白星の君へ   作:F1さん

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璃月港

璃月はテイワットにある様々な国の中で最も古い歴史を持つ。

その地を収めているのはモラクス――璃月に住む人間達は敬意を込め、『岩王帝君』と呼んでいる。

彼の治める国の首都、璃月港は海辺にあり、毎日数多の商が行われている。

しかし、実質現在、そこを取り仕切るのは七星と呼ばれる人間達だ。

特に『凝光』と呼ばれる女性は姿を出さない七星の中でも異質で、堂々と姿を見せる。

彼女は基本的に空に浮かぶ宮殿『群玉閣』に住んでおり、それは彼女の栄光の証である。

凝光は知識に長けており、彼女に会い、稼ぎ方のアドバイスを貰うために大量のモラを支払う人間もいる程だ。

そんな凝光…正確にはその秘書の一人にカナデは呼び出されており、会いに来ていた。

 

「急に呼び出して悪いわね」

「ううん。大丈夫だよ」

 

凝光の部屋は広々としており、多くの巻物等で溢れていた。

一般人でも家具は明らかに高いものだと見て分かる。

その部屋の主である凝光は椅子に座り、同じく机を挟んで向かい合っているカナデに語りかける。

 

「もう既にあなたも知っているだろうけれど、最近モンドでの災害。その前後くらいかしら?最近璃月港にファデュイの執行官『淑女』と『公子』の姿が頻繁に目撃されているの」

 

「何でその二人…?まあ『富者』や『博士』とかだと逆に璃月港では警戒されて動きにくいのかな…?『淑女』はまだしも『公子』は戦闘系の執行官。そちらが陽動って事も考えられるね…」

 

カナデがふむふむと言いながら、手を口元に当てながら頷く。その様子を見て、凝光はニコリと笑う。

 

「そうね。その可能性も大いに考えられるわ」

 

凝光はカナデの言葉に同意するように頷く。

カナデは一部の執行官とは訳あって知り合っており、周りには話してはいないが、恋人である『公子』──タルタリヤなどから、ファデュイについての情報を得ている。

勿論自分から聞いた訳ではなく、基本的に知られている様な話をサラっと話す。

彼は基本的には強者であれば強さに興味はあるが、人間的な意味で他者に興味が無い。

しかし、その為か一度心を許している人間には甘く、妹や弟──恋人であるカナデには過保護なくらい構ってくるし、甘やかしてくる。

 

「──そしてモンドで活躍した『栄誉騎士』が璃月港に向かっていると言う情報が入っている。この情報に関してあなたはどう思うかしら?」

 

凝光の鋭い瞳がカナデへと向けられる。

それに対して、カナデは驚きもせず、慣れたようにふっと、息を吐いてから答えた。

 

「そうだね……。『旅人』である金髪のドレスの様なワンピース姿の少女。名前は──『蛍』だったかな?その子が何かを探して璃月に来ようとしている、って言うのは明確。モンドで彼女はモンドの危機を助けてくれた英雄。『栄誉騎士』と言う称号も貰ったと聞いた。うん。『凝光』の立場ならまずはその子を試すつもりだね?『璃月』に害を与える存在か──……もしくは『璃月』にとって有益な存在か」

 

カナデが冷静に返すと、凝光は満足したように微笑む。

 

「流石『導きの妖精』ね。えぇ、そうよ。そこであなたに探ってほしいの。私の部下や、他の人にも頼む事も考えたけれど、あなたは執行官に縁があるようだから、対処出来るでしょう?」

「まぁ、確かにそうだけど。……って、その呼び方苦手って前にも言ったでしょ?」

「あら、そうだったかしら?」

 

クスクスと凝光が笑う。カナデは渋い顔をしながらもため息を飲み込み、腕を組みながら「分かったよ」と返す。

 

「助かるわ」

 

そう言うと、凝光は椅子から立ち上がり、机の上に置かれた木札のようなものをカナデに手渡した。

 

「これを見せれば大抵の人は私の指示で動いていると理解してくれる。何か困った事があれば使うと良いわ」

「うん。ありがとう、凝光さん。ちゃんと期待にそえるように頑張るよ」

 

カナデはそれを受け取ると、ニコリと微笑む。

それは彼女がカナデが悪い事に権限を使わないと信頼していると言うのを物語っているからだ。

凝光の事は様々な話が出回ってはいるが、カナデは街の子供と遊んだりする優しいお姉さんの一面があると知っている。

確かに凝光は試すような事を度々するが、本質は善意的な人間だ。

だからこそ、彼女は璃月の人々から慕われているのだろう。

 

「じゃ、行くね。何かあったら連絡する」

「えぇ、またね。カナデ」

 

凝光に見送られ、カナデは部屋の外へと出たのだった。

凝光はその姿を見ながら、目を細める。

それは見定める様なものではなく、友人を心配する様な、優しい眼差しだ。

凝光もカナデを信頼している。

だからこそ、カナデが頼まれ事を引き受けてくれた時には感謝をするし、計略などが苦手なカナデをこっそりと手助けをする。

この信頼関係はとても良いもので、凝光も少し嬉しく思っている。凝光がそんな事を考えつつも、書類仕事に戻るのだった。

※※※

 

『群玉閣』から璃月港に降りたカナデは少し考える。

 

(アイツ…璃月港で何かするから来ない方がいいよ、みたいな手紙よこしたんじゃ。凝光さんも『公子』がいるって言ってたし……。)

 

カナデは違和感がすると、手紙をもらった日から考えていたのだ。

だからこそ記載されていた事を仕方なく無視し、璃月港まで来た。

そしてこの地についた時、情報収集をするなら尋ねるべきは『凝光』か…もしくは――。

 

