白星の君へ   作:F1さん

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望舒旅館

「もう仙境を通過したのか!?」

 

白いと緑の鶴のような姿の『留雲借風真君』は驚いた様子で言った。

 

それは確かに自慢の仕掛けを容易く突破されたのだ。

だが、彼女は悔しがる様子は無く寧ろカナデを賞賛する。

 

「ふむ。中々やるではないか。妾の『仕掛けの術』は、たとえ『帰終』や『岩王帝君』であろうとも称賛するものだぞ?」

 

『留雲借風真君』はそこまで言うと「こほん」と咳をした。

 

「これまでに突破してきた者は…――ん?」

「あ、ごめん、蛍。パイモン。ちょっとこの方と話があるから、さっきのご飯でも食べて待っていてくれる?」

 

『留雲借風真君』が言葉を続けようとした瞬間、カナデが申し訳なさそうな様子で、蛍とパイモンにそう言った。

蛍は一瞬きょとんとしたが、「わかった」と言ってパイモンと共に聞こえない距離に移動をした。

それを見送りながら『留雲借風真君』はカナデに尋ねる。

 

「……身に覚えが……」

「……お久しぶりです『留雲借風真君』。すいません、今はこの姿ですが『カナデ』です。少し事情がありまして。今はそちらの子達と共に行動しております」

「なんと!……なるほど。それで、どうしてお前が人間達を連れてきたのだ?何か理由があるのだろう?」

 

『留雲借風真君』の言葉にカナデは苦笑いを浮かべた。

カナデは礼儀がある。理由なく、知らない人間を連れてくるはずは無い。

それを不思議に思い、尋ねたのだ。

カナデは『留雲借風真君』に璃月港の『七星迎仙儀式』にて『岩王帝君』が暗殺された、と言う事を話す。

 

そして『蛍達にその容疑がかかっている。だが、自分が観察している限りそんな様子はなく、話を聞くと彼女は兄を探して旅をしているだけだ』と説明した。

 

そして『削月築陽真君』には先程会ってきており、次に『 理水畳山真君』と『魈』に会いに行くつもりだと。

 

「ふむ。成程な。話は分かった」

 

『留雲借風真君』は感心した様子で言うと、蛍達の方へと視線を向けた。

 

だが、『暗殺した誰か』には怒りを感じているようで、その表情は険しくなっている。

 

それを見て、直ぐ様カナデは追加で『これは完全な推測に過ぎませんが……あの方が単独で何かをされようとしていた可能性があります。私は最近人里に紛れたあの方に会っていましたが、やはり周囲に秘密で何か企むような素振りはありました』と伝えた。

 

すると『留雲借風真君』は納得した様子を見せたのですかさず『なので、暴走する様な真似を見せないで下さい。それに本当に暗殺されたとして、その者が直ぐに動く様には思えません。『岩王帝君』の事は私が探ります。どうか私を信じて貰えませんでしょうか』と続ける。

 

『留雲借風真君』は少し考えてから、口を開いた。

 

「ふむ。そうだな……確かにお前の言う事にも一理ある。少しだけ待とう。それに璃月港にはあやつもおるしな…」

「はい。甘雨だけでなく、ピン婆や…『歌塵浪市真君』もいらっしゃいますので。他にも仙人の血を継いだ子達や彼女の弟子もいますし…」

「……うむ。そうだな。お前がそう言うのならば、信じておこう」

 

『留雲借風真君』が納得した様子を見て、カナデは安堵したように胸を撫で下ろす。

 

留雲借風真君は少し激情的で、過激な発言をする事がある。

 

『『岩王帝君』亡き今、人々を守るため鎮圧して災難が蔓延するのを止めるべきだ。』と言われてしまったら困るのだ。

 

「それにあの子達は捧げる為の料理を作ったのです。どうか『契約』を果たしてくれませんか?」

 

そうカナデが言うと、『留雲借風真君』はふっと表情を緩めた。母親の様な眼差しでカナデを見つめる。

 

「全く。仕方の無いやつだなお前は……。お前は妾の仕掛けに対し、理解も深い。前に教えたやり方を覚えていたのだろう?…本来は『契約』など、契約の神が暗殺された今、その言葉は皮肉でしかない。…だが、お前達が「契約」の名のもとで妾に協力を求めるのなら、妾も「契約」を無視することはできぬ。」

