キャロルはモンドを抜け、スメールの方に向かった。
スメールは全体的に蒸し暑い。
ナタよりはマシだとは聞いたが、スメールの気候は独特で、キャロルの住むモンドとは大違いだった。
スメールには砂漠と森林地帯があるからだ。
「カナデ」の記憶ではその場所は前世にあった
だが、知識と現実は違う。
スメールはキャロルにとって全く新しい世界であり、広大だった。
「こんな広い所だなんて……聞いてないよ……!」
キャロルは樹林帯を歩きながら呟いた。
モンドとはまるで違う風景に、キャロルは戸惑っていた。
「うぅ……まあ、野宿にはならないから良いけど」
キャロルは心底、塵歌壺を貰って良かったと思った。
こんな土地で野宿などしようものなら、自殺行為だろう。
キャロルはそう思いながらも、スメールの探索を続けた。
「でも、ディルックはどう旅してるのかなぁ?多分、スネージナヤに向かってるよね?ファデュイの本拠地だし」
キャロルはとりあえず休憩の為に安全な場所で地図を広げながら、そう呟いた。
地図はテイワットの世界地図によく似ていた。
世界は大陸や島々で分かれており、幾つかの国がある。
卓上旅行……何処に何があるのか本や色んな人に聞いた知識を生かして、キャロルはよくシュミレーションをしたりしていた事もある。
だが、その後、その日は塵歌壺は使わず、たまたま立ち寄った村で手伝いをした所、泊めてもらえる事になった為、キャロルはその日借りた部屋で目を閉じた。
──草の様な、花のような不思議な香りがした。
※※※
目を開けると、そこは宮殿のような場所だった。
キャロルは起き上がって辺りをキョロキョロと見回す。
よく見れば、緑色が希望の建物のようだ。キャロルが首を傾げていると、後ろから声がした。
「……あら?不思議な事もあるのね……。まさか、人がここに来るだなんて」
キャロルは声のした方を振り向いた。
そこに立っていたのは小さな少女だった。
サイドテールをし、ワンピースの様な通気の良さそうな服を着ている。
少女は可愛らしく首を横に傾げていた。
「えっと、君は……?」
キャロルが尋ねると、少女は少し思案した後、ニッコリと微笑んだ。
「……あなたは花の中に迷い込んだ蝶の様ね。こんな隙間に入り込んで来た……いや、迷ったのかしら?」
キャロルは少女の言葉に首を傾げる。
だが、ナヒーダと名乗る少女は微笑んだままだった。
「えーと、ここは……?」
キャロルが尋ねると、ナヒーダは口を開く。
「そうね……スラサタンナ聖処よ。
「閉じ込められてるって……」
「言葉の通りよ。……あなたは精神だけこの場所に入り込んだのね。貴方のような迷い人は珍しいわ。……でも、何百年ぶりに
ナヒーダはそう言った後、キャロルに近付いた。
やはり小さい。だが、先程の言葉や雰囲気は幼いものではなく、まるで人間以上の年月を生きているかのようだった。
ナヒーダはキャロルに手を差し出してニコリと微笑んだ。
「初めまして、お嬢さん。
ナヒーダはどこか悲しげにそう言った。
キャロルはクラクサナリデビ、という単語が「草神」の名前だと思い出す。
……どうやらキャロルは「神」にも縁がある様だ。
ウェンティ、鍾離に続いて「七神」に会うのは三人目だ。
七神は現在二人が男性で、あとの五人は女性だ。
そして、草神はその中で最も若い。
と、言っても先程の彼女の発言の通り、何百年は生きているのだが。
ナヒーダは腕を組んで思案している。
キャロルはそんな彼女を見て、気になる事があり質問する事にした。
「あの……どうして貴方に会って残念がると思ったんですか?その、貴方は可愛らしい容姿をしているし、聡明に見え……る気がするし……」
キャロルはナヒーダにそう告げた。
すると、ナヒーダは目を僅かに見開いたが、すぐにクスクスと笑った。
「そんな事言われたの初めてかもしれないわ。……あなたは優しい子なのね。お嬢さん」
「……あ。キャロル、でいいです。それが名前なので」
「そうなのね。では、キャロル。あなたはとても不思議な子だわ」
