白星の君へ   作:F1さん

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旅編
崩れる


 

 

 

──ある日。

 

キャロルの祖母が倒れた。

直ぐにキャロルは冒険者の仕事を切り上げ、祖母の寝室へ駆けつけた。

ベッドに座る祖母はキャロルに柔らかな笑みを浮かべる。

隣には祖父と医者が同席している。

 

「キャロルか。」

「おばあちゃん、大丈夫なの?」

 

祖母は気丈に微笑み返す。

 

「ふふっ……キャロルちゃんは心配症ね。大丈夫よ、お医者様も治ると言って下さっているわ」

「うん……」

 

キャロルは不安を隠せないまま、祖母の手を握る。

小さく、皺がれた手は温かく、どこか弱々しい。

 

「大丈夫よ。きっと良くなるわ」

 

祖母はキャロルを安心させようと、優しい笑顔を浮かべる。

しかし、その言葉とは裏腹に、彼女の体調は日に日に悪化していく。

キャロルは冒険者の仕事は一時的に止め、必死に看病をしていた。

キャロルはその時、祖母の面倒をみるのに必死で気付いていなかった。

それ以外にも不幸が続いているのだと。

何人かお見舞いに来たり、キャロルがいない時に祖母の面倒を見てくれる人は居るが、仲のいいディルックとガイアの二人が様子を見に来ない理由を。

キャロルは彼らが忙しいのだと漠然と思っていた。

だが、冷静に考えればそんな筈ないのだ。

彼らにはキャロルが大切だから、祖父や祖母が倒れればキャロルの元に来て、気に掛けてくれる筈なのだから──。

 

※※※

 

一方その頃。

成人の日──。

アカツキワイナリーにて。

従業員の一人がお酒を飲みながら「これで大人っすね!」と明るくディルックに話しかけ、酒を進めたが、ディルックは首を振って断った。

 

「おいおい、ディルック坊ちゃんはこれから任務なんだよ、お前知らないのか?」

「えー。あ、すみません……」

 

残念そうに謝る従業員の後ろから、髪を束ねた赤毛の男─クリプスが軽く男の背中を叩きながら「ははっ、酒の話か。なら私の酒蔵に来るといい、とことん付き合おう」と返す。

クリプスに視線を向けながら、酒に浮かされた男は「さすがクリプス様!」と囃し立てた。

クリプスはそのままディルックに「雨が降る前に出よう」と、話しかけた。

それにディルックは「はい、父さん」と返す。

 

──いつもと変わらない日だった。

 

ただ、違うのはその日は曇りだった、という程度だと、ディルックは思っていた。

 

※※※

 

 

「──キャロルとの仲はどうだ?」

 

荷台にいたクリプスが突然、前で馬を操っていた息子に声を掛けた。

それに少し動揺しながらも、平静を装い答える。

 

「あ、うん。今度スメールにでも行こうって話を最近したよ」

「そうか、それは良かったな。あの子は昔から大人びていて、本を読んだりして一人でよく過ごしていたみたいでな

──友達が遊ばないのを心配してシゲノブさんが悩んでいたんだ。だからお前と会わせてはどうか、と提案したんだが。あの時の選択は間違って無かったようだな」

「うん、キャロルは僕にとても良くしてくれる……恋人だよ」

「それは良かった。あの子はいい子だ、大切にしてやってくれ」

「分かっているよ、父さん」

 

それを聞いたクリプスは安心したように微笑む。

そしてしばらく後──クリプスがまたディルックに話をかけてきた。

 

「──私も昔、騎士団に入りたかったんだ。ただ、力不足でね、神にも認めて貰えなかった。だが、お前は優秀だ。神に認められた上に、西風騎士団にまで入った」

 

クリプスの顔は見えない。だが、ディルックは父に返す。

「……父さんの資産と影響力。それとモンドへの貢献度は騎士団にも劣ってないと思うよ」

 

手網に少し、力を込めてディルックは伝える。

それは嘘偽りない息子の本音だ。

 

