白星の君へ   作:F1さん

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演者は舞台を降りて

 

───しばらくして。

 

カナデは『万文集舎』に行こうとしていたが、たまたま雲菫と会い、変装を見抜かれ様々な話をしていた。

最初は少しだけ話したら目的地に行くつもりだったが、まだ時間がかかるだろうと雲菫と話す事にしたのだ。

 

「そういえば困った事がありまして。……役者の一人が体調を崩しているんです。なので、白朮先生のお薬を処方しているんですが……」

「それは大変だね」

 

カナデはそう言いながら雲菫を見つめると、彼女は物言いたげにカナデの事を見ていた。

 

「それで?何か頼みたいのかな?」

「相変わらず察しが早いですね、『ラン』さん。申し訳ないのですが代理で舞台に立っていただけませんか?勿論、お礼は致します。」

 

雲菫は少し申し訳なさそうな表情を浮かべてそうお願いをすると、カナデは困ったような表情を浮かべる。

今は忙しい。ファデュイが璃月港で動いている。

璃月港は混乱をきたしかねない彼らの動向をカナデは探る必要がある。

しかし、カナデも雲菫に色々お世話になっている。

演技の立ち振る舞いを教えて貰ったりしているし、雲菫は看板役者だけでなく、台本作りなど、演劇の裏方の仕事だって彼女はしているのだ。

いつもお世話になっているし、協力したいという気持ちはある。

 

「……はぁ、分かった。とりあえず時間が出来たら稽古に行くから。それでいい?」

「はい、勿論です。ありがとうございます」

 

雲菫はニコリと微笑むと、カナデに頭を下げる。

それから少し打ち合わせ後、カナデは目的の書店で本を流し読みして暇を潰していた。

 

※※※

しばらくして。蛍とパイモンだけでなく鍾離の姿が見えた。

それを見ながら、『やっぱりか』と言いたげな顔でカナデは三人を見る。

 

「『ラン』!遅くなってごめんだぞ!こっちは鍾離って言ってー……」

 

パイモンはカナデに『公子』に会い、鍾離を紹介され、『帝君を送る『送仙儀式』』を行う。

 

その為に鍾離と材料を集める事になったと説明した。

 

「ああ、うん……なるほどね。鍾離は様々な事に詳しいけど……そうなると時間がかかりそうだよね。」

 

「おまえら知り合いだったのか!?」

 

「ああ、うん、『友達』だよ。どうしようかな……その材料ってどんなの?手分けした方がいい?」

 

カナデが思案した様子の後、鍾離に顔を向けると、鍾離は頷いて答える。

 

「そうだな……手分けした方が良いだろう。お前なら独自の方法で集める事も出来るだろう?」

「……まぁね。自分に観察眼はないけれど、目利きに詳しい人には心当たりはある。必要な材料を教えてくれれば、用意しておくよ」

 

カナデがそう言うと、鍾離は目を細めて頷く。

カナデはそれを見ると、メモを取り出して、さらさらと必要な材料を聞きながら書き出す。

そして、書き終わると顔を上げた。

 

「こんな感じで良い?」

 

そう言ってメモを鍾離に見せるカナデ。

鍾離はそれを見ながら『問題ない』と答える。

 

「OK。うーん、じゃあ材料集まったりしたり、何かあったら鷹に伝言でも頼むね。……仕方ない、あの子にするか。」

 

カナデはそう言って肩を竦めつつ、手を伸ばすと、鷹が一匹彼女の手に止まる。

 

「うわっ!?な、何だ!?」

 

パイモンが驚いたように声をあげるが、カナデはそれに構わず、鷹に話しかける。

 

「『ヒノ』。ちょっと頼まれてくれる?」

 

カナデが話しかけると鷹は『クルルッ!』と鳴いて返事をし、バサバサと翼を広げて合図をする。

 

それを見たカナデはニコリと笑って『よろしくね』と一言告げた。

 

「何かあったら口笛吹いたら来るから、手紙とか括り付けて。こっちも括り付けるから」

「な、なるほど……賢いんだな、あいつ」

 

パイモンが興味津々と言った様子で飛んでいった鷹を見る中、カナデは言葉を続ける。

 

「賢いから危害とか加えないし、怖がらなくてもいいよ。……じゃあ、そろそろ行くね」

 

そう言うとカナデは三人に声をかけて歩き出す。

 

「ラン。また後でね」

「またな!」

 