ナヒーダは口元に手を当ててクスクスと笑った。
だが嫌味ではなく、愛らしさが感じられる。
ナヒーダはキャロルを見て、口を開く。
「ごめんなさいね。……そうね、あなたの言う通り……
「あ、いや!謝らなくても……。」
「……あなたはスメールの住人では無いわよね?良かったらお話を聞かせてくれないかしら?」
ナヒーダがそう言ったので、キャロルはモンドでの話や璃月を旅した時の話をした。
そして、旅立った恋人を探している事も。ナヒーダは興味津々といった様子で聞いていた。
「まあ、冒険小説の様ね!……とても興味深いわ」
キャロルが話し終えると、ナヒーダは目を輝かせる。どうやらスメールの神らしく「知識」が大好きな様だ。だが、ナヒーダはやがて憂いを帯びた表情を浮かべた。
「でもちゃんと何処にいるのかまでは分からないのね?……そうね、良かったら手伝いましょうか?代わりにあなたの知っている事を聞かせてくれるのなら、だけど」
ナヒーダの提案にキャロルは目を輝かせた。
だが、その提案について疑問が生まれた為、首を傾げる。
「あの……どうしてそこまでしてくれるんですか?」
キャロルがそう尋ねると、ナヒーダは微笑んだ。
「そうね、
ナヒーダはそう言ってキャロルに近付いて、そっとキャロルの手を取る。
それを見て、キャロルは、この神は「賢いが、聡明だからこそ寂しい人」なのだと理解した。
そして、同時にこの優しい少女と仲良くなりたい、そう感じた。
キャロルはそっと微笑むと、ナヒーダの手を握り返す。
「はい。─……ならあの、良かったら「友達」になりませんか?」
キャロルがそう言うと、ナヒーダは目をぱちぱちとさせた後、嬉しそうに微笑んだ。
「ええ、是非。……宜しくね?キャロル」
「はい!」
※※※
キャロルはナヒーダと話した後、気がつけば借りた部屋にいた。
どうやら夢から覚めたらしい。
キャロルはベッドから起き上がると、ナヒーダの顔を頭に思い浮かべる。
「また……会えるかな?」
キャロルはそう呟くと、日差しが差し込んでいる事に気が付く。
もう朝の様だ。
そして、思う──まるで月の様な少女だった。
太陽の様な明るさでは無いけれど、優しく静かに見守ってくれるような穏やかさ。
「ナヒーダ、か」
キャロルはそう呟くと身支度をしてそこを出る事にしたのだった。
※※※
しばらくして、キャロルは連日、ナヒーダとの夢を見た。
そこでは様々な話をしたり、あやとりなどを教えて貰ったりしていた。
だが、その度にキャロルは思う。
夢の中じゃなく、実際会って話がしたい、と。
そう思いながら旅をしていたが、ある日──キャロルの目の前に不思議な生物が現れた。
まん丸に葉っぱのような物が生えている生物だ。
「う……動いてる……」
キャロルが思わず後退ると、シュヴァルツが「ピ!」と鳴く。
それからその生物はキャロルに近付いて来たかと思うと、話し始めた。
「ナラはアランシャが見えてるの?不思議なナラだ!」
「しゃ……喋ったァア!?」
キャロルは驚き、思わず後退るが、シュヴァルツに「ピィ!」と鳴かれてしまったので、とりあえず話を聞く事にしたのだった。
どうやら彼らはスメールに住む種族で、草神の眷属である妖精らしい。
本来は子供の時にしか見えないが、何故かキャロルは見えるそうなのだ。
「どうしてかわからないけど、そうなの?」
キャロルが首を傾げていると、アランナラは頷いた。
「うん。アランシャ達アランナラは雨林地域に住んでる。大災害で元の故郷を失ってからは夢の世界に移り住んでる。」
「……でも、私今は起きてるけど……」
「「夢」は色々ある。そういうもの。」
アランシャはうんうん、と言いながら縦に何度か頷く。
よく分からないが、そう言われてしまうと説得力がある。
アランシャはそう言うと、ポテポテ、となりそうな短い足で動くと、辺りを見渡した。
その姿は子供が好むような愛らしさが感じられる。
「それに、ナラはあの方の「トモダチ」だって聞いた。」