「……ははっ、そうだな」

「……そうさ」

 

すると、クリプスは近くに置いてある木の箱を手に持つ。

 

「……ディルック。お前の事も誇りに思っている。これも、もう使う事は無いだろう。」

 

見えない位置でクリプスは箱を開く。そこには手袋に付けられた、「神の目」に似たアイテムが入っていた。

 

「……?」

 

ディルックが普段とは違う父の様子に疑問を抱いていると──竜のような魔物が荷台に襲いかかってきた。

従者に鋭い爪を向け、切り裂く。

あまりにも突然で、西風騎士団に連絡する余裕すらなかった。

そして、強大過ぎる魔物を前にして、若き騎兵隊隊長になったばかりのディルックはなす術がなかった。

魔物の突進は荷台を傾かせた。

 

──だが、クリプスは腕に神の目のような宝石が着いたグローブを装着し、魔物に向き合った。

 

そのグローブからは禍々しい稲妻のような力が溢れてる。

そこから鎖が伸び、魔物の首に巻きついた。

 

「その、力は一体……!?」

 

クリプスには神の目は無い。すると、座った状態のディルックに魔物は鎖を壊すと、襲いかかる───。

だが、その前にクリプスが立ち塞がり──鮮血が散った。

 

「父さん、やった……僕たち──」

 

クリプスの体が傾き、ゆっくりと崩れ落ちる。

 

「──とう、さん?」

 

その時、ガイア達西風騎士団の面子が駆けつけた。

 

「救援に来たぞ、無事か─!?」

 

ディルックは咄嗟にクリプスに近づくと、その手には父の赤い血がへばりつく。

タイミングを呼んだのか、雨がポツポツと濡れていく。

 

「────クソっ!」

 

その邪悪な力は、止まることは無かった。

暴走をし始めた力はクリプスの身体を蝕む。

 

「ぐっ……──!!!」

「父さん───!」

 

トドメをさせるのは、実の息子であるディルックだけだ。

彼は、涙を僅かに浮かべながらも──父を刺した。

その呼びかけに答える者はいなかった。

※※※

 

 

夜、クリプスを弔うようにモンドの空からは大雨が降っていた。

悲しみと疑惑を抱え、西風騎士団に戻ったディルックが、督察長から受けたのは「真実を隠せ」という命令だった。

騎士団の名誉を守るため、父親の死は「不幸な事故」として発表しなければならないと。

商人でしかない「クリプス」が解決したなど公表する訳にはいかない、と。

この馬鹿げた命令を聞いた時、ディルックは弁解しようとすら思わなかった。

 

───世界は信念のある人を裏切らないと、クリプスはディルックに言った。

 

そして、同時に思い出す。

キャロルに何故、西風騎士団に入らないのかと尋ねた時、彼女が言っていた言葉を。

 

『──騎士はね、弱い人の力にならないとダメなの。だから、耐え忍ばないといけない存在なんだよ。それにね「英雄」になればなるほど、押し付けられるんだ。私は、そんな人にはなれない。強くないから。でも──ディルックなら。優しい心を持った君なら、大丈夫だよ』

 

ディルックは、キャロルに脳内で謝った。

 

(───すまない)

 

「僕は騎士団を辞める。───忘れるな、このモンドは父さんのような人がいてこその街だと言う事を──!!」

 

ディルックは上着を脱ぎながら、督察長に言い放った。

 

 

その後、ディルックはアカツキワイナリーに戻り、クリプスの部屋を調べた。

あの禍々しい力について何かないかと探したのだ。

そして、机の奥に隠された手記を見つけた。

鍵はかかっていたが、その鍵は探せば直ぐに見つかった。

そして、彼は僅かな真実を知ってしまう──。

それからのディルックの行動は早かった。

メイド長であるアデリンにアカツキワイナリーについての指示を出し、自身は自室で旅の支度を始める。

すると──ドアが叩かれた。

 

「入っていい」

 

