それから。
キャロルとガイア、そしてディルックは一緒に遊ぶ事が増えていった。
屋敷の中で遊んだり、アカツキワイナリーの周りで遊んだり、釣りをしてから魚を食べたり、様々な事をした。
たまに喧嘩もするが、やっぱりなんだかんだ言って三人で一緒に過ごすことが多かった。
たまにモンド城に行き、街の子供たちと遊んだりする。
キャロルはそんな毎日を楽しく感じていた。
ガイアはモンド出身ではない容姿をしており、スメールやナタによく見られる特徴の容姿をしているが、話を聞く限り、そこ出身には見られない。
キャロルはガイアが普通の子供よりも大人びていると思った。
言葉を話し出すのはいつも後が多いし、よく観察をしている様に見える。
頭の回転が速く、物覚えがいいように見える。
そうやって暮らしてきたような言動をよくしており、教育はしっかりされていて、子供の割には異様に達観している。
ディルックが明るく、元気でまっすぐな少年なので、尚更その差異が目立った。
ディルックとガイアは正反対だが、まるで双子のようにもよく馴染んでいた。
前世の記憶があるキャロルは二人のことを弟のように見ていたが、逆に二人はキャロルのことを妹のように見ているようだった。
キャロルは後ろから追いかけたりするタイプではあったが、時々何もないところで転んだり、ぼーっとしたりする様な危うさを持っている少女だったからだ。
普段、しっかりしているキャロルの少し抜けているところを見た二人はよく心配をしていた。
ともかく。アカツキワイナリーで暮らす人々にとっては、三人は仲のいいきょうだいの様に見られており、のどかで楽しい日々をすごしていた。
そして、時々三人は将来の話をするようになった。
ディルックとガイアは西風騎士団に入るといい、キャロルは冒険者になりたいと返した。
基本的にモンドに住む子供たちがよく言う職業である。どちらも子供達には憧れの職業であった。
何故騎士にならないのかと、キャロルが訪ねられると、彼女はよく『いろんな場所を自由に旅したいから』と返す。
だが、本当はどうして騎士ではないかというと、どうしても騎士になるのであれば上下関係は避けられない。
キャロルには『カナデ』の記憶がある。
そのため、実質の騎士の実態を知っていた。
誰かに命令されて、自分の意志と背いた行動をするのは嫌だ。
彼女は前世の記憶により、騎士の裏を知っていた。
──騎士とは弱者に寄り添う職業である。そのため、耐え忍ぶことが常に求められる。
──騎士とは様々な事を他者に制限されることがある。そのため、人のために尽くすことが必要とされる。
つまり、騎士は耐え忍ぶ事が常なのだ。
(それは、本当に私のやりたいことじゃない。)
この世界に産まれたのならば、様々な場所を見てみたい。
前世では基本的に旅行にはそんなに行かなかった。
インターネットで画像や動画を見て来た事はよくあったが、この世界にはインターネットは広まっていない。スメールには似たような技術があるらしいが、キャロルは実際に自分の目で見て、色々な事をしてみたい。
魔法がある世界に産まれたのだから、自由に行動してみたい。鳥のように。
───それが彼女の夢であった。
確かに、騎士であっても頼まれて何処かに行ったりする隊もあるし、任務もあるが、彼女はもっと自由に旅がしたい。
その結果として、冒険者になりたいと考えるようになったのだ。
まあ、最初はいきなり遠出するつもりはない。
モンドを拠点にしばらく過ごした後、他の国に出かけ、色々な物を見たり、知識を得たいのだ。
そんな風に話をすると、二人は『モンドで騎士になる道もある』と言ってくるので……キャロルは呆れ顔になった。
(なんでこう……皆私を騎士にしたがるのかなぁ?)
