ウェンティが旅に出てからのキャロルは目に見えて元気がなくなっていた。
食事もあまり喉を通らないのか、そんな様子をキャロルの祖父母はいつも心配していた。
だが、冒険者としての活動中は普段どおりに振舞っており、周囲もその様子を察して、何も言わないでいる。
そんな様子を、キャロルの幼なじみであるディルックとガイアは心配していた。
西風騎士団で若くして頭角を現しており、最年少の騎兵隊隊長として抜擢されたディルック。
そしてディルックの義弟であり、友人、協力者、そして「頭脳」であり、ディルックの戦いの後始末をしている庶務長のガイア。
彼らはその日、アカツキワイナリーの屋敷で食事を摂っていた。
その日は父のクリプスはモンドを離れており、屋敷にいるのはメイド達などの使用人と、従業員たちだけである。
「なぁ、最近キャロルの様子が変だと思わないか?」
──食事中、ガイアがそう、話題を切り出す。
「確かにそうだな。一人でいるときなんか、上の空でぼんやりしてることが多いね」
食事の手を止めて考え込む仕草を見せながら、その向かいの席に座っている先程まで器用にフォークやナイフを使っていたディルックが答える。
その言葉にガイアは頷くと、言葉を続ける。
「あいつは元々考え込むタイプだが……やっぱりここ最近は心配だな」
「そうだね……」
ガイアの言葉に、今度はグラスに入った水を口に含みながらディルックは答えた。
そうして少しの間沈黙した後、ガイアは呟くように言った。
「だが、本人に聞いても、きっとなんでもないってはぐらかされるだろうな……」
「うん……確かに、キャロルならそうするだろうね」
「はぁ……」
ガイアのため息が、静かな部屋に響く。その沈黙を払拭するように、今度はガイアが思いついたように言う。
「じゃあ……義兄さん、キャロルを気分転換に誘わないか?どこか良いところに連れていくとかさ」
「そうだね……」
ガイアの提案に、少し考えた後、ディルックは頷いた。
確かに最近はパトロールやアカツキワイナリーの手伝い、それに様々な事件で忙しく、二人がキャロルとゆっくり過ごす時間はなかった。
それに、近頃のキャロルの様子からすると
気分転換させるべきかもしれない。
こうして二人は食事を終えると、早速キャロルを誘いに行くことにした。
***
次の日。
二人がキャロルに会いに行くと、祖父母は彼女が「明冠峡谷」付近に依頼があり出かけると聞いたらしい。
キャロルが向かったという『明冠峡谷』は、モンド城から離れた場所に位置する大峡谷の明冠山地にある。
峡谷の北東部には、今は旧モンドと呼ばれている時代に魔神デカラビアンが築き上げたモンドの首都があった風龍廃墟がある。
「……まったく、キャロルは本当に単独行動が好きだな……」
「まぁまぁ……キャロルが一人で行った方がスムーズな依頼だったのかもしれないぜ?」
ため息を吐くディルックに、ガイアはそう宥めた。
『火』の神の目を持つディルックとは違い、キャロルやガイアは神の目を持たない。
それは戦闘に置いて不利なのであまり一人で行動しないようによく言っているのだが、彼女は一人行動を好むのだ。
仕方なく、二人は明冠峡谷へと向かうことにした。
※※※
二人が明冠峡谷に着くと、戦闘音のようなものが聞こえてきた。
急いで音の方へと駆け出し、木々の間から周囲を見渡せば、キャロルがアビスの魔術師達と戦闘している姿があった。
「キャロル!」
「おい、一人で行くなよ!?ったく、困った義兄だな……」
キャロルの姿を見かけるや否やディルックは直ぐ様大剣を取り出すと、彼女の戦闘へと加勢した。ガイアも応戦するように片手剣を構える。
「あれ、ディルックにガイア!どうしてここに?」
戦いながら、キャロルは驚いたように言う。
そうして戦いながらも、ガイアはキャロルに問いかける。
「それはこっちのセリフだ!一人で行くなって言っただろ?」
「だって……すぐ終わる依頼だったし、それに……」
「それに?」
歯切れが悪くなったキャロルに、ガイアは不思議そうに聞き返す。
すると、キャロルは言いづらそうにしながらも口を開く。
「……アイツら、トワリンの事を調べてたから。きっと眠っている彼に何かをするつもりかもしれないって思ったの。そしたら、いてもたってもいられなくなって……」
