白星の君へ   作:F1さん

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運命の出会い

 

「黒いナラ!!こっち!」

「アランシャ速度早くない!?」

 

夜。キャロルはアランシャの手引きでナヒーダのいるスラサタンナ聖処に潜入したが、アランシャはポテポテした小さな足だが、思っていたより早かった。

 

目の前を走るアランシャを追いかける。

実は先程侵入時にマハマトラらしき人物に見つかってしまい、キャロル達は逃げていたのだ。

後ろから追いかけてくる足音が響く。

キャロルは慌てて走っているうちに、アランシャさえ見失った。

辺りを見回していると、不思議な場所に迷い込んでいる事に気が付く。

淡いピンク色の花のようなものが枝先に沢山生えている大きな樹。

幻想めいたその景色に見とれていると、突然目眩がしてきた。

キャロルは頭を抑え、意識を保とうとしたが───虚しくも意識は遠のいていった────。

 

※※※

 

「─……ここ、何処?」

 

キャロルは辺りを見回すと、真っ暗な空間が広がっている事に気が付く。

そして、なんとか思い出そうと自分の記憶を辿った。

 

「確か、私は……って、身体が透けてるし……なんかいつもの手と違う。……これは……」

 

キャロルの手はいつものものではなく、真っ白で豆一つない女性の手になっていた。

辺りを見回せば、まるで宇宙の様な場所だと「奏」の記憶はキャロルに告げる。

 

「とにかく、ここから出なきゃ……まずは出口を探さないと……」

 

キャロルは出口を探して歩いていたが、終わりの見えない景色に少しずつ疲れ始めていった。

 

──そんな時、キャロルの耳に戦闘音が聞こえた。

 

「誰か、戦ってる?」

 

しかし、キャロルは恐らく今は自分が「奏」の幽霊のような姿になっていて、しかも戦えないと分かっていた。

キャロルは見に行くべきかどうか迷っていたが、前方から人影が飛んできた。

 

「わっ!」

「ぎゃっ!?」

 

その人影は、キャロルの身体をすり抜け、地面に転がった。

──キャロルは気が付く。

少年だ。所々がボロボロの防寒具を着て、フードを目深に被っている。

 

「いたた……って、え、何!?透けてる!?幽霊!?」

 

少年はキャロルの姿を見て驚いた。

それはそうだろう。しかし、キャロルだって今何が起きているか分かっていない。

 

「君、大丈夫?」

 

キャロルはかがんで少年の姿を見る。

■■■ (中学生)くらいの年齢の少年だった。

彼は直ぐに立ち上がり、キャロルに向き直る。

 

「いや、大丈夫だけど……。お姉さんもあの空間から来たの?それともまさか、ここに元々住んでた?」

「え?いや、なんというか。気がついたらここにいて。ここに住んでたとか、そんなんじゃないよ」

 

キャロルが困惑しながら言うと、少年は「ふーん」と呟きながら頷いた。

 

「……とりあえず、ここは危ないよ?俺だって今は師匠がいるから何とかなってるけどお姉さんみたいに……いや、幽霊だから大丈夫か。でも、まあ、行くところがないなら着いてくる?」

「そう?えっと、じゃあ、お願いしようかな」

 

キャロルは少年について行く事にした。

正直もし何かに襲われて、さっきみたいに自分をすり抜けるとしても一人だと心細い。

少年の話の口振りから他にも誰かいる事が予測出来たから、着いていくことにしたのだ。

 

「俺は「アヤックス」。お姉さんは?」

「え?えっと……「キャロル」だよ」

 

キャロルはこの時、知らない。

 

──この少年「アヤックス」が将来的に自分にとってどういう存在となるかを。

 

そして、そこは「昔」の時間である事を。

 

この時はまだ、知るよしもなかった。

 

※※※

 

キャロルはアヤックスについていくと、一人の少女がいた。

 

「遅かったな。……その娘は?」

 

クールそうな印象の少女は腕を組みながらキャロルを見た。

見かけは少女ではあるが、その言葉遣いや立ち振る舞いから立派な大人の女性なのだとキャロルは思った。

 

「うーん……。拾った?」

「言い方が猫拾ったみたいだね!?」

 

キャロルが思わずアヤックスにツッこむと、少女は困惑したように眉を顰める。

 

「なんだ、それは……。とにかく、このまま放置も出来ないか。私はスカークだ。……お前の名前は?」

 