ディルックとガイアだけではない、祖父母もそうだ。
どうやら皆は『騎士になってここに留まってほしい』と願っているようだが……それは出来ない事だ。
『モンド』も素晴らしい国ではあるが、『他の場所』にも行きたいとキャロルは思っているのだ。
それに、キャロルはモンド出身らしい有名な冒険者である『アリス』にも憧れている。
『テイワット観光ガイド』の著者であるエルフのアリスは、本は著者の主観が強すぎて観光ガイドの体を成していないと言われており、市場受けせず、大した部数は流通していない。
彼女の文面は、各地の説明をしつつも、二言目にはそこで自分が不満に思った事を爆弾で解決しようとしたりする傍若無人っぷりを披露している。
──キャロルが憧れている部分は勿論、それではない。
噂では別の世界に行けると聞き、気になっているのだ。
キャロルもこのモンドが故郷だと思っているが、『カナデ』の心は
『カナデ』として生きた記憶がある以上、キャロルはどうしてももう戻れないかもしれない故郷が気になるのだ。
勿論、前世の記憶なんて話をした事は今までに一度もない。
異常者に見られたくないからだ。
それに、時々、不思議な夢を見るのだ。
全く同じ夢ではないが、平和な世界で自分が生きていて、見たこともない物に囲まれて暮らす生活をしているような様々な夢を。
だから、それは前世の記憶だろうと思っているが……。
──よく見る記憶は、真っ白な雪の世界から始まる。
──途方もない道のりを、雪の上を裸足で歩く。
ドラゴンスパインやスネージナヤという土地にも雪は降るらしいが、見たことはない。
まだ少女である年齢のキャロルがそんな場所に行くことはできない。
最近は写真が普及してきたが、動画でなければそんな光景見れるはずがない。
でも、この世界にはその方向で発達して出回っている技術はない。映画はあるが。
──誰かを探している。何かを探している。
迷子のように、どこか分からない場所をさ迷う。
雪の白に溶けてしまいそうで、それはどこか切なくて、寂しい気持ちになる。
そんな夢を繰り返し見るうちに、キャロルは徐々に不安になって来ていた。
(私がいるべき場所はどこなんだろう?)
祖父母や友人がいるモンド、だとは思うけれど。
何故か、キャロルはいつも不安になる。
──でも、そんな時に、二人の存在に救われている。
自分が異質である事には気が付いている。
それでも。二人と話していると気持ちが落ち着くのだ。
だから、二人は大好きだし、大切にしたいとは思う。
(せめて、まだ大きくなるまでは。……私は、モンドが好きだから。)
自由で、皆が平和に笑える陽気な国で。
いずれは離れてしまうだろうけれど、せめてそれまでは彼等と楽しく過ごしたい。
そう思いながらキャロルがぼーっとしていると、ディルックが少し心配そうに顔を覗き込んでいた。
「どうしたんだい、キャロル?何か悩み事でもあるの?」
そう言ってくるので、キャロルは少し恥ずかしくなった。
心配をかけてしまったらしい。
心配してもらえるのは嬉しいが、心配をかけたくはなかった。
──だからキャロルは精一杯元気に微笑んだ。
「なんでもないよ!」
そういって元気よく言ったものの、その言葉に説得力がない事はキャロルが一番わかっている。
しかし、これ以上追求をするのも良くないと思ったのだろう。
「……何かあったらすぐ言うんだよ」
──ディルックは優しく注意するだけにとどめてくれた。
昔と違い、教育を受けたディルックは前よりも礼儀正しくなった。
たまに粗暴さは出てしまうが。
