カナデはタルタリヤと食事を終えた後、何故か二人で歩いていた。
よくよく思えばタルタリヤの服装は普段のものでは無いし、気を使ってくれているようにも思える。
他国ならまだしも自身の組織の本拠地があるスネージナヤだからだろうか。
まあ──彼を知っている人がいてもわざわざ口を出すような命知らずの馬鹿は滅多にいないだろうが。
だが、それにしても……とカナデは思う。
今何故か連れてこられた店は明らかに高級な洋服店だ。飾られた既製品以外にもオーダーメイドもしているらしい。
そういう事に詳しくないカナデでも、入った瞬間に目に入る色鮮やかな服たちの生地は容易には手を出せない物だと分かる。
なのに、先程から彼は店員とも話をしながら、カナデに高そうな服を試着してはどうかと押し付けて来るのだ。
カナデは別に、服に興味がある訳でもない。
確かにたまに購入をしたり、貰ったりはするが自身を着飾る趣味はあまり無い。
この世界の女性は割と露出が高い人が多いが、カナデは一人旅をしている以上、機能性がある服の方が楽だと感じているからだ。
「あの……私は……別に服は買わなくていいかな……」
カナデが申し訳なさそうに言うと、彼は不思議そうな顔をする。
「え?どうしてだい?」
「いや……あまり必要ないというか……。基本的に必要な物は必要な時に購入してるから、いいかな……」
薄々…これ、自分に服を購入しようとしてないか?と察していたカナデは店員には申し訳ないがそう断った。
タルタリヤは昔にカナデと会った事があると言うが、カナデには覚えが無い。
そもそもそんな相手と何故服を選んでいるのかもカナデは不思議に思っていた。
すると、その困惑した様なカナデの表情を見た店員が口を開く。
「なら、お客様、ぜひご試着だけでもしてみてください!お客様は素敵なスタイルされている様ですし、きっとお似合いですよ!」
──と、彼女は目を輝かせながらカナデに詰め寄った。
そんな店員に気圧されたカナデは思わず隣にいるタルタリヤに助けて、と言いたげに視線を向ける。
しかし、彼はニコニコ、と微笑むだけで特に助け舟を出してくれる様子は無い。
仕方なくカナデは店員の押しに負けてそのまま試着室へと押し込まれてしまった。
「あ、あの……」
「こちらはどうでしょうか?今のパンツスタイルも素敵ですが、最近流行りの形のワンピースなんです!是非着てみて下さい!」
「あ、はい……」
カナデは戸惑いながらも、渡されたワンピースを眺める。
確かにワンピースにフリルやリボンをあしらったデザインは可愛らしいし、刺繍も細やかで高級感が漂っている。
とはいえ、自分には似合わないのでは……?と不安に感じていると、カーテンを閉められてしまい、仕方なくカナデは慣れない手つきでもたつきつつも着替えを始めた。
※※※
数分後、服に着替え終わったカナデは「あのー……」と言いながらゆっくりとカーテンを開けると、そこに立っていた店員の瞳は輝きに満ちていた。
「お客様!とってもお似合いです!」
そう言われるもカナデは落ち着かない。
汚してしまったら嫌だな、と考えてしまい、着ることに抵抗があるのだ。
「あの……あまりこういう服は……」
そうカナデが言うと、店員は残念そうに肩を落とすが──それを腕を組みながら見ていたタルタリヤは手を解き、片手に腰をあてながら口を開く。
「そうかな?似合ってるよ、カナデ」
「へっ?!」
まさかの発言をされたので動揺するカナデだったが、そんな二人をニコニコとしながら見ていた店員は目を輝かせながら続ける。
「えぇ!とてもよくお似合いです!他にどのような服が好きですか?色とか……トップスとか色々ありますが、ご希望はございますか?」
「い、いえ……特には……」
「じゃあ、俺の好みに合わせてもらおうかな。選んでもいい?」
カナデが困っていると、いつの間にか隣に来ていたタルタリヤはそう言いながら店員に微笑んでいた。
「えぇ、もちろんです!」
※※※
