キャロルはそれからようやくスネージナヤにたどり着いた。
それから、恐らく表舞台にはいないだろうと、冒険者活動をしながら、ディルックを探した。
時には危険な場所に足を運び、時には魔獣等と戦い、時には交渉をしたりもした。
不慣れではあったが、変装をして、正体を隠しながらの活動もした。
しかし、この広大なテイワットで一人を探すのは至難の業であり、また一筋縄でいかない。
それでも、彼女は歩き続け、探し続けたのだ。
また、それに何人かのモンドの人間とはやり取りしているようなので、それも利用した。
そして、キャロルは段々考えるようになる。
もし、ディルックを見つけたら何を言えばいいか。
自分は、どうなりたいか。
たまに冒険者の人や、会った人々と会話をしたりして、その人達の考えを聞いたりして、自分の心と向き合った。
そして、ようやく分かってきた様な気がしてきた。
──キャロルにとってディルックは大切な人だ。
恋人になれた時、凄く嬉しかった。
でも、彼は、自分を連れて行ってくれなかった。
一緒にいると言ってくれたのに、連れて行ってくれなかった。
キャロルは、どんな場所でだって、どんな困難でも共に歩む覚悟だったのだ。
それなのに、置いて行かれてしまった。
──きっと、自分は彼の重荷になる。
彼の父のように自分が亡くなれば、彼は心に傷を負うだろう。
彼を悲しませてしまうかもしれない。
だとしたら、傍にはもういられない。
大切だからこそ、駄目なのだ。
祖父が亡くなったと手紙が来た時、キャロルは旅をして一年が立っていた。
たまにスメールや他の国に少しだけ行ったりして、やはり旅は楽しいと感じていた。
そして、偶然、キャロルはウェンティに出会う。
キャロルはウェンティに相談した。
──自分がどうなりたいか、分からない。旅を続けても答えが見つかっていない。
すると、ウェンティはこう答えた。
「恋は人を狂わせるよね。でも、さ。キャロルは旅が好きなんだよね?ディルックと傍にいる事になれば、もう旅は簡単にはできないよ。それは嫌なんだよね?」
「……うん。」
キャロルは頷くと、ウェンティは優しく笑った。
「だったら、もう答えは出ているようなものだよ。君は本当はどうしたいんだい?」
キャロルは考える様に目を細めた。
「私は──」
それから、少しの沈黙の後、彼女はウェンティを真っ直ぐ見て言った。
「私は、自由でいたい。その為には、きっと私は「人間」じゃいられない。そして、私のこのディルックへの感情は──「愛」だけれど、それよりも彼が幸せになれるなら……うん、でもそれは私だけが決めることじゃ、ないよね。私は、聞いてみる事にする。どれを選んでも、私は受け入れられると思うんだ」
「そっか。」
ウェンティはキャロルを見て、微笑んだ。
「じゃあ、僕はもう何も言わないよ。君の好きなようにしたら良い。」
「……うん。ありがとう、ウェンティ。」
キャロルは頷くと、ウェンティはキャロルに微笑む。
「気を付けてね。」
「うん。ウェンティもね。」
キャロルはウェンティと別れ、スネージナヤに向かっていった。
それから、キャロルは苦難の果てに、ようやくディルックを見つけ出した。
※※※
地下情報網に潜り込み、キャロルはそこでディルックを見つけた。
その時の彼は、明るい太陽の様な美青年と言うよりは、様々な暗い出来事を乗り越えた猛者のような風格を身にまとっていた。
他の人から話を聞くに、何度もファデュイの拠点を破壊し、『執行官』と戦い、何とか生き延びた彼は別のやり方を考えるようになったらしいとは聞いてはいたが、なんと声をかけていいか躊躇う。
『久しぶり?』『何をしていたの?』
そんな風に無難に返すべきか、怒りをぶつけるべきなのか。
昔より少しだけ背が高く、昔より精悍で。
姿形はほとんど変わっていないのに、大人っぽくなった彼を見て思わずキャロルは思ってしまった。
──変わらない方が良かったのに。
しかし、変化をしているのは彼だけではない。キャロルだって、子供の頃のままではないのだから。
