「……近い、離れて。それに、私はそもそもきみと仲良くするつもりはないって前に言ったはずだよ」
カナデは冷たい視線を向け、そう言い放つ。
その態度には取り付く島もない。
しかしそんなカナデの態度を気にすることもなく、タルタリヤはカナデに近づき、その顎を指で掬い上げ視線を合わせる。
「ひどいなぁ、そんな態度を取られると俺も傷つくんだけど」
「嘘つけ。笑顔でそんな事言っても説得力なんてないよ。それに、私──言っちゃ悪いけど、きみ、苦手なタイプなの。だから正直関わらないでくれるとありがたいんだけど」
カナデはぴしゃりと言い切る。
しかしそれでもタルタリヤは笑顔を崩さず「ひどいなぁ、俺はこんなにカナデのことが好きなのに」と言ってのける。
その笑顔が本心なのか偽りなのか、カナデにはよく分からない。
────ただ分かるのは、気さくに見えて気安く他人に好き、とは言わない奴だということだ。
しかし、カナデはどれだけタルタリヤが容姿が良くても、財力があっても、巨大組織の権限があっても。
しつこい人は好きではないのだ。
「はいはい。ありがとう。でも私、好きでもない、しかも狂人に口説かれて喜ぶ趣味はないんだ。私が優しくしている内に、さっさと消えてくれる? はい、ハウス。寒い国へお帰り」
カナデは距離を無理やりとると、しっしと犬でも追い払うかのように手を振る。しかしそれで去る人間では無く、カナデのその態度にタルタリヤは苦笑いを浮かべた。
「まったく。ひどいなぁ。俺、傷ついちゃったな」
「私はうんざりしてるよ。話せば劇のセリフみたいな言葉ばかり。狂人が人のフリをしている様にしか見えないんだよ。ほら、私よりその辺にいるきみの素性を知らない人とか、素性を知っている部下とか。そういう人に声をかけた方がいいんじゃない? 私から出る言葉は口が悪い言葉ばかりだよ。そんな人間、きみのような人間が相手にする価値もないと思うんだけど」
「相変わらず中々手厳しいね。俺はカナデのそういうハッキリモノを言う所、結構好きだよ」
「私はきみの事、好きじゃないけど。無理やり色々連れ回すし。言っておくけど、きみのやっている事は犯罪だよ。ストーカーみたい」
「冷たいなぁ。俺たち、今まで良いパートナーだったと思うんだけどな。俺の探している情報にはカナデも助けられていた。むしろおつりを返さないといけないぐらいじゃないか?」
「押し付けがましいなぁ。私はちゃんと報酬は貰っている。きみに依頼された事をやっただけ。それ以上でもそれ以下でもないよ」
カナデはジト目でそう言うと、頭を抱えて溜息を吐く。
その態度に「やれやれ」とタルタリヤは肩をすくめる。
「はいはい、わかったよ。そこまで言うなら諦めるよ」
そう言ってくるりと踵を返したかと思うと、振り向きざまにカナデの唇を奪う。
突然の事に目を見開くカナデをよそに、触れるだけのキスをした後ぺろりと唇を舐め上げ「ごちそうさま」と言って、ご機嫌な様子で去って行く。
残されたカナデは暫し呆然としたあと「あーもうっ!」と叫ぶしかなかった。
そしてその表情は怒りやら羞恥やら様々な感情が入り交じった複雑なものだった。
「そういう所だよ、私が苦手なのは!」
そう叫ぶカナデの声が夜の町に響いた。
※※※
(もうこうなったら嫌いにさせればいいんじゃないかな!?)
