働く者は救われる?
「……いや、何でこの場に私はいるの」
数日後。
カナデは琉璃亭の個室の中で疑問を抱きながら呟くと、対面側に座って茶を啜る鍾離に視線を向けると、彼は静かに告げる。
「ん?こういう時は『詫びをする』のが普通なのだろう?だから、カナデと共に琉璃亭へ来たまでだが?」
「……確かに。それは間違いないけど……」
カナデは呆れた様にそう答えると、茶を口に含んで飲む。
翹英荘で栽培されている茶葉は有名であり、香り高いその風味を堪能する。
それからカナデは目の前に座る鍾離へと視線を向けると、鍾離は『うん?』と言いながら、不思議そうな表情を浮かべていた。
相変わらず表情があまり変わりない。
多少の変化はたまに見られるが大体は無表情であり、読めない。
彼は一体何を思っているのだろうか?
一瞬、そんな事を考えたがどうでもいいか、と思って再度お茶を飲もうとした時―――。
「それで、カナデ。お前は公子殿と付き合っているのか?」
「ぶっ……!?ちょっ、ごほっごほッ……!?」
突然の爆弾発言に動揺して激しくむせ返ってしまい、苦しそうに咳き込むカナデ。
そして、落ち着いた後に恨めしそうな視線を向けながら答える。
「突然何を言い出すの!?唐突すぎない?」
「む?何か問題でも?」
「いや、問題しか無いよね!?」
カナデは思わずツッコミを入れてしまうが、それでも鍾離は悪びれる事もなく続ける。
「しかし、公子殿が初めて俺に会いに来た時『カナデの紹介で来た』と話していたが、それから『契約』をした後にカナデの話をする時の公子殿は実に生き生きとしている」
「……そ、そうなんだ……」
(そんなの初耳なんだけど……)
カナデは心の中でそう思う。
だが、正直嬉しい。
公子――タルタリヤの立場から明かしてはいないが恋人なのだから。
とはいえ、公私混同はしたくないし、カナデは『ファデュイの執行官』であるタルタリヤを気遣って秘密にしている。
というか、タルタリヤ自身はそう言う事を気にしないのでカナデが気をつけるしかない。
彼は自分の立場をたまに考えていない気がする。
彼の行動は『自分は危険な執行官』である事を他の執行官とは違い、名言しているようにも思えるのだ。
もし、カナデが『ファデュイの執行官の恋人』だと知られたら、彼をよく思わない人に自分が利用され兼ねない。
カナデはその事を懸念していた。
カナデはそう考えつつ、何気なく席を見れば一つ多い事に気が付く。
あんまりこの店に来た事がないが、そういうものなのだろうか?
と、カナデが疑問に思った時――。
足音が聞こえた。
店員が来たのだろうか、とカナデは思い顔を上げるが、それよりも早く個室の扉が開かれた。
「やあ、お待たせ」
そう言ってにこやかに入って来たのは――タルタリヤだった。
彼は普段とは違う服を着ている。
流石に璃月港では悪い噂が流れているからだろう。
カナデが『は?』と言いたげな表情で呆けていると、鍾離は説明する様に言った。
──『カナデにお礼をしたいと悩んでいたが、その時にたまたま会った公子殿に頼んでここを予約してもらった』と。
「だからあんな事聞いてきたの、君!?」
驚きながらカナデは席を立つと、ズカズカと歩み寄る。
そして、鍾離の方をギッと睨みつけると『説明しろ!』と言わんばかりに睨みつけた。
だが、そんな視線を受けてもなお、鍾離は動揺する事無く平然としていた。
寧ろ『何を怒っている?』と言わんばかりの表情をしている。
「この
それ絶対向こうがわざと近づいているし、鍾離も知っていて受け入れているじゃないか。
と、カナデは察してしまい、呆れながら毒を吐くが、そんな彼女に対して、鍾離は涼しい顔をして『そうか。それは失礼した』と謝った。
カナデはそれを見て更に苛立ったが、これ以上言及しても無駄な気がするので諦める事にした。
そして、仕方なく席に戻り座ると深い溜息を吐いた後――再度お茶を飲む。
そして、食事が運ばれてきたので食べようとしたのだが――。
「あ。カナデ。いつものお願いしたいんだけど、いい?」
「……またアレ?いや、でも鍾離いるし……スプーンかフォーク頼みな。私はやらないからね」
アレ、と言うのはタルタリヤは箸が使えないので、カナデにお願いして来るのだ。
『じゃあ普段どうやって食べてるんだよ』と前に言ったのだが、曖昧に笑顔を返された。
絶対スプーンとか使ってるに違いない。
と、カナデは思っているが結局やっているので文句は言えない。
彼女も大体の事は許してしまう辺り、タルタリヤには甘いという自覚はある。
とはいえ、やはり羞恥心はある様で人前では絶対やらない。
やりたくない、のだが。目の前の席でにこにこしている公子が『してくれないの?』と目で訴えてくる。
「ああもう、分かった!やれば良いんでしょ!」