 

カナデが目を僅かに輝かすが、『留雲借風真君』は少し不思議そうにこう続けた。

 

「…だがその『禁忌滅却の札』は何処で手に入れたのだ?あれは本来『岩王帝君』によって作られ、仙人の力が注ぎ込まれる物。昔は人間によって使われ、仙力を発揮することができたが、その力のほとんどは失われている。しかし、仙人はそれを持っていれば無闇に手を出さないようにするだろう。」

 

『留雲借風真君』が訝しげに呟くと、カナデは腕を組み、思案した後『ファデュイに渡されたそうです、仙人に安全に近づけるお守りのようなものだと言われ』と説明し始めた。

 

「ファデュイ?ふむ…お前が『帝君』に渡されたものなら納得がいくが、普通の人間が持っているとは……」

「確かにそうですよね。私も思います」

 

カナデは苦笑しながらそう言うと、さらに続ける。

 

「私の幼なじみはファデュイが作ったとある物の『模造品』を作られ、今もそれを探して『模造品』を購入し続けています。……そこで私が変装している理由があるんです。この一件『ファデュイ』が関わってる可能性が高いかと。」

「成程。お主のその姿にはそのような理由があったのか。」

 

留雲借風真君は納得した様子で頷くと、それ以上何かを言う事は無かったが、逆に『ふむ』と何やら考え込む様子を見せた。

 

「ズバリ、『模造品』の可能性があります。このまま調査を進めますので、何か掴め次第、仙人の方々には報告致します」

「ああ、そうしてくれ」

 

『留雲借風真君』は頷くと、カナデも静かに頷く。

 

「───でも、久しぶりに会えた事は嬉しかったです。あなたは尊敬する方なので」

「!ふん……その割にあまり来ないではないか。もう少し頻度を増やしても妾は気にしないからな」

 

カナデが話の後に、笑顔を浮かべながら言うと、『留雲借風真君』は素っ気なく返す。

しかし、その声音は優しかった。

 

カナデは様々な仙人を知っているが、特に彼女に対しては『面倒見がよく、心が広い』事を知っている。だからこそ、彼女を訪ねていた。そして今日会えた事も嬉しいのだ。

それは本心だ。

だが、そのまま話続ける訳には行かないので、カナデはま『留雲借風真君』にまた会う約束をした後、蛍達の元に戻り『事情は説明した』と伝えた。

 

「おお、長かったな!どうだったんだ?話は済んだか?」

「うん。とりあえず何かあったら報告してくれるなら荒事はしないって約束してくれたよ。あとは『理水畳山真君』に会い行き、『望舒旅館』の仙人に話そうか」

「うん」

 

蛍が答えると、『留雲借風真君』は何も言わないのを確認してカナデは一呼吸入れ、お辞儀をしてから蛍達とその場を去る事にした。

 

※※※

 

それから『理水畳山真君』がいる琥牢山に行く。

 

すると、李丁と言う青年と出会った。

酷く慌てていたので話を聞くと、『貧困に苦しんで、琥牢山の琥珀に宝があるって話を聞いて琥珀から掘り出した宝を売って、家計の足しにしようとしていた…のだが『琥珀に喰われた』と騒いでいた。

 

そしてカナデ達を『仙人の使い』だと信じて助けて欲しいと言われ、探し出して助けてやった。

 

その後、『理水畳山真君』に会いにいくが、最初は『勝手に琥牢山に入り』『盗もうとした罪人を逃がした』と怒っていたが、『禁忌滅却の札』を見て落ち着いた彼に、事情を説明した。

 

『理水畳山真君』に璃月港の『七星迎仙儀式』にて『岩王帝君』が暗殺された、と言えば酷く狼狽していた。

 

