『魈』と言う不思議な少年との出会いの後、キャロルは望舒旅館にある借りている部屋に戻ると、支度を済ませて、シュヴァルツと眠りにつく。
ちなみにシュヴァルツは望舒旅館のオーナーに借りた籠の中にタオルを入れた場所で寝ている。
数日は璃月にいる予定なので、その間はこの宿で世話になるつもりだ。
キャロルはこれからのことを考える。
まずは、仕事である冒険者としての仕事をこなさなければならない。
正直昨日は璃月港の観光客状態だった。
キャロルはとりあえず、モンドにいるキャサリンに紹介状みたいな物を貰ったので、璃月港にいるらしい璃月の冒険者協会の支部長である「嵐姉」と言うらしい女性や、冒険者協会まで行くといいだろう、と考える。
そこに行けば、斡旋して貰える依頼もあるだろうし、それをこなしていけば冒険者として実績も上がるに違いない。
(よし、冒険者協会に行こう)
キャロルは身支度を整えると、シュヴァルツと璃月港に向かった。
キャロルが璃月港に到着すると、以前、訪れた時よりも人の往来が多く感じられた。
何かあるのだろうか、と思いながらも受付まで足を運ぶと、受付嬢であるキャサリンに声をかける。
「すみません」
「はい、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「えっと、モンドから来ているんですけど、璃月でも働きたくて。これ、紹介状的な物だって聞いたんですが……」
キャロルは鞄の中から取り出した封筒をキャサリンに渡す。
キャサリンはその封筒を見ながら口を開いた。
「はい。間違えなく、紹介状ですね。ご確認させて頂きます」
キャサリンは封筒から中身を取り出して目を通すと、それを再び封筒に戻すと、手が届く机の上に置く。
「確かに本物の様ですね。ようこそ、璃月港へ。貴方を歓迎します」
キャロルはキャサリンの言葉を聞いてホッとする。
それからキャサリンはキャロルに簡単な依頼をいくつか紹介してくれた。
キャロルはその中から一つの依頼を選ぶと、キャサリンにお礼を言って、その場を離れる。
(よし、頑張ろう)
キャロルは依頼書に書かれた場所に向かうと、そのまま仕事を開始する。
今回は鉱石の採掘らしい。
採掘は専門外だが、キャロルは地道な作業も嫌いではない。
キャロルは採掘道具を持って、指定された洞窟らしい場所へ行くと、そこに広がる景色に息を漏らした。
「わぁ……!凄い……!」
キラキラした瞳で辺りを見回しながらキャロルはそう呟いた。
そこかしこに緑に近い水色の水晶と、濃い青色の魔晶がある。
それらが洞窟を埋め尽くさんとばかりに、所狭しと並んでいた。
キャロルは採掘用の道具を取り出すと、それを使って鉱石を採掘する。
あまり取りすぎると次回の依頼を受けた冒険者が困るので、採れるだけ取ってあとは残しておく事にした。
キャロルは汗をかきながら採掘し続ける。
やはり、この暑さには慣れない。
額に滲む汗を拭いながらもキャロルは手を動かし続けた。
シュヴァルツはそれを心配そうに見つめる。
「大丈夫だよ、シュヴァルツ。心配してくれてありがとう」
キャロルは微笑んでそう言うと、作業を再開する。
それから暫くの間、黙々と鉱石を採掘し続けた後、依頼分の鉱石を採り終えた。
キャロルは汗を流しながら額の汗を拭う。
「ふぅ……」
キャロルは額の汗を拭うと、鞄に採った鉱石を詰め込む。
そして、ゆっくりと立ち上がると洞窟を後にし、璃月港にいる依頼主の下へ向かう。
「はい、依頼の品です」
キャロルはそう言うと袋に入れた鉱石を配達先の商人の男性に手渡した。
男性はそれを受け取ると中身を確認する。
「確かに。間違えないな、ありがとう、お嬢ちゃん」
男性はそう言うと報酬金をキャロルに渡す。
キャロルはそれを受け取ると鞄にしまい込んだ。
「お仕事頑張って下さい!では私はこれで!」