こうして結局、あれやこれやと試着をさせられたカナデは、疲れ果てていた。
服を選ぶ時にもこんなに悩んだ事は無い。
しかし、その隣で店員と話していた彼の表情は生き生きとしている様に見え、カナデも水を指すのも悪いかと思い、結局最後まで付き合ってしまったのだ。
そして、今のカナデの手には試着をし終えた後の服が数着あった。
流石にここまでされて購入しない訳には行かなく、カナデは店員に服を手渡し「これ購入で」と伝えた。
すると、店員は嬉しそうな顔をして「ありがとうございます!」と言って服を受け取り、店の奥へと引っ込んで行った。
ふう、とカナデが一息つくと、ちゃっかり隣にいたタルタリヤがニコリとしながら口を開く。
「お疲れ様、カナデ。でも今日は色々な服を着てくれて嬉しかったよ。また、一緒に来ようね」
「はは……。もうごめんだわ。……はぁ、思わぬ出費しちゃった。」
カナデは困ったように眉を下げながら、再度溜め息をつく。
するとタルタリヤは、くすりと笑いながら「大丈夫だよ。俺が払うから」と楽しそうに言った。
それを聞いたカナデは目を丸くし、慌てて首を横に振る。
「いやいや!そういう訳にはいかないから!自分で買うよ!」
「遠慮しないで?そもそも俺が言い出した事なんだから」
「だとしてもだよ!流石に悪いから!」
カナデはそう言いながら、財布を出そうとするがその手を優しく握られてしまう。
そして、彼は愛おしそうに目を細めながら微笑む。
「俺のわがままに付き合ってくれたお礼だよ。それに、君にプレゼントしたいんだ。ダメかな?」
「……っ」
口説くように言われてしまったカナデは言葉に詰まる。しかも整った顔を向けられながら、手を握られている為、恥ずかしくなってしまう。
「ほら。せっかくだし、記念に。ここで断る方が失礼になるよ」
「……わ、分かったから、手をね、離して……」
カナデが赤面しながら呟くと、「残念」と言いながらも素直に手を離す。
すると、先程の店員が服の入った紙袋を持ってきて「こちらがお品物になります。」と言ってカナデに手渡してくる。
カナデはそれを受け取り、中身を確認している間にタルタリヤは店員に服代を支払っていた。
「ありがとうございました!」という店員の言葉を背に、カナデ達は店を出る。
そして、改めてお礼を言おうとカナデは口を開いた。
「その……ありがとう、服……」
「ん?あぁ、俺がしたくてしたんだ。気にしないでくれ」
そう言って彼はニコリと笑うが、カナデは申し訳ない気持ちになる。
何かお返しを──と思ったが先程の試着をしていた為、化粧が崩れている気がした為、服が入った紙袋を預かって貰おうと辺りを見回し、トイレを確認した為、タルタリヤに話しかける。
「あの……えっと、タルタリヤ?悪いけど、今トイレ行くから預かって貰っていいかな?」
「あぁ、うん。大丈夫だよ」
そうカナデに言われて紙袋を手渡される。そして、カナデは女子トイレに入っていく──。
※※※
化粧を済ませ、カナデはついでに用をたすと、手を洗い始める。
鏡を見ながら、再度念の為に化粧が崩れていないか確認をし終えると、鞄からハンカチを出し、手を拭く。
そして、扉を開き、トイレを出ようとしたが、その時、トイレの個室の扉が開く。
しかし、大したことなく、気にもとめないカナデの後ろから出てきた女は、カナデに棒を振り上げ──……。
※※※
「……」
タルタリヤは暫く、トイレから少し離れた、先程カナデが行った場所の近くの壁に寄りかかっていた。
まるで忠犬の様に。
そろそろカナデも出てくるだろう。
そして、そのタイミングで手に持つ紙袋を彼女に返そうと思っていたが──それは止めた。
「ごめんなさい、待たせた?」
タルタリヤは、そのカナデに違和感を抱き、後ろに振り向く。
そこに居たのはカナデだ。
だが、先程までと僅かに雰囲気が違う。
それはまるで、別人かの様に……。
「カナデ──?いや…」
そう言いかけた瞬間だった。「カナデ」は笑顔を浮かべて、こちらに歩み寄りながら口を開く。
