「今度は私とタルタリヤと式大将だけ秘境の中か……2人はどう思う?」
カナデが溜息をつきながらそう発言すると、『式大将』はカナデの方を向きながら口を動かす。
「また『再構築』するまで待って皆が来るのを待った方が安全じゃないか? リスクを減らすことができる」
「まあ、そうだね。普通はそうなんだけどさ……そこに明らかに戦いたそうな人がいるから」
カナデはそう言いながら、『式大将』の後ろにいるタルタリヤを指差す。
彼は辺りを確認をするように、辺りを見渡しながら、剣の持ち手を握り直したりしていた。
「あはは、バレた?」
「バレないと思ったの? 君の考えはまるっとお見通しだよ」
「流石カナデだね。でも、こんな状況でただじっと待機していられないのは……人間の性だろ?」
「まあ確かに。君は大人しくしてられない男だもんね。ま、蛍達は大丈夫だと思うし、先に進んでていいよ。怪我したり、何か罠があったら報告してね。式大将もタルタリヤの道案内お願いしてもいい?」
カナデは式大将に向き直ると、申し訳なさそうな声でそう言う。
「……いいのかい?」
「うん、タルタリヤは単独行動でこそ本領を発揮するタイプなんだ。多分この辺りの魔物の戦闘パターンにも慣れてきてるだろうし、先に1人で行っても問題は無いと思う。それに私は探索する方が得意なんだ。手記がないか、トラップの法則性がないかとか確認しながら歩くのが性に合う。だから、2人の方が効率的だと思うんだ」
「わかった。でも……本当に1人で大丈夫かい? 君は……その」
「大丈夫、私は沢山『冒険』してきたからね。それに……──」
カナデは式大将にそう伝えると、近くにいたタルタリヤに視線を移す。
「『
「アハハ、それは違いないね」
カナデの言葉に、タルタリヤは軽く笑いながら答える。
それだけで2人に、信頼関係ができているのだろうという事が見て取れた。
「うん。じゃ、そういうことで行って来てよ」
「うん、君も気をつけて」
そう言葉を交わすと、カナデは先に行くタルタリヤ達に軽く手を振って見送る。
「さて……まずはどこから行こうかな」
それから、カナデは周囲を見渡し、何か変化がないか確認し始めた。
カナデがとある小部屋で休憩していると、扉が突然開き、「カナデ! 無事か!?」と慌てた様子のパイモンが出て来た。
どうやら時間がたって、外から入れるように変わったらしい。
そのパイモンの後ろには、蛍と辛炎もおり「カナデ! 良かった……」と安堵したように蛍は声をかけてきた。
「ごめんね、心配かけて」
「いや! 気にするなよ! で、式大将と公子は?」
「今、秘境の探索をしてるよ。私は休憩中、奥にいるからそろそろ合流しようか」
カナデはそう言いながら、床から立ち上がると歩き始める。
そんなカナデの後を、3人は慌てて追いかけ始めた。
※※※
それから先に進んでいると、魔物の叫び声が遠くから聞こえ、パイモンが『うわぁ!?』と飛び上がった。
「な、なんだ……!?」
「あー。タルタリヤが暴れてるんでしょ」
「え?」
そんなパイモンの言葉に、カナデは淡々とした様子でそう答える。
その言葉にパイモンはポカン、とした表情を浮かべた。
「さっきからチラホラ戦闘の音が聞こえるんだ」
「大丈夫なのか、それ?」
カナデの言葉に、辛炎は心配そうな表情をしたが、『大丈夫』とカナデはハッキリとした口調で返す。
「あの人、戦闘になるとバーサーカーみたいだから。むしろ近づかない方が安全」
「でも……カナデは心配じゃないの?」
蛍がそう聞くと、カナデは少し考えたあと、口を開いた。
「引きどころはわかる人だからね。『闘う』事に執着してる訳で『死んだら戦えない』って理解はしてるから大丈夫。それに今は式大将もいるから、そうそう変なことはしないと思う」
「ああ、確かに」
カナデがそう話すと、蛍も納得したように頷いた。
そして、カナデ達はまた先に進んでいく。
すると、奥から誰かが走っているような音が聞こえた。
その足音にいち早く気付いた蛍は、反射的に身構えるがカナデが「大丈夫」と制止する。
その足音の人物の前に、浮遊した物体が、カナデ達の前に姿を表した。
「みんな、戻ってきたのか!」
──式大将が嬉々とした声音で、カナデ達にそう声をかけた。
「式大将、無事だったんだな。よかったぞ!」
パイモンが嬉しそうにそう告げると、『式大将』は、『うん、僕は無事だよ』と返す。