アランシャはそう言った後、キャロルを興味深そうにキョロキョロと見た。
どうやらアランシャはナヒーダの事を言っている様だ。確かにナヒーダとは夢の中で友人として仲良くしている。
「……黒いナラはいいナラみたい。アランシャは黒いナラと「ナカヨク」なりたい」
アランシャは目を輝かせると、キャロルの周りをくるくると回る。
どうやらアランシャはキャロルを「黒いナラ」と呼んでいるようだ。
また、おそらく「ナラ」とは人間の事なのだろう。
アランシャはそういうと、キャロルを見上げる。
少し不気味さがあるが、ぬいぐるみのようでかわいらしい。
「だから、黒いナラついてきて。アランシャが「アンナイ」する!」
アランシャはそう言うと、ポテポテと歩き出す。
どうやらキャロルをどこかに連れて行きたいみたいだ。
見る限り無害そうな生物なので、キャロルは「まあいっか」と思いアランシャの後をついて行く事にした。
※※※
そうして歩いていると、草で出来たオブジェの様な物が置いてあった。
すると、アランシャはその前に立ち止まると「黒いナラは音出せる?」と尋ねてくる。
キャロルはライアーがあるので、神の目のような形態からライアーに変形させる。
すると、アランシャは目を輝かせながら「続けて弾いて!」とメロディーを歌いだす。
キャロルはアランシャに言われるまま、ライアーを弾いて音楽を奏でた。
すると、あたりの雰囲気が変わり、空の色も紫に変わっていく。
アランシャは一頻り演奏を聞き終わると、キャロルに近寄って来る。
「黒いナラ!すごい!次は、ここをくぐる!ついてきて!」
アランシャは目を輝かせたあと、オブジェの真ん中に入っていく。
キャロルは思わずシュヴァルツに苦笑を浮かべると、シュヴァルツは「ピィ」と同じような表情で鳴いた。
そして、キャロルはアランシャに言われた通り、オブジェの中に入って行く事にしたのだった。
※※※
中に入ると、そこは紫がかった空の世界だった。
だが、まだ目的地ではないらしく、ポテポテ、とアランシャが石碑のような場所の前で止まる。
石碑は丸い形をしており、その上に草のような物が生えていた。
「さっきの「大夢のメロディー」を引いて、黒いナラ!」
キャロルは頷いてライアーを取り出す。
すると、アランシャがそのメロディーを口ずさむので、同じように弾く。
今度は黙っていたシュヴァルツも「ピィ!ピィ!」と鳴きながらリズムを取り始めた。
すると、先ほどとは違う場所にいつの間にか移動していた。
そこではアランシャのような生物…アランナラがちらほらと見える。
どうやらここはアランナラ達の住む場所のようだ。
ドアがない木のようなものでできた住まいらしき小さな小屋がちらほらある。
まるでおとぎ話の主人公のようになった気分だ。
キャロルがキョロキョロと辺りを見渡していると、アランシャが口を開く。
「ここはアランシャが住んでいる「ヴァナラーナ」っていう場所!」
どうやらここはヴァナラーナと呼ばれるらしい。
キャロルが物珍しく辺りを見渡していると、アランシャが「こっち!ついて来て!」と案内してくれた。
様々な色形のアランナラとあいさつをして、話をしたりする。
どれもみな小さく、ぬいぐるみのようだ。
アランナラの案内に従って、キャロルが歩いていると「ここ!」と大きな木の前に着いた。
その木の根元には小さな小屋がある。
どうやらここが目的地らしい。
「アランシャはここで「スンデル」、黒いナラ、入って!」
アランシャに促され、キャロルは小屋に入る事にした。
小さな小屋なので頭を下げながら、アランシャに言われるまま椅子に座る。
これまた小さい。
「お邪魔します」と、キャロルが言うと、アランシャは嬉しそうに無表情でパタパタ手を動かす。
どうやら歓迎されているらしい。
キャロルはそっと微笑むと、アランシャを見た。
「で?私に何か用?」
キャロルが首を傾げると、アランシャは頷いて口を開いた。
※※※