キャロルはそう言ってその場を後にすると、ご飯を食べた後、別の依頼を引き受けに冒険者協会に向かう。
そして、キャサリンに新しい依頼を貰い、キャロルは討伐依頼をしていたのだが……─。
すっかり辺りは真っ暗になっていた。
だがそのままでいる訳にいかなく、キャロルはシュヴァルツと望舒旅館に急ぐ。
──だが、その途中、キャロルは何かの気配を感じて振り返った。
すると、そこにはいたのは、ヒルチャール二体だった。しかし、いつもと違い黒いモヤの様なものを纏っている。
キャロルが警戒しながら刀を構えると、肩にいたシュヴァルツが辺りを見回したかと思えば、何処かに飛んで行く。
「シュヴァルツ……!?」
キャロルがそう呟いた時にはもう、彼の姿は見えなくなっていた。
(一体何処へ……)
疑問に思いながらも目の前にいるヒルチャールを見据える。
すると、ヒルチャールの一体が攻撃を仕掛けてきた。
「くっ……!」
キャロルは刀を構えてそれを防ぐ。それから反撃に出ると、ヒルチャールを斬りつけた。
だが、その攻撃はヒルチャールにあまり効いていない様だった。
(なんだコイツ……!?)
キャロルが警戒しながら間合いを取ると、もう一体のヒルチャールが攻撃してくる。
キャロルはそれをかわすと、間合いを詰めて再び刀を振り翳す。だがやはりこれもダメージが少ない様だった。
キャロルは冷静にヒルチャールの攻撃を捌くと、隙をついて斬りつける。
「はぁ!」
キャロルは力を込めて刀を振るったが、やはりあまり手応えがない。
(何かおかしい……)
キャロルが警戒していると、ヒルチャールが更に攻撃を仕掛けてくる。
それをなんとか防ぐと、キャロルは呼吸を整えた。
(まずは落ち着いて対処しなければ……!)
キャロルは敵の攻撃を避けると、相手の隙を突いて攻撃を仕掛ける。
だがやはり、あまりダメージが通っていない様だった。
(これは一体……)
困惑するキャロルだったが、考えるより先に体が動く。
キャロルは刀を構え、ヒルチャール達に向かって行った。
(何とかして怪我をさせないと……!)
でもシュヴァルツが逃げて良かった──。そう考えた時、ヒルチャールがキャロルに攻撃を仕掛けてきた。
「くっ……!」
キャロルは咄嗟に反応してそれを避ける。だが、それもギリギリだった。
ヒルチャールの攻撃がキャロルの腕を掠めると、そこから服が破れ、赤い血が吹き出した。
「しまった……!!」
キャロルは苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべて傷を押さえると、ヒルチャールを睨みつける。
しかし、ヒルチャール達は容赦無くキャロルに攻撃を仕掛けてきた。
「くそっ!」
キャロルは刀を構え直すと応戦する。しかし、腕をやられてしまい、どうしてめいつもと動きが違い、戦いにくい。
「っ……」
キャロルは腕に走る痛みに思わず顔を顰めた。
(落ち着け、落ち着け……)
心の中でそう言い聞かせるが、焦りからなかなか冷静になれない。
そんな時──頭上から、いや、崖の上から影が降り立った。
キャロルが何事か、と思った時、それが望舒旅館で見た不思議な少年──魈だと気が付く。
彼はその手に槍を持っていた。
落下攻撃でヒルチャールを蹴散らし、そのままの勢いでヒルチャールを槍で貫く。
そして瞬く間に二体のヒルチャールは倒れ伏した。
「終わったか……」
彼はそれを見ながらぽつりと呟く。
「……助かったよ、ありがとう」
キャロルは助けてくれた魈に直ぐにお礼を言った。
彼は槍を消しながら、キャロルに視線を向けると、怪我をしている事に気付いた様だった。
「腕を怪我している様だな。……望舒旅館の従業員に頼むといい。我は先に行く」
そう言って立ち去ろうとする。
しかし、それは、小さな黒い影が彼の服を嘴で引っ張って阻止した。
キャロルはハッとする。その鳥がシュヴァルツだと気付いたからだ。
(シュヴァルツ……!)
