白星の君へ   作:F1さん

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捕縛

 

 

「……はぁ。まさか連絡が来るとは。」

 

急いでいたので、舞台衣装のままカナデは街中を走っていた。

たまたまタイミングが良かったから助かった、とも彼女は考えていた。

 

鷹の足には『黄金屋』とメモがある。

幸いに何かあればと凝光に渡された札があるので、千岩軍がいたとしてもそれを見せれば凝光の使いだと理解してもらえるだろう。

走っていると、海の方に嵐が見えた。明らかに自然のものでは無い。何かが海で暴れている。

今はそれどころでは無い。

 

不慣れな舞台衣装のまま、彼女は全速力で現場に向かう。

 

『黄金屋』は、テイワットの全てのモラが鋳造される場所である。

 

だからと言って呼び出されたのはモラが目当てでは無いはずだ。

 

……普段見張りをしている千岩軍の姿が無い。

黄金屋に着くと、普段ならば千岩軍の兵士が警備しているのだが……。

 

(誰がこんな事を?……―まさか)

 

嫌な予感がして、カナデは黄金屋の建物の入り口に向かうと、誰かが走って出てこようとしていた。

 

――『勘』がソレを捕まえろ、と告げる。

 

そして、カナデは稲妻で実験に付き合った報酬として入手した四方八方の網をソレに向けて発射した。

本来は獣に使うものだが、色々なトラブルに巻き込まれやすいカナデはそれを捕縛用として使用している。

 

網は見事ソレに当たり、身体を封じることに成功する。

 

身に覚えがありまくる人物の姿に、カナデは大きくため息をつくと近づいていくと、網を足で踏みつけて逃がさない様にした。

 

「……まさか」

 

一瞬、彼は言葉を詰まらせる。その仕草をカナデは見逃さず、彼に冷たい視線を向けていると、『誰だ!?』と慌てた様子でパイモンも近寄ってくる。

 

「誰だ、お前……って!」

 

「……もしかして『ラン』?」

 

蛍が直ぐ様、状況を把握し、パイモンがそれに反応する。

 

「そうだよ、蛍。『ラン』だ。……まあ、うん。で、あれ、何?明らかにヤバそうだけど」

 

カナデが嵐が吹き荒れる海の方に目を向けながら言うと、パイモンが慌てて続けた。

 

「そ、その『公子』が『オセル』を蘇らせたんだ!」

「あー……やっぱり。」

 

パイモンが冷や汗を滲ませながら小さく呟くと、カナデは面倒くさそうに頭を搔いた。

そして網で捕まえた『公子』タルタリヤを確保したまま、嵐の方を指さした。

 

「蛍達は先に行って。私はこいつをどうにかするから。」

「えっ!?『ラン』は『公子』が苦手なんだろ!?大丈夫なのか!?」

 

パイモンが心配したように声を荒らげて言うと、『ラン』は苦笑いしていると、下から声がする。

 

「へぇ。俺が苦手だったんだね?知らなかったなぁ、傷ついちゃった」

「……面倒くさくなるから説明は後。行って。」

「あ、うん……。」

 

蛍はカナデの様子に察したのか、それ以上何も言わない。

 

彼女とパイモンが走って行くのを確認し、カナデは今度は『公子』に声を掛ける。

 

「さて。説明してもらおうかな、タルタリヤ(公子)くん?」

「久々に会う恋人に対して、随分と冷たい態度だね?」

「あらあら。そんな態度とってもいい訳?アーシャ*1?今、君は捕縛されてる訳だけど?ちなみにこれペット確保用の網ね。『恋人からペット』に格下げされたくないなら『オハナシ』してくれるよねぇ?あ、『オハナシ』の意味分かるよねぇ?」

 

その言葉に、彼がカナデの足元でビクリと僅かに震えるのが分かった。

 

基本的にカナデが怒る時は『ぷんすか!』に近いものがあるが、この時ばかりは絶対零度を思わせる態度だ。

スネージナヤの冬の気温程に。それを感じ取ったのか、彼が小さく身震いしながら呟く。

 