キャロルはアランシャに様々な話を聞いたが、結局最終的にはナヒーダのいる場所に連れていきたいらしい。
だが、日が昇っている時間に行くのはよくない、とキャロルは理解していた。
だから、アランシャに「夜まで待っていて欲しい」と告げたのだ。
キャロルがそう告げると、アランシャは小さく頷いてから口を開いた。
「黒いナラが言うならそうする。……なら、待つ。」
アランシャはそう呟くと、口を閉ざした。
どうやら待ってくれるらしい。
キャロルは「ありがとう」とお礼を言うと、アランシャの頭を撫でた。
アランシャは嬉しそうに目を細めると、ぴょん、と椅子から飛び降りた。
それからアランシャは外に向かって走っていく。
どうやら自由気ままな性格らしい。
キャロルが思わず笑顔でそれを見送ると、アランシャは振り返って「待ってる!」と言って手を振った。
そのため、とりあえず他の場所を探索することした。
先ほど音楽を先ほどの場所で弾く事で元の場所に戻れるとわかったので、次はどこへ行こうか、と考える。
すると、シュヴァルツが「ピ!」と鳴くので、そちらに向かう事にする。
※※※
少し歩くとスメールシティにやって来た。
その地はスメールの首都部であり、様々な物や人が行き交っている。
そこは超巨大な大樹「聖樹」と一体化する形で作られた樹上都市だ。
上層には教令院が存在し、外周部には目抜き通りであるトレジャーストリート、大樹のうろにはグランドバザールなどが存在する。
先ほどからちらほらと制服を着ている教令院の学者らしき人物や商人達を見かける。
キャロルは見慣れない景色に目を輝かせながら、歩いていた。
「……色んな人がいるんだなぁ……」
「……ピィ!」
シュヴァルツも初めて見る風景に興味深々の様だ。
「せっかくだし、ちょっと見ていこうか?」
「ピィ!」
キャロルがシュヴァルツに聞くと、シュヴァルツは嬉しそうに首を縦に振る。
とりあえず一番上に上って教令院を外で眺めた後、少しずつ下の階層に下がっていく。
そして、下層部では食べ物の屋台や様々な商品が売られており、キャロルは目を輝かせる。
「色んなもの売ってるんだねぇ……これはお肉かな?なんかスパイシーっぽい匂いがする……」
キャロルはクンクン、と屋台の匂いを嗅ぐ。
すると、シュヴァルツが「ピィ!ピィ!」と鳴いて羽を動かす。どうやら食べたいらしい。
キャロルはクスクス笑うと、屋台の店主に声をかけた。
「すみません!これ一つ下さい!」
「あいよ!毎度あり!」
店主は元気よく返事をすると、串に刺さった肉を焼いてくれる。
キャロルはお金を払うと、それを受け取った後シュヴァルツに食べさせる。
「はい、どうぞ。熱いから気を付けるんだよ」
「ピィ!ピィ!」
シュヴァルツは嬉しそうに鳴くと、肉に齧り付く。
どうやら気に入ったようだ嬉しそうにガツガツ嘴を動かしている。
キャロルはシュヴァルツが食べる姿を見ながら、歩き始める事にした。
「ふふっ、美味しいみたいで良かった」
「ピィ!ピィ!」
シュヴァルツはコクコクと頷く。どうやらとても気に入ったらしい。
キャロルはクスクス笑っていると、ステージのような場所に出る。
そこは人が囲んでいて、そのステージには赤い髪のヴェールを被った踊り子の少女が踊っている様子が見えた。
どうやら踊り子のようだ。その踊り子の少女は赤い髪をなびかせながら、くるくると踊る。
周囲には観客達がいて、皆が歓声を上げたり手を叩いたりしている。
キャロルが感嘆のため息を漏らしていると、シュヴァルツが小さな首を一生懸命に動かして、ステージを見ていた。
「すごいねぇ。うーん。踊りとか劇とかもできた方が依頼の範囲広がるかな?」
キャロルがそう言いながら悩んでいると、シュヴァルツは「ピィ!」と鳴きながら嬉しそうに翼をパタパタさせた。どうやら賛成のようだ。
だが、だんだん疲れている様子になる。
どうやらモンドから離れて暫くたっているようだから消耗が激しいらしい。
キャロルはシュヴァルツを塵歌壺に戻すことにした。