スカークと名乗った少女はキャロルに問いかけた。

キャロルは「キャロルです」と軽く名前を名乗る。

スカークは納得したように頷くと、二人を置いて歩き始める。

 

「あ、ちょっとまって!また勝手に師匠は!」

 

アヤックスは慌ててスカークを追いかけ、キャロルもそれに続く。

どうやらスカークは、行動的でクールな女性のようだ。

アヤックスはそれに振り回されている様に見える。しかし、仲が悪いという訳でもないように見えた。

 

スカークの向かった先は洞窟のような場所だ。

 

そこに入ると、スカークは松明に火をつけると、適当な場所に座り混む。

 

キャロルがスカークにここはどこか尋ねると、「深淵の国」と呼ばれていると返した。

 

ここには謎の生物がいたりするらしく、スカークは元々ここにいたが、アヤックスは空間の歪みに巻き込まれ、この場所にたどり着いたらしい。

 

最初はスカークはアヤックスを鍛える気は無かったらしいが、アヤックスがしつこくお願いした結果、面倒になって鍛える事にしたそうだ。

 

キャロルは何故ここに居たのか、と尋ねられ……まともに答えられない為、とりあえず逃げていたら光のような物に触れたらここに居た、と伝えた。

 

スカークは顎に手を当てながらキャロルを見て、何かを考え始めたようだ。

 

キャロルはまるで、ここは「死者の国」だと思った。

正確に言えば「奏」の記憶にある逸話にある異次元の国『影の国』の女王にして門番である女性と、スカークが似て思えたのだ。

恐らく、そんな場所ではないが、近いものを感じる。

そんな事を考えているとスカークが口を開く。

 

「お前は、スネージナヤの人間か?」

「スネージナヤ?いえ、私の故郷はモンドですけど……。なんでそんな事聞くんですか?」

 

キャロルが答えると、アヤックスが「俺がスネージナヤの出身だからじゃないかな」と言った。

まあ、同じ場所ならば戻す時に楽だろう。

だから、尋ねたではないかとキャロルは思った。

 

「ああ。……ならば、モンドから来たのか?」

「いえ、私は旅をしていて……スメールに元はいました」

 

キャロルが答えると、スカークはなるほどと言った様子で頷いた。

すると、アヤックスは目を輝かしてキャロルを見る。

 

「スメール!?親父から聞いた事があるよ!モンドもだ!……もしかして、お姉さんは冒険者なの?……いや、でも見る限りお姉さんは戦えなさそうだね……」

「……ちょっと。弱いって言いたいのかな、それは」

 

キャロルが目を細めてアヤックスを見ると、スカークが間に入る。

 

「おい、無駄に煽るな」

 

そしてキャロルを見た。

 

「──とにかく。コイツを戻すついでにお前も行け。スメールに戻る方法はそこに着いてから考えろ。……ここにいるよりコイツが居たスネージナヤの方が安全だろう。」

 

スカークはそう言うと、立ち上がる。

どうやら移動するつもりらしい。

 

「え?じゃあお姉さんも着いてくるの?仕方ないなぁ。俺も大分師匠に色々教わって強くなってるし、お姉さんの事くらいは守ってあげるよ!」

 

アヤックスは自信満々な態度でキャロルにそう言った。キャロルはそんな少年を見て、思わず笑ってしまう。

 

「……ふふっ……そっか。ならアヤックスくんをお姉さんは頼ろうかな?」

「うん。任せといてよ!お姉さんを無事に送り届けるから!」

 

アヤックスはキャロルに笑顔を返す。

人懐っこそうな雰囲気を彼は漂わせていた。

 

※※※

──それから暫く。

 

キャロルはアヤックスとスカークと一緒に過ごした。

幽霊の様な状態なのでできる事はないが、たまにアヤックスの話し相手になっていた。

 

スカークはアヤックスを鍛えるが、厳しいスパルタで、キャロルは内心おじいちゃんより厳しいのでは?とすら思った。

 

しかも寝れないし、今のキャロルは戦えないので基本暇である。

しかも朝や夜がない場所なので時間感覚が狂いそうだ。

 

それでも、キャロルはそんな日々にそれなりに楽しく感じていた。

 

──そんなある日の事。

 

鍛え終え、食事を済ませたアヤックスは眠りにつく。

その前に、よくキャロルはアヤックスと話をしていた。

元々子供が好きという事もあるが、何となく放っておけなかったのだ。

 