『トワリン』とは東の『四風守護』に数えられ、モンドの守護龍的存在であり風神バルバトスの盟友であった。
しかし、約500年前、この地は大災害に飲み込まれ、その時に現れた邪龍と戦ったトワリンは今は風龍廃墟で眠りについているとされている。
キャロルは、それを調べているアビスの魔術師達が気に食わなかったらしい。
「はぁ……なるほどな……」
呆れたようにため息を漏らすガイアだが、しかしキャロルらしいと思ってしまった。
そうして三人でアビスの魔術師達を一掃すると、キャロルはようやく満足したらしい。
「ふふん、どう?最近は弓も練習しているから、結構使えるでしょ?」
「ああ、そうみたいだな」
「うん、頼もしいね」
「そう?でしょ!もっと褒めてくれてもいいんだよ?」
キャロルは得意げに言うと、腰に手を当てて胸を張った。
そんな彼女に笑顔で返すが、ガイアは言葉を続けた。
「ああ、頼もしいな。けど……次からはもっと俺達を頼ってくれ」
その言葉にキャロルは一瞬目を丸くした後、申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「うん……ごめんね。……二人ともありがとう、わざわざ来てくれたんだよね」
「いや、別に構わないさ」
「……うん。キャロル、もう戻ろう」
しおらしい態度を取るキャロルに、二人は手を差し伸べた。
そんな二人を見て、キャロルは、一瞬目を瞬かせる。
まさか年頃になってまで、二人がそんなことをしてくれると思わなかったからだ。
「え……ああ、うん……」
キャロルは、昔のように照れくさそうに笑うと二人の手を軽く握った。
「二人とも、ありがとう」
「いいよ。これぐらい」
「ああ、俺達の仲だろ?」
三人はお互いの顔を見つめ合うと、笑い合う。
幼い時の様に、変わらない、屈託のない笑顔を見せながら。
※※※
その日、キャロルはドラゴンスパインに向かっていた。
ドラゴンスパインは古代遺跡と雪に覆われた広大な山で、雪は積もるが決して溶けないという特異性がある。
その極寒のため、ドラゴンスパインはモンドで最も危険な場所のひとつでもある。
「さむい……」
キャロルは耳に冷たさを通り越して若干痛さを覚える冷気を感じる。
──何気なく吐いた息は白い。
空気は冷たく、そして乾燥している。
時折ある暖房装置を起動したり、温まる薬品を摂取しながら、キャロルは黙々と先へ進む。
今日は遺跡の調査を頼まれてキャロルは訪れた。
雪山自体はあまり行かないが『カナデ』は寒い地域に住んでいたらしく、その時の知識が今の『キャロル』に引き継がれている。
そのせいか寒さには若干慣れており、歩き方なども何となく分かる。
とはいえ、寒いものは寒いので早く終わらせたいという気持ちがあった。
そして、目的の『龍眠の谷』につき、早速調査に入るのだが……
「うーん、結構奥まであるんだぁ……。ここ1人で来ない方が良かっ……」
すると、後ろに気配を感じ取り、キャロルは咄嗟に警戒をし、刀を持ちながら背後を振り返る。
そこには金髪の男性が立っていた。
黒と濃い青を基調とした服を着た男は、マスク状のアイパッチで顔の右側を覆いつつ右目を出している。
その瞳はガイアのようなダイヤ型で、整った顔立ちで細身だ。
成人は明らかにしているだろう。
クールな印象の男は無言でキャロルを……いや、キャロルの後ろにある遺跡を見つめている。
「……えっと、貴方は?私は、キャロルですけど……」
不思議な、どこか浮いた印象を持つ男に、キャロルは警戒しながらも問いかけた。
すると、男は静かに口を開く。
「俺の名はダインスレイヴ。……この遺跡に『アビス教団』がいると言う情報を得て俺は来た」
「えっ?」
ダインスレイヴと名乗った男は、淡々と答える。
よくは分からないが、用事があるのはキャロルでは無く、恐らく奥にいるらしい『アビス教団』という組織に関する人物の様だ。
『アビス教団』とは500年前に滅んだカーンルイアの民が変異した『アビス』の魔物たちで構成された組織だ。
『教団』とは呼ばれているが、宗教的側面はあまり見られず、主に人間への敵対、破壊行為を行っており、テロ組織に近い。