「今日は一旦戻ろっか。ごめんね、無理させちゃって」
キャロルがそう言うとシュヴァルツは「ピィ!」と元気よく鳴いた後塵歌壺に帰って行った。
すると、踊りが終わったようだ。観客達から大きな拍手が巻き上がる。
その踊り子は笑顔で「ありがとう!」と言うと、舞台袖に下がっていった。
観客達はそれからぞろぞろと仕事に戻るのか、用事があるのかその場所から歩き始める。
キャロルは人混みから離れて、その様子を眺めていた。
どうやらあの踊り子はここでは人気なようだ。
観客達はまだ余韻が残っているのか興奮した様子で喋りながら歩いている。
キャロルはそれを眺めた後、またスメールシティを歩き始めた。
※※※
「次はどこに行こうかな……」
そう呟くと、ふと遠くにいる男性に目が止まった。
その男性は金色の髪で、見た目は派手だ。
彼は一人だけではなく、誰かと話している。
だが、話はうまく言っていないらしく若干怒り気味になっているようだ。
それを、隣にいたもう一人の男性(?)が諫めている。
キャロルは首を傾げた。
「……喧嘩かな?少し気になるけど……私が口を挟む事でもなさそうだし……」
キャロルはそう思いつつも、何となくそちらに向かっていく。
喧嘩している人達に「どうかしましたか?」と聞けるはずもなく、
だが無視するのも気が引けるので、とりあえずその男性達から少し離れた位置で様子を見ることにした。
すると、その男性達は喧嘩をし始めた。どうやら意見が食い違っているようだ。
しかし、しばらくして。怒った様子のまま二人は別れて歩いて行ってしまった。
残された方の男性は頭をガシガシとかいて大きなため息をついている。
「……なんか訳アリって感じだったな……大丈夫かな?」
キャロルが気になってそう呟いたが、キャロルは次にどこへ行こうかと考える。
それからしばらくして建物を何気なく見ていくが、目新しい物はあまり無い。
最終的にランバド酒場というレストランで食事をとることにした。
ゆっくり食べていると、先ほどの男性がレストランに入って来た。
どうやら一人で食事をしているようだ。
いきなり酒を頼もうとして、店主らしき男性に呆れられている。
どうやら常連の様で、店主も呆れながら注文を受けているようだ。
キャロルは暫くその男性を見ていたが、やがて視線を逸らして食事を続ける事にした。
「ご馳走様でした」
食事を終えると、キャロルは会計を済ませて店を出ようとする。
だが、その時──先ほどの男性がかなり飲んでしまったらしく、ふらついてグラスを床に落としてしまう。
──ガシャン!と大きな音が響く。
その音にキャロルは肩を跳ねさせると、よく見ればたまたま歩いていたキャロルの足に残っていた酒がズボンをビショビショに濡らしてしまった。
「あ」
キャロルはそう呟くと男性を見る。どうやらこちらに気付いたらしい。
男性はキャロルを見ると、少しバツの悪そうな表情をした。
「……あ……!ごめん!大丈夫か!?」
男性はバツが悪そうに頭をかくと、キャロルに駆け寄って来る。どうやら責任を感じているらしい。
どうやら見た目は高飛車に見えるが、律儀な性格のようだ。
キャロルは「大丈夫です」と答えると、自分のズボンを見る。
まあ、濡れているが、しばらくしたら乾くし問題ないだろう。
男性もそれに気付いたようで、申し訳なさそうに「本当にごめん……」と謝る。
どうやら悪い人ではないらしい。キャロルは「気にしないでください」と微笑みを返すと、男性に尋ねる。
「あの……大丈夫ですか?」
「……あー……いや、ちょっと飲みすぎたかもしれないな……はぁ…」
男性はそう言うと、ため息をつく。
「あの……私で良ければ話を聞きますか?一人みたいですし」
キャロルがそう告げると、男性は目を見開く。
よく見ればとてもきれいな容姿をしている。長い睫毛に整った目鼻立ち。
まるで俳優のように美しい男性だった。
「でも、初対面の相手にそんな……」
男性はそう呟くと、顎に手を当てて少し考え込んでいるようだ。