そう自分に言い聞かせながら、キャロルは思いきって彼に声をかけた。
「ねえ──」
キャロルが声をかけると、彼はぴくりと反応し、その顔をキャロルに向ける。
すると、彼は目を見開いた。
ありえないものを見るかのように、燃える火のような男性にしては大きな瞳がキャロルの姿を映し出していた。
それだけは、キャロルの知っている変わらない彼の瞳だ。
彼はしばらく呆然とした後、ようやく口を開いた。
「君は……どうしてここに……」
「うん。やっぱり待ったりさ、決別をアレで済ませるのは違うと思って。──ね、「あなた」はどうしたいの?このまま真実を探る?それとも故郷に帰って、故郷を守る?」
「……っ」
彼が息を飲むのが分かった。
だが、キャロルは足を止めず、ディルックに歩み寄ると、首を傾げる。
「──あなたが望むなら、私も傍でずっといるよ。それがどんな場所だって、捨てたって構わない。でも──帰るのなら、私は君と決別を、今度こそ行う。」
「っ!」
彼はキャロルのその言葉に息を飲むと、しばらく沈黙し、それから口を開いた。
「僕は……君が大切だ。でも、同時に取り返しのつかない事をした自覚がある。」
「うん。」
キャロルは頷いた。
彼は、眉を下げてキャロルを見ると、
「僕は君を愛している。だが、僕のせいで君が酷い目に遭うのは……やはり耐えられない。」
「うん。じゃあさ。スッキリしたら、モンドを守ってよ。君になら、出来る。私は知っている。私、やっぱりさ、旅が好きなんだ。──あの日、君が私を尊重してくれたら、私は、待っても良かった。でも、君は私を、突き放した。」
「っ……」
彼はキャロルの辛辣な言葉に、目を伏せた。
だが、キャロルは、その言葉をオブラートに包む気は無い。
「だからさ。私はやっぱり、色々なものを見るよ。色んな場所を、色んな人を。そしてさ、私……夢が出来たんだ。」
「夢……?」
キャロルは、ニッコリと笑うと頷いた。
「うん!私はね──」
※※※
──忘れたくないって思った。
生物は生きていくために、記憶を忘れていく。
でも、私は普通とは違う。「奏」の記憶もある。それが合わさって「私」がいる。
もしその記憶すら無くしてしまったら、私はどうなるんだろう?
私という存在が消えてしまうんだろうか? それともただ、「キャロル」という別の人間になってしまうんだろうか。
でも、覚えてるためには、人ではなれない。
キャロルは、奏の下りは省いてそう説明していく。
「だから、私は「魔神」になりたい」
神の目を持つものは神になる資格を持っており、その者のことを「原神」と呼ぶ。
「原神」は特に強力な願望を持つテイワットの人々で、天空の島に昇り、神々になる可能性を持つ。
大体の存在は「原神」については知らない。だが、キャロルはウェンティに聞いた。
ナタにいる『炎神』の話も聞いたが、キャロルが目指すのはそれでは無い、と彼女は判断した。
天空の島に昇り、神になる可能性を持つ。という事は逸話として広がっている
だから、一部を抜かして、キャロルはディルックにそう語る。
無知は罪だが、知りすぎる事は時に身を滅ぼす。
実際スメールでも罪として以下の、似たような話がある。
──その一、人類の進化に関すること。
──その二、生と死についてに無暗に論ずること。
──その三、宇宙の外を探ること。
──その四、言語の起源を追求すること。
──その五、神を畏れながら奉らないこと。
──その六、神秘を傲慢に語り、恐れを持たないこと。
知識は人を狂わせる。時には知らないことが人を救う。
だから、キャロルは語らない。真実を言わない。
その話をディルックは静かに聞いてくれた。
「だから、私も過去のままいられない。私はこれから、キャロルじゃなく──『カナデ』って名乗るよ」
神になって、支配したり、安全で幸せな国を作るのではなく、暗闇に生きる人の生きる意味になれるのなら。
「彼女」は知っている。
その道は辛いものになると。
だが、考えて、散々考えて、決めるのは──自分だ。
でも、キャロルはやっぱり憧れるのだ。
忘却は怖い。自分が自分で無くなるのは、誰だって怖い。