「ねえ、最近流行っているレストランがあってね、そのデザートが美味しいらしくて、行ってみたいの。一緒にどう?」
「レストラン?」
いきなり何の事だ?と彼が首を傾げるが、カナデは気にした様子はなく続ける。
「うん、そのレストランの近くに私のお気に入りのアクセサリーショップがあるの!ついでに見てもいい?」
「あっ、えっと……構わないけど……」
先程までと態度が違いすぎることに動揺しつつも返事をすると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
すると、彼女は自分の手を取り、引っ張るようにして歩き始める。
「じゃあ早速行こうか!楽しいデートにしようね!」
「えっ?!あ、あぁ……」
戸惑いながらも返事すると、彼女は更に明るい笑顔でこちらを見上げてくる。
その姿はカナデの筈なのに、まるで別人のようだった。
そして、そのまま2人が歩いていると、人混みの中、小さな少年が困っている様子が見えた。
少年は、泣いているのか頬が涙で濡れている。
そんな子供に周りの人々は気づかずに通り過ぎていく中、カナデはその少年を見て立ち止まった。
だが、直ぐに視線を逸らし、何事もなかったかのように歩き続ける。
タルタリヤはその様子を見ていて──何か考えたように目を細めると「カナデ」から手を離すと、少年の元に駆け寄った。
「どうしたんだい、君?」
慣れたように優しく笑みを浮かべながら少年の目線になるようにしゃがんだ彼は優しい口調で問いかける。
すると、泣いていた少年はしゃくりあげながら答えた。
「マ、ママが……いなくなっちゃったの……」
「迷子?」
「うん……」
その言葉を聞くと、彼はにっこりと微笑みながら子供の頭を撫でた。
「そっか……なら俺が探すのを手伝うよ。だから泣かないで?」
そう言うと、少年は不安そうにしながらも小さく頷く。
「よし!良い子だ。」
そう言って彼は立ち上がった。だが、それを見て「カナデ」は不満げな表情で口を開く。
「ちょっと!この子のお母さんを探すのは他の人に任せ──」
しかし、彼女が言い終わる前に彼は「カナデ」の言葉を遮るように口を開いた。
「……この子の親を探すのが先決だろう?」
一瞬、先程見せた優しい笑みが消え、刺すような視線で「カナデ」は睨まれる。
その迫力に気圧されたように彼女が何も言えずにいると、彼はそのまま少年の手を取って歩き出した。
「最後にお母さんを、見かけた場所は分かる?どこら辺かな?」
「えっと……あっち……」
少年は少し怯えたが、タルタリヤが笑顔を向けた事で安心したのか、空いている手でとある方向をゆび指す。
「あっち?分かった、じゃあ行こう」とだけ言うと2人は歩き始めた。
そんな様子をカナデはただ黙って見ているだけだった。
※※※
暫く歩いていると、ある店の前で必死に何かを探している女性がいた。
汗をかき、必死に誰かの名前を呼びながら歩いている。どうやらあの子供が探していた母親だろう。
「あっ!ママ!」と少年は嬉しそうに言うと、女性の元に駆け出す。
母親は涙を浮かべながら、少年を抱きしめる。「良かった……ごめんね、置いていって」と呟いていた。
その光景をタルタリヤは見て、微笑んでいた。
すると、女性はタルタリヤ達にお辞儀をすると、少年にもお辞儀をさせた。そして、何度もお礼の言葉を言いながら去っていく。
2人はその親子の姿が見えなくなるまで見送ると、再び歩き始めた。
しかし、タルタリヤは突然立ち止まり、何かを考えた素振りをした後に口を開く。
「カナデ、少し付き合って貰いたい場所があるんだけれど」
「……まぁいいけど……。どこに?」
「内緒」とだけ答えると、彼はまた歩き出したので、仕方なくカナデもついて行く事にした。
どんな話がみたいですか? 参考にいたします!
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