「ピピピ!」
「……はぁ。お前はこの鳥に感謝するといい。我を連れてきたのはこの者だ」
魈はシュヴァルツに目を向けると、キャロルに伝える。
キャロルはその言葉で、よく分からないが、シュヴァルツは逃げたのではなく、彼を感知して此処まで案内したのだろう、と思った。
「分かった。ありがとうシュヴァルツ」
キャロルがそう言うと、シュヴァルツは嬉しそうに「ピ!」と声を上げた。
そして、そのままキャロルの肩に乗るのを確認し、改めて彼女は魈に感謝を伝えた。
「助けてくれてありがとう」
「……この辺りは危険だ。夜に出歩くのは感心できない」
「そう、みたいだね。ごめん、気を付けるよ」
キャロルが申し訳なさそうに眉を下げながら言うと、魈はそれを確認した後、跳躍し、崖の上に登っていった。
その後、彼の姿は消える。
「……でも、なんかお礼だけだと申し訳ないね。うーん。あの人……もしかして仙人なのかな?オーナーさんに聞けば好きな食べ物とか分かるかも!とりあえず望舒旅館に戻ろうか、シュヴァルツ!」
キャロルはそう言うと、シュヴァルツを連れて望舒旅館に戻る。
その時にたまたまオーナーが起きていたので手当てを頼みつつ、魈の事をさりげなく聞いた。
「ああ、確かに貴方の予想通り、あの方──魈様は仙人よ。貴方は運がいいのね。あの方に助けて貰えるなんて」
オーナーは手際良く包帯を巻きながらそう言う。
キャロルはオーナーの言葉に頷くと、興味津々で問いかけた。
「やっぱり仙人なんだ……!あの、お礼をしたいんですけど……よく食べる食べ物とか、好きそうなものは分かりませんか?」「そうねぇ。あの方はよく杏仁豆腐を食べているわ」
オーナーはそう答えながら、キャロルの腕の包帯を巻き終えた。
「……なるほど!なら、あの。明日の夜に調理場借りてもいいですか?お礼がしたいので」
キャロルはオーナーに思い切ってそう問いかけると、彼女は快く頷いた。
「いいわよ。許可を取っておくわ。」
オーナーがそう言うと、キャロルは目を輝かせながらお礼を言った。
それから、部屋でシュヴァルツと少し遅めの夕食を取った後、明日の為に早く寝る事にしたのであった。
※※※
次の日。
キャロルは璃月港で依頼を受けた後、向かう前に買い物をしていた。
レシピは出かける前にオーナーから貰ったので食材を買う為と、お土産を購入する為である。
まずは祖父母にお茶を購入し、今は自分へのご褒美として、シュヴァルツの首に付ける素材のいいリボンを購入する。
それと自分にはお揃いのリボンを購入し、腕に付けてみた。
「お揃いだよ、これで私達は『仲良し』だってわかるね」
キャロルはシュヴァルツに微笑みかけると、彼は嬉しそうに『ピィ!』と鳴いた。
「あとは、そうだ。前に面倒かけたからディルックとガイアと、クリプスさんにもお土産買って──あの魈さんにも他にもお礼買おう!何がいいかな、シュヴァルツ?」
キャロルが尋ねるとシュヴァルツは頭を傾げて『ピ?』と鳴く。
それを微笑ましそうに見つめながら、彼女は買い物を続けていたのだが──……。
ディルック達にはお守りにもなるらしい鉱石の欠片のペンダントを購入した。
だが、助けてくれた仙人へのお礼を悩んでいた。
「……物は重いかな……うーん」
頭を悩ませながら出店の前で商品を見ていた。