「帝君が…暗殺された、だと?しかも、「迎仙儀式」の最中に!?璃月の…いや、この世界の誰がそのようなことを!待て…帝君を暗殺できる者など、この世にそういるだろうか?我らは帝君の律令に従い、璃月を守っている。人間界の繁栄により、我々は山野に住むようになった。これは人間を思ってのことであったのに……だが今…帝君は…帝君は…ああ…。旅人達よ、話は分かった。削月築陽真君が招へいした理由も分かった。この山の雑事を処理したら、ほかの仙人たちに会いに行こう。」

 

『理水畳山真君』はそれでも大きなショックを受けており、震えながらもそう答える。

 

そして、ちなみに蛍が『琥珀』について聞いてみた。

 

「ああ。これらは私が植えた花だ。名を「踱山葵」という。この花の大部分は地中に埋まっている、これを踏むと琥珀が産み出され、侵入者を閉じ込める仕組みになっている。ここに隠居して以来、山の静寂を求めるためにこの花を至るところに植えた。おかげでここ数年で侵入者を数多く排除してくれている。だが、たまに珍妙なものも閉じ込めることがあるのだ」

 

と、答えてくれた。

※※※

 

それから少し会話して別れた後、カナデ達は琥牢山を出て望舒旅館へとやって来た。

 

『望舒旅館』は木のエレベーターもあり、高い建物だ。

 

遠くから見ても直ぐに場所を把握することが出来る。

 

パイモンは『お~……高いな!あんな所に皆泊まるんだな!』と感心していた。

 

それを聞きながら階段から上にあがっていき、テラスに出る。

 

人が多い場所にわざわざ仙人が出るとは思えないのと、カナデが其方に向かおうと提案したからだ。

 

いち早くテラスに着いたパイモンが手を目の上に当てながらキョロキョロと辺りを見回すが、人などの姿はない。

 

「うーん、見えないぞ。本当にいるのか?」

 

すると、後ろの屋根がある方向からからトン、と軽やかな着地音がしたかと思えば1人の少年がいた。

 

ブルーグリーンのダークミディアムヘアで、耳の前で後ろに流しているが、長めの髪が2本あり、顔を縁取っている。

 

色白の肌に鳥の瞳のような金色の虹彩で、赤いアイシャドウをつけている美少年だ。

 

額に紫色の菱形のマークがあり、右腕に緑色の刺青があるのと、露出した右肩の肌にある刺青のような文様が特徴的だった。

 

「目に見えるものが、必ず真実とは限らないぞ」

 

すると、何かの気配に気が付いたのか少年はぴくり、と眉を寄せた。

 

「『禁忌滅却の札』?そうか、準備を整えてはきたんだな… だが、それは我がお前たちを傷つけないためのものであって、お前たちが傷つかないという意味ではない。」

「え?あの、オイラよく分からな…」

「 仙と魔の世界に近づき過ぎれば、世の理を踏み外すことになる。人の子の魂は仙人ほど強くはない。血も仙人の気運に耐えられないだろう。 ここを去れ、お前たちのために言っているんだ」

 

一方的にそう告げると、少年はさっさとまた上に上がって消えようとした為、カナデはため息をつく。

 

「『削月築陽真君』」

 

それからその名だけを口にすると、少年は自然と足を止めた。

 

「…その名は」

 

「『削月築陽真君』から『降魔大聖』…つまりキミ、魈に会うように言われたんだよ」

 

すると、カナデは神の目の様な物をライアーに変形させる。独特な文様のその楽器は彼女がカナデである証拠だ。

たまに分け合ってカナデは侵入などで変装してるのでそういう時は大体はそれを見せてる。

少年──魈も納得したようで警戒を解いたようだ。

 

「それに『ボク』の魂は他の人より丈夫らしい。『キミ』は『ボク』の事を知っているよね、『魈』」

「お前は……。なるほど、分かった話をしよう。だが、話をするのはお前とだけだ。」

 

そう言うと少年は再びテラスの屋根の上に瞬間移動する。

カナデはやれやれと肩を竦めると、蛍達に視線を向けた。

 

「彼はキミ達の旅路には必要かもしれない。でもその為には認められる必要がある。…残念だけれど、仙人は基本的に真面目で上から自然と『ボク』達を見るんだ。庇護すべき『弱いモノ』としてね。そうだな…彼の好物を作れば少しは話を聞いてくれるかもしれないけど……あっ!魈あんなところにまで!ごめん、後で合流しよう!」