「……えっと、そうなんですか。でも私も依頼として遺跡の調査をしてまして……」
「……そうか」
淡々と呟くダインスレイヴに、キャロルは若干戸惑う。
どう見てもただの冒険者などには見えない。まるで別世界から来たような風貌をしている。
それに、明らかに強そうだ。
恐らく戦闘経験は、キャロルよりもあるだろう。
「はい……。あ。良かったら一緒に行きませんか?ここ、一人で行くには結構厳しくて」
「……ああ。構わない」
「あ、ありがとうございます……!?っていいんですか!?」
「ああ。だが、なるべく早く終わらせよう。俺も用事がある」
「あ、は、はい!」
──こうして二人は、遺跡の奥へと歩みを進める。
そしてキャロルはダインスレイヴと名乗った男性の強さを身をもって知る事になる。
「……戦闘、お強いですね」
遺跡の中のヒルチャールやアビスの魔術師達を軽々と薙ぎ倒しながら先へ進むダインスレイヴを見て、キャロルは呟く。
すると、彼は一瞬だけこちらに視線を寄越した後、答える。
「そうか」
短い言葉で返されたが、特に気にする事も無くキャロルは淡々と会話を続ける。
ダインスレイヴという男性は寡黙だが悪い人ではないようだ。
それに今は本当に急いで見える。キャロルも先を急ぐ必要があるので、追及せずにただ調査に集中する。
しばらく二人で歩いていると、最奥に辿り着く。
そこには壁があるのだが、赤く発光している。
明らかに今まで見てきた遺跡とは違うと感じられる。
「これ、なんだろう……」
キャロルがそっと手を伸ばすと、ダインスレイヴが止める様に声を上げる。
「……待て」
「えっ?」
その声にキャロルが反応し、ダインスレイヴの方を向く。
しかし、その前にキャロルの指先が壁に軽く触れていた。
瞬間、眩い光が辺りを包み込んだ──……。
「えっ!?」
キャロルは光に包まれる感覚と浮遊感に驚くが、途端に暗い闇に包まれる。
明かり一つない暗闇で、キャロルはダインスレイヴの気配を探るが何も感じられなかった。
とりあえず前に進んでみると、何かの泣き声のようなものが聞こえた。
「……ん?」
──どうして?
──いたい。いたい。
──くるしい、くるしいよ……
キャロルが暗い空間をひたすら進んでいると、そんな声が頭の中に響いた。
少年の声にも聞こえるが、あまりにも悲痛な声にキャロルは心が痛む。
すると、前方に龍の様な姿が見えた。
どうやら彼は苦しんでいるようだった。
「……あなたは、誰?」
キャロルが声を掛けると、彼は驚いたような反応を見せる。
それから悲しげな声で告げる。
──近づいたら、だめだ。僕の体に触れたら、無事じゃすまない。
──だから、もう、俺に、近づかないでくれ……。
悲しげな声にキャロルは迷いながらも手を伸ばす。
それでも放置出来ない。
何故か、胸が苦しい気がしたからだ。
それに、よく分からないが、一人でこの子は苦しんでいるのだろう。
……同情に近い感情かもしれない。
だけど、キャロルは手を伸ばさずにはいられなかった。
そうして、キャロルは彼を受け入れた……──。
※※※
「ん……」
目覚めた時、キャロルの胸元にふかふかした何かがあった。
視線を下に降ろせば、そこには黒い毛玉が気持ちよさそうに寝ている。
なんだこれ、と思ったキャロルが無言でその毛玉を軽く突くと、毛玉は羽を広げた。
どうやら鳥だったらしい。
「え?かわいい……」
そう呟くと、その鳥は片目を開きながらこちらを見てきた。
つぶらな赤く丸い瞳と視線が合うと、何故かとても癒される。
「かわいいすぎでは……?」
思わず手を伸ばして鳥をつつけば、今度は気持ち良さそうに目を細めていた。
もふもふとした感触を楽しんでいると、背後から『やっと目覚めたか』とダインスレイヴの声が聞こえた。
キャロルが振り向くと、ダインスレイヴが岩に腰掛けながらこちらを見ていた。
「あ……えっと……おかげさまで目覚めました……」
そう返せば、ダインスレイヴは淡々と告げる。
「そうか。それは良かったな。……ところで、貴様は……今、貴様の手元にあるそれが何か分かるか?」
「え?」
手元を見ると、先ほどまで自分の胸の上で寝ていた小鳥がキャロルの膝の上で丸まっていた。
キャロルは首を傾げながら答える。
「……鳥?っぽいです」