蛍とパイモンが声をかけてきたので、軽くカナデは手を振り返した。それを見送った後、蛍とパイモンは改めて鍾離に向き直る。

 

「さて……では『送仙儀式』に必要な材料を集めよう」

「おう!」

 

鍾離が歩き出すと、パイモンと蛍も後を追うように歩き出した。

 

 

※※※

……カナデは頼まれた材料を探していた。

 

商人に頼んだり、フィールドに出て、自分で採取したりと、少しずつ集める。

 

しかも細かな指定があるので面倒だ。

 

「はあ」

 

カナデは思わず、大きな溜息を吐き、足元の小石を蹴る。

何の意味のない行動だが、そうでもしないとやってられない。

 

(そもそも自分の葬式の為に材料集めて儀式するとか何なんだ、あの岩神(しょうり)。相変わらずなんというか。悪趣味というか。なんなんだろう、あれ。上位生命体特有の感性ってやつかな……)

 

内心悪態をつきながらも、カナデは律儀にメモに書かれ、集めた材料にチェックを入れる。

 

頼まれた物がある方角は璃月の上側だ。

そこはフォンテーヌと繋がる境目に近い。

 

少し遠い距離なので慣れているカナデに任せたのだろう。

確かに様々な場所を渡り歩いているカナデが適任だろう。

 

……――数時間後。

 

カナデは指示通り、頼まれた材料の調達を終わらせていた。

それから、今は雲菫と稽古をしていた。

 

――雲菫は璃月港で有名な劇団『雲翰社』の看板役者であり、カナデの友人でもある。

 

礼儀正しい彼女ではあるが、劇に対する情熱は強く、たまに璃月の魔物がいる場所に行って稽古のために魔物と戦うこともある。

それくらいならいいのだが、稀に役作りに集中しすぎてよくマネージャーに心配させてしまうこともあった。

『和裕茶館』に所属する雲菫はかなり人気が高い。

彼女が出れば席は満席になるし、和裕茶館では、よく雲菫のファンが交流をするためによく集まっているのをカナデは何度も見たことがある。

 

わざわざ別の国から和裕茶館に来ている客もいる。

それほど、雲菫の演技や歌は人々を魅了するのだ。

雲菫の見た目はツンとして見えるので誤解されがちだが、彼女は情熱的だ。

 

一度決めた事は中々譲らないし、頑固な一面もある。

 

フォンテーヌで流行ってはいるが、璃月ではあまりよく思われていないロックも実は好きだが、周りの大人達にお小言を言われるので抜け道を使って、ロックが好きな辛炎という少女と度々会っているのをカナデは知っている。

雲菫や劇団の老人達に色々アドバイスを貰いつつ何とか練習していた。

話はどうやら仙人の女性達の友情の話の様だ。また雲菫が考えたのだろう。

彼女は自分で劇の台本をよく書いている。

カナデは何となくモデルを理解してはいたが口出しはしない。

 

カナデは璃月劇が素晴らしいものだと理解している。

しかし、時折理解しにくい事もあり、スメールやフォンテーヌの劇の方がまだ頭に入りやすい、と思ってしまう事もあった。

 

モンドの詩なら紡ぎやすいが、璃月の俳句のようなものは読み解くのが苦手である。

しかし、苦手だから、では避けて通れないためカナデはついでに雲菫に聞いたりして見る。

 

「あー、これの解釈なんだけど……」

 

すると雲菫は指をさしながら直ぐに丁寧教えてくれる。

 

「ここですね。ここは……――」

「ああ……なるほど。うん。ありがとう。助かったよ」

「いいえ、お役に立ててなによりです。また分からない事があれば聞いてください」

 

カナデがお礼を言うと雲菫は嬉しそうに微笑んでくれる。

この笑顔が見れるだけで役に立ちたいと思った。

しかし、雲菫はまた直ぐに難しい顔をしている。

やはりまだ納得がいかない部分があるらしい。

一人で悩んだらまた突拍子もない事をしそうなのでカナデは思い当たる点を指摘する。

 

「最後の演出の部分?友人の仙人が塵の様に消える、みたいな場所?」

「はい。そこの表現が少し気になりまして……」

「……うーん、そうだなぁ。私も詳しい訳じゃないけど、じゃあこうしたら――」

 

カナデは思いついたアイディアを話すと、雲菫は僅かに目を丸くした。

 