「あー……えっと……そ、その衣装よく似合ってるね。すごく綺麗だよ。」

「ありがとう。あらあら。『執行官(公子)』なのに随分と動揺しているね?普段は『俺なら出来る』みたいな余裕をかましてるのに。普通の青年みたいだねアハハ」

「……。」

「ふぅん……だんまりなの?いい度胸だね。」

 

カナデはそう言いながら、網を取ってあげる。しかし、直ぐに彼の頬を引っ張る。

 

「いたたた!ちょ、痛いよ!?」

「あ!痛み感じるんだ〜!!!

普段痩せ我慢ばかりしてるから痛覚マヒってんのかと思ってた。」

「酷いなあ、そんなに信用がないかな?」

 

彼は頬を摩りながらじとりとカナデを見る。しかし彼女の瞳は楽しそうに細められており、完全に背中に鬼神を背負っている。

 

「……ほら、黒幕の所に行くよ。君はどうせまた『まな板の上の鯉』をやってたんだろうから。はぁ。全く。そもそも『鍾離』に『神の心』貰う取引すれば済む事なのに。どうしていつも、そういう考えに至らないのかな……やっぱり脳筋なの?」

「……ねぇ、君。さっきから地味に俺に対して当たりが強すぎない?それに何で今鍾離先生の名前が出てきたの?」

「鍾離先生が『モラクス』だからに決まってるからでしょーが!」

「!?」

 

カナデの発言に『公子』は驚いたように目を見開き、頬を掴む彼女の手首を掴んだ。

そして、その手を自分の顔から離し、カナデの瞳を見つめる。

 

「どういう事?『モラクス』が鍾離先生だって?」

「あーあ。ちゃんと説明をすると長いのに……。」

 

カナデは面倒くさそうに溜息を吐き出すと、『モラクス』はとある理由から『凡人』として暮らすことを選んだ事をまず伝える。

 

「……そもそもおかしいと思わなかったの?学者でさえ詳しくない儀式内容を全て覚えている、歳が若いが何処か達観している。モラが無くなる考えがない。────ここまで来たら『仙人』である事は分かるよね?でも人里に降りてきている仙人は少ないし、仙人の大体は亡くなっている。……詳しい理由までは分からないけど『鍾離』が今回の黒幕にしか思えない。それに、『淑女』があんまり動いてないのが変。彼女もモンドから璃月港に来ているはず。多分だけど、鍾離の協力者は『淑女』だと思う……。」

 

カナデの言葉に、先程まで少し余裕そうに戻っていたタルタリヤの顔が真剣なものに変わる。

 

「……驚いたな。そこまで読み解けるとは思わなかったよ。」

「うん、だからぶん殴りに行きたいんだよね」

「……。」

「なに、その顔。文句ある?」

「……いや、普通七神の一人をぶん殴るとか言わないだろ。」

「──その前に友達だから。」

「は?」

 

カナデの言葉に、思わずと言った様子で声をあげるタルタリヤ。

そんな彼を無視して、カナデは話を続ける。

 

「あの馬鹿は誰にも頼らず一人で何とかしようとしている。人に紛れ込むなら誰かに頼る事を基本にしないと駄目なのに。私や仙人の誰かに頼らなかった。それが凄く腹立つ」

 

カナデの言葉にタルタリヤは肩をすくめる。

その顔には苦笑いが浮かんでいるが、『仕方ないな』といった雰囲気が垣間見えた。

 

「……やっぱり君は変わった人間だね。」

「ありがとう。褒め言葉として受け取っておくよ。で、連れて行ってくれるんだよね?淑女のいる場所くらい分かるよね?」

「……いいよ、一緒に行こうか。でも、『オセル』の事はいいのかい?いつもなら速攻で向かうだろうに。」

「……。」

 

カナデは無言で足を止めて、少し思案した後、人差し指を立てた。

そして、悪戯っぽく笑いながら言う。

 