 

すると、カナデはトンっと地を蹴り魈を追うように屋根に上る。パイモンは「あ、おい!」と焦っているが、蛍は「仕方ないね」とため息をつきながら、つぶやいた。

蛍とパイモンが反応する前に、屋根の上には既にカナデは軽やかな足取りで屋根を移動し始めていた。

 

残された2人は顔を見合わせると、パイモンが仕方なくどうするか聞いた。

 

「どうする?追いかけるか?」

 

そう尋ねると、蛍は少し考えた様子を見せたが、首を横に振る。

 

「とりあえず『ラン』に任せよう。私達は私達なりに出来ることをしよう」

「そうだな!」

 

蛍の言葉に頷き、パイモンは言うとそのままその場から移動する事にした。

 

※※※

 

「此処でいいの?」

 

魈が水辺辺りで止まると、カナデは彼に尋ねると、彼は頷く。

 

「ああ、此処でいい」

「…久しぶりだね。じゃあ近況報告からするね」

 

カナデはそう告げると、魈にも璃月港の『七星迎仙儀式』にて『岩王帝君』が暗殺された、と言う事を話す。

 

だが、同時に彼に尋ねた。

 

「『あの人』から何か聞いていない?最近会った時には普通だった。何か隠しているんじゃないかと私は思う」

「……あの方は最近我の元には来てはいないが。何か考えてらっしゃるなら、我よりお前の方が知っているだろう。我は頼まれた事をするだけだ」

「……仙人の人達は本当に真面目な人が多いね。いい事だろうけど……『業障』はまだ継続しているみたいだね、前より少し顔色が悪いよ」

 

カナデは魈をまじまじと見つめた後、辺りを見回す。

 

魔物や人の姿は無い。だからこそ、この場所を彼は選んだのだろう。

 

「我には関係ない」

「私には関係ある。君は罪に大して『罰』を求めすぎる所がある。『魈』は優しい人だと私は知っているよ。確かに態度は冷たく見える時はあるけれど……見ていれば分かる。『許されていい』なんて言うつもりは無いし、それは『過去』。私が知るのは今の君だけ」

 

カナデはそう言うと、先程移動する時にしまったライアーを取り出すと、ある曲を奏で始めた。

 

少しだけ『業障』を軽減する力が籠められている。

 

──その音色は、静かで優しいものだ。

 

カナデは基本的に治癒する時には鳥に頼むが、本来は音を経由してでも行える。

 

だが、この曲が出来るまでには様々な努力が必要だった。

ウェンティや、スメールに住むアランナラ族やナタの部族が手伝ってくれたから出来た曲。

 

それを演奏すると、魈は目を丸くしたが、少し困惑と、ほんの少しの安らぎを感じさせる顔でカナデを見つめる。

 

「……その曲は」

「ちょっと習ってきてね。どう?少しは楽になった?『業障』は消える訳では無いけど、私は前に大怪我を負った時、君に助けて貰った。だから私の出来る範囲で君の助けになりたかったんだよ。」

「お前の助けなど……」

 

魈はそう呟いた後、ふと視線を逸らした。

 

カナデは話を返すか、暫く待っていたが、彼が何も言わないので苦笑を零しながら肩を竦める。

 

「うん。自己満足だね。でも君に何かあったら悲しむ人は沢山いるよ、望舒旅館のオーナー達や、甘雨達だって。それを忘れないで」

「……分かっている」

 

それきり魈は少しだけ沈黙した。それを見てカナデは苦笑しながらライアーを仕舞う。

 

「だから、もし君が力を貸してやってもいい、と思うならあの『旅人』の子達に力を貸して欲しい。私は大丈夫だけれど、あの子たちはまだこの地に慣れていない。それに、なんか……うん、まぁ……。とにかくお願いしてもいい?」

「……分かった」

「良かった!ありがとう!……さて、と……蛍たちが来るまでもう少し話さない?近況報告してよ」

「……いいだろう。何が聞きたい?」

「そうだな……色々あるけれど……」

 

それから、カナデは魈と話を暫く続ける事にした。

 

どんな話がみたいですか? 参考にいたします!

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