とカナデはそんな結論に至ってしまった。
しかし、どうすればあの気障で、何事にも自信がある余裕ぶった顔を歪ませることが出来るだろう。
カナデは自分でも知らないが、タルタリヤのそんな表情が気に入っていた。
しかし、それは否定し、嫌悪している相手に対し見せて欲しい顔であって、別に自分が可愛いとかそう言った気持ちになるから見たいわけではない!! とカナデは自分に言い聞かせる。
「さて、どうやってあのヘラヘラ戦闘狂の事をギャフンと言わせてやろうかな」
そう言ってカナデは腕を組んで瞳を閉じる。
それから少しして目を開ける。
そこにはいつものカナデとは少し違う、何か覚悟を決めた様な表情があった。
「……逆にしつこく追いかけ回して媚びを売ってみるか」
カナデはそう言うと、早速行動に移す事にした。
様々なツテを使い、今タルタリヤが居る場所を突き止める。
そして、その場所へ足を運ぶと「あれ、偶然だね〜」と言って手を振る。すると少し驚いた様な表情をしたかと思えばすぐに笑顔に戻る。そんな様子にカナデは「相変わらず笑顔が胡散臭い」と思いつつも顔には出さないように努める。
「へぇ、本当に偶然だな。こんなところでどうしたんだい?」
「時間があるから暇潰しに散歩をしていただけだよ。きみはどうしたの? 仕事? プライベート?」
「ん? 秘密かな?」
そう言うと人差し指を口元にあてウインクをする。
その様子が様になっているためカナデは内心苛立つも顔には出さず笑顔を保ったまま、さりげなく距離を詰める。
そして顔を近づけると耳元で囁くように告げた。
「……話してくれないんだ。いじわる」
そう小さく拗ねたような声で言うと、上目遣いで見つめる。
すると少し困った様な表情になる。
その表情を見て、カナデは少しだけ気分が良くなる。
しかしまだ足りない。
もっと余裕を無くせばいい、とカナデは頭の片隅で思う。
その為に今日は可愛い服を着て作戦を実行しているのだから。
「あ、困らせた? ごめんね。うそうそ。別に気にしてないよ。ただちょっと気になって聞いただけ。あ。そうだ、この服似合う? ちょっと男の人の意見を聞きたくて」
そう言ってワンピースの裾を掴んでくるりと回るとスカートがふわりと揺れる。
その様子を見て、タルタリヤは目を細めると「似合ってるよ」
と答えた。
「本当? 良かった」
カナデはその言葉に顔を少し赤らめながら微笑む。そうは言ってくれるとは思っていたが、言われるとやはり嬉しい。
しかしここで満足してはいけない。
まだ作戦は終わっていないのだから。
カナデは気を取り直して次の行動に移る事にした。
「きみに褒められたらちょっと嬉し……いや、な、なんでもないよ。別に。今日、ちょっと寒くない? 良かったら、手、繋いでくれないかな?」
そう言って手を差し出す。
その提案に一瞬驚いた様な表情を見せるも、すぐにいつもの笑顔に戻る。
「いいよ」と言って手を取るとそのまま指を絡ませて恋人繋ぎをする。
「あっ、手、大きいね。男の人って感じ」
「そうかい?」
そう言って微笑むとタルタリヤはカナデの顔を覗き込むように見る。
甘い顔立ちに透き通るような白い肌。
冬国の人は皆肌が白いのだろうか、なんて思いながらカナデはその瞳を見つめ返す。
暗く青い双眼は相変わらずハイライトが入っていない。まるでガラス玉みたいに澄んでいて綺麗なのに、どこか濁って見える。
まるで深海や宇宙の様だ。
「どうかしたかい?」
「いや、なんでもない。えっと、や、やっぱりまだ寒いかも」
「なら、もっと近くにおいでよ」
そう言って腰に手を回し抱き寄せた。その瞬間カナデはびくりと肩を震わせた。しかしそれも一瞬のことですぐに大人しくなる。
(あれ……? なんか作戦と違うような……?)
割とわざとらしくやったつもりだったのだが、こうも自然に引き寄せられてしまうと意味がないような気がしてくる。
しかし、これはこれでチャンスかもしれない。そう思い直すことにしたカナデは勇気を出して更に距離を詰める事にした。
「あの、今日、これから時間あるかな?」
「ん? 特に予定はないよ」
そう言うと、カナデはシメシメ、と静かに思う。作戦通りだ! と心の中でガッツポーズもした。
「良かった。じゃあさ、一緒にお昼ご飯食べない? ほら、今日、天気はいいから。いつも私ばっかり作って貰ってるからたまにはいいかなって。料理作ったんだけど、作りすぎちゃって」
「へぇ、それは楽しみだな。喜んで頂くよ。でも本当にいいのかい?」
「うん! 全然気にしないで。むしろ食べきれないからどうしようかなって困ってたから」
「そうかい? じゃあお言葉に甘えようかな」
「うん。近くにね、綺麗な景色の所があるから食べよう?」
カナデはそう言うと、にこりと微笑んだ。
※※※
「へぇーこんな場所があったんだ」
と感心している様子のタルタリヤを見てカナデは「でしょ? せっかくなら、綺麗な景色を見ながら食べたいから」と言って得意気に笑った。
辺りは草原で、花が僅かに咲いている。その草原の先に一際大きな木があって、その下に座り、そこで昼食を取ることにした。
その時にレジャーシートを敷く時に四苦八苦しているとタルタリヤがさり気なく手伝ってくれた。
その様子を見てカナデは少しだけ嬉しくなった。
(優しい……いや! 騙されない。別にコイツならやりかねない! 大抵の人に!)