「……タルタリヤさ、いつもより疲れてるよね?『蛍』と戦って、『魔王武装』*2使ったんじゃないの?」

「っ!」

 

カナデの言葉に、小さく息を飲む音が聞こえた。

図星のようで、視線をさ迷わせながら小さく呟く。

 

「はぁ……どうして分かったんだい?確かに『魔王武装』を使ったよ。思っていたより彼女が強かったからね。」

「うん。だからそんな強いあの子が手助けに行くから大丈夫。……私の幼なじみの一人がね『世界は舞台だ』みたいな事を前に言っていたの。私もね、そう思う。発展しすぎたら『抑止力』みたいなものがあって、バランスをとっているの。だからまだ『璃月は滅ぶべきじゃない』って派遣されたのがあの子だったりしてね。それにさ──」

 

そこでカナデは言葉を区切る。

そして、ニコリと笑いながら言葉を続けた。

 

「私は皆を信じているから」

「……。」

 

カナデの発言に、『タルタリヤ』は目を見張る。

そして諦めたように小さく息を吐いた後、降参とでも言うかのように両手を挙げた。

 

「はいはい、分かったよ。君がそこまで言うのなら一緒に行こう。」

「うん。それにね、それだけじゃないから。君は変わってる人だから、私が叱ってあげないとって思って。」

 

カナデの言葉に、タルタリヤは額を押さえながら深く息を吐き出す。そして苦笑しながら言った。

 

「はぁ……。本当に君は俺を何だと思ってるんだい?」

「え?まあ、『おもしれー男』なのは間違えないよね」

「は?」

 

カナデの返答に、彼は信じられないような声をあげた。そしてそのまま項垂れながら呟いた。

 

「君さぁ……もうちょっと言い方ってもんがあるんじゃないのかな。」

「そんなの知らないし。そもそも普段のタルタリヤの行いが悪い。皆、君が面倒だからって関わろうとしないの分かる?ある程度友好的に見せてるけど、周りから一線引かれてるからね、君。爆弾や地雷みたいだよ。クレーのポンポン爆弾よりヤバい。」

「君、俺に対して遠慮が無さすぎないかい?」

「今更、何を。じゃあ遠慮した方がいい訳?なら今日から他人行儀でいこうか?」

「それは……やだな。」

 

彼は小さく呟いた後、カナデに笑顔を見せる。

カナデはその表情を見て、眩しそうに目を細めた後小さく頷いた。

 

「あのね、私は君が間違えを繰り返して、いつか苦しくなるのが嫌なの。だから君が受け入れてくれるかは兎も角、私は何度でも注意するから。」

「はいはい、分かったよ。でも、俺は自分の信念を曲げるつもりは無い。」

「知ってる。でも、覚えていて欲しいの。人は矛盾してる生き物だから『悪い事をしたら君を止めたい』だけど『でも他の人が君を傷つけるならどんな存在だろうが私は許さない』って私は思ってるの。」

 

カナデの言葉に、タルタリヤは驚いたように目を見開いた。

そして、何かに納得したように小さく頷く。

 

「……なるほどね。うん、分かったよ。覚えておくよ。」

「あ、分かってくれた?」

 

嬉しそうにするカナデに、彼は笑顔のまま答える。

 

「うん。君が、俺をそんなにも想っているって分かったからね。」

「……。」

 

カナデは笑顔の彼を見て、思わず無言になったが慌てて言葉を発する。

 

「そうだけど、そうじゃない!!!

……あー、もう。私の反応で楽しもうとしないで貰えるかな!」

「あはは。ごめんごめん。」

 

全く反省していない様子の彼を見て、カナデは頭を抱える。

すると彼はカナデの頭にぽんっと手を置き、ゆっくりと撫でる。

 

「ごめんごめん。でも、ありがとう。」

「……なんか納得いかないんだけど。いいから、早く道案内して。」

「はいはい。こっちだよ」

 

そう言って、彼は歩き出す。カナデも彼について行くように歩き出した。

 

 

 

*1
タルタリヤの本名の愛称の1つ

*2
邪眼モード

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