カナデは自棄になって叫ぶと席を立つと、椅子を持ちながらタルタリヤに近づく。
そして、彼の前に置かれた箸を掴み、箸を使って料理を口に持って行った。
「はい、食べな」
そう言ってカナデは箸で掴んだ料理を突き出す。
その行動に鍾離は目を見開いて驚いていたが、当のタルタリヤは特に気にした様子もなく口を開いた。
そして、そのまま口に含むと満足そうに笑って呑み込む。
その笑顔は本当に嬉しそうなもので、カナデはやはり呆れつつも『次これ』と言って別の料理を口に運んでやる。
正直『何なんだコレ』と言う気持ちと、仕方ないな、という複雑な感情が入り混じっているが、やらなければ余計に面倒な事になるのは明白なので我慢する事にした。
そんな二人を鍾離は静かに眺めながら箸を慣れたようにすすめている。
その表情は、穏やかであり満足げであった。
だが、ふと箸を止めた鍾離が二人を見ながら口を開く。
「……公子殿はもう箸が使える様になっていなかったか?」
それは素朴な疑問だったのだろう。鍾離はそんな当たり前の疑問を目の前の二人に投げかけた。
その瞬間、二人は動きを止めると数秒程沈黙が流れた後――カナデが箸を置いた。そして、溜息を吐きながら頭を抱える。
「………ちょっと、『公子』くん?どういう事?」
その言葉で途端に眉を釣りあげたカナデの質問に慌てた様子で『えっ』と呟いた後、しどろもどろになりながら弁解する。
「……い、いや、確かに練習はしていたけれど、それ以外の事もしてるんだよ」
と、言うもののカナデから冷たい視線が突き刺さる。それに更に焦りながら言葉を紡いだ。
「だから……ほら、その。それに数日しかいなかった訳だし……!」
「……じゃあ箸使って見なよ、ほら」
すると、カナデはタルタリヤに持っていた箸を差し出す。
しかし、それを彼は受け取らず『うぅん』と唸った。どうやら言うつもりは無いらしい。
そんな彼の態度に苛立ちを隠しきれ無かったカナデはにっこり微笑んだ。
「ほら、タルタリヤの箸使ってる所見てみたいな〜?頑張れ、頑張れ!」
「いや、あの「がんばれ〜!ファイト!」」
そう言いながらカナデは煽り続けた。それを見ている鍾離は楽しそうに笑っており、全く止める気配は無い。
寧ろ楽しんでいる様子だ。
「ちょ、ちょっ「ほら、イけるイける!頑張って~」」
「……」
結局、笑顔で圧のあるカナデの視線に耐え切れなくなったのか『くっ……』と小さく唸ると諦めた様に箸を手にした。
そして、恐る恐ると言った感じで料理を口に運ぶ。
そして、意を決して口に放り込んだ後――ゆっくりと咀嚼し始めた。
その様子をカナデと鍾離はじっと見つめている。
その視線の圧に耐え切れずか、数分程かけて何とか飲み込み終えた。
「………マジで使えるじゃん。ちょっと、人が頑張って教えようとしても聞かないし、食べさせなきゃ圧かけてくるくせに。どういう事?直ぐに使い方マスターしてるよね?ね?流石武芸マスターだねぇ?」
カナデはジト目でタルタリヤを睨みながら文句を言うと、彼は視線を逸らしつつ答える。
「いや……それは、その……」
「言い訳しないで、ほら。もう一回。早くしてよ」
カナデの言葉に促されるまま、彼は再び箸を手に取ると料理を口に運ぶ。その動作は先程よりもスムーズになっており、特に苦労している様子は無い。
それを見ていたカナデは、また溜息を吐く。
「今度から自分で食べなさい。そもそもおかしいと思ったよ。色んな武器の使い方上手い癖に、箸使えない訳無いじゃん。覚える気が無かっただけでしょ」
その言葉に申し訳なさそうに視線を逸らした後、ぽつりと呟く。
「……うん、まぁ……だって」
「なに?」
「君に甘やかされるの、好きだから」
その言葉にカナデは一瞬固まった後、一気に顔を真っ赤に染め上げた。そして、張り上げた声で叫んだ。
「なっ……!こ、こう言う時に言わないでくれるかな!?タイミングを見計らうの下手だなぁ!!?」
その様子を見ていた鍾離はただ一言『ははは』と笑い声を上げた後、更に煽るようにこう言った。
「カナデは公子殿を甘やかすのは好きなのか?」
「……オイコラ、追撃するな。いい大人が」
カナデは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべながら鍾離に言うが、彼は意に介さず笑い続ける。
その笑顔がとても楽しそうで腹立たしい。
文句の一つでも言ってやりたいが、これ以上からかっても更にからかわれる未来しか見えない為諦める事にした。
――のだが、目の前のタルタリヤが再び口を開いた。
「ふーん、やっぱり俺の事好きなんだね、カナデは?」
ニヤニヤしながら言われた言葉に思わず反応してしまう。
「な……!君マジ本当に後で覚えとけよ……!本当!そう言う所が、ああもう!」