「……それはただの鳥ではない。……魔龍『ドゥリン』だ」
ダインスレイヴは淡々とした口調で告げるが、キャロルにとっては理解しがたい言葉だった。
「ドゥリンって……このドラゴンスパインに封印されてるっていう、あの『ドゥリン』ですか?でも、触っても痺れないし……毒は無さそうですけど」
キャロルがつん、と触ってもやはり特に何も起こらない。
鳥?は擽ったそうにスリスリしてくるだけだ。
不思議に思っていると、ダインスレイヴは立ち上がりながら言う。
「……貴様は、あの壁に触れた後、別の場所に移動していた。俺は現れたアビス教団の奴らを倒し、その壁の向こうに行くと、気絶した貴様の前に『ソレ』がいた。恐らくは『ドゥリン』の一部の様なものだろう。だから、貴様に影響が無いのかもしれない。……それに俺の用事は終わった。後は貴様の好きにするといい」
「え、あ……ありがとうございます……?」
「……だが、不思議なものだ。貴様は普通の人間とは違う体質なのか?いや、それとも……──いや、もういい。『アビス教団』のヤツらは現れなかった。だが、ソイツの使い方を間違えるな」
ダインスレイヴは一方的にそう言うと、背を向けて去っていく。
「え、ちょ……えぇ……?」
キャロルは困惑しながらも慌てて立ち上がり、ダインスレイヴに声を掛けた。
「あ、あの!助けていただきありがとうございました!」
ダインスレイヴはキャロルを一瞥し、口を開く。
「礼はいらない。……用が済んだから去るだけだ」
彼はそう言うと、去ってしまった。
「えぇ……」
キャロルは困惑しつつも、彼が助けてくれなければ今頃死んでいたかもしれないので感謝しかないのだが……。
「……変な人。しかもガイアみたいな目をしてるし……実はガイアの故郷出身だったりして」
キャロルは冗談でそんな事を呟きながら、ドゥリンらしい鳥を手に抱えて、彼に話しかける。
「でも『ドゥリン』なんて呼んだら皆から何か言われそうだから、名前付けてもいい?えっと……じゃあ君は『シュヴァルツ』。黒って意味だよ。これからよろしくね」
キャロルがそう言うと、ドゥリンは嬉しそうに鳴きながらパタパタと羽を動かしていた。
「ふふ、気に入ってくれたみたいだね。えっと、だから良かったら私と一緒に行こう?一人ぼっちは寂しいもんね」
キャロルはそう言って微笑むと、ドゥリン──シュヴァルツを撫でた。
するとシュヴァルツは「ピッ」と小さく鳴いて、キャロルの胸元に飛び込む。
そんなシュヴァルツの行動に嬉しくなったのか、彼女はより一層微笑みを深めた……──。
※※※
それからキャロルはシュヴァルツを連れて歩く様になった。
彼はサイズが小さく、肩に止まることが多い。
時折、すりすりと頬を擦り寄せたりしてくる姿がとても可愛らしくて癒される。
シュヴァルツは歌……音楽や踊りが好きな様だ。
キャロルがたまたま口ずさんだ曲を気に入ったのか、よく何度も歌うようにせがみ、踊る様に羽を動かすのだ。
そんなシュヴァルツは見ているだけで癒される。
キャロルは彼をとても気に入っていた。
「……シュヴァルツ、今日はね、璃月に行こうと思うんだ。私はモンドからあまり出かけた事がないから、今日から数日……遠くに旅する練習をしないとね!」
キャロルは気合を入れる様に言うと─シュヴァルツも翼を動かして『ピッピ』と返事をする。
「ふふ、知ってる?璃月には仙人がいるらしいよ。なんか、滅多に姿を現さないらしいけど……話では仙人って言うのは長生きで、人と獣の姿を切り替える事が出来るらしいよ!すごくない?」
キャロルが興奮した様に話すと、シュヴァルツはパタパタと羽ばたきながら『ピ!』と答える。
どうやら肯定しているようだ。
キャロルはシュヴァルツを撫でながら微笑む。
「そうだよね!鳥の姿の仙人もいるかな?モフモフさせて欲しいな〜って、無理か!あはは!」
キャロルは楽しげに笑いながら、歩みを進める。
道中出た魔物は倒し、見つけた素材は回収しながら進み、とりあえずキャロルが向かうのは璃月港の前に辿り着く旅館である『望舒旅館』だ。
『望舒旅館』は巨木の上に作られた旅館で、璃月だけでなく、テイワット大陸では有名な宿の一つであり、見た目も美しく、評判が良い。