「アヤックスくんはやっぱり強くなりたいの?」

「うん。最初はぼんやりとしてたけど──俺は平凡な毎日から逃げようと思って家を出たんだ。……でも、今は強くなりたい」

「そっか……」

 

キャロルはいつかの自分を思い出した。

何も出来なく歯痒くて本をする事しか出来なかった日々を。

キャロルが過去に思いを馳せていると、ふと声が聞こえた気がした。

 

──キャロル。キャロル?聞こえ……─

 

「キャロル?どうかした?」

「……いや、なんでもないよ」

 

聞き間違いだろうとキャロルは思った。だが、それにしては「ナヒーダ」の声に似た幻聴だった。

 

キャロルがそう言えば、アヤックスは「ふーん?」と不思議そうに首を傾げた。

 

「……そうだ!キャロルは……って、あ。またやっちゃった。すり抜けるのは不便だなぁ」

 

アヤックスは度々キャロルに無意識に触れようとするが、すり抜けてしまう。

 

「うーん……ごめんね?」

 

キャロルが申し訳なさそうに謝ると、アヤックスは明るく笑って首を横に振った。

 

「全然いいよ。でも……キャロルって死んではいないんだよね?って事は「生霊」ってやつ?って事は今は身体はスメールにあるのかな?そしたらその時は会おうよ!俺はキャロルと生身で会いたいな。」

「……そうだね。私も会いたいな……。その時は、料理作ってあげるよ。」

「本当?やった!楽しみにしてるね!」

 

そんなやり取りをして、その日、アヤックスは眠りについた。

 

キャロルはそんなアヤックスを見守り、もしもの「未来」に想いを馳せるのだった。

 

※※※

それから、また数日が経った。

 

……数日経ったが、事態は進展していない。

 

ずっとこの空間では時間の経過も分からないから、どれくらいの日数たったかも分からない。

 

─……まあ、元の場所に戻った時が「最悪」って事もあり得るんだけど。

 

そんな事を考えつつキャロルは今日もアヤックスの寝顔を見ていた。

厳しいスカークの修行の結果、気絶する様に眠っている。寝ている時は、年相応の可愛い顔だ。

キャロルはそっと頬に触れようとしたが──やめた。

どうせすり抜けるのだから。

少し虚しさを感じていると、ぱちり、と目が覚めたアヤックスとキャロルは目が合った。

 

「……おはよう、キャロル」

「……おはよう、アヤックスくん」

「どうしたの?元気ないね」

「あー……うん、その、やる事がないから……ほら、私眠気とかも無くて。」

「あ、確かに。でも元気なのは良い事だよ!」

「そうだね……」

 

キャロルが曖昧に笑うと、アヤックスは少し怪訝そうな顔をした後、笑顔になった。

 

「そうだ!ねぇ、キャロル。この前の続きなんだけど─俺はここから出たら、もっと強いヤツと戦ってみたいんだ!それで……世界を征服するんだ!」

「世界を征服……」

 

また……大きく出たな。とキャロルは思ったが口には出さなかった。

子供の夢を壊すのは良くないと、思っているからだ。

それに彼なら本当に出来そうな気がする。

 

だから──キャロルは感心した様子で「夢がデカイね」と言った。

 

「だろ?俺は本気だよ!……ねぇ、キャロル。もしここから出られたらさ、その時は……」

 

アヤックスは言葉を一旦切ると、真っ直ぐにキャロルを見た。

その真剣な表情にドキリとするが、彼が何を言いたいのか分からない。

 

見届けて欲しい?応援して欲しい?それとも……。

 

「……?」

 

キャロルが首を傾げれば、アヤックスは顔を赤らめて目を逸らした。

そしてぼそりと何かを呟くと、また真っ直ぐに見てくる。

 

「あ!……えっと、うん!続きはキャロルが身体に戻ってから言う!」

「……へ?ああ、うん」

 

なんだかよく分からないが、どうやら続きがあるらしい。

キャロルはとりあえず頷きつつ……まさか「好き」とかじゃないよね?と少し不安になる。

まあ、キャロルは今それどころでは無いし、今の自分は普通の容姿だし、惚れられる要素が無いだろう。とキャロルは結論付けた。

しかし、続きを聞くのは少し怖いな……そう考えていると、アヤックスは口を開いた。

 

「……俺、よく親父と氷上釣りをするんだ。その時、いつも若い頃の冒険を聞かせてくれて……俺の名前も、物語の主人公から取ったって……」

「……そうなんだ」

 