その最中──ふと、背後から声をかけられる。
「──土産ならそこの箸置きがいいぞ」
「え?」
キャロルはその声に振り返った。
そこに居たのは男性だった。茶色の髪をしているが、毛先はオレンジ色をしており、落ち着いた印象の美丈夫だ。
身に覚えが無い、初対面の人物は、キャロルの目の前にある箸置きを指さす。
その箸置きは綺麗な花の絵が描かれた物で、手に取ればとても軽く感じられた。
キャロルが首を傾げていると男は静かな声で語り始める。
「それはいい作りの物だ。この素材は水に強い。また美しい絵が描かれている為観賞用にも向いている」
キャロルが思わず、落ち着いた吟遊詩人や、講談師の様な低い声と、話し方に聞き入っていると、男は更に続けた。
「いい品だ。滅多に出会えない職人技で出来ている」
男は腕を組みながら、キャロルの手の中の箸置きを見つめていた。
「えっと……お兄さん詳しいんですね。」
キャロルは首を傾げながら彼を見つめる。すると男は薄く笑みを浮かべたまま答えた。
「それ程でもない。前に知人にこういう話を聞いてな。聞いているうちに覚えてしまっただけだ」
「……でも私が送りたい相手は……。あ。お兄さんって璃月の人ですか?」
キャロルが思わず、そう尋ねると、彼は首肯する。
何故か落ち着く様な雰囲気を放つ男性だ。
と言っても年老いてはいないし、若くもない。
「そうだ」
「……じゃあ、お兄さんは勿論仙人…様の事を知っていますよね?えっと、仙人様にはどういう物を送ればいいとか分かりますか?なんか、お兄さん詳しそうなので」
キャロルが興味本位で聞いてみると、男は少しだけ目を見開くが、数秒後には表情は元に戻る。
彼はそのまま少しの間黙っていたが、ゆっくりと口を開いた。
「……確かに人より詳しいと思うが……送りたい仙人の特徴は分かるか?例えば性別や姿など。それによって贈り物も違うだろう」
男の言葉にキャロルは悩む仕草をする。
「性別は男性です。年若い姿をされてましたけど、多分長生きをされてるんじゃないかな、と。旅館の方は『魈様』って呼ん出ました」
キャロルが説明すると男は『ふむ……』と言いながら顎に手を当てた。そして何やら考え込む。
それから少したった後、キャロルの腰にあるウェンティに貰った神の目の姿を模した姿だが、形状変化すればライアーの形をしている物を見つめる。
「……それはお前のものか?」
「え?はい、そうですけど……」
キャロルが頷くと男は神妙な面持ちになった。
それから──。
「それを少し見せて貰ってもいいか?」
男の言葉にキャロルは驚いた。何故かは分からないが、とても真剣な顔をしている。
キャロルにとってそれは大事な物だ。だが、何故かこの男に悪意や敵意は感じられなかった。
「い、いいですけど……本当に大事な物なので、壊したりとかしないで下さいね?」
キャロルがそう言うと男は静かに頷く。それを確認すると、取り外したキャロルは差し出された彼の手の上に……そのライアーであるフォーゲルを置いた。
男は見るなり──すぐに真剣な眼差しに戻り、観察をしたかと思えば、何か操作して、形状をライアーに形を戻した。
──キャロルは驚く。
何故そうやって形を戻せる方法を知っているのか、疑問に思ったからだ。
「ふむ……なるほどな」