それから式大将の後ろからは、『やあ』と軽い口調で、剣を仕舞いながらタルタリヤが現れた。
「あ、兄ちゃん無事だったんだな」
「ああ、うん。まあね」
辛炎の驚いたような言葉に、タルタリヤは軽く頷く。
「とりあえずこの辺りの魔物は一掃したから、安心していいよ」
「うん、おつかれ様。怪我は無い? 大丈夫?」
「ああ、全然」
カナデの質問に、タルタリヤは軽く首を横に振りながら答えた。
その様子を見て、『大丈夫そうだね』とカナデは少し安心した様子で呟く。
タルタリヤはたまに向こうみずな行動や、死にたがりみたいな行動をすることがあるため、本当はカナデは少しばかり心配だったのだ。
「人も揃ったことだし、最後の答えを探しに行く時が来たね」
「ああ、あんたらは、なかなか辛い一戦をしてたみたいだな」
辛炎の労りの言葉にタルタリヤは軽く笑いながら『一戦? アハハッ……もう何戦したかすらも覚えていないよ。俺が本領を発揮した姿も悪くなかっただろ、『式大将』!』と『式大将』に同意を求めるかのように話す。
「ああ! タルタリヤさんはこの秘境にすごく詳しくて、どんなに強い魔物でも完璧に対応できていた。僕たちなら、この秘境の最深部まで辿り着けると思う」
「おっ? 一緒に何日かいて、けっこう仲良くなったみたいだな」
「ハハッ、もう戦友さ。再構築の間、「式大将」から聞いたんだけど、一番重要とも言える拓本の出現を感じたらしい。すぐ近くにあるみたいだ」
「あの「拓本」に込められた符術の力は、他のものを遥かに超える。回収がうまくいけば、この秘境の真相を思い出すことができるはずだ」
「近くにある? なんで取りに行ってないんだ?」
パイモンが疑問の声を上げると、辛炎は『もしかして……』と、何か思い当たったのか口を開く。
「『式大将』……あんた、アタイたちを待ってたのか?」
「…… みんなのおかげで、僕はここまで来られた。僕の記憶は、君たちのおかげで少しずつ取り戻せたんだ。最後の一番重要な一刻は……みんなに見届けてもらいたい」
『式大将』はそう言うと、真剣な声音でそう答えた。
その答えに、辛炎は『……そうか、わかった』と一言だけ言葉を発したのだった。
その会話を聞いていた蛍達は手元の『拓本』を式大将に手渡す。
そして『式大将』は、両手の指先を動かしながら『拓本』を読み込んだ。
「ずっと散り散りになっていた記憶が、ようやく一つの形になった。すべて思い出したよ……この「訣籙陰陽寮」の過去……そしてその本質を。ここは「陰陽師」を実験する場所でも、邪悪なものを生む巣窟でもない。晴之介が僕とこの秘境を作った目的は……「守護」するためだ」
「
すると、式大将は語り出す。
───僕たちの国は、かつてある災害に見舞われたことがあった。それが原因で、晴之介の一番大事な人が奪われてしまったんだ……
──晴之介は深く悔やんだ。その時から、彼は邪悪を制御する力を渇望するようになった。
──彼は海を渡り璃月へ行き、仙人を訪ねた。仙法を修行し、その奥深き術と自身が長年研究してきた「神通」を組み合わせ、最古の「陰陽術」を編み出した。
──その後、彼は国に尽くす有志の武士を招集し、僕とこの陰陽寮を作ったんだ。そして僕を原型にした「拓本」を数多く製作し、それらを武士に分け与えた。
──武士と「式神」が組み、符術と武道を駆使し、より確実に魔物を滅する。
──彼らは二人一組となり、外で魔物と戦った。そして戦いに負けた魔物の情報を、「式神」によって書き記した。
──秘境に戻ってから、その情報をもとに「鏡の魔物」の姿として再現し、武士たちの訓練相手としていた。
──僕は「式神」の統率者として、「拓本」たちの見聞や経験を吸収しながら、秘境の構造を調整し、武士たちにより効果的な訓練を提供していたんだ。
──そして時が経てば、これらの志の高い武士たちは、とてつもなく高い武術を身に着けることができる。彼らが離れれば、また新たな新人がやって来て、新たな見聞、新たな相手……それらを繰り返していった。
「演武の秘境だったの?」
「道理で終わらない戦いが続いていたわけだ……ここは元々訓練場だったようだね」
「だと思った。なんか規則性があったし」
タルタリヤが呟くと、それにカナデは同意するように頷く。
そんな会話をしていると、パイモンが疑問の声を上げた。