そんな光景を見て近くにいたガイアもくすりと微笑みながらこう続けた。
「そうだぜ?お前の悩みならちゃんと聞いてやるからな。」
そう言って頭を撫でてくる。
女の子に気安く触れてくるのはどうなんだ、とキャロルは思ったが、どうしてか、頭を撫でられるのは嬉しい。
しかし、お年頃なので、あまりベタベタされるのは嫌だ。
それをわかっているガイアは絶妙な距離感でキャロルに触れている。
こういうところがずるくて優しい少年なのだと思う。
「子供あつかいしないでよ、私たち同じくらいでしょ!」
そんな風に、少し強気な態度をとると、いつもの様にじゃれ合うような会話が始まるのだ。キャロルは子供扱いされるのが嫌で、そういうのを誤魔化す様にそう言った。
そんなやりとりもいつもの事なので、ガイアも『はいはい』と軽く流してくれるので助かる。
少し照れ臭いのだ。
甘え下手な自覚はあるが……慣れていないから仕方ないだろうと思うことにする。
だって祖母は兎も角、それ以外の人にそんなことあまりした事がないのだ。
でも、こうして戯れているときだけ……少しだけ不安を忘れられる。
(どうか、もう少しだけ、ずっと三人で仲良くできますように)
──そんな願いをこめて、彼女はそっと微笑むのだった。
※※※
──それから数年。
『カナデ』の記憶だと『中学生』に近い年齢にキャロル達は育っていた。
最近ではディルックは教育の結果か、アカツキワイナリーの後継者らしい紳士さが現れ、ガイアは飄々とした態度を身につけていた。
ディルックが太陽のようならば、ガイアは月の様な少年へと成長していっている。
対するキャロルは少しづつ出来る事が増えたので今では様々な事にチャレンジするようになった。
料理をしたり、冒険に必要そうな情報を仕入れたり。
彼ら三人はそれぞれ彼等だけの世界から離れ、様々な人々と関わる様になった。
そして年頃となってきた為、自然と女の子達の会話は『恋バナ』が軸となり始めていた。
そして話題の中心は同じ歳くらいの美少年であるディルックとガイアのどちらがタイプか、になり……キャロルはその間でいつも気まずそうにしていた。
キャロルはその中で『2人と最も付き合いが長い幼なじみ』という関係になるからだ。
「やっぱりディルック様は素敵よね、前に危なかった時に助けて貰ったの!大剣をカッコよく振り回していて……もう、守られたい!って感じ!」
「分かる!でもガイアも素敵だと思うのよね……あの色気がある言動をみたら、もう、騙されても構わない!ってなっちゃう」
キャロルは友人の家に居たが、ディルック派とガイア派の友人の間に挟まれながら、正直『どっちでもいい』と考えていた。
そして、こういう時は我関さず、的な『劇の木』の様に黙って静かにするに限る。
キャロルの中の『カナデ』も──『こういう時は黙ってるしかない!巻き込まれない為にも!』とガッツポーズをしている。
女の子というのはそういう時、面倒な生き物なのである。
それはどの世界でも変わりない事実だ。
正直、今のキャロルは別に恋愛に興味は無いし、彼らの事は『弟』や『家族』の様にしか思えないので、恋愛対象としては思えなかった。
──だが、上手く溶け込める訳はなく。
「「で、キャロルはどっちがタイプな訳!?」」
──と息を揃えた様子で顔を向けられた。
気迫がある態度に一瞬、息を詰まらせた後、キャロルは思考した様に腕を組んだ。
「……だからさ、何度言えば分かるの?2人は私の好みとかじゃないし、恋愛小説の見すぎだよ!」
そう返せば、二人は納得がいかない、と言う顔を浮かべる。
