「おわっ!なんでこんな所にいるの!?!」
カナデは目の前にある調理鍋に火をかけているタルタリヤを見て、目を丸くした。
座りながら、大きな鍋をかき回しているその姿はやけに様になっており、手慣れているように見えた。
周りには木や草はあるが、ヒルチャールが居た跡を使っているのか、その周りには跡地がある。
「あれ?部下の人は?一人?」
カナデはそう聞きながら、きょろきょろとあたりを見回す。座った体制のタルタリヤはそんな盗賊イタチに似た仕草をするカナデを、微笑ましく思うが、口に出さない。
そうすれば直ぐに彼女は怒り出すからだ。
「ん?ああ、別の仕事を任せてる。」
「ふーん、そっか。」
カナデはそう聞きながらきょろきょろと再度あたりを見回した後、ゆっくりとした動作でタルタリヤの隣へ座った。
「何作ってるの?」
と、カナデは興味深そうに鍋の中を覗き込む。鍋の中はぐつぐつと煮えたぎっており、その中は様々な具材が入っていた。
「とりあえず手元にあった材料を煮込んでるだけだよ。」
「そうなんだ。でも、ちょっとやっぱりシュールだよね。ファデュイの執行官が料理作ってるのって。きみ、掃除とかもするし。器用だよね、ほんと。」
とカナデは感心したように、鍋をかき混ぜている手つきを眺める。
手袋をしていないその手は白く、細いが男性らしく骨ばっている。
「はは、褒め言葉として受け取っておくよ。」
と、そんなカナデの言葉を聞いたタルタリヤは、まんざらでもないように笑った。
「うん、褒めてるって。将来困らなそう。」
「そう?それは良かった。」
そう言って笑うカナデにつられてか、タルタリヤも小さく笑う。
それから少ししてから鍋の様子を見ていたカナデが思い出したかのように顔を上げ、口を開く。
「あ。そうだ。今日ここに来たのは刀を探してなんだけど…この辺りに、怪しい場所とかない?」
「ん?刀?なんでまた」
「なんか妖刀らしくて、危ないから回収してこいって言われたんだけど……」
すると、カナデの発言を聞き、タルタリヤの視線が自然と近くにあるまな板の横に置かれている刀へと向く。
「あー……。ごめん、それ使っちゃった」
「え。」
カナデはそう聞き、一瞬固まった後、ゆっくりとした動作で刀の方向を向く。そしてそのまま数秒静止した後、立ち上がると、刀へと近付いた。
「ま、まさか、これ……魚を切るのに使った?」
「ああ、うん。」
カナデが声を震わせながらそう聞けば、あっさりとした返事が返ってくる。
その返事を聞いたカナデは、わなわなと震え出しながら刀の刃の方に手袋を着けた手を置き、両手で持った。
「ナイフ無くしたからたまたま見つけたし使ったんだけど、使い心地良くてさ。」
カナデは刀に鼻をよせ、匂いを嗅ぐと、そんな呑気なことを言うタルタリヤの方を勢いよく向きながら口を開く。
「か、刀が……生臭い香りしてる。血じゃない匂い!これ絶対魚の匂いだよ!魚を切ったからでしょ!」
「うん、でも便利だったよ。長さは大きいけど軽くて使いやすいし。」「な、何やってんの!?!き、きみさぁ、武器ならなんでもいいわけ!?これは妖刀なんだよ!?」
「へぇ、そうなんだ。確かにちょっとだるさは感じたけど。」
「だるさを感じた!?その時点で使うのやめときなって!それに、君なら水元素で剣とか作り出せるでしょ」
「あー、まぁ確かに出来るけど。でも、戦うため以外に水元素使うのはちょっと違う気がするんだよね。」
「えー?もー……はぁ。…なんか思ってたより操られる感覚ないし。これ刀落ち込んでるんじゃない?まさか刀も人を切る以外に使われるって思って無かったんじゃないかなぁ。」
「あはは、刀に意思なんてないって。使われるために作られたんだから、それが本分だよ。」
「出た、謎の武器視点。」
カナデはジト目でそう言ってタルタリヤを睨むが、彼は笑いながら返してくる。
カナデはため息をつくと、仕方なくといった様子で刀を持ったまま座ると、空間から鞄を取り出し、布と水、それから砥石を取り出した。
「砥ぐの?」
「うん。」
カナデはそう答えながら、刀に布をかぶせ、ボトルの中に入れていた水を砥石に浸し、刀をその上に置き、ゆっくりと研いでいく。
「へぇ、上手いもんだね。」
と、感心したような口調でそう言うタルタリヤにカナデは、視線をそちらに向けず答える。
「こんなことやってるの、きみのせいなんだけど?反省をしろ、反省を!」
「あはは、ごめんごめん。」
だが、明らかに反省してない声色で返され、カナデはため息をつく。
タルタリヤはいつもこうだ。
カナデがどんなに怒っても、笑って受け流してしまう。
なので喧嘩にまでなる事は少ないが、それでもカナデはいつももやもやとした気持ちを抱えている。