「確かに……!その方が良いかもしれません!ありがとうございます!」

 

どうやら上手くいったらしい。

彼女は嬉しそうに礼を言うが、カナデは『気にしないで』と答えた後に、少し申し訳なさげに口を開く。

 

「ただ、ごめんね。劇は必ずやり遂げるように努力するけど、ちょっと気にかかる事があって……状況によっては、直ぐ行かないといけなくなるかもしれない」

 

カナデは申し訳なさそうに頭を搔くと、雲菫はその言葉の意味が分かったのか大きく頷く。

 

「無茶を言ったのは私です。それに、カナデさんが冒険者として色々な人の役に立とうと奔走されているのは知っていますし……恐らく、それは私の劇への思いと似ているのではないですか?」

 

雲菫の言葉にカナデは一瞬目を見開くが、すぐに微笑みを浮かべて小さく頷いた。

 

「……そうかもね。私達はそれぞれ誰かの為に頑張ってる。まぁ、私も吟遊詩人もどきをしているし、なんというか……受け継ぐ事の大切さみたいなものは理解しているつもりだよ」

 

カナデは少し遠くを眺めながら、水を一口飲む。

――そして、少し、柔らかに目を細めた。

 

「やっぱり他者と出会ったり、会話することって刺激的でいいね。だから、毎日が楽しいんだ」

 

カナデの言葉に雲菫は嬉しそうに微笑むと、賛同しながら、頷いた。

 

「ええ、私も同じです。他の方の言動がヒントになったり、助言を貰ったり……そのお陰でより良い物が出来たり、気づきを得られたりすると……また精進しなくては!という気持ちになるんです」

 

雲菫の言葉にカナデはもう一度微笑みながら頷くと、手を差し出す。

 

「お互い頑張ろうね」

 

雲菫は微笑んで、迷い無く差し出されたカナデの手を握った。

 

「ええ、頑張りましょう。しかし、頼まれ事があると聞いていましたが、大丈夫ですか?」

「ああ、うん、大丈夫。後で知り合いに届けるようにお願いするから。でも、大丈夫なの?巷じゃ『岩王帝君』の死に関しての噂が広がってるみたいだけど……。この騒ぎじゃ……」

「そうですね。ご心配ありがとうございます。……しかし、何かトラブルがあった場合はなんとかする手段をいくつか考えてありますから、大丈夫です」

 

雲菫はニコリと微笑むと、カナデも笑顔で頷く。

 

「流石、雲菫」

「ふふ、ありがとうございます。……そろそろ暗くなりましたし、お帰りになった方がいいかもしれませんね。続きは明日にしましょう」

 

雲菫の言葉にカナデは窓を見る。

確かに彼女の言う通りいつの間にか空が暗くなっていた。

 

「そうだね。じゃあ、また来るから」

「はい、お待ちしておりますね。『ラン』さん」

 

雲菫の笑顔に見送られながらカナデは帰路につくのだった。

※※※

 

 

それから数日後、璃月港にて……。

 

舞台は満席になっていた。

様々な年齢の人々が楽しそうにしている。

 

物珍しいのか、興奮気味に話す者もいれば、興味深そうに舞台を観ながらまだか、まだかと開幕を待っている人々が見える。

 

裏方や役者達は最終確認を行いながら、自分達の出番に備えていた。

 

──やがて、幕が上がっていく。

 

まず先に出てくるのは雲菫だ。

 

彼女は、開幕からその心に響く様な璃月特有の歌を華麗に披露していく。

 

繊細で美しい歌声は人々を引き込み、惹きつける。

彼女の柔らかな美声は観客の心に響くだけではなく、会場の隅々まで広がっていく。

 

歌が終わった時、観客からは割れんばかりの拍手が鳴り響いた。

 

───舞台は順調に進んでいく。

 

仲がいい仙人の二人の女性。

彼女達は他愛ない日々を語り合う。

それは幸せな日々だった。

 

しかし、ある日彼女達の日常は一変する。

様々な天災が起き、大きな戦争が始まる。

無論2人も例外ではなく、彼女達も巻き込まれてしまう。

 

彼女達は戦争により亡くなる仲間や、人々の別れを惜しむが、運命に逆らうことは出来ない。

 

『私は発明と知恵は大切だと思う。人々を豊かにする為には、知恵は必要不可欠な物だと思うの。そして、音楽は人を豊かにする。ずっと平和が続けば良かったのに……』

 

