ある日のこと。
祖父に連れられ、キャロルはモンド城の外を歩いていた。
彼がいれば道中は安全なので、遠出をする時は良く付き添ってもらっている。
今日はよく分からないが『用事があるから一緒に出掛けるぞ』と小さいキャロルを連れ出した。
その用事が何なのか、幼いキャロルには良く分からないが、祖父が言うので頷きながら共に歩いていたのだが……。
(街の外を歩いてる……モンド城から出るの久しぶりだ)
草原にはミントやスイートフラワーなどがちらほら咲いており、この辺りにはヒルチャールたちは住んでいないらしい。
その光景を見ていたが、『カナデ』の記憶にある世界よりものどかな光景に思える。
『カナデ』曰く、『田舎』と形容される場所なのだろう。
前に本を読んだときに見た文章では都会に近いのは『フォンテーヌ』だとカナデの記憶は言っていた。
マシナリーというらしい機械が沢山あるようだ。
キャロルは機械の便利さを『カナデ』の記憶を通して知っているので、将来的には便利な家電機器を購入したいな、とぼんやりと考えていると、祖父が『着いたぞ』と言って立ち止まった。
そこには赤レンガの屋根でできた屋敷があり、その前には何かを育てている様子が見え、
近くの木の看板には『アカツキワイナリー』と書かれていた。
どうやら祖父がキャロルを連れ出したのは、ここに用があったかららしい。
しかし、幼いキャロルはここに来た理由を知らないので首を傾げるばかりである。
(こんな所に何の用なんだろう? お酒を造っているところだよね?)
モンドではアカツキワイナリーは有名だ。
蒲公英酒を専門に生産している場所で、長年続くワイナリーであり、かなり儲けていると噂で聞いたことがある。
すると祖父はキャロルの頭を軽く撫でると、『お前はここで待っていろ』と言って屋敷の敷地内に入って行った。
少し遠くにいたメイドらしき人物や、動きやすい服装をしている従業員らしき人たちの姿もあった。
恐らく、「用事」とはその従業員かこのワイナリーの当主と関係があるのだろう。
(……わたしも入りたい、こんな屋敷行ったことないし……)
そう考えつつ待っているが、キャロルがこの中に入っていく勇気はない。
何も考えない無邪気な子供であれば何も考えずに入ったのかもしれないが、賢い彼女はそうもいかない。
知識のあるキャロルからすれば、このワイナリーの当主がもし厳しかったら確実に怒られる。
だとしたら祖父の迷惑になる事はしたくなかった。
それに、小さな子どもが入り込むと不注意な行動を取ることで怪我などをする可能性もあるし、下手に動き回らず、ここでおとなしく待っている方が良いのかもしれない、と思い始めた時だ。
「ああ! ディルック様!!! またそうやってイタズラをなされて! 危ないですから入ってはダメとあれほど言ってるじゃないですか!」
キャロルがふと見ると、同じぐらいの歳の男の子が外を走っていた。
燃えるような赤い髪が特徴的で、危なっかしい足取りで走っている。
その後ろをメイド服を着た人物が追いかける様に歩いていたが、一向に縮まらない距離に疲れ果てた表情をしていた。
『危ない』という事を注意されているが、その子は『だれにもめいわくかけてないからいいよ!』と聞く耳を持たない様子だ。
(……子供? 様付けされているってことは、このワイナリーの子供かな……)
そう考え、その子を見ているとパチリとキャロルと目が合った。
赤い髪の男の子はピタッと走るのを止め、不思議そうにまん丸とした髪と同じ色をした瞳でキャロルを見ていた。
(やば……目があってしまった)
話しかけられるかもと内心焦っていると、男の子は嬉しそうな笑みを浮かべた。
「きみ、だれ? みかけないかおだけど……」
「……えっと、おじいちゃんのつきそいできたの」
「おじいちゃん? ねぇ、おじいちゃんはどこにいるの?」
「えっと……もうすぐくるとおもうよ、やしきのなかにはいっていったから……」
幼いキャロルはその質問に対ししどろもどろになりながら答えると、男の子は聞いてきたくせに興味がなさそうにふーんと言い、今度はキャロルの周りをウロチョロと見ながらキョロキョロとしてこう言った。
「……じゃあ、きみ、ひまなの?」
「うん、まぁ、ひまだよ」
その答えに男の子は満面の笑みを浮かべた。まるで太陽のような明るい笑顔に、キャロルは内心『眩しい』と思ったが、同時に、何か嫌な予感を感じた。
──そして、その予感はすぐに的中することになる。
男の子が目をキラキラと宝石のように輝かせながら、言ったのだ。
「だったら、きみもいっしょにあそぼう!」
「……え?」
その言葉にキャロルは思わず目を丸くした。
確かにそう言われる予感もしたが、まさか本当に当たるとは。
思わず嫌そうな声を上げそうになったが、キャロルはじっと男の子の目を見つめ返しながら内心こう思った。
(……屋敷に入っていいのかな?)
もし祖父が入ってこいと言ったら入らざるを得ないが、何も言わずにどこかに行くと絶対に祖父は心配するだろう。
だが、この目の前の少年の期待の眼差しを向けられると、断りづらかった。
「えっと……」
キャロルは答えに迷っていると、少年は少し不思議そうに首を傾げながら言った。
「きみはあそびたくないの?」
「……わたしはべつにどっちでもいいんだけど……」
少年の質問にそう答えるが、それを聞いた少年の瞳は寂しそうに揺れる。
その表情を見ると、とても罪悪感が湧いてくる。
聡いキャロルは察してしまう。この場所はモンド城より遠いし、同じ年くらいの子供は中々こないだろう。
もしこの少年がこのワイナリーの跡取りであるのならば、一人遊びを基本的にしているのではないか……? と。
そう思うと、なんだか無性に可哀想に思えてきてキャロルは遂に観念した。
「……わかったよ、わたしもいっしょにあそぶ」
「! ほんとう!?」
そう答えると、少年はパァっと表情を明るくさせ、満面の笑みを浮かべる。
それを見てキャロルは思わず少し笑ってしまったが、少年の嬉しそうな表情を見ると何も言えなくなる。
「やったぁ! きみ、なまえは? ぼくはディルック!」
少年──ディルックは心底嬉しそうにキャロルの手を取りながら、ブンブン、と上下に振り回す。
その無邪気で嬉しそうな様子に、キャロルは口元がほころぶのを感じ、なんだか暖かい気持ちになった。
「あ、こらディルック様!」
「ほら、はやくいこう! はやくいこう!」
「わっ、ちょ、ちょっとまって……!」
後ろからメイドが追ってくるのを他所に、キャロルの手を引っ張っていく。
もはや一刻も早く彼女と遊びたくて仕方が無いのだろう。
キャロルは強い力で引かれ、慌ててそれについていく。
「はいろう! たのしいこといっぱいしよう! ぼく、いろんなことしってるんだよ!」
そして、小さな足が縺れそうになるほどの速さで屋敷の中へと入って行った。
(あ、危ない……! 元気すぎるでしょこの子!)
何とかこけないように足に力を入れつつ、手を引かれながらキャロルは思った。
──そして、ディルックがモンドを代表する富豪である『アカツキワイナリー』のオーナーであり、この屋敷の主人である『クリプス・ラグヴィンド』の息子だと知るのは……遊んでいる途中にその人と重信が話を終えた後、執務室を出た後に広間で偶然出くわす時であった。
そして、実は自分がディルックの遊び相手に連れていかれたのだと、キャロルは家に帰った時に聞かされた。
それから、キャロルとディルックの友人関係が築かれたのは、言うまでもないだろう。
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