でも、それでも自分を貫きたい。
後悔はするかもしれないが──それでも、彼女が言えるのはこれだけしかない。
「だから、もし少しでも悪いと思ってくれるなら、モンドを守ってほしい。モンドにいる、愛する人達を守って。そして──出来れば、もう皆に何も言わないでいなくならないで欲しい。」
「……。」
「誰になんと言われても──君は君の正義を信じるべき。私は信じてる、君を。」
キャロル──カナデはへにゃり、と笑った。
昔と変わらない、少しだけ困った様な笑顔だった。
それを、じっと見た後、彼はため息を吐く。
そして、頷いた。
「分かった。」
「じゃあ、約束ね。」
キャロルが指を差し出すと、彼は少しだけ躊躇ってから、そっとその指と絡めた。
「……ああ、約束しよう。」
※※※
それから、『カナデ』はちゃんと旅を始めた。
自分の為に、自由でいられるために。
──そして、今カナデは稲妻にいた。
稲妻には櫻が年中咲いており、突然雷が落ちてくる地域もある。
着物が基本的な服であり、食べ物の主食は米だ。
この国は雷電将軍という雷の女神が支配しており、配下に三つの代々継いだ家がある。
そして、その三つの家は三奉行と呼ばれ、それぞれが決められた役割を管理されている。
そして、神社があったり、妖怪がいたり、様々な文化があり、とても面白い。
初めてきた国だが、「奏」の前世いた国によく似ている文化があるので、不思議と「カナデ」も落ち着く気がした。
数日間、カナデはとりあえず細々とした依頼を引き受けていたが、とある秘境に入った時──1人の少年に出会った。
黒い短パンに黒い下駄、鈴と仮面が付いた笠の様な大きな帽子を被っている。
帽子の後ろ半透明の黒いベールがかかっており、「惡」という字が描かれており、和服を着ている少年はカナデを静かに眺めた。
まるで人形の様に整った顔をしており、赤いアイラインが引かれた、美しい少年だ。
「……ジロジロと見るな。不快だ」
「あ、ごめん。思わず……。君は?」
カナデが素直に謝ると、少年は面倒そうな顔をする。
「何故わざわざ名乗らないといけないんだ。」
「あ、それもそうだよね。先に名乗らないとダメだよね!私はカナデ。君は?」
「…………スカラマシュ。」
「スカラマシュね、うん!ありがとう!」
カナデがニコニコ笑うと、スカラマシュは息を吐いた。
恐らく最新は名乗るのはやめようとしたか、そうしたら尚更面倒になると判断し、名乗ったのだろう。
不服そうな表情を浮かべている。
何故かカナデはスカラマシュが気になった。それは異性的なものではなく、何となく放っておけない、そんな感じだ。
「スカラマシュはどうしてここに?その服装逆に目立つね!どこに住んでるの?職業は?あ!嫌いな食べ物ある?甘いもの好き?」
グイグイと質問しながらカナデが詰め寄ると、明らかに不愉快そうな表情を浮かべ、ベシっと額を叩く。
「痛っ!?」
「……黙れ。煩い」
スカラマシュはカナデを睨むと、そのまま横を通り過ぎていく。
「あ!待ってよ!」
カナデは追い掛けて、スカラマシュの腕を掴んだ。
すると、彼は思い切り振りほどこうとするが──ちゃんとカナデの顔を見ると、目を見開いた。
そして、口をとざすと、ゆっくりカナデの手を離す。
「…お前」
そして、カナデの腰にある刀──太刀を眺めると、思案した様に腕を組んだ後、口を開く。
「その刀はどうやって入手した?」
「へ?」
「お前の腰にあるそれだ。」
スカラマシュが指をさして言うので、カナデは訝しげな表情を少し浮かべたが、直ぐに「おじいちゃんの家に伝わるやつらしいけど」と、素直に答える。
すると、スカラマシュは瞳を細めた。
一瞬のそれは、何かを思い出している様に見える。
先程の態度とは違い、少し悔恨の様なものが漂っている様な気がした。
スカラマシュはそれから、じっとカナデの顔を覗き込む。
「…お前の祖父の家名は「緋炎」か?」
「え?あ、うん。そうだけど……」
カナデが頷くと、スカラマシュは何かを小さく呟いた。
そして、改めてカナデを見た後、顎に手を当てて口を開く。