「つまり、惟神晴之介がこの陰陽寮を作ったのは、武士を訓練して、より効果的に魔物に対抗するためだったってことか? じゃあそいつ、立派な良い人だったってことじゃないか?」
「もしそうだったら、なんで秘境の奥深くに隠れる必要があるんだよ」
パイモンの発言に、辛炎は不思議そうに返すと、式大将は『いや、晴之介は……』と話を続けた。
「彼はもうとっくに寮内にはいない。なぜかは分からないが、晴之介はすべての武士を追い出し、この秘境を廃棄した。その記憶……最後の欠片は、まだ思い出せていない……それどころか、晴之介が離れる時、僕に何を言ったかさえも思い出せない」
「離れたってことは……まだ生きてるのか?」
「たぶん。少なくとも……僕はそうだと願っている。僕は晴之介に創造された一種の「兵器」だ。僕と陰陽寮の使命は、戦いを作り続け、自分と他人を磨き上げていくこと。しかし今となっては、この秘境も意味のないものとなった。君たち以外、他に来る人もいない……主に見捨てられた兵器に、一体なんの価値があると言うのだろうか……」
「なんかすごく悲しそうだ……」
パイモンが式大将の様子を見ながら、つられたように悲しげにそう呟く。
重い空気。
だが──そんな中、タルタリヤだけは笑いながら、口を開いた
「主に見捨てられた兵器……アハハッ。兵器になるのも悪くないんじゃないかな? 戦いに沈んだ者は、みな自らの意義と価値を追い求めている」
「そう、なのか?」
「君は俺の秘密に興味があっただろ? どうして俺が秘境の排斥に抗うことができるのか、どうして俺がこんな複雑な戦局に対応できるのか。
俺はただ「木の根」の隙間で戦ったことがあるだけなんだ。
果てしない苦境、命懸けの危険……それら養分を得ることでのみ、俺はより早く強くなれる。俺が欲しいのは勝利ではなく、磨くこと。自らを鋭利に尖らせ、恐れられる存在になる。
「だったら……君の追い求めている戦い……その終点は一体どこにあるんだ?」
「終点を追い求めるのは、終わることを望む者だけさ。俺は違う。
そんな無意味なことなんて、まったく気にしていない。
俺は戦うために生まれた。俺が生きている限り、終点は現れない……俺の選んだ道は、
戸惑いを捨てろ。悲しみと迷いを抱えたままでは、無情な兵器にはなれない」
そう話すタルタリヤは迷い無い瞳をしていた。
強い意志と覚悟。揺るがぬ信念と覚悟。
カナデはそんな強い意志を持つ彼を見るのが好きだ。
勿論、だからこそ鍛えられた鋼の様な、彼の強さも。
「どうやったら捨てることができる?」
式大将は揺れた心のまま、つい、タルタリヤにそう聞いてしまう。
そんな中、辛炎は『アタイが思うに』と、話に割って入ってくる。
「捨てるっていうのは一種の表現じゃないか? 別に本当に何かを捨てるわけじゃない。『式大将』、あんたは何も捨てなくていい。あんたは記憶を取り戻したばかりだ。今こそ過去を拾うチャンスなんだよ。あんたにとって正しくて重要なこと、それを取り戻せればそれでいいんだ」
「正しくて重要な……こと?」
「アタイにはあるぜ。アタイはロックが好きだ。ロックが好きなやつはあまり多くないだろ? 確かに人気はないが、それでも大丈夫。楽しけりゃあそれでいい! 他のやつらが好きかどうかなんて、アタイとまったく関係ないと思わないか? アタイは自分のやりたいことしかやらないぜ! たとえ冷たい目で見られても、放っておけ! アタイの音楽は、端っから分からないやつのために聴かせるもんじゃねぇ」
辛炎のその言葉は、ある種『ロック』と呼べるものなのかもしれない。
実際、彼女の歌声を聴けば、最初は訝しげな璃月の千岩軍も、いつのまにか彼女の歌に聴き入っていた事がある。
それは辛炎自身が、様々な苦難をものともせず、自分の好きなことをやり通してきたからこそだろう。
「曲……たしか僕のために弾いてくれた、あの『試験』」
「一人寂しく道を歩き、たまに篝火のそばで人に会って、みんなで一緒に焼き魚を食べてた。そうあんたは言ってたけど。そういうのが理解できてる時点で、
人はみんな多かれ少なかれ、そういった孤独な道を歩んだことがある。あんたもそこにいる、ならあんたはアタイたちの仲間だ。だからこそ篝火のそばで出会い、友達になれたのさ。
道は険しいが、アタイたちは孤独じゃない「式大将」、これがアタイの音楽にある言語で、正しいことを続けた収穫だ。あんたは?
