───その日の夜。
大体の人が寝静まった時間にキャロルは料理片手に望舒旅館の屋上テラスにシュヴァルツと来ていた。
「…えっと、呼べば来るかな?」
キャロルは夜空を見上げる。
満天の星が輝いているが、キャロルは気にせず、辺りを見回した。
目的の人物を捜しているのだ。
「──よし、ダメ元だ。魈さーん!」
キャロルが夜空に向かって呼ぶと、黒い影が屋根の方から凄い速度で飛んでくる。
「なんだ」
涼やかな声と共に、まるで猫のように軽々とキャロルの側に降り立ったのは、仙人である魈だ。
「あ。良かった、来てくれて。この前助けて頂いたのでお礼にと思って。」
キャロルがそう言って杏仁豆腐を一皿手渡すと、目を僅かに見開く。
「……何故これを?」
「ここのオーナーがこの料理を魈さんが好まれていると聞いたので。今日、望舒旅館の杏仁豆腐のレシピを頂いたんですよ。」
「……そうか。」
「お口に合えば良いんですけど……あ。でも私料理もそこそこ出来ますが、お菓子は得意なので!」
得意げに胸を張るキャロルに、魈は僅かに目を細めた。
「……この料理の味は嫌いではない。……感謝する」
そう言って受け取る魈に、キャロルは満面の笑みを浮かべた。
「良かったです!是非、食べてください!」
すると、そんな2人のやり取りを黙って見守っていたシュヴァルツが口を開く。
「ピ!ピピ!」
「ああ、ごめんごめん。分かってるって。……あと、良かったら、音楽を1曲聞いて貰えませんか?オーナーには許可を頂きましたので。」
キャロルは、ライアーを用意すると、静かに弾き始めた。
澄んだ音色が優しく辺りに響き渡り、やがて穏やかな曲を奏で始める。
そんな音楽に合わせ、シュヴァルツが「ピ!」と鳴き、リズムに合わせるように小さな体を動かす。
「……これは。」
魈は目を見開く。彼の『業障』を和らげる効果がある事を、彼は感覚で理解した。
キャロルはウェンティに昔、この曲は気分が悪いのを良くする、と聞いた事がある音を奏でたのだ。
やがて曲が終わると、彼は素直に称賛を口にする。
「素晴らしい演奏だった。」
キャロルは照れたように笑うと、ぺこりと小さくお辞儀をした。
「ありがとうございます。あの、本当にありがとうございました」
すると、魈は少し思案した様子でシュヴァルツをじっと観察した後、静かに言葉を紡いだ。
「……そこの生物は鳥では無いだろう。本体は、ドラゴンスパインか?」
「え!?」
キャロルが驚いて声を上げると、シュヴァルツはばさりと翼を広げた。
「ピピ!」
そして、キャロルの周りをくるくると飛び回り始める。
「もしかして、気付いてたんですか……?」
「鳥にしては違和感があったからな」
「そうだったんですね……。あはは……」
「……その生物が厄災を引き寄せる程の力が無いのなら、我は関与しない。しかし、もしお前が遠くに旅をするのならば、まともに姿を保てる可能性は低いだろう。連れて行けない可能性が高い。そもそも本体と距離が離れるからな。」
「あ、あはは。ですよねー……。」
「ピ!」
しょんぼりした様子で呟いたシュヴァルツに、キャロルは苦笑した。しかし、すぐに魈はキャロルを見ながら、付け足す。
「……璃月港に歌塵浪市真君という仙人がいる。今は老婆の姿をしており「ピン婆や」と呼ばれている筈だ。彼女なら……「塵歌壺」と呼ばれる道具を持っている筈だ」
「塵歌壺……?」
首を傾げるキャロルに、今度はシュヴァルツが目を輝かせて「ピィ!」と鳴いてくる。
「壺の中には「洞天」と呼ばれる空間が広がっていて、家を建造したり出来る。お前の旅の役にも立つだろう。事情を話せば「塵歌壺」を譲って貰えるかもしれない。…それと、そうだな。これも持って行くといい」
すると、魈は皿を一度キャロルに預けると、懐から札のようなものを取り出して、それを差し出す。
「これは?」
「護符だ。これを見せて我の名を出せば、聡い彼女の事だ。理解はしてくれるだろう」
「ありがとうございます!」
キャロルがそれを受け取ると、彼は小さく頷く。
キャロルはそれを懐にしまい、皿を渡すと、おずおずと訊ねる。
「あの、もし良かったら、また会いに来てもいいですか?」
「……我の傍にいれば本来、普通の人間は「業障」の影響を受ける……だが。……お前には影響が薄いようだ。」
「え?」
「……体調はどうだ?」
「え?あ、別に普通ですけど……」
「前に会った時も、今日も特に体調に変化はないのか?」
「え?はい。……って事は、もしかしたらモフモフし放題って事!?」
「?」
「……あ、いや!なんでもないです!」
思わず、魈と仲良くなって仙獣である鳥の姿をモフり放題出来るのではと期待してしまい、口から本音が漏れたキャロルは慌てて取り繕う。
