが柔らかく彼女の小さな体を包み込み、花々の香りが鼻孔をくすぐる。
普段は警戒心の強い彼女だが、あまりの心地よさに完全に某配達員の猫又のように気を緩めていた。
不意に足音が聞こえ、カナデは一瞬目を開けかけたが、すぐにまた閉じてしまった。
普段よりも小さな手足では何事も重労働だ。
疲労が彼女の瞼を重くしている。
「あれ?」
聞き覚えのある声が庭に響く。
カナデはその声に反応し、一気に覚醒した。
慌てて起き上がると、目の前にはタルタリヤが立っていた。
彼はいつもと同じ服装で、右腰にある神の目が陽の光を浴び、水色に輝き、装飾の銀の部分がきらりと光ってカナデの目に映った。
彼の右手には白い紙袋があり、左手には何かを持っている様だ。
またいつものように何かプレゼントを持ってきたのだろう。
タルタリヤは大切な人と離れる時間が長すぎると、埋め合わせの様にお土産を買う癖がある。
それは家族だけではなく、カナデに対しても同様であった。
「あ……」
カナデは言葉に詰まった。
普段より小さくなった手で口元を隠す。どう言い訳しようか一瞬で思考が駆け巡る。
タルタリヤは目を丸くしてカナデを見つめている。
彼の表情からは困惑と驚きが見て取れる。
紙袋を持つ手が一瞬震えた。
「えっと……その……これは……」
一気に眠気は吹き飛び、焦りが全身を支配する。
タルタリヤは膝をついてカナデの目線の高さに合わせてきた。
「カナデ……?」
彼の声は確認するような響きを持っていた。
その目は驚きと共に何か別の感情を含んでいるように見える。
それは好奇心なのか、心配なのか、それとも……。
「そうだよ……私だよ」
カナデは渋々認めた。
タルタリヤの視線から逃れるように視線を逸らすと、幼い手で自分の膝を握りしめる。
「一体どうしたんだい?どうしてそんな姿に?」
タルタリヤは心配そうな表情で尋ねた。普段の軽口を叩く調子ではなく、真剣な声色だ。
「ちょっと……秘境で変な地脈に触っちゃって……」
※※※
カナデは昨日の出来事を思い出しながら答えた。
言葉にするとなんだか恥ずかしくなってくる。
自分が迂闊に地脈に触れてこのような状態になったことが情けなく感じつつも、身振り手振りで説明する。
「……なるほど」
タルタリヤは理解した様子で頷いた。
彼は立ち上がり、紙袋をベンチに置くと、幼くなったカナデの体を観察するように視線を向けている。
「それで、体調に問題はない?何か異変は?」
タルタリヤの問いかけにカナデは一瞬考えてから答えた。
「うん……今のところは。ただ……この姿じゃ依頼も受けられないからそれは悩みどころかな……ジッとしてたら落ち着かないし……」
そう言いながらもカナデは自分の小さな手を見つめる。普段よりも短い指と小さくなった爪。全てが見慣れない。
「ふむ……」
タルタリヤは腕を組み、何かを考えるように眉を寄せた。真剣な表情をしている。
カナデはニコニコ笑っているタルタリヤも好ましいが、こういう真面目な顔も格好いいと思う。もちろんそんなことは口に出さない。
口に出したら色々面倒になる。タルタリヤが調子に乗るのは目に見えているからだ。
「なるほど……」
タルタリヤは顎に手を当てて考え込んだ後、突然笑顔になった。
「つまり、今の君は『お休み』中ということだね?」
「え? まぁ……そうなるかな」
カナデはタルタリヤの意図が分からず首を傾げた。するとタルタリヤは膝をついてカナデと目線を合わせ、手を差し出した。
「じゃあ、俺が面倒を見ようか?」
「えっ?」
カナデは驚いて声を上げた。タルタリヤはいつもの微笑みを浮かべている。
困惑したカナデは立ち上がると、少し後ずさりしながら言った。
「いやいや、そんな迷惑かけるわけには……」
「迷惑なんかじゃないさ。それに、このまま放っておくわけにもいかないだろう?」
すると、突然タルタリヤは立ち上がり、ベンチに置いていた紙袋を持ち上げる。
紙袋には様々な物が入っているようで少し重そうだ。
「実は今日、食材を買ってきたんだ。前に俺が作った料理を美味しそうに食べてくれたから、また作ろうと思って」
「あ……ありがとう」
カナデは少し照れながらお礼を言った。確かにタルタリヤの料理はいつも美味しい。
彼は一見、今時の青年にしか見えないが、ファデュイの執行官にも関わらず掃除や洗濯だけでなく料理も得意だ。彼の料理はどれも手が込んでいて美味しい。それはタルタリヤが幼い頃から食事を作っていた経験があるからだろう。
それに、今まで様々な地に単独で任務をこなしていたためか、生活能力は高い。
彼くらいの立場であれば部下に任せても良いものだが……そういう事は自分でやるのが多いようだ。
「でも……タルタリヤだって忙しいんじゃ……。ファデュイの仕事もあるし、プライベートの時間だって必要でしょ?」
カナデは心配そうに尋ねた。今の幼い姿ではろくにタルタリヤの手助けもできない。むしろ彼の時間を奪うことになるだろう。
「大丈夫さ。今の君は特別な状況だ。それに……」
眉を下げ、期待と不安を顔に表したカナデにタルタリヤは安心させるように彼女に微笑みかける。