カナデは仙人の女性として、言葉を紡いでいく。

 

雲菫が話のモデルにしたのは仙人ではなく、魔神だが、そのままだと色々マズイため、アレンジが加えられているようだ。

 

そして、主人公役の女性のモデルも二人の女性の逸話を元にしているので、あくまでオマージュ程度になっている。

 

だが、二人の女性への思いや考えは上手く表現されている。

流石は父親は脚本家で、若くしてその才能を受け継いだと言われるだけの事はある。

 

そして、徐々に彼女達の別れの時が近づいてくる。

 

『……人間はとても弱くて、ちっぽけなもの。いつ何で死ぬか分からないから、いつも怯えて、怖がって。手を取り合っている。彼らは、怯えてるから努力して、新しい事に取り組んで、そしてどんどん発展していくの』

 

カナデの言葉に観客達は耳を傾けている。

 

『───前に人に聞いたことがある。自分達はこの地を支えてくれた『神』に恩返しがしたいと。私は……いつか、人や仙人が手を取り合って、平和に暮らせる。そんな夢みたいな事を願うの。叶わない事は分かっている。でも、せめて祈りたい。どうか少しでも優しい世界がありますように、と……私はずっと祈ってるわ』

 

カナデが切なげな表情を浮かべながら手を組む。

その姿は少し痛々しく、見ている者を切なくさせるものだった。

 

観客達は静かに舞台へと耳を傾け、涙を流す者もいた。

 

『……あなたは……』

 

雲菫が演じる『主人公』が何かを言いかけた。だが、健気にもカナデが演じる『友人』は主人公を送り出す。

 

『ここは私に任せて。君にはやる事があるでしょう?──君は進みなさい』

 

カナデは強い口調でそう言った。

 

雲菫演じる『主人公』が涙を浮かべながら『ありがとう』と感謝を述べる。

 

そして、カナデはそんな彼女を抱擁し、背中を軽く押した。

 

『──さぁ、行きなさい。振り向かないで。未来は明るいはずだから。開けない夜は無いように……』

『……うん……っ』

 

雲菫演じる『主人公』は頷くと、舞台袖へと走っていく。そして、それを見送る『友人』のカナデの表情は慈愛に満ちていた。

 

舞台はクライマックスを迎えようとしていた。

『主人公』が問題を解決し、急いで故郷に戻る。

しかし、そこに居たのは傷だらけの『友人』であった。

 

『──ようやく戻ってきたのね……遅かったじゃない』

 

『友人』は弱々しく微笑むと、呟いた。どうやら襲撃にあったらしく、傷を負っている。

 

『……でも、良かったわ……』

 

『友人』のカナデが弱々しく手を伸ばすと、『主人公』の雲菫はその手を掴む。

『最後かもしれないから……話してもいい?』

 

『友人』が問いかけると、『主人公』は涙ながらも、必死に耐えて微笑みながら頷く。

 

そして、二人の会話が始まった。

今までの思い出や、お互いの気持ち。

短い間だったが、彼女達はたくさんの言葉を交わし合った。

 

『ありがとう。ねぇ、最後にお願いがあるの』

 

『友人』は弱々しく微笑む。そして、ゆっくりと息を吸うと静かに話し始めた。

 

『私が死んだら、ほかの皆の事を頼みたい。きっと『楽園』みたいな素敵な国を皆で作って、幸せになってね……それが私の一番の夢』

 

『友人』の言葉に『主人公』は涙を流す。

そんな彼女に、『友人』は優しく頭を撫でた。

 

『泣き虫なのは変わらないわね。ね、私の事を覚えていて。私は風に、土に、自然に還る。そして、いつか君の元に……―』

 

カナデが台本通りに演じていたが、ふと、彼女が見上げた先に、鷹の姿があった。

 

蛍に何かあればこの子が飛ばすように伝えていた。

何かがあったのだろう。

カナデは雲菫に目配せをした後、『演技として抱きしめた』後に、『このまま行く』と合図を送る。

彼女も頷いたので、最後の台詞だけ告げる。

 

『さようなら……』

 

そして、風元素を使い、舞台を突っ切り客席へを超え、鷹の居る方へ向かった。

 

舞台の上では、残された『主人公』が一人寂しく佇んでいる。

 

観客達はそれが演出だと信じて疑わず、『友人』の死を悼んでいた。

 

どんな話がみたいですか? 参考にいたします!

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