まあ、酔っぱらっているし、女性にお酒をかけたのが気が引けるのかもしれない。
「まあまあ。あ、お水どうぞ」
キャロルはテーブルの上に載っていた水の入ったコップを渡すと、男性はそれを受け取る。
「……ありがとう」
「どういたしまして。で、実は先ほどお兄さんが別の人と話しているのを見かけて。もしかしてお仕事とかそういう関係の悩みですか?さっきもここにきて直ぐお酒飲んでいましたよね?」
キャロルが首を傾げて尋ねると、男性は驚いた表情で目を見開く。
「……見てたのか……」
「はい。なんか気になったので」
キャロルがそう答えると、男性は少し考え込んだ後、頷いた。
どうやら話す気になってくれたらしい。
キャロルは男性の前に座る事にした。
「……実は僕は建築デザイナーなんだが……その……仕事先の人と喧嘩してしまって……」
「なるほど」
「……それで、ちょっとやけ酒してしまったんだ。……みっともないところを見せたね、ごめん」
「いえ。大丈夫です。」
キャロルが微笑むと、男性ははにかむように微笑んだ。
「そういえば名乗ってなかったね。僕はカーヴェだ。君は?」
「私はキャロルです。あ、冒険者で…モンドから来ました。最近旅をし始めたんです」
キャロルがそう言うと、カーヴェは「モンドから?」と驚いた表情で呟く。
確かにモンドは若干遠い。スメールからだと近いのはフォンテーヌや璃月辺りだろう。
カーヴェはキャロルが今一人しかいない事に気付き、疑問を口にする。
「モンドから一人で来たのかい?」
「はい」
「……女性の一人旅は危なくないか?もし良ければ僕が宿まで送っていくが……」
「ありがとうございます。でも、大丈夫です。泊まる所はそんなに遠くありませんし……。一人で旅できるくらいには実力つけてますから。」
キャロルは心配させないようにニッコリ笑いながら答える。
実際は塵歌壺だが、そんな事を言っても仕方ないと思ったからだ。
だが、ふと少し思いつく。彼は建築デザイナーと言っていた。
一応中にある家は元々あった家だ。内装などを整えるために手伝ってもらうのはアリかもしれない。
「……あの、少しご相談があるのですが……」
キャロルがそう切り出すと、カーヴェはキョトンとした表情になる。
「なんだい?」
「……実は私の家はもらったもの、みたいなものなんですけど、生活を快適にするために改築したほうがいいのかな、と悩んでいまして。よければデザインをお願いすることってできますか?あ!忙しいなら全然大丈夫ですので!」
キャロルが慌ててそう付け足すと、カーヴェは顎に手を当てて考え込む。
確かに旅をしていると言ったのに家のデザインなどと切り出したので変に思われるかもしれない。
だが、彼は少し考えた後、口を開いた。
「いや、少しくらいなら大丈夫だ。それにちょっと興味もある。……今の仕事はあと2-3日くらいで落ち着くから……よかったら名刺ならあるから、渡しておこう。4日くらい後にまたここにきてくれるかい?」
彼はそう言って自分の名刺をキャロルに手渡した。
「ありがとうございます」
キャロルはカーヴェの名刺を受け取ると、逆に心配になる。
大分酔っている様子だが、大丈夫だろうか?
「あの……それより大丈夫ですか?酔っているようですけど……」
「……うん……。まあ、大丈夫だろう、うん」
彼はそう言うと「じゃあ僕は行くよ」とだけ言うと支払いをして、そのまま店を出て行ってしまった。
「えぇ……?本当に大丈夫なのかな……?」
キャロルが心配そうに呟いていると、店主の男性が話しかけてきた。
「お前さんも面倒事に巻き込まれたなぁ」
「あはは……」
キャロルは苦笑すると支払いを済ませ、店を出る。
少し心配だが……きっと大丈夫だと思いたい。
カーヴェがひとまず無事でいてくれることを祈りながら、キャロルはスメールシティを後にしたのであった。
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