ディルックが許可すると、ドアが開かれる。

そこに居たのはガイアだった。

彼は思い詰めている様な表情を浮かべている。

ディルックはその理由に薄っすら勘づいていた。

ガイアは黙っていたが──気が付いていた。

ディルックは憤る、と。

それはガイアが義理の息子だから、とクリプスに何も出来なかったからでも、寄り添おうとしなかったからでは無い。

真相に辿り着いたからだ。

 

「──ガイア」

 

ディルックは剣を抜く。それは大剣では無く、細剣だ。

 

「……──にい……いや、「ディルック」。分かっている。分かっているさ」

 

ガイアは、苦虫を潰すような表情を浮かべた。

 

「当然だ」

 

剣の切っ先がガイアに向けられる。

だか、双方は怯まない。ガイアも同じ様に剣を細剣を取り出す。

 

「──外に出よう、ガイア。だが、雨は、お前の罪を洗い流さない。」

「……そうだな、分かっている」

 

ガイアとディルックは外へ出て、アカツキワイナリーの庭園に出ると──剣を構えた。

雨が止まない。それでも、2人は傘もささず、剣を向け合う。

ガイアが薄く笑う。その目の奥には僅かな悲しみがあった。

 

「恨みっこなしだぜ」

「……あぁ、始めよう」

 

───2人の剣をぶつかり合う。

互いの思いを振り切るように火花が散り、刃が削れていく。

それは互いの悲しみのように──。

 

「──ガイア、お前は知っていたな?父さんが悩んでいた事を!何故黙っていた!?」

 

「教えてやる義理はない!お前は何も知らないままだっただろう!いつもそうだ!昔も、今も!」

 

互いの剣が交わる。激しい鍔迫り合いとなっていく。

 

「──だとしたら、お前はいつも何も言わないだろう!押し殺して、自分で抱えて!自分の過ちを隠すようにな!いつも、お前はそうだ。昔からずっと」

「ッ─黙れ!!」]

 

ガイアが柄で剣を弾くと、その切っ先は弧を描く様に横に振るわれる。

その一撃を剣で受け止めつつ、弾かれた勢いを利用し、ディルックの横蹴りがガイアを襲う。

ディルックの「神の目」は彼の怒りを移すように、赤く光る───。

 

※※※

 

 

同時期より少し前───。

 

キャロルは祖母の傍で本を読んでいた。

少し休むかと本を閉じ、キャロルは祖母に話しかけた。

 

「おばあちゃん、喉渇かない?飲み物持ってくるね」

 

キャロルがその場を離れようとすると、祖母が止める。

 

「いいのよ、ありがとうね……。それよりキャロルちゃん……。いつも我慢ばかりさせてごめんなさいね。お父さんとお母さんは亡くなってしまったから──いつも、寂しい思いをさせているでしょう」

 

祖母の言葉にキャロルは首を横に振った。

 

「ううん……そんな事ないよ……。私もお父さんやお母さんが居ないのは少し寂しいけど、おばあちゃんは愛情をくれてる。料理を教えてくれたり、家事が出来るようになったのはおばあちゃんのおかげだよ」

 

キャロルが微笑んで、祖母の手を取ると、彼女の手が微かに震えているのが分かった。

キャロルはその手にもう片方の手を重ねて、「大丈夫」と伝えるように優しく撫でる。

祖母はその温かさに泣きそうになりながらも、にっこりと微笑んだ。

 

「──優しい子になったわね、キャロルちゃん。お母さんも優しい人だったわ。……キャロルちゃん、あなたは好きな道を選んでいいのよ。誰に何を言われても、おばあちゃんはずっと、ずっと味方だからね。幸せになる事を祈っているわ。」

 

キャロルはその言葉に笑顔を浮かべた。

 

「うん……ありがとう、おばあちゃん!」

 

すると、祖母は満足そうな表情を浮かべたが──。

その瞼がゆっくりと閉じた。

 

「──おばあちゃん……?」

 

キャロルが手を握るが、反応が無い。

自然と血の気が引き、額には汗が流れる。

 