タイプが違うイケメン義兄弟の間にいるのに何故そんな事にならないのか、と言いたげだった。
「じゃあ、どんな人が好みなのよ」
「はい?」
「確かに。ほら、前にレイモンドに告白されてたのに断ってたでしょ!」
「いや、あれは……」
レイモンド、と言うのはモンド城で店をやっている家の息子である。
見た目で言うならば義兄弟には負けてはいるが、真っ直ぐで素朴な優しい少年であった。
理由を話そうとするが、身を乗り出している二人の友人をこれ以上否定するのもどうかと思い、一応頭を悩ませる。
『キャロル』は自分と、『カナデ』の好みを照らし合わせながら、何とか口を開いた。
「えっと。まず──『誠実』で浮気をしない人で……」
これは一番大事だろう。
どんな人でも自分だけを見てもらいたい、と思うのは、大抵の人なら当たり前の事である。
「──責任感があって……」
大体の事は投げ出さず、どんな結果になろうと挑む様な人がいい。
どうしても諦めるしかない時もあるかもしれないが、そんな人を応援したいと
「──笑顔が素敵な人が、いいかな」
どうせなら、自分に向ける笑顔が誰よりも優しければ、愛されてると実感出来る気がするし、と若干照れた様子で告げると、友人二人は顔を見合わせて、苦笑いを浮かべた。
「はあ……」
「もー……キャロルってば本当にそういうところがあるわよね。」
「え?そういう事って?」
何のことか分からず、キャロルは首を傾げる。
すると、友人二人は呆れた表情で肩をすくめた。
「あんたが言ってることって当たり前の事でしょ?大丈夫、あんたは優しくて可愛いわよ。」
「そうそう!キャロルは普通に幸せになれるんだから、好きな人出来たらいいなよね!」
二人がそう告げると、キャロルは何を言われているのかが分からず、目をぱちぱちと瞬かせた。
(私が優しい?)
自分で言うのはあれだが……『カナデ』の記憶がある自分はどちらかといえば捻くれていると思うし、人に優しくするのは『エゴ』だし、当然のことだと思う。
誰かに優しくすれば、何かしら良い事があるし。
自分がハッピーで相手もハッピーならwin-winの関係ではないだろうか。
なのに、友人二人は『変だ』と言っている様に感じる。
どうしてなのかと考えていると、呆れた顔をしていた二人だったが、仕方なさそうな笑顔になり、キャロルの頭を交互に撫でた。
「……いや、なんでもないわ。気にしないで」
「そうそう!キャロルはそのままでいて!」
意味が分からなかったが、元気付けられたことだけは分かったので、キャロルは『う、うん?』と、とりあえず頷くと、友人達も満足したのだろう。
これ以上追及されることはなかった。
※※※
──それから暫くした日のこと。
キャロルは久しぶりにアカツキワイナリーに来ていた。
流石に小さな頃のようにディルックやガイアと遊ぶ事はなくなったのだが、時折アカツキワイナリーには顔を見せている。
ちなみに今ではガイアやディルックはキャロルよりも大きく、少し屈んで話さないといけない位の身長差になっている。
「それで?どうしたんだ?」
「何か用事でも?」
二人が不思議そうに聞いてくるので、キャロルは苦笑いする。
「用事がないと会いに来ちゃだめ?最近忙しいから息抜きだよ、息抜き!」
キャロルはそう返すと、ディルックとガイアは顔を見合わせた後、くすりと笑った。
「いや、もちろん歓迎だよ」
「ただ、何か嫌なことがあったんじゃないかって心配しただけだぜ?いつもお前は何か抱えてるからな。」
そう言われて、キャロルは目を丸くした。
そんなに自分の態度や表情は分かりやすいのだろうか?