「君と過ごす時間はいつも楽しい。それはどんな姿であっても変わらない。それに……」
タルタリヤは一瞬遠くを見つめるような表情を見せた後、再びカナデに視線を戻した。
「幼い姿の君も可愛いよ。妹や弟がいるから、子供の扱いには慣れているんだ。カナデも知ってるだろう?」
彼の言葉にカナデは少し顔を赤らめた。確かにタルタリヤには多くの兄弟姉妹がいる。だから子供の世話には慣れているのだろう。
しかし、今の言葉だと自分も妹扱いされているような気がして複雑な気持ちになる。
少し唇を尖らせながらカナデは言った。
「私はタルタリヤの妹じゃないけど?」
「ははっ、そうだね。でも、心配しなくても大丈夫だ。君は……」
そこでタルタリヤは言葉を区切り、にやりと笑う。
「俺の大切な人だ。だから、こんな状況、心配するのは当然だよ」
タルタリヤの言葉にカナデは一瞬呆然とした後、頬が熱くなるのを感じた。彼は自分の気持ちを率直に表現することが多い。それが時に恥ずかしくもあり、嬉しくもある。
それに。特に、今の言葉は特別に響いた。
カナデは顔を両手で覆いながら頬の熱をさましつつ、息を吐く。
「そ……そんなこと言って……もう」
彼女の反応を見てタルタリヤは満足そうに笑った。その笑顔には優しさと少しのからかいが混ざっている。
普段の彼の笑顔とは少し違った、柔らかさがそこにあった。
「それで、どうする? このまま俺が面倒を見てもいいかな?」
タルタリヤは優しくカナデに尋ねる。
その瞳には彼女への思いやりと、温かさが映る。無論、少しの下心はあるかもしれないが。
カナデはそれでも。その海のような瞳から逃れることができず、結局小さく頷いた。
「……うん。じゃあ、その。お願いしてもいい?」
カナデの小さな……だが、決意がこもった承諾にタルタリヤは嬉しそうに笑い、頷いた。
そして彼はカナデに荷物を渡したかとおもうと彼女をひょいと持ち上げる。
「わっ!」
「ほら、家に入ろう。暗くなる前に。じゃないと夕方になってしまうからね」
カナデは言葉を聞く余裕もなく、慌ててタルタリヤの腕につかまった。
タルタリヤの体温が近くに感じられ、安心感が広がっていく。
服越しに感じる細く見えるがしっかりついている彼の筋肉の厚みや、呼吸のリズムが心地よい。
今はお姫様抱っこで持ち上げて貰っているが、良く祖父に猫のように首根っこを持たれて運ばれた事を思い出した。
「……おじいちゃん……」
その言葉を口にした瞬間、カナデの胸に暖かいものが広がった。幼い頃の記憶が蘇る。祖父は厳しく、不器用な人だったがカナデが勝てないほど強く優しい人だった。
タルタリヤの腕の中でもそう感じる。彼も同じような存在だ。
無論、性格や容姿は全く違う。しかし二人ともカナデを思ってくれる、そんな優しさがある。
それが伝わってくるからだろう。
「ん? 何か言ったかい?」
タルタリヤが尋ねたが、カナデは首を横に振った。
「ううん。なんでもない。ちょっと懐かしい気持ちに浸ってただけ」
タルタリヤはカナデの言葉に不思議そうな表情を浮かべたが、それ以上は追及しなかった。
ただ静かに彼女を抱き上げたまま、玄関へと歩き出す。
カナデはタルタリヤの腕の中で小さく息を吐いた。これからしばらく彼に世話になることになる。
そのことに緊張しつつも、どこか安堵している自分がいることに気づいた。
家の中に入ると、タルタリヤはカナデを慎重にソファに下ろした。柔らかな布地が彼女の小さな体を受け止める。普段ならなんとも思わないソファだが、今のサイズでは不思議と大きすぎて落ち着かない。
カナデは無意識に足を抱えて小さく座った。
今のカナデの服は、昔に祖母が作ってくれたワンピースだ。
捨てれば良かったのだが、様々な思い出が詰まった服なので未だにタンスの奥にしまってあった。
だが今日は自分にナイスと言ってやりたい。この服がなければブカブカの服で歩き回る羽目になっていたかもしれない。
それと同時に、なんだか嬉しさもある。
もう着れないと思っていた服が、今こうして役に立っている。
やはりカナデにとって、亡き祖父母は大事な存在だったと思える。今日はそんな日だ。
カナデはそんなことを考えながら、ソファに座ってタルタリヤの後ろ姿を見つめた。
彼は手慣れた様子でキッチンに向かい、手際よく準備を始める。
紙袋から食材を取り出し、次々と調理器具を並べていく。
その動きには迷いがなく、料理に慣れていることと、カナデの家によく来ていることが伺える。
カナデはそんなタルタリヤの姿を見ながらふと思った。
『タルタリヤが家にいる』
そう思った瞬間、急に居心地が悪くなった。彼がこの家にいることに違和感はない。むしろ慣れている光景だ。
タルタリヤは度々カナデの家に来るし、泊まっていくこともある。
だが今の自分はいつもと違う。彼から見れば自分は『子供』だ。
(こ、こんな姿じゃ……本当に何もないまま終わる……。せっかく2人きりなのに)
カナデは顔を赤らめながら、小さな手で拳を握りしめ、慌てて首を横に振る。
(何を考えてるんだ私!? タルタリヤは私を心配してくれてるのに。そんな邪な考えをするなんて最低すぎ!)