男は一人で納得した様に頷いたかと思えばキャロルの手にフォーゲルを戻した。
そして何やら考え込むと、静かに口を開く。
「……これを何処で手に入れた?」
「え?えっと、知り合いから貰ったんです」
キャロルが答えると男は思案した表情をした。
「……と、言うことはお前はライアーを弾けるのか?その知人はお前に弾き方を教えたのか?」
男の質問にキャロルは考える。
フォーゲルを受け取った経緯を思い出すと、確かにライアーの弾き方は教えてもらった。
「はい。えっと、曲も教えて貰っています。」
キャロルがそう答えると男はまたもや顎に手を当てて考え込んだ。
「なるほど……」
男の様子を見るに、何かを納得しているようだ。
その仕草は様になっており、イケメンだな……とキャロルは静かに考えた。
キャロルの好みでは無いが、好きな容姿である人は沢山いそうだ。
それに、何処と無く……親の様な感じがして落ち着くのだ。
男は暫く考えていた様だが、不意にキャロルに視線を向け、フォーゲルを返すと、こう言った。
「今から時間はあるか?あるならついて来てもらいたい」
「え?今からですか?」
キャロルが驚いて聞き返すと男は深く頷く。そして──静かに告げた。
「ああ、そうだ」
その言葉には有無を言わせぬものがあった。
キャロルには彼が悪人には見えなかった。自分に害を与える気も無さそうである。
なら、ついていく位別にいいだろう。
そう考え、キャロルは『分かりました』と答えたのだった。
※※※
その後、キャロルは男に連れられ、とある店の前につく。
『往来堂』──恐らく葬儀屋かそれに類する店だ。
何故自分が葬儀屋に連れてこられたのか、訳がわからないままキャロルは男に連れられ中に入る。
すると店内には女性がおり、男は彼女に奥の部屋を使っていいか問いかけていた。
「ああ、大丈夫ですよ。今、お客さんいませんし。鍾離先生なら堂主も気にしないと思います」
「ありがとう」
男はそう告げると、キャロルを連れて奥の部屋へと移動する。どうやら、男は『鍾離』と言う名前の様だ。キャロルは戸惑いながらも男についていくと、奥の部屋のソファーに腰掛ける様に言われる。そして男は向かい側に腰掛けた。
(……訳が分からないんだけど……)
キャロルが困惑していると、男──鍾離は口を開く。
「確認だが、彼が他になんと言われているかお前は知っているか?」
──『彼』。魈の事だろう。
だが、彼がなんと呼ばれているかと言われても、キャロルは璃月の歴史まで調べてはいないので分からない。
どこの国よりも長い歴史のある璃月について調べるのは難しいのだ。
キャロルが考え込んでいると、鍾離は口を開いた。
「──「降魔大聖」「護法夜叉大将」彼は人々からそう呼ばれている」
「え?」
キャロルはその言葉に思わず顔を上げた。だが、鍾離は更に続ける。
「かつて、気性は荒いが武勇に優れる「夜叉一族」という者たちがいた。特に強かった五人の夜叉は『仙衆夜叉』と呼ばれている。夜叉たちは……「岩王帝君」との契約により、魔神戦争で敗北した魔神の残滓と戦っていた。しかし、業瘴に囚われて心身を苛まれ、悲惨な末路を遂げた。……魈は、その「夜叉一族」だ」
キャロルは混乱しながら鍾離の説明を聞いていた。
(夜叉一族?つまり、あの仙人は夜叉という事?でも、業瘴って何?)