その様子を、魈は呆れ顔で見ていたが、やがて諦めたように溜息を零した。
「……好きに呼べばいい。我ら仙人はどう呼ばれようがあまり気にしない。勿論、岩王帝君であるあの方を侮辱すれば許さないが」
「!って事は「友達」になんてどうですか!?魈さん!」
キャロルは目を輝かせて、興奮気味に言う。その様子に彼は少し呆気に取られた様子で目をぱちくりさせていたが、やがて苦笑した。
「……いきなり距離感を詰めすぎだ。まあ、いいが。」
「やったー!シュヴァルツ、仙人の友達出来たよ!凄いね!」
キャロルはシュヴァルツを抱き上げて喜びの声を上げる。シュヴァルツも「ピィ〜!」と鳴きながら嬉しそうだ。
その様子を見て、呆れたように息を吐いた。
「あまりはしゃぎ過ぎるな、今は夜遅い。他の者の迷惑になる」
「あ、そうですよね、すみません!じ、じゃあ、タメ口でもいいですかね?魈、って呼んでいいですか?あと、私の事もキャロルと呼んで下さい!」
「好きにしろ」
ぶっきらぼうな言い方だが、どうやら許容されたらしい。キャロルは満面の笑みを浮かべて礼を言うと、お辞儀を深くし「おやすみなさい、また会えたら!」とパタパタと階段の方へと走って行った。
───その後ろ姿を見送ると、魈は再び溜息を吐く。
「……変わった奴だ。」
彼は独り言のように小さく呟き、手元に残された杏仁豆腐を口に運んだ。
※※※
次の日。
キャロルはその日はまず璃月港に向かうと、ピン婆やという女性を探した。
山間部の金鐘の東に彼女はおり、見た目は普通の人間の老人の姿をしていた。
キャロルが昨晩の話をし、魈の護符を見せると、ピン婆やは穏やかな微笑みを浮かべた。
護符を受け取ったピン婆やはそれをしげしげと見つめて顎に手を当てると、顔を上げてキャロルを見た。
その瞳には何故か、懐古の色が宿っている。
「……うむ。名前はなんと言ったかの?」
「キャロルです!で、こっちがシュヴァルツです。でも、その。この子はモンドから離れたらそのままだと一緒に行けないと聞いて……か、可能なら。「塵歌壺」を譲って頂けませんか?」
キャロルがやや上擦った声で訊ねると、ピン婆やは僅かに微笑んだ。だが、同時に困った顔をしている。
「譲りたいのは山々じゃが、今は壺の調子が悪くての、知人に預けておる。しかし……時間がかかるかもしれんぞ?」
「あ、はい!全然大丈夫です!」
キャロルは笑顔で答えているが、その笑顔がどこか引き攣っている事にピン婆やは気付いていた。しかし、それには触れずに続ける。
「……ちょっと聞いていいかの?キャロルは「からくり」は好きかの?」
「え?からくり、ですか。うーん、詳しくは無いんですけど……人を豊かにする発明だと思います。だから、好きです。それに人に色々な出来る事を増やす事が出来ますよね。そしたら、神とか仙人達みたいに凄い力が無くても、彼らを支えられるかもしれませんね!ほら、仙人の方達だって限界がありますし」
キャロルが目を輝かせて言うと、ピン婆やは嬉しそうに頷いた。
「そうか、そうか。キャロルは本当にいい子じゃのう。うむ。ならば知人の所に直接行くといい。キャロルならあやつも気に入るじゃろう。キャロルは「
キャロルは首を傾げる。ピン婆やが口にした人物を知らないからだ。
すると、彼女はコホンと咳払いをすると、説明をし始めた。
「
「なるほど……」
「あやつは鶴の様な姿をしている。あまり人とは関わりたがらぬが、お主なら大丈夫じゃろ」
「鶴……!!楽しみです!!」
ピン婆やはその仙人がいる場所を地図を取り出し、示してくれた。
キャロルは目を輝かせると、頭を下げる。
「ありがとうございます!」
そして彼女は急いで、
ピン婆やはその後ろ姿を見ながら、手元にある鈴を静かに鳴らす。
「……行ったようじゃの。本当に……雰囲気が似ている。さて、気難しいやつじゃが……気に入ってくれるといいんじゃがのう。」
そしてピン婆やはまた一つ、鈴を鳴らしたのだった。
※※※
奥蔵山。
その上に何とか登ったキャロルは辺りを見回す。
そして、奥に結界のようなものがある事に気が付いた。
「もしかして、ここかな?あのー!ピン婆やの紹介できたんですけどー!」
すると、中から声が聞こえた。
「……む?妾に用事があるのか?人の子よ」
「は、はい!キャロルと申します!」
「……ふむ。今手が離せぬ。丁度いい、奥に来るまでの仕掛けのテストがしたい。本当にピンの紹介ならば無事に辿り着けるだろう。そのまま入ってくるがいい」
キャロルはその言葉に従い、そのまま結界の中へと入って行く。
すると、機械のようなものがあり、キャロルが触れてみると、透明な橋が出来ている事に気付いた。