カナデは必死に自分を戒める。だが一方で心の奥底に芽生えた淡い期待を否定することもできなかった。
タルタリヤはカナデのそんな心情には気づかず、手早く準備を進めている。
「カナデ、何か飲み物はいる? 外にいたから喉が渇いただろう?」
タルタリヤがキッチンから振り返って声をかけてきた。
カナデはハッと我に返り、慌てて答える。
「えっ、あ。えっと。み、水でいいよ、うん……水入れて貰えるかな……」
「了解。少し待ってて」
タルタリヤは軽く微笑みながら再びキッチンに向き直った。
カナデは小さく息をつき、改めて部屋を見回す。見慣れた家具が今の自分には全て大きく見える。
棚の上にある本も届かないし、壁に飾った絵も高すぎて見上げないと見えない。
全てが大きく感じられ、少し怖さすら覚える。
(この状態でどうやって生活していくんだろう……元に戻らなかったら?)
そんな不安が胸をよぎる。カナデは自分の手を見つめた。小さくて細い指。いつもよりずっと頼りない。
(タルタリヤに甘えっぱなしになる……それは嫌だな。私は……対等な関係でいたいのに……)
そんなことを考えていると、タルタリヤがグラスを持って戻ってきた。
「はい、どうぞ。冷たい水だよ」
タルタリヤはグラスをカナデの前に差し出した。カナデは申し訳なく思いながらそれを受け取る。
「ありがと……」
小さな声で礼を言い、一口飲む。冷たい水が喉を通る感覚が心地よい。
少し緊張が解けた気がした。
「うん。何か困ったことがあったら遠慮なく言ってくれ。小さな体じゃ不便も多いだろうからね」
タルタリヤはカナデの隣に座りながら言った。彼の距離感はいつもと変わらない。カナデは少し顔を赤らめながらも頷いた。
「わかった……。その。やっぱり優しいね。きみは……」
カナデは小さな声で呟いた。タルタリヤは少し驚いたように目を見開いたが、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。
「いや、君が特別だからだよ。それに俺より君の方がずっと優しいじゃないか」
「えっ、えっと……そ、そうかな?」
タルタリヤの言葉にカナデは慌てて目を逸らした。自分の頬が熱くなっているのがわかる。
(やばい……。何言ってるんだろ……)
そんな内心とは裏腹にタルタリヤは続ける。
「そうだよ。それに……」
タルタリヤがカナデの態度に笑みをこぼし、何かを言いかけたが、途中で言葉を切ると、軽く手を振りながらキッチンの方へ向かった。
「とにかく。今日はゆっくり休むといい。君は頑張りすぎることがあるからね」
カナデはタルタリヤの後ろ姿を見送りながら、また水を一口飲んだ。彼の背中はいつもより大きく見え──頼りになる人だと改めて実感する。
だがその大きさが今のカナデには少し寂しくも感じられた。
(私が元に戻るまで、この関係が続く、よね? つまり、そういう事はしばらくないってこと?)
せめてキスくらいはしたいが、今の自分にはそれすら難しいかもしれない。
(このまま小さいままだったら……いつか……私の元に来なくなるんじゃ……。いや、来ても相手にしてくれなくなるかも……)
そんな考えがカナデの頭をよぎり、不安が胸を締め付ける。
だがそれを押し殺すようにカナデは小さく息を吐いた。
「……どうしよう。本当に困ったな」
カナデは呟きながら膝を抱え込んだ。そして窓の外に目を向けた。もう日が暮れかけており、空が茜色に染まりはじめた。
淡い桜のようなピンク色の空。
カナデは空の様々な色が好きだが、特にその色合いを好んでいる。
タルタリヤが戻ってくるまでの間、カナデはぼんやりとその景色を眺め──心の中に湧き上がる様々な感情を整理しながら、ただ静かに時間が過ぎるのを待っていた。
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タルタリヤ 番外編
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