「……気が変わった。少しくらいなら話をしてやってもいいよ。」
「本当?」
スカラマシュが頷くと、カナデはぱあっと表情を明るくして喜んだ。
カナデは知らない。
スカラマシュが何故、突然態度を軟化させたのか。
それは彼が「裏切られた」と思っている男の幼なじみがカナデの先祖だからだ。
懐柔して、気を許した時に裏切ってやろう。
だが、そんなスカラマシュの心中を何も知らないカナデは笑顔のまま話しかけてくる。
秘境を進むと時々現れるヒルチャールなどを倒したり、得意げに……まるでお姉さんぶる態度が少しばかりムカつきはしたが、スカラマシュは好きにさせた。
彼は少年の姿ではあるが、カナデよりは遥かに年上だからだ。
幼い少年の見た目に油断して、痛い目に遭うのはカナデの方だろう。
そして、そんなスカラマシュの考えとは裏腹に、秘境の奥地に進むと、大きなヒルチャールがいた。
「ヒルチャール王者」だ。その近くには数体のヒルチャールと、ヒルチャールシャーマンもいる。
「ここは倒さないと進めないみたいだね。倒したら宝箱が手に入るから、取り合えず倒す?」
「構わない。」
カナデは太刀を構えると、先に突っ込んでいく。
それをスカラマシュは仕方なく手加減をしながら、援護してやる。
そうして、いつもよりもカナデには早く、スカラマシュには遅く、目の前を立ち塞がる敵は倒された。
すると、倒した次の瞬間には宝箱が出現する。
カナデは分配どうする?と言いたげな視線をスカラマシュに向けたが、彼は首を横に振った。
「別にそんなもの要らないよ。」
「そっか。……分かった。じゃあ、これは私が貰うね!」
カナデはニッコリ笑ってそう言うと、スカラマシュはため息を吐いてから、先に歩いて行ってしまう。
「……勝手にしろ。」
「あ、待ってよ!一緒に行こう?」
カナデが慌てて鞄の中に中身をしまい、スカラマシュの横に並ぶと、彼は呆れた様子で言った。
「お前……僕を友達とでも思っているのか?だとしたら、かなり神経を疑うよ。」
「え!?そんな、友達じゃなく……うーん。そうだな!お姉ちゃん的な気分だよ!」
「……はぁ。」
スカラマシュがため息を吐くと、カナデは楽しそうに笑う。
「お姉ちゃんって呼んでもいいよ?あ、でもスカラマシュも私の事カナデって呼んでね。」
「はいはい。カナデ」
「えーお姉ちゃんがいいなーお姉ちゃん」
カナデはニコニコしながら言うと、スカラマシュは少し複雑そうな顔をしてから、それを隠す様に呆れた表情を作った。
「お前……変なやつだね」
「そうかなぁ。普通だよ、私」
カナデはそう答えると、ニコニコと笑ったままスカラマシュの隣で歩いていく。
呑気そうなカナデにスカラマシュは諦めた様にため息を吐くと、それ以上何も言わなかった。
※※※
秘境から出ると、スカラマシュが立ち止まる。
「じゃあ僕はここで失礼するよ。」
「あ、うん!今日はありがとう!」
カナデは手を振って見送ると、スカラマシュは立ち止まったまま動かない。
「スカラマシュ?どうかした?」
カナデが不思議そうに首を傾げると、スカラマシュは何かを考える様に顎に手を当てた。
──まだここで殺したりするのは早いか。
コイツの事は部下に探らせればまた探せる。
もっと時間を使う。
でなければ……この、モヤモヤとした何かが晴れない気がする。
能天気そうな女だ。まだチャンスはある。
「いや……何でもないよ。じゃあ、またね。」
スカラマシュはそう考えた為、それだけ告げると、そのまま歩いて行く。
「うん!またね!」
カナデが手を振って見送ると、スカラマシュは振り返りはしなかったが、ひらひらと手を振った。
カナデは微笑んでスカラマシュの背中を見送っていたが、彼の姿が見えなくなった後、少し寂しそうな表情を浮かべる。
「……行っちゃった。」
カナデは小さく呟く。だけれど、何故か。
いつか会えた時には、仲良くなれる様な気がしたのだ。
どんな話がみたいですか? 参考にいたします!
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