「あ。あそこ行くか」

 

※※※

カナデは、目的地の方角へと歩き出す。

建物の端にあるそこの店の前の壁辺りには木札が置かれた掲示板のようなものがある。

それを見ると、カナデは『まるで神社だな』と思いつつも、店へと入る。

そこは……往来堂。

『胡桃』という少し不思議でマイペースな悪戯好きの詩人少女が堂主であり──。一言で言えば『葬式屋』だ。

だが、カナデの用事はその堂主ではない。

用事があるのは客卿である男だ。

カナデが店に入ると、その人を呼んで欲しいと入口にたまたま居た従業員にお願いする。

すると従業員の男性がわざわざ連れてきてくれた。

…今日は胡桃はいないようだ。

カナデは少し胡桃の掴み所がないノリは苦手だが、彼女の話を聞くのは好きだ。

カナデはそう考えていると、やって来た男はカナデを見ると、不思議そうな顔をする。

 

「ふむ。カナデか?久しぶりだな。何か用か?」

 

「ああ、うん『鍾離』」

 

鍾離は精悍な顔つきをした美丈夫だ。

茶色を基調とした衣類を纏い、物静かそうな人間に見える。

だが、その実は油断ならない性格をしているとカナデは理解していた。

何故かと言うと、カナデは彼の正体を知っているからだ。

――……カナデが鍾離を尋ねようとしたのかは簡単だ。

彼は摩耗や、様々な理由から『凡人』になろうとしているので、正体を隠しているが、彼こそこの璃月の象徴である『モラクス』。

璃月港の人間が言うのならば『岩王帝君』その人である。

しかし、彼は様々な事情から凡人である『往生堂』の客卿として生活している。

 

「実は聞きたい事があって……」

 

カナデは人気がない場所に彼を連れ、場所を移すと、凝光との話を簡易的に彼に伝えた。

 

最近おかしな事が起きていないか、と。

 

「ふむ……なるほど。確かに最近はファデュイの動きが活発だ。北国銀行が最近出来た影響もあるだろう。それに関してなら、俺の方でも調べている。その情報は共有しよう」

「ありがとう、助かるよ」

 

カナデはそれだけ伝えると、少し思案した様子で腕を組む鍾離に質問を投げかけた。

 

「それで『凡人』としての生活は出来ているの?また人外ムーヴ……世間知らずさを出してたりしないよね?君が何かして困るのは預り主になっている『胡桃』だよ。あの子もまだ未成年なんだから」

「む、そう言うな。これでも少しずつだが、生活に慣れようと努力しているのだ」

 

僅かにむっと不満そうな表情をする鍾離にカナデはまぁ仕方ないかと肩をすくめる。

彼はやはり少し天然さがある。

お茶目さもあり、その行動は時に突拍子がない。

 

「あ。あと、もしファデュイの執行官の『公子』が君を尋ねても、私の情報は漏らさないで。面倒な事になるから」

 

カナデは鍾離の目をまっすぐに見つめる。

それはいつもの気の抜けた様子ではなく、真剣さを帯びた瞳だ。

その瞳を見た鍾離は少し驚いたように目を見開いた後、静かに頷いた。

 

「承知した。お前は俺の『友人』だ。そのくらいならば容易い」

「ありがとう、鍾離。でもモラはちゃんと持ち歩いてね。前に…私が骨董品を値切りして、お金貸す事になったでしょ。それはいいけど、そのまま私置いて君は財布取りに戻るし。新手の詐欺かと思ったよ」

 

カナデが冗談混じりに言えば、鍾離はカナデの態度に釣られ、微笑んだ後、こう言う。

 

「あれはあれで楽しかったと思うがな」

「私は楽しくなかったよ!?」

 

カナデはその言葉に途端に眉を寄せ、きっぱりと言い切った後──念押しのようにこう伝える。

 

「本当に頼むよ?いい?鍾離。『モラ』には限りがあるの。生物の命と同じようにね。君が『凡人』として生きるなら溶け込まないといけない。だからこその忠告だよ」

 

カナデは真剣な眼差しで鍾離にそう言った。

そんな彼女の言葉を鍾離は正面から受け止め、言葉を返す。

 

「承知した」

 

「…はぁ。君はウェンティとは別方面で厄介な人だよ。とにかく、よろしく。じゃあね!」

 

それだけ言うと、カナデはもうこれ以上追及しても無駄だと判断し、手を振りながらその場を後にした。

※※※

 

カナデはそれから、一応タルタリヤに見つからないように変装する事にした。

髪は束ね、その上に金髪のショートカットのウィッグを被り、眼鏡を装着する。

それから服装もいつもとは違い、白を基調とした服を着た。

動きやすいが、一応胸も専用のサポーターのようなもので抑えているので、『少年』にしか見えない。

 

「どこかで『白は逆に溶け込む為に悪い奴が着る』なんて話も聞いた事あったなぁ」

 

ポツリと呟きながら姿見を見るが、パッと見て『カナデ』だとは分からないだろう。

これなら問題なく情報収集等が出来る。

割とカナデはそうやって変装をしたりして様々な潜入をしたりする事もある。

意外とこれがたまにやる劇の演技の依頼に役立つ事がある。

――劇は『別の人生を演じる』ものだ。

だから、その役柄の人物になり切る必要がある。

それを完璧なレベルでやり遂げれば劇は盛り上がるし、客も満足する。

これはカナデの少ない特技のひとつと言えるかもしれない。

 

「よし、行くか。これでバレないでしょ」

 

ポンポンと確認する様に自分の体を叩き、カナデは楽しそうに璃月港を歩いていく。

その表情は、子供っぽい無邪気さがあった。

どんな話がみたいですか? 参考にいたします!

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