立ち寄る客のほとんどは旅商人であり、宿は彼らが商売をしたり、露店を出したりするための場所となっていたりするらしい。
天気がよければ、一番上から、遠く軽策山や絶雲の間まで見渡すことができるらしい。
「しかも恋人と行きたいデートスポットの一つらしいしんだよね」
キャロルはそんな事を呟く。すると脳裏に『良かったね』と微笑む少年の顔が浮かぶ。
その瞬間にキャロルはハッと我に返り、首を振る。
(いやいや違う違う……そんなことは無い!うん、無い)
そう自分に言い聞かせるように言うと、キャロルは深く深呼吸した。そして頬を叩くと気持ちを切り替えて歩き出した──……。
※※※
(疲れた……)
キャロルは望舒旅館に何とか着くと、オーナーの女性に話しかけ、連日の宿泊の予約を取る。それから部屋に案内され、一息つく。
「シュヴァルツ……ごめんね、今日は流石に疲れたから今日はこのままご飯食べてお風呂入って寝ようね……」
キャロルがぐったりとした様子で言えば、シュヴァルツは心配そうに鳴き、スリスリと擦り寄ってきた。
「あはは……大丈夫だよ、ありがとう」
キャロルはシュヴァルツに微笑むと、彼女と一緒に食事を取りに行き、入浴を済ませ、さっさと寝る事にした。
そうして翌朝、キャロルは元気よく起き上がると支度を整え、璃月港に向かった……──。
※※※
「ここが……璃月港……」
キャロルは商人や観光客と思しき人々で賑わう港を見て感嘆の声を上げる。
キャロルの中の「カナデ」は「
「……いけない、いけない。お登りさんじゃあるまいし、変な事したら浮く!そしたら犯罪に狙われやすいから気をつけないと……」
キョロキョロと辺りを見渡したかと思えば、キャロルは落ち着こうと深呼吸する。
「……よし!」
そうして決心を固めると、彼女はそのまま『璃月港』の中を歩く事にした。
赤い柱のような目立つものや、綺麗な装飾が施された建物に目を惹かれながら進む。
途中で屋台から香る美味しそうな匂いに誘われるように、一つ買う。
「串焼き一本ください」
「あいよ!ほら、持ってきな!」
そう言って店員は串焼きを渡す。
受け取ったキャロルはお礼を告げると、それを齧り付く様にして食べる。
「おいしい……」
一口食べただけで口内に広がるジューシーな肉汁と、香辛料の味が絶妙で美味しい。
キャロルはシュヴァルツにもあげると、シュヴァルツも嬉しそうに食べていた。
シュヴァルツは完全な『鳥』では無いので何でも食べるようだ。雑食で、特に果物や甘いものが好きらしい。
キャロルは串焼きを食べ終えると、少し物足りなくなってきたので歩きながら露店を眺める事にした。
様々な店がある。鉱石屋やジュエリーショップ……。
やはり岩神である『モラクス』。
璃月人から言えば『岩王帝君』が岩元素を使っているからか、石は多いし、モラクスはテイワットの通貨である『モラ』を産み出す事が出来る。
だからか高そうな店もチラホラ見て取れ、物珍しさに色々な店に目移りしてしまう。
「すごい……本当に色んなお店がある……ん?」
するとキャロルは、『万民堂』と書かれた店を発見した。
大衆食堂の様な雰囲気のその店からは、美味しそうな匂いが漂ってくる。
「……夜あそこで食べよう。外の座席に景色良さそうなところがあるし……よし!次行ってみよう!」
キャロルはシュヴァルツに『探検だよ』と告げ、他のお店も見て回る事にした。
「うわぁ……」
次にキャロルが見つけたのは、『万文集舎』という場所だった。
色々な国の言葉が書かれた本が売ってあり、中古の本が安価な値段で販売されている。
店主の近くの看板には……。
──「走らない、遊ばない、汚い手で本を持たない」
──「本を全部読みたい場合は代金を支払ってください」
という文が書かれていた。
「なるほど。立ち読みはいいって意味か……面白いなぁ。よし、これだけ買おう」
キャロルは文を読んだ後、適当に本を三冊程買い、店を出た。
それからも色々なお店を見て回り、食べ物を買ったりしながら歩いた。
そうして夕方になる頃にはすっかりと日が落ちていた。
「そろそろ旅館に戻ろうか、シュヴァルツ」
キャロルが言うとシュヴァルツは頷き、二人は旅館『望舒旅館』に戻る事にした。
それから……──。
※※※
「遅い時間だと人いないね?」