(コイツ、私が見限ったらどうするんだろ)
カナデはそう思いながら、刀に布を被せたまま砥石から離し、水で洗い流す。
「はい終わり。」
と、カナデはそういいながら水気を布で拭い、刀の刃を上向きにし、柄の方を上にして鞘へと戻すと、それをそのまま腰のベルトに差した。
「でも、もうこの刀は抜かれる事はないかもね……。」
「ん?なんで?」
カナデの呟きに、刀を見ていたタルタリヤは顔を上げそう聞き返す。
するとカナデは、少し言いにくそうにしながら口を開く。
「だって、きみだから何とかなったけど、普通妖刀なんて抜いたら、その人が操られて精神力削られてかなり疲れるか、最悪死ぬからね。観賞用になるか、溶かされるかしかないよ」
「へぇ。」
「どっちの方が幸せなのか分からないけど、私がやったことは自己満足で無駄な事だったかもね。」
そう言ってカナデが目を伏せる。そんなカナデの姿を見たタルタリヤは、何かを考えるように顎に手を当てる。
「俺としては、君がやった事は無駄じゃないと思うよ。」
「え?」
カナデはそんな予想外な返答に目を見開き、驚きに満ちた声を上げる。だがそんなカナデの反応を気にも止めず、タルタリヤは言葉を続ける。
「『武器』は使われてこそ意味がある訳だしね。手入れをしなければ錆びるし、使わなければ宝の持ち腐れってやつだ。どう使われるかは選べない。ちゃんと戦いの道具にされ、ちゃんと使われてこそ武器の幸せってヤツだと思うよ」
「…そうかなぁ。……ま。いいか私が考えても仕方ないし。うん。そろそろ私は行くね。」
そう言うとカナデは立ち上がり、ゆっくりと猫のように伸びをした。
「もう行くのかい?」
「うん。……あ。ちょっと、いい?」
と、カナデは伸びをやめると、何かを思い出したのか、タルタリヤを向きながらそう口にする。
その事に不思議そうな表情を浮かべたタルタリヤを気にした様子もなく、カナデは言葉を続けた。
「きみは、この刀みたい。
危険なのに、人を引きつける。
触ってしまったら、もう離せない。
欠けても、汚れても何度でも砥がれて使い続けられる。
そして、最後にはきっと…」
カナデはそこで言葉を切る。だが、その続きを聞かなくてもタルタリヤには何となく分かる気がした。
「波乱に満ちていて、力に飲み込まれる。
そして最後はきっと──きみがいなくても、いい時代がくる。」
「それって、褒めてる?」
そう尋ねてくるタルタリヤの顔は笑顔だ。だがその目が笑っていないのを、カナデは見逃さない。
「褒めてはないよ。
でもさ、そしたらきっと、きみはひとりぼっちになる……。
だけど」
「だけど?」
カナデはそこで言葉を切る。そしてゆっくりと目を閉じ、また開くと真っ直ぐに目の前の双眼を見つめる。
「───私はきみを信じるね。ずっと。」
「ははっ、そっか。」
それを聞いたタルタリヤは満面の笑みを浮かべる。だがその瞳に先ほどまでの冷たさはない。
その事を確認したカナデは、その事に安堵すると、少し考え込んだ後、意を決したような顔をして口を開く。
「……ね、今辺りになにかの気配はないよね?」
「?うん、特に気配は感じないけど?」
その返事を聞いたカナデは何かを決心したかのように小さく頷くと、ゆっくりとタルタリヤの前へと歩いて行き、そして立ち止まった。
「カナデ?」
急に近づいてきたカナデに、タルタリヤが声をかけてきた。しかし、カナデはその問いには答えず、そのまま距離を詰める。
そしてそのまま、カナデは手を伸ばすと、彼の服の裾をそっと掴んだ。
「なに?どうかした?」
突然の行動に驚きながらも、どこか楽しそうに聞いてくるタルタリヤに、カナデは視線を彷徨わせながら答えた。
「え……っと。あの。良かったらさ」
「うん。」
何かを言おうとするカナデの言葉を聞き逃すまいと耳を傾ける。そんなタルタリヤに対して、カナデは意を決したように口を開くと、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「……ハグとか、してもいい?少しだけ」
「ん?」
意外な申し出に、思わずタルタリヤは聞き返してしまった。普段ならばそんなこと、カナデから言い出さないからだ。
だが、すぐに何かを察してからかうような笑みを浮かべると、口を開く。
「へぇ?ハグねぇ?」
「な、なに?文句ある?」
なら
そんな反応にカナデは恥ずかしそうに顔を赤らめながら視線を外す。
そして唇を尖らせながらそう言うと、服の裾を掴む手の力を強めた。
「いや?別に。ただ君からそんなお誘いが来るとは思ってなかったからさ。普段は俺がくっつくだけで文句言い出す癖に。離れて、って。あれ地味に傷付くんだよなぁ。」