でも確かに、周りに『一人で抱え込みやすい』と評価される事があるのは自覚していた。
ガイアの方がそうだとキャロルは思うのだが。
「そんなことないと思うけど……。それに大体の事はディルックやガイアや……モンドの知り合い達が助けてくれるでしょ?」
そう、ふふん、と笑顔を浮かべながら言うと、二人は僅かに目線を逸らした後『『まあ、そうだな/ね』』と短く肯定した。
どうやら二人とも少し照れてる様子だ。
何だかそれが可愛いと思い、キャロルは小さく微笑んだ。
そんな様子を見ていた二人がまた顔を見合わせる。
「どうしたんだ?キャロル」
「なんか、今日は機嫌が良さそうだね?」
二人の問いに、キャロルはにっこりと笑って答える。
「ううん、なんだかいいなあって思っただけ。」
その言葉を聞いた二人は不思議そうな表情を浮かべたが、キャロルはそれ以上は答えず、意味深な表情を浮かべるだけだ。
そんなキャロルを二人はじっと見つめていたが、やがて諦め、『まあいいか』とそれ以上は聞かなかった。
──それから三人でしばらく話をし、楽しい時間を過ごしていた。
キャロルはたまにしか来れないのにいつも歓迎してくれるので本当に嬉しいと思う。
それななアカツキワイナリーの皆もキャロルのことを気にかけてくれている。
──本当にここには素敵な人達しかいない。勿論、みんなが皆そうでは無いけれど。
と、そんなことを考えていると、キャロルはふととある事を思い出した。
「そう言えばさ、二人共。」
「ん?どうしたんだ?」
「なに?キャロル」
首を傾げている二人に向かって、キャロルは気になっていた事を問いかける。
それは彼女の中では最近疑問に思っていた事だった。
「二人とも、恋人とか作らないの?」
そう尋ねると二人はキョトンとした表情をした後、顔を見合わせて笑う。
「そうだなぁ……」
「作る予定はないかな」
その答えにキャロルは更に突っ込んだことを問いかける。
「でも2人ともモテるし、告白されてるでしょ?」
「……まあな」
「でも付き合ってる子とかはいないよ」
「ふーん……」
2人は慣れたものなのか、特に照れる様子もなく淡々と答えた。
キャロルはその答えを聞いても腑に落ちず、質問を続けることにした。
「じゃあ、どんな子がタイプなの?」
「うーん……」
「好みのタイプか」
二人は再び考え込んだ後、再度キャロルに向き直る。
そしてにっこりと笑いかけてきた。
「キャロルみたいな子かな」
「……は?」
どういう意味なのか分からず、首を傾げると、『冗談だよ』とくすくす笑われた。
からかわれたのだと思い、むっとしながら唇を尖らせる。
──すると二人が同時にポンと手を叩く。
「冗談だって言ってるだろ?ほら、機嫌直せよ」
「そうだよ、キャロル。いじわる言ってごめんね?」
「……きみたちねぇ。まあ、いいけど」
二人の謝罪を受け入れて頷くと、二人はほっとしたような顔を見せた。
そんな二人を見ながらキャロルは考える。
(私のようなタイプか……)
キャロルはちらりと二人を見つめた。
二人はとても綺麗な顔立ちをしていると思う。
童顔で綺麗な赤毛の少年と、眼帯をした色黒の少年。二人は誰もが認めるであろう美男子である。
二人とも言い寄ってくる女の人が絶えない、と噂に聞く。でも、何故恋人を作らないんだろうか。
──やはり、好きな人でもいるのだろうか?
そう思ったが、それ以上は聞けなかった。なんとなく聞きづらい話題だからだ。
そんなことを考えていると、二人は何を思ったのか、少し悪戯っぽい表情で口を開いた。
「でもさ」
「キャロルみたいな子が恋人だったら毎日が楽しそうだな?」
「えっ?は、はあ!?」
突然そんな事を言われたので驚いて変な声が出てしまう。
そんなキャロルの反応に二人はくすくすと笑い出す。
からかわれただけなのだが、顔がじわじわと熱くなってきた。きっと真っ赤になってしまっているだろう。
(やっぱり意地悪だ!コイツら!)