キャロルはあえて深夜に近い時間を選びテラスに出る。
昼間や、少し前とは違って、人気は全くない。
……──そして、満天の星が広がっている。
「わぁ……きれい……」
キャロルは目を輝かせながら星空を見上げる。
シュヴァルツも羽をパタパタさせて楽しそうだ。
キャロルは空に浮かび上がる、満月を見上げたまま、呟く。
テイワットでは満月しかない。月は満ち欠けしないのだ。
「『 月が綺麗だねー……』」
思わず、『カナデ』の覚えていた知識から、言葉が紡がれた。
確か、この言葉は、本来は『誰かに愛を囁きかける言葉』だと聞いた。
ただ、それを知っているのは『カナデ』だ。キャロルには全く関係のない話である。
しかし、何故かキャロルの口からは、その言葉が紡がれた。
……しかし、何故だろう?そのフレーズを無意識に呟いた瞬間、キャロルは心が少し軽くなった様な気がした。
──キャロルは手を伸ばす。
届かない何かに求めるように、手を伸ばす。
「カナデ」は何かを求めて、そして叶えられぬまま──……最期を迎えた。
自分も何かを求めている。
それが何かは分からない。
ただ、どうしても諦められない何かが胸の奥でもがいている──……。
(私は、何を願ってるんだろうか?)
──寒い場所をひとりで歩く夢を思い出す。
──独りぼっちで、孤独な夢を。
──誰かと思いや感情を共有したくても、願いは叶う事はなく……。
そんな風に考え初めていると、屋根の方から何かの音を拾う。
キャロルは考えるのをやめ、顔を上げると……──そこには星が瞬く夜空を背にした少年がいた。
「え……?」
キャロルが唖然としていると、少年は屋根からトン、と軽やかに飛び降りて、キャロルの前に立つ。
キャロルは突然の事に驚きつつも、少年を見つめる。
「──人間は寝る時間だろう?なぜ起きている?」
少年がどこか呆れたような声色で言う。
──かなりの美少年だ。
ティールカラーのダークミディアムヘアで、耳の前で後ろに流しており、長めの髪が2本ある。
色白の肌に鳥の瞳のような金色の虹彩を持ち、目元には赤いアイシャドーをつけており、額に紫色の菱形のマークがあり、右腕に緑色の刺青が見えた。
「あ、えっと……」
キャロルは戸惑いながら言葉を探す。
なんと言えば言いか悩んでいるとキャロルの肩にいるシュヴァルツがパタパタと羽をバタつかせた後に、『ピィー』と鳴く。
すると少年は少し驚いた様子を見せる。
「……それは」
少年が聞くと、キャロルは『あぁ』と思い出したように話し出す。
「この子はシュヴァルツ、私の『友達』です。」
キャロルはシュヴァルツを優しく撫でながら答える。
「友達……」
少年が不思議そうに、オウム返しで呟くと、キャロルは続けて話す。
「うん、大切な家族だよ」
キャロルはシュヴァルツを見ながら答えると、少年は顎に手を当てて考える仕草をした。
「……今は害はなさそうか」
少年はそう呟くと、手を戻し、キャロルを見る。
「こんな時間に起きているのは止めて、さっさと寝た方がいい。人間は脆い生き物だろう」
少年はそう言って、屋根に飛び移り、立ち去ろうとする。しかしキャロルは慌てて、少年を呼び止めた。
「待って!名前を教えて下さい!」
キャロルが尋ねると、少年は表情を変えず、少し考えた後に答える。
「……『魈』だ」
少年──「魈」は名乗ると、そのまま立ち去った。
「ああ、行っちゃった〜。………まるで鳥みたいだったな。」
キャロルがそう呟くと、シュヴァルツも『ピィー』と頷きながら、鳴いた。
「ん?シュヴァルツも同意してくれるの?」
キャロルは嬉しそうに、シュヴァルツの頭を撫でると、また、空を見上げた。
「それにしても……綺麗な星空だよね。シュヴァルツ。こうやって、色んな場所に行って、色んな物を見ようね。そして色んな場所を旅して……たくさん思い出を作ろう。ね、もう一人で悲しまなくていいからね」
キャロルはそう言って微笑むと、シュヴァルツも『ピ!』と答えてくれる。
……そうしてキャロル達は、空に浮かぶ星を、朝日が見えるまで、見続けていた──……。
どんな話がみたいですか? 参考にいたします!
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