そう自分に言い聞かせ、カナデはなんとかレジャーシートを敷き終わると座った。そしてカバンからお弁当を取り出す。
今日のメニューはおにぎりがメインでおかずは卵焼きや唐揚げ、ポテトサラダなど定番のものばかりだ。もちろん、野菜もちゃんと入っている。
「はいどうぞ。まずは手をこの布で拭いてくれる?」
そう言うと、タオルを手渡す。
タルタリヤが「ありがとう」と言って受け取ると手を拭き始める。それを確認した後フォークを取り出して、手渡す。
「箸食べにくいよね? フォーク用意したよ。あ。これね、稲妻のおにぎりってやつで、おじいちゃんに昔教わったんだ。鮭が入ってるよ。確か大体食べれたけど、お魚料理好きだったよね? だからこれも食べてほしいなって」
「へぇ、これ鮭なのか。そういえばカナデは料理が得意だったね」
「え? そ、そこそこね。食べれるものは作れるよ。うん」
カナデは気が付かない。そういった細やかな気遣いが逆にタルタリヤを喜ばすということを。
そして。それは媚びる為の行為ではない。ただ、純粋に喜んで欲しいという想いからくる行動だということを。
「あとね、林檎とかも剥いたんだ〜うさぎさんの形に切ったの。不格好になっちゃったけどね、あはは……まあ、味は大丈夫だし、食べたら大丈夫だから、後で食べよう」
そう言って少し恥ずかしそうな表情を浮かべた。その様子を見て、タルタリヤは僅かに目を細めると、微笑んで答えた。
「ありがとう」
そう言うとフォークでおかずを一口サイズにして口に運ぶ。
「うん。美味しいよ」
と一言だけ言うと黙々と食べ始めたのでカナデは少し感心する。
相変わらず食べる時は丁寧だ。
(よかった……口に合うみたい。異文化の料理は合わない事もあるし、好き嫌いをしない人だから大丈夫だと思ったけど…………ん? イヤイヤ! だから、別にコイツを喜ばせる為に作ったわけじゃないから!!)
そう心の中で叫ぶも、やはり笑顔で食べてくれるのは嬉しいものだ。
カナデは胸がポカポカした、祖父母といた時の様な気分になってとても幸せな気持ちになる。
「そ、そう? それなら良かった。きみがたまたまいてくれて助かったよ。私一人じゃ食べるの味気ないし」
そう言いながらカナデは携帯式の水筒に入った水をコップに注いで、それを渡す。
「はい。水もどうぞ」
「ありがとう、頂くよ」
そう言って受け取ると、タルタリヤはゆっくりと飲んでいる。
カナデは横目で、相変わらず綺麗なアイドルやホストの様な容姿だな、と思う。
こうやって見るだけなら本当に格好良いと静かに彼女は思う。
カナデは、じーっと見つめる。その視線に気がついたのか、目が合うと微笑んできた。その表情を間近で見てしまい、ドキッとしてしまう。
「ん? どうかしたかい?」
「……いや、なんでもない。私も食べようっと」
慌てて視線を逸らして、手を拭いた後おにぎりを手に取ると、パクりと一口食べる。
鮭の塩気が効いていて美味しい。
自分で作った料理ではあるが、中々上手く出来たのでは、と内心思う。
「うん、美味しい。こうやってのんびりするのも悪くないかも」
「そう。それは良かった」
タルタリヤがそう答えると、カナデはすっかり作戦の事など忘れて、にっこりと笑い返した。
この後めちゃくちゃ普通にデートをした。
しかも作戦もバレる。
どんな話がみたいですか? 参考にいたします!
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