そんな羞恥心からキャロルは話題を変えることにした。
「まあ、もういいよ!この話は終わり!」
そう言って無理矢理終わらせると二人は顔を見合わせて笑っていた。
キャロルはむすっとした表情を浮かべつつも、これ以上続けても勝てる気がしなかったので渋々諦めた。
そんなキャロルを二人は優しい目で見つめながら、また二人で微笑み合っていた。
その表情は愛しいものを見るような眼差しで──キャロルは知らないが二人にとって彼女は「特別な女の子」なのだ。
それがどう言った感情であるかは彼ら自身も分かっていないが。
「……いや、なんか、さっきから二人して私のこと子供扱いしてるでしょ」
「はは、バレたか?」
「ま、そんな所だな」
「……やっぱり意地悪だ!特にガイア!君さぁ、何で口からスラスラと噓が出るの?どうして私を騙すのがそんなに上手くなったの?」
「お前が単純だからじゃないか?」
「ガイア、確かにそうかもしれないけど、そんな事言ったらダメじゃないか」
「そういうところだよ!二人共!」
キャロルは大声でそう叫ぶが、二人は楽しそうに笑うだけだ。
その態度がやはり子供扱いされてるようでむかつく、とキャロルは思った。
そして、なんだか胸の辺りがもやもやとしてくる。
(なんかムカつく……!)
そんな感情を抱きながらキャロルはぷいっと顔を背けた。
すると二人は顔を覗き込んでくる。
「ごめん、キャロル。許してくれるかな?」
「悪かったって、機嫌を直せよ」
二人はそう言いながらキャロルの頭を撫でたり、髪を梳いたりしてくる。まるで宥めるように撫でられるが、それがまた子供扱いされているような気がしてならない。
「ちょっと……私も年頃の女の子なんだけど?」
キャロルは頬を膨らませながら文句を言うが、二人はくすくすと笑うだけだ。
「ははっ、そういえばそうだったな」
「忘れてないよ?キャロルは可愛い女の子だろ?」
「なんか含みを感じる言い方だね!?」
キャロルが眉を顰めて睨むと二人はまた笑った。
(まったく……)
──だが、それも悪い気はしない。
長い間──それこそ何年も一緒に遊んだりして過ごした彼らとの距離感は家族と同じなのだ。
だからこそ、お互い信頼しているし、こうして冗談を言い合える関係なのだから。
キャロルはそう思いながら、二人のことを見つめた。
(でもいつかは──)
いい人が見つかって幸せになって欲しいなと思う。
そして、自分も、もしかしたらいい人が現れてその人と── そこまで考えて、キャロルはハッとした。
(なんか今一瞬、胸が苦しくなったかもしれない……)
キャロルは己の胸を押さえると首を傾げた。
──寂しい、のかもしれない。
それこそ、年をとってしまうと皆それぞれの人生を歩んで行く。
会えなくなる人もいるだろう。
でも、『冒険者』になるならモンドを出て行くから、なおさらなのかもしれない。
それに、冒険者になるなら出会いと別れは当たり前のものになる。
そんなこと分かっている。それなのに今、私は何を思ったんだろう?
(──ダメだ。余計なことを考えるのは、私の悪い癖だ)
これ以上考えてはダメだと思い、キャロルは首を横に振ると、へらり、と笑ってみせる。
「さて!そろそろモンド城に帰るね!また遊びにくるから!」
そう言って立ち上がると、二人は少し寂しそうな表情を浮かべたが、すぐに笑顔に戻る。
「ああ、待ってる」
「いつでも来ていいからな」
「うん、ありがとう。じゃあまたね!」
キャロルは二人の返事に嬉しくなり、自然な笑顔を浮かべて、手を振ると、アカツキワイナリーを後にすることにした。
外に出ると、空は夕暮れだった。
赤く染まる空は綺麗だが、どこか寂しさを感じさせる。
いつもアカツキワイナリーから帰る時はそうだった。
──風花祭の後の寂しさによく似た気持ちが、胸にこみ上げてくる。
いっそこのままここにいたい、と小さな頃は何度も思ったものだ。
──それでも。だけれど。
──ここにはずっといられない。
そんな事、分かっている。
──キャロルは、一歩、踏み出した。
風がそっと吹く。
慰めるように、見守るように。
キャロルは、目を細めて、そっと、笑った。
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