「─おばあちゃん!!」

 

声を叫ぶ。だが、その時、勢いよく扉が開かれた。

 

「キャロルさん!大変なの!」

 

慌てて走ってきたのはアンバーだった。

彼女はキャロルがモンドの飛行チャンピオンであり、キャロルを尊敬をしている騎士に憧れている少女だ。

 

「どうしたの……?」

 

キャロルは心臓をバクバクとさせながらも、問いかける。すると、アンバーは息を整えた後に言った。

 

「騎士の人達が戦ってる!アカツキワイナリーの人!」

「……!で、でも……」

 

すると、祖母がキャロルの服を掴んだ。「キャロルちゃん……」と弱々しい声が聞こえてくる。

彼女は何かを伝えようとしているが、声になっていない。だが、必死に口を動かしているのが分かる。

その時、キャロルはなんとなく理解出来た。

 

──行きなさい、私の事は気にしないで、と。

 

キャロルは立ち上がると、祖母に向き直る。そして……キャロルの決意を彼女に伝えた。

 

「おばあちゃん……──ごめんなさい!私行ってくるね!アンバー!悪いけれどおじいちゃんと医者の人をここに呼んで!」

 

「う、うん!」

 

アンバーはキャロルの剣幕に押されながらも、そう答えた。

そして、彼女が外に出ると大雨が降り始めていた───。

※※※

 

 

──雨は罪を洗い流してくれない。

 

───私の手も、戦っている人の手は、皆、赤い。

 

キャロルが前に、その刀で初めて生物を殺してしまい、あの日、気に病んで泣いていた時、祖母は慰めてくれた。

 

でも、その手は赤く染まり、べっとりと付いている幻覚をたまに未だに見てしまう。

それが彼女─キャロルの心に絡みつくように残っていた。

だが、そんな事思い出し、を気にしている暇は無かった。

理由は分からないが、あの仲のいいディルックとガイアが戦っている事は明白だった。

アカツキワイナリーに急ぐ。

雨のせいで足場が悪く、途中何度も転びかけたが、必死に体勢を立て直し走る。

 

──もう、無くしたくない。

 

もしかしたら、祖母との会話はあれが最後かもしれない。そして、一緒にお茶をする夢も叶わないかもしれない。

そう思うと、怖くて足が竦みそうになる。

けれど、キャロルは走った。

 

走って、走って、走って──転びかけても、何も気にせず足を動かす。

すると、ようやくアカツキワイナリーに着いた。

その庭先にはディルックとガイアが戦っている姿があった。

いつものような稽古などではなく、本気で殺し合いをしている。

キャロルは心臓が跳ねるのを感じた。だが─彼女は走りながら叫んだ。

 

「やめて─!!!」

 

2人が同時に止まり、こちらを見る。

 

キャロルは息を整えながら、2人の方を見た。

 

「ど、ど、どうしてこんな事を──」

 

キャロルがわなわなと震えながら2人に問う。だが、返ってきたのは違う言葉だった。

 

「君は下がっていろ!」「こっちに来るな!」

 

2人は同時に叫んだ。だが、その口調からは本気の焦りが感じられる。

そして、邪魔をするな、と言いたげだった。

普段ならばディルックが優勢だが──何故かガイアの手元には氷の「神の目」がある。

恐らく、ガイアの元に現れたのだろう。

周りの草木がディルックの神の目で燃えた後、水で濡れ、ガイアの神の目でチラホラ凍てついている。

そう。ガイアが優勢に見えた。

 

ガイアは───普段、本気を出していなかった。

 

それは様々な理由があるが、1番は彼自身が「ディルック達を大事」に思っているからだ。

得体の知れない自分に優しくしてくれた義兄を。

暖かな暮らしを与えてくれた義父を。

だが、ストッパーの役割をはたしていた義父──クリプスはもういない。

 

「───ガイアは知っていた事を、黙っていた!君の両親の事も!父さんが思い悩んでいた事も!騙して!隠していたんだ!」

 