キャロルの脳裏に、よく夢で見たりする光景が蘇る。

 

──痛むような寒さの中、一人雪の中を歩く。

──吐く息は白く、踏みしめる雪に足跡が残る。

──歩く足取り重いし、長く感じる。

 

──でも、何かを一人、探している。

 

そんな夢だ。忘れるな、と言うように、たまに見る。

何度も繰り返し、繰り返し。

その度に自分が場違いだと、昔は感じていた。

 

「………く。」

 

ポツリ、と今は何処にいるのか分からない、一方的に別れを告げた恋人を思い出し、小さく名前を呟く。

 

「キャロル?」

「……っ、あ、ごめん。」

 

心配そうな声に我に返ると、キャロルは首を振った。

今は目の前の事に集中しよう。そう自分に言い聞かせる。

それに年下の少年にこんな情けない所を見せる訳にはいかない。

そう──「大人は子どもを守らなければならない」。

キャロルはお酒が飲める成人だ。なら、彼を守らなければならない。

そう考えつつ、キャロルはアヤックスを見た。

 

「──もうちょっと寝ようか。体調崩したら大変だし。ほらほら、目を閉じて?戦士には休息も必要だからね!子守唄でも歌ってあげようか?」

「え!本当!?じゃあお願いしようかな!」

「よしきた」

 

キャロルはコホンと咳払いをした後、おばあちゃんに教わった歌を歌った。

 

「♪──」

 

それは、優しい歌声だった。

落ち着かせる様な、安心させる様な。

誰かが傍に居てくれるという安心感を感じさせる声だった。

特に何かが起こる訳でも無かったが、それでも眠気はやって来る。

 

「おやすみ……アヤックスくん」

 

その歌声を聞きながら、アヤックスはいつの間にか寝てしまったようだ。

キャロルは目を細めて──やっぱり手を伸ばしたけれど、その手はアヤックスをすり抜ける。

──その、白く柔らかそうな頬に触れる事は出来なかった。

 

そして、アヤックスが眠った後、キャロルはそれをスカークにこう切り出した。

 

「ねぇ、スカークさん……私、多分、ここから──……」

 

※※※

 

キャロルがスカークに相談すると彼女は「そうか」とだけ言った後、顎に手を当てて何やら考えているらしい。暫くして、スカークは口を開いた。

 

「分かった。その「ナヒーダ」とやらがお前が出れる用意をしたのなら、一緒に行った方がいい。……アイツには酷だが、ここに残り続けるのは危険だからな。」

 

スカークは寝ているアヤックスをちらり、と見てから、キャロルを見た。

確かに慕っているキャロルが居なくなれば、彼は悲しむだろう。

だが、それが最善だとスカークは判断したようだ。

 

「……やっぱり、そうですよね。」

 

キャロルは納得した様に頷くが、その表情は少し悲しげだった。

そんなキャロルの様子に、スカークは目を僅かに見開いた。

 

「……何故泣く」

「え?」

 

指摘されて初めて気づいたが、確かに涙が零れていたようだ。

 

「………う。あ、すみません。」

 

キャロルは涙を拭いつつ、顔を上げた。

 

「スカークさんやアヤックスくんと離れるのは寂しいなぁって……。短い間でしたけど、二人共とても良くしてくれましたから……。」

「……そうか」

 

スカークはそれだけ言うと少し考える素振りを見せた。そして静かに口を開くとこう言った。

 

「永遠の別れでもないだろう。また会えるかもしれない。」

「そう、ですかね。」

 

キャロルは涙を拭いながら答えるが、その声は弱々しい。

そんな様子を見てか、スカークは腕を組んで溜め息を吐いた後──こう言った。

 

「……また会った時には生身で会いたいものだな」

「え?」

 

スカークの言葉に、キャロルは目を丸くした後、小さく笑う。どうやらスカークはキャロルを慰めようとしてくれているようだ。

 

「……そうですね。また、会えますよね」

「ああ」

 

キャロルはスカークの不器用な優しさを感じつつ、笑顔を浮かべながら、言った。

 

「……ありがとうございます。私、頑張ります!」

「ああ」

 

キャロルの言葉にスカークは短く答えると、そのまま何処かへ行ってしまった。

それを見送ると、キャロルは眠りにつくアヤックスの元に向かった。

 

どんな話がみたいですか? 参考にいたします!

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