どうやら、これを渡るらしい。
「おお。凄い!シュヴァルツ行くよ!」
キャロルが感心したように目を輝かせて言うと、シュヴァルツも嬉しそうに鳴き声を上げた。
そしてキャロルは慎重に橋を渡ると、似たような仕掛けを解いていき、最後に風脈を使い風の翼を使いながら、最深部へと辿り着く事が出来たのだった。
※※※
──そこには緑の文様がある白い鶴のような姿の仙人が立っていた。
キャロルは目を輝かせると、彼女に駆け寄る。
「こんにちは!貴方が
「うむ。妾が
キャロルは背筋を伸ばし、懐から魈に貰った護符を取り出し、差し出す。
そして、魈に出会い、「塵歌壺」という道具があると聞き、持っているピン婆やを紹介してもらった。
しかし、それは今は
「ふむ。話は分かった」
「その護符を見せよ」
キャロルがそれを差し出すと、
「うむ。間違えない。これは仙人が作った護符じゃな。持ち主の気と性質が滲んでおる。それに……妾の仕掛けを突破してきた事もある。運が良かったな。丁度「塵歌壺」は直し終えた。こちらに来るといい」
そう言うと、
「あ、はい!」
キャロルとシュヴァルツは後を追う様に後を追ったのだった。
周りには様々なからくりや様々な機械が置かれている。
キャロルがそれらを見て目を輝かせていると、
「気になるのか?これは妾が作ったものだ」
「凄いですね!あ。これ、どうやって動くんですか?」
キャロルが一つのカラクリを指さすと、
「うむ。このからくりは……」
それから
そしてキャロルは彼女の話を聞いている間中ずっと目を輝かせており、シュヴァルツもピ、ピと鳴きながら興味深そうに聞いていた。
「……と、こんなところだ。」
「へぇ……!なるほど……!面白いですね!!」
「ふむ。……キャロルと言ったか?そうだな、ついでにコレも持っていくと良い。」
「これは……?」
そこには箱のようなものがあった。キャロルはそれを覗き込むように見ると、鳥の形のからくりのように見える。
「それは録音機能を持った鳥型のからくりだ。作ったのはいいが、余り使う事も無くてな。せっかくだからお主が使うとよい」
「え!?いいんですか!?」
「うむ。使い方は教えよう」
キャロルはそれを受け取ると、目を輝かせて嬉しそうに笑った。
それからしばらく
「あの、貰ってばかりで悪いので、良かったら曲、聞いて頂けませんか?」
キャロルはウェンティに貰ったライアーを取り出す。仙人に対して音楽や食事が「おもてなし」みたいなものだろうと彼女は解釈していた。
「ほう?いいだろう」
※※※
暫くした後、留雲借風真君は優しげな微笑みを浮かべた。
「美しい曲だ。心に沁みるようだった」
「良かったです。」
シュヴァルツも「ピ!」と嬉しそうに鳴き声を上げ、キャロルはホッとしたように胸を撫で下ろす。
そして──
「また来てもいいですか、留雲借風し……う。すいません」
キャロルが噛んでしまい、慌てて言い直そうとすると、留雲借風真君は不思議そうな表情を浮かべたが、柔らかく目を細めた。
「好きに呼ぶといい。呼びにくいのだろう?」
「ありがとうございます!えっと、留雲さん、また来ても?」
「ああ、待っているぞ」
そして彼女は感謝の言葉を述べて別れの挨拶を告げると踵を返し、その場を後にしたのだった。
※※※
そして、その後、一応ピン婆やに報告するため璃月港に引き返した。
すると、ピン婆やはキャロルを心配していたようで、再び姿を見せてくれた彼女に対し嬉しそうに微笑んでくれたのだった。
それから
「それは良かったのぅ」
「はい!優しそうな方でした!あと、本当に壺貰っていいんですか?」
「うむ。いいんじゃよ」
キャロルが申し訳なさそうに尋ねると、ピン婆やは柔らかに微笑んで頷く。そして彼女は何かを思い出したように懐から何かを取り出すと、キャロルへと差し出した。
「これは通行手形、じゃ。これがあれば中に入れる。壺の詳しい使い方は中にいる「壺の精霊」に聞くと良い。分からない事は何でも聞いてくれるじゃろう。」
「わあ!ありがとうございます!」
キャロルはピン婆やに頭を下げると、満面の笑みを浮かべて受け取った。
そしてまた礼を言って歩き出したキャロルとシュヴァルツだったが、ふと何かを思い出したように振り返ると、ピン婆やへと向き直り、彼女に手を振る。
「また会いに来ます!」
キャロルは頭を下げてそう告げると、満足した様子で歩き出す。
シュヴァルツはキャロルの肩に座って小さく「ピピ」と楽しげに鳴いた──。
どんな話がみたいですか? 参考にいたします!
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