これ以上何かを言っても無駄だと思ったカナデは、大きく溜息を吐いた後――何とか気持ちを落ち着かせる為にお茶を飲み始めた。
そんな様子を眺めながら二人は顔を見合わせて微笑んでいた。
そして、食事も終わり食後のデザートまで堪能した後、カナデ達は琉璃亭を後にした。
──のだが、琉璃亭の前で話している蛍とパイモンの姿があった。
話を聞くと、どうやら琉璃亭で食事がしたいと言うような話をしている様だ。
「そうだ!『琉璃亭』から出てきたなら、どうやって予約したらいいのか教えてくれないか?」
「ん?俺がいれば予約は簡単さ」
パイモンが尋ねると、タルタリヤが直ぐ様答える。
その言葉にカナデは嫌な予感を覚えたが、パイモンがそれに気づく様子は無く、彼は口を開く。
「え、本当か!お前も“たまには”いいとこ――」「 ――ありがとう!」
「ただ――」
「ただ?」
「 君たち、鍛冶屋に行ってたんだろう?随分と散財したんじゃないかい?代わりに予約をしてやることはできるけど、『琉璃亭』は一般人にはちと手が届きにくい価格でね。」
「一般人の基準で考えれば、確かにそうだろうな」
タルタリヤが告げると、鍾離が補足する。
まあ、カナデもそうだろうな、と思う。
しかしながら、タルタリヤが基本的に支払いをしていたし、鍾離も何かあれば往来堂等に支払いを頼んでいる。
カナデも冒険者ではあるが、家電用具や冒険者として必要なもの以外は基本的に買わないし、報酬として食材を貰ったりするのである程度貯金はある。
だが、パイモンはふと疑問に思った。
「なんでお前は、オイラたちが鍛冶屋に行ってたことを知ってるんだ?」
先程までタルタリヤはカナデと鍾離とこの店で食事をしており、その前にはパイモンや蛍には会っていない筈だ。
なのに、何故知っているのか。
その疑問を口にしたパイモンに、タルタリヤは小さく、少し愉快そうに笑って見せる。
「……ひみつ、かな。」
それを見てパイモンは疑問そうにしていたが、彼が執行官な事を思い出し、話を切り替える事にした様だ。
何か思いついたように笑顔を浮かべて、ふわふわ浮いたまま、蛍に向き直る。
「そうだ、旅人!バイトしようぜ!」
「食事のためにバイトしてモラを稼ぐと?ふむ、実に興味深い。」
それを聞いた鍾離は目を細めながら楽しげに言うと、タルタリヤも同じ様に笑みを浮かべた。
すると、少し歩いたかと思えばパイモンを手で呼び寄せる。
どうやら内緒話がある様だ。
パイモンは不思議そうな顔でタルタリヤに近づくと、タルタリヤは何かを耳打ちし始める。
―それから少ししてパイモンが笑顔を浮かべると、蛍を見ながら口を開く。
「見てろよ!蛍なら、ごちそうをたらふく食べられるくらいのモラを簡単に稼ぐからな!」
「えっ?」
「こいつが稼いでモラを持ってきたら予約しといてくれるって約束してくれたぞ!」
パイモンは得意げな顔で胸を張りながら蛍に言う。
そんな様子を見て、カナデはジト目で、何か企んでるな、と思いながらタルタリヤを見つめたが、タルタリヤは気にせずカナデと鍾離の元に行き『稼いだバイト代全てを使って食事を馳走してくれるって』と小さな声で囁く。
「ちょっと……小さな子に何約束してるの……」
「おチビちゃんから言い出したんだよ?それに……面白そうだから手伝おうよ?彼女達だけじゃ不安だしね?」
「私は別にいいけど……君は後始末とかいいわけ?仕事は?」
「ああ、そんなのはどうにでもなるさ。先生はどうする?」
「俺は……ふむ……。ああ、勿論構わないぞ。」
鍾離は何か考えていた様子だったが、最後には了承の返事をしたのを見て、カナデは溜息を吐いたが、仕方なく口を開いた。
「はあ……まったく、仕方ないな……。君は言ったら聞かないし……。仕方ない、私も協力するよ」
「流石、カナデ。そう言ってくれると思ってたよ」
カナデの返答にタルタリヤは満足そう笑みを浮かべると、彼はパイモンと蛍に向き直る。
「お嬢ちゃん。良かったら俺達も『バイト』に混ぜてくれないかな?」
「えっ?こう……「『タルタリヤ!』や私達も手伝うよ。ね、鍾離!」「ああ。構わんぞ」」
突然、カナデが会話に割り込んで鍾離に同意を求めると、彼も頷く。
流石にこの場で『公子』だと言われたら困るので、そう呼ぶ様に強調したのだ。
その光景を見た蛍は首を傾げたが『まあ、いいけど……』と返答する。
「……とりあえず、バイトと言えば受けれる場所に心当たりがあるから、蛍達は着いてきて。タルタリヤは予約しといて、いい?」
「ん?構わないよ」
カナデが蛍に伝えると、タルタリヤは頷いて承諾してくれた。
それを確認後、カナデは蛍達を連れ、その場を離れる事にした。
どんな話がみたいですか? 参考にいたします!
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