「ど、どういうこと!?」

 

キャロルの視線が自然とガイアに向かう。

ガイアはその視線を受け止めると、自嘲気味に笑った。

 

「そうさ……俺は知っていたんだ……!なのに!ずっと黙っていた!!でも、仕方ないだろう!父さんに口止めされたんだ!俺では力が足りなかったんだよ!」

「──だが、それが父さんを殺した原因だ!!」

「───え?いま、なんて?クリプスさん、が?」

 

キャロルの視界がぐらりと揺れる。目眩の様な感覚だった。

いや、そんな訳がないと頭では理解するが……心が追いつかない。

 

「……父さんは死んだ。不思議な禍々しい力を使って、暴走した。ずっと、苦しんでいて───僕が、殺すしか、無かった」

 

ディルックの悲しげな声が響く。その顔には、水滴がついていた。

それが涙か、雨のせいかは分からない。

 

「そんなの嘘だ……嘘だよ。昨日、私がおばあちゃんといたら、お見舞いに来てくれたんだよ?なのに、それなのに……こんな……」

 

キャロルの瞳から涙が零れる。雨と混ざり合い、地面に落ちた。

 

「───僕は旅に出る。アカツキワイナリーのことは、アデリンに頼んだ。父さんが死んだ真相を、あの力を与えた奴を捕まえる。」

 

ディルックは静かに、語るように告げた。

普段は太陽の様な明るさを持つ彼が、今はその影で心を覆い尽くしている。

だが、その瞳の奥は……凍てつくように燃えていた。

 

「え!?……な、なら!い、行くなら一緒に──」

「それは出来ない」

「───どうして!?」

 

キャロルが叫ぶと、ガイアは小さな声で告げる。

 

「……その方がいい。……この件にはファデュイが関わっている。キャロル、お前は巻き込まれるな。いいか?」

 

ファデュイの名前を聞き、キャロルの身体が強張る。

ディルックはそれを見抜き、優しく言った。

 

「うん。だから、キャロル……僕の事は忘れてくれ。……ガイア、すまない。本当は……お前だけが悪くないとは、知っていたんだ。だから、「頼んでもいいかな?」」

 

ディルックは自分の火の神の目をガイアに投げる。その「神の目」を受け取ったガイアは、少しだけ険しい顔をした。

それは神の目だけでなく、キャロルやモンド全体の事を、ガイアに頼んだからだ。

 

「──お前は残酷だな。償いをしろってか?」

「……うん。これは僕の我儘だ。すまない」

「全く……困った『義兄さん』だな……。」

 

ガイアは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。だが、それは決して心からの嫌悪ではなく─むしろ、好意的なものだった。

 

「勝手ですまないが……君にしか頼めないんだ。ガイア」

「……そう言われちゃ断れないな。お前の責任は取るよ。これは俺に与えられた罰だ」

 

ディルックは僅かに微笑む。

それは、無茶をした時にガイアにいつも厄介事を押し付けた時に見せる笑みに似ていた。

その顔を見ると、いつもガイアは断れない。

 

──まぁ、それも含めて計算の上なのだろう。

 

「うん……ありがとう」

 

そう言って、ディルックは歩き出した。

それを見届けた後、キャロルは堪らず叫ぶ。

 

「だめ!行かないでディルック!約束したでしょ!傍にいてくれるって!私との約束は!?ディルック!ディルック────!!」

 

「……」

 

だが、返事はない。ずっと沈黙が続いた。

その空気に耐えかねたのか、ガイアは目を伏せながら言った。

 

「……仕方がないんだ。今はこうするしかない」

「なんで!?もう何もいらないから!だから一緒に居てよ!私達まだ大人になりかけてる所なんだよ!?まだ楽しい事は沢山あるはずだよ!!それに、他にも方法が!!」

 

キャロルが泣きながら叫ぶ。だが、その悲痛な声は雨によって掻き消された。

 

「……─ごめん、キャロル」

 