「僕が……やらなきゃいけないこと」
辛炎の言葉に、式大将は思案するように俯く。
「ああ、それはちょっとわかる。私は全ての生命には『役割と運命』があると思う」
「カナデ?」
突然、そう話し始めたカナデに、蛍は驚いたような声を上げる。しかし、カナデは気にした様子もなく言葉を続けた。
「そう。『命の星座』のようにね。
───例えば、こんな話がある。
『とある国の王様がいた。彼はとある化け物から人々を守っていて、民からは慕われていた。でも、彼はその国を去った。その理由は簡単。その化け物も王様だったんだよ。『自作自演』だった訳』
……諸行無常。盛者必衰。私はその話を聞いた時、その世界が『民が安全に文明を発展出来るようにする為に、『繁栄させる為の犠牲』として王様が生贄となったのだと思った。
『偉い人』や『英雄』って言うのは、様々な気持ちを受け止める為の指導者だと私は思うから」
「なるほどな。『式大将』、あんたは今何をやりたい?」
辛炎はそう質問を投げかけると、式大将は顔を上げる。
「辛炎さん……今はまだ君のようにはなれないけど……僕は分かっている、このまま立ち止まっていてはいけないと。前に進もう、みんな! 最後の「拓本」を取り戻したい……いや、取り戻して、この秘境を再び掌握する。きっと……僕にできることはまだあるはずだ」
「おう、気を取り直して行こう! まだ戦いが残ってるぜ! みんな一緒に進めば、問題ない!」
『式大将』の言葉に、パイモンは頷く。
そうして一行は秘境の更に奥へと進んでいった。
※※※
───惟神様。訓練を受けた武士の6割が負傷し、式神の消耗も予想を遥かに超えています。それに……外界の情勢が安定してきた今、我々が究極の武芸を追求する必要はあるのでしょうか?
───どうして恐れる? 小生はとっくに分かっていた……。
───晴之介。はっきり言うが、彼女はもう戻ってこない……。
───小生はただ、彼女の後代を助け、この領土を守りたいだけだ。滅すべき対象がなくなり、守るべき人も平和を得た今……我々の使命は、終わったと言えよう……。小生は、時が許すなら、一生ここで守護し続けられるとずっと信じていた……。このような言い方は、小生自身を危うく騙してしまうところだった。お主は決して、
───安心してくれ晴之介。僕は分かっている。君が稲妻のためにしてきたことは、他人が意味を与えていいものじゃない。そして、僕の存在もそれと同じ。
───当初、お主に「霊性」を注ぎ込み、人の感情を理解できるようにさせたが、やはり正解だった……。結局、小生を啓発してくれたのは、お主だったな「朝に紅顔あって世路に誇れども」「暮に白骨となって郊原に朽ちぬ」。いい言葉だ……。これでもう、小生に心残りはない。我が友、『式大将』よ。自らの使命をよく果たしてくれた。もう待つ必要もない。小生は、新たな意味を求めて、再び出発する時だ……。これでさよならだ。
──晴之介!
───どうか……。安寧であれ……
どんな話がみたいですか? 参考にいたします!
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