「あれはタイミングが悪い!しかも何も言わずにきみは大体、私にその気がなくてもくっついてくるし!だから文句言うんだよ!」
「あはは、ごめんごめん。で?ハグだっけ?もちろんいいよ」
そう答えると、タルタリヤは少しかがんでカナデの腰に手を回す。
「わっ」
いきなり腰を抱かれたカナデは驚きの声を上げるが、タルタリヤは気にする様子もなくそのままカナデを抱きしめる。
「……なんか思ってたのと違う。」
「ん?何が?」
「いや、私から抱きしめる予定だったんだけど。」
カナデは不服そうな声でそう言って睨みつける。だがそんな視線を気にした様子もなく、タルタリヤは楽しげに笑いながらカナデの頬に触れた。
「まぁいいじゃないか。ほら、満足するまで存分にどうぞ?」
「なんか腹立つ言い方。」
カナデは『力入れてやろうか?』と、言いながら腕に力を込める。
「おっと、それは困るな」
だがその行動を予想していたのか、すぐにそう返事が返ってきたかと思うと、腰に回されていた腕の力が強くなる。
そしてそのまま抱きしめられてしまい身動きが取れなくなってしまった。
「うぐ。ちょっと、動けないんだけど。」
「ん?それは困ったね?」
カナデが苦し紛れにそう口にした言葉を、おどけたような口調でそう言いながらも力を緩めることはなく、むしろ先程より強く抱きしめてくる。
「わざと力入れてるよね?私は抱き枕か!」
「まぁ似たようなものだよね。」
カナデの怒りが僅かに籠った言葉に対し、タルタリヤは気にもとめず、しれっとそう言葉を返す。
「理不尽だ。私に対しては氷細工を扱うように繊細に、丁寧に接するべきだと思うんけど!?」
「あはは。それは無理かなぁ」
「は?なんで?」
カナデは怒りに任せ、バシバシとタルタリヤの背を軽く何度か叩く。
だが、それでも動じていないのか相変わらず余裕そうに笑っている。
「だって、本当なら本気を出せば抜け出せるのにそうしないカナデが可愛いから、それを堪能させてもらおうと思ってね。」
「なっ!……あ、悪趣味過ぎない?」
カナデは慌てたようにそう言った。確かにその気になれば抜け出せるのだが、敢えてしなかったのは事実だ。それを指摘されてカナデは言葉に詰まる。
「そうかな?」
カナデの反応を見て、不思議げにそう言うと、タルタリヤは抱き締めているカナデの耳元に口を近付けると囁く。
「でも別に誰にでもこうする訳じゃないよ。」
「っ!」
その言葉の意味を理解すると同時に、カナデの顔は瞬く間に赤く染まり上がる。
そして、こうされることに弱いと知っていてわざとやっているであろう目を細めるが、照れ隠しだとバレているようだ。
こういう事をしているから成人してるのに子供っぽいんだよ、とカナデは心の奥で思うが口にはしない。
「あはは、耳、真っ赤だよ?」
楽しそうに笑うその様子は、あの悪名高いファデュイの執行官『公子』であるとはとても思えない。
まるで、年相応な普通の青年のようだ。
無論、そんな態度を見せるのはカナデが密着状態でいることを許せる相手だからだろう。
そんな時、ふと、カナデはタルタリヤがこんな行動を取る理由に心当たりがある事に気が付いてしまう。
「ねぇ、もしかして」
「ん?」
カナデが何かに気付いたかのように問いかけ、タルタリヤは優しい声音で答える。
「………引き止めようとしてる?」
「……さぁ?それはどうだろうね。」
カナデの問いにはぐらかすようにタルタリヤはそう答えるが、その態度は肯定しているも同然だった。
「はぁ、全く。」
カナデは呆れたようにため息を吐きながらも、内心では嬉しく思っているのか、どこか柔らかい表情を浮かべる。
「仕方ないなぁ。そんなに逃げられたくないんだ。」
「うん。君が逃げると俺は寂しくて泣いちゃうかもね?」
「よく言うよ。きみの泣いたとこ見た事無いんだけど。痛くても笑うヤバい人のくせに。」
「はは。酷い言いようだなぁ。まぁ否定はしないけど。」
「肯定するんだ……。まぁいいや、ならしばらくいてあげる。他に誰か来るまで、ね。代わりにさ……実はさっき作ってた料理、美味しそうだからちょっと食べていい?気になってたんだよね」
「うん、いいよ」
そう答えると、タルタリヤは手を離し、そのまま手を引いて座らせる。
カナデは彼が手際よく料理をよそうのを見ながら微笑んだ。
──このままもう少しだけわがままを言ってみるのもいいかもしれない。
そうすれば、この時間が少しでも長く続くような気がしたから。
どんな話がみたいですか? 参考にいたします!
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