ガイアがキャロルを止める、それを、ディルックは振り返って確認した。

最後だ、と言うように。

 

───ディルックは笑っていた。

 

悲しげに、それでいて、穏やかに。

キャロルはその笑顔が好きだったのに──今は、見るのが辛い。

 

「嫌!イヤ!やだ!!行かないで!!」

 

キャロルはディルックを追おうと走るが、それをガイアに止められる。

抵抗しようとしたが、彼の力は強かった。

 

「なんで!?どうして!?」

 

キャロルは悲痛に叫ぶ。

何故、こうなるのかが理解出来ない。

子供の頃から一緒で───これからもずっと一緒だと信じて疑わなかった。

苦しみも悲しみも、喜びも沢山、全部分け合っていける。

そんな関係だと思っていたのは、自分だけだったのだろうか?

 

「ぐすっ……うぅ……」

 

キャロルは、泣きじゃくる。

普段なら直ぐに駆けつけて、慰めてくれるはずの優しいディルックはもう、帰って来ないかもしれない。その事実を受け止められなくて、涙を零した。

泣いた時に、慌ててディルックが慰めようとしてくれて、ガイアが少し呆れた顔を見せて、二人が話しかけてくれて自分は泣き止む。

そんな当たり前の日々が、どんなに幸せな事なのかを思い知らされた。

 

──幸せは失ってから初めて幸せだと気がつく、昔、そんな言葉があった事を思い出す。

 

キャロルだって分かっている。

いつまでも、悲しみに暮れている訳にはいかない。

彼女もまた、未来を歩まねばならないのだ。

だが、今だけは、どうしても感情に抗う事ができなかった。

 

「……風邪引くぞ」

「……うん」

 

ガイアの呼びかけに、キャロルは涙を拭きつつ頷く。

だが、涙は一向に止まらない。

雨にずっと紛れながら、泣いていたいとも思った。

 

「うぅ……」

 

涙が枯れても、また流れてしまう。

もう泣かないと決めたのに─ そんなキャロルを見て、ガイアは困ったように頭をかいた。

 

「……俺を責めていい。だから、せめて泣き止んでくれ」

 

ガイアが珍しく優しい言葉を放つ。

それはキャロルを元気付けようとする、彼なりの気遣いでもあった。

だが、今のキャロルは彼の言葉も耳に入らない。ただ泣く事しか出来なかった。

 

「……ぐすっ」

「困ったな……」

 

ガイアは溜息をつく。

そして、突然キャロルの頬を両手で挟み込むと───自分の方を向かせた。

 

「泣くな!いいか?お前はもう大人だろう?アイツにはああ言ったが、もし、お前が許せないなら、ちゃんと立ち上がれる様になってから、追いかけろ!お前のとこのじいさん達が許すかは知らないが……それでも、立ち上がれない訳じゃないだろ?」

「うう……うわぁぁん!!」

 

キャロルは泣きながらも、ガイアの言葉に頷く。すると、仕方なさそうに、その手をキャロルの頭に置いた。

 

「ほら、泣き止め」

 

ガイアが乱暴に撫でる。だが、それが心地よかったのか、キャロルは段々と落ち着きを取り戻した。

 

「うん……」

 

その返事に満足すると、ガイアはキャロルの頭を撫でていた手を離した。

そして、キャロルの手を優しく握ると歩き出した。

 

「よし!なら行くぞ」

「……うん」

 

ガイアは手を繋いだまま歩き続ける。その後をゆっくりとついて行くようについていくキャロル。

 

「その、悪かったな」

 

ガイアは小さな声で呟くが、キャロルは首を横に振る。

 

「……いい。でも、これに懲りたら、少しくらいは本音は話してほしい。……皆、隠し事ばっかりだから」

「ん?そうだな。まぁ、善処はするさ」

 

ガイアはニヤリといつものように笑いながら言う。

 

 

──いつの間にか雨は上がっていた。

 

どんな話がみたいですか? 参考にいたします!

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