キャロルは疑問に思うが、頭が混乱しきっており、それを上手く言葉に出来ずにいる。
すると──。
「……魔神というのは不滅の体を持っている。その意識は消えども、力と憎しみは沈泥化し、穢れが民の暮らしを徐々に侵していく。その穢れ……魔神の残滓を祓う役目を担うのが夜叉たちだ。魈の仙力は仙人の間でも上位だ。妖魔退治は難しいことではない。だが、魔神の執念は強力であり、倒す際に飛び散った穢れが徐々に魈の心身を侵していく。それでも穢れを消すために、それらの「業障」を背負わなければならない。長年溜まり続けた業は魈の心を蝕み、肉体を苦しめている。」
「……それって」
キャロルは、やっと出た言葉に驚く。だが、鍾離の声音からは真剣さが伝わってきた。彼は噓を言ってはいないだろう。そう思わせる何かがあったのである。
──つまり、鍾離は魈は地獄の様な苦しみを常時抱きながら、戦い続けていると言うのだ。そんな事、想像も出来ない。
「……仙人は人より長生きなんですよね?そんな責め苦のような苦しみを……ずっと……?あの、他に仲間とか、いないんですか?」
「いた……だが彼の親しい者たちは死んでいった。それに彼の体質上、「神の目」を持つ人間なら多少はそばにいても問題は無いが、人間に対しては毒になる。」
「なるほど……」
キャロルはその説明を聞いて納得しかけるが、ふとある疑問が浮かんだ。
「でも、何故私にそんな話を?そもそも、貴方は何者なんですか?」
キャロルの言葉に鍾離は静かに口を開いた。
「ああ、自己紹介をしていなかったな。俺は往生堂の客卿……「鍾離」だ。それと、この往生堂は葬儀屋だ。」
「鍾離さんですか……あ。私は「キャロル」です。」
「ほう、良い名だ」
鍾離はそう答えると僅かに微笑んだ。その顔がとても優しく見え、キャロルは見惚れた。
「……それで何故俺がこんな話をしたかと言えば、彼にお前は礼をしたいと言っていたな?……その現象をいくらかは緩和させる方法がある。仙人には凡人の薬は効かないが、特殊な薬を与えたりな。後は……食の奉納と妙音による布施が効果的だ。」
鍾離の話を聞いて、キャロルは目を輝かせた。だが──その言葉を聞いて首を傾げた。
「……妙音?ってなんですか?」
キャロルが尋ねると鍾離は顎に手を当てる。
そして──。
「ふむ、お前にも分かるように言うと……まぁ素晴らしい音、と言うところだろうか」
その言葉を聞いたキャロルは思わず無言になる。それから困ったように笑みを浮かべた。
「うーん、つまりそれって食べ物以外なら音楽引けばいいって訳ですね」
キャロルの言葉に鍾離は『まぁ……そうだな』と答えた。
すると、キャロルのフードの中で眠っていたシュヴァルツが起きだし、寝ぼけた様子で机の上へと着地した。
そのまま『ピ!』と鳴きながら首を上下させている。その様子を見てキャロルは思わず笑ってしまった。
「……音楽に反応して起きたんでしょ、コラ」
キャロルがそう呟き、ツンツンと指でつつくと、シュヴァルツは目を細めて喉を鳴らした。
その様子を見た鍾離は目を細めると、キャロルに話しかけた。
「……随分と懐いているんだな」
「はい、それはもう」
キャロルが笑いながらそう答えると、鍾離は興味深そうにシュヴァルツを見つめる。それから少し考え込んだ後……言葉を続けた。
「……お前は鳥が好きなのか?羽の様な装飾品を付けているが」
鍾離はキャロルの服に取り付けられた羽飾りに目をやった。
「え?ああ、はい。あ、でもこの子はそれはそれとして、大事にしてます」
キャロルがそう言うとシュヴァルツは嬉しそうに鳴き、飛び上がりまたフードの中に戻っていった。その様子を見て鍾離は「なるほど」と納得する。
──そして彼は改めて口を開いた。
「……お前なら心配なさそうだな」
鍾離がそう言うと、キャロルはキョトンとした表情で首を傾げた。
「え?」
「いや、何でもない。気にしないでくれ」
彼はそう答えながら困ったような笑みを浮かべる。そんな彼の様子を見ながらキャロルは首を傾げた。
──一体何だと言うのだろうか?キャロルには分からない。
そんなことを考えていると、鍾離は別の話題を切り出した。
「ちなみに魈の仙獣姿は鳥らしいぞ」
鍾離の言葉にキャロルは目を輝かせた。
「えっ、仲良くなったらモフモフとかさせて貰えますかね!?」
キャロルが興奮気味にそう尋ねると、鍾離は不思議そうに瞬きをした後……笑いだした。
「ふ、ははは!お前は面白いな。」
彼の笑い声を聞いて、キャロルは恥ずかしそうに顔を赤らめた。そして彼女は口を尖らせる。
「そんなに笑わなくてもいいじゃないですか……。可愛い猫がいたら触りたくなるみたいなものですよ!それにあの方の感じから絶対難しいのは分かってますし……。それでも触れ合えたらなぁって思うじゃないですか」
キャロルの反論に鍾離は僅かに目を丸くすると、すぐに笑みを浮かべる。
「ふっ……そうだな。頑張れば触れるかもしれないな。そうだ。ついでに聞こう。お前は神をどう思う?」
突然の質問にキャロルは目を丸くする。だが、すぐに彼女の脳裏にはウェンティのことが浮かんでいた。
彼は、なんというか掴みどころが無い。だが、どこか安心感のある存在だ。
キャロルは暫く考えた後──口を開いた。
「うーん……正直に言うと、それこそ「先生」とか「親みたい」みたいな感じですかね。……えっと、私はモンド出身なので、他の……この璃月の「岩王帝君」の事は分かりませんが……」
そんな話をしながら、キャロルはデジャヴを感じてしまい、途中で口が止まる。
(なんかこれ、前もやったような……)
──確か、ウェンティにも「神」について尋ねられて、知らないまま答えて……後に「神」だと知って……。
そして、はた。と、気付く。
──
キャロルは恐る恐る目の前にいる人物を見た。彼は変わらず笑みを浮かべている。
嫌な予感がひしひし、と目の前の鍾離という男から感じられた。
「あの……」
キャロルが恐る恐る声をかけると、鍾離は不思議そうな表情を浮かべる。
「ん?どうした」
「えっと……もしかして……貴方がウェンティの言う「爺さん」……だったりします?」
遠巻きに、貴方が「岩王帝君」なのか、とキャロルは鍾離に恐る恐る問いかける。
すると、鍾離は心底驚いた表情になった後──「ふむ」と顎に手を当てた。
それから彼は口を開いた。
「……またそんな事を言っていたのか。あいつは……全く」
鍾離は呆れ顔だが、キャロルはその反応を見て確信を持った。
(この人が
キャロルは内心、叫び声を上げる。だが、あくまで冷静さを保つように意識しながら口を開いた。
「ええ、えっと。うちのバカ神がご面倒をおかけしているようで。本当にすみません……」
キャロルが頭を下げながら謝罪をすると、鍾離は目を細める。
そして彼はキャロルを見て笑みを浮かべた。それは先程までの優しい笑みではなく、どこか意地の悪い笑みだった。
「本当にな。……お前も苦労しているようだ」
その言葉を聞いたキャロルはひくりと顔を引き攣らせた。だが、彼女はそれを誤魔化すように咳払いをする。それからおずおずと口を開いた。
「コホン。あの……態度自体はそのままでいいですか?敬った言い方をした方がが良いですか?」
キャロルの言葉に鍾離は考え込む。そして数秒後──彼は首を横に振った。
「いや、そのままでいい。俺は今訳あって「凡人」として生きている。お前の前では神としての振舞いはしない」
「はぁ、わかりました」
キャロルがそう答えると、鍾離は満足げに頷く。それから彼は手を差し出してきた。
「改めて自己紹介をしよう、俺は鍾離だ、宜しく頼む」
キャロルが困惑しながらも手を握ると、彼は柔らかな笑みを浮かべたのだった。
どんな話がみたいですか? 参考にいたします!
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