白星の君へ   作:F1さん

59 / 68
決意

 

「ああ、すべてを思い出した。晴之介に見放されたわけじゃない。僕は……僕は、彼を説得し、彼と一緒にこの……心の迷宮を出たんだ」

 

 式大将は、ぽつりとそう呟く。そして、自らの意思で一歩前に出た。

 

「晴之介は僕を見捨てたわけじゃない、僕が彼を啓発し、彼の抱えていた重荷を手放させたんだ。

僕と「訣籙陰陽寮」に対し、晴之介は美しい願いを持っていた。

強いて言うなら、生まれた時代を間違えただけなのかもしれない。武士たちは精一杯鍛錬し、その鍛錬も少しながら効果があると証明された。

しかし、凡人の力には限界がある。我々が作り出した進歩は……あまりにも遅いもの。僕たちが修行に奮闘していた時、あの「無想の一太刀」を振るう神が、勤勉で強大な戦士を引き連れ、この土地に埋もれていた災いを根絶やしにした。みんなの努力が突如として不要なものになった……そんな結果を受け入れられる人なんていない」

「神の力は時に残酷だからね」

 

 蛍はそんな式大将の様子を見て、少し眉を寄せ、苦しげにそう呟く。

 

「まったく想像できない……でもどこかで似た話を聞いたような……」

「僕は混乱し、落ち込み、すべてを疑った。しかし僕たちの作った結果、僕たちの払った代価、それらがたとえどんなに小さなものでも、実際に存在していたものだったんだ。

いずれにしても、晴之介と武士たちの望んでいた「目標」は達成され、武士たちも精一杯訓練する必要がなくなった……

 それは元々祝福すべきことだった。だが晴之介は情がありすぎたゆえ、世間のあらゆるものを気にかけ、自身の失ったものに固執したのだろう。「守護」は我々の共同の願いだった。晴之介はみんなを守ろうとした

……ならば、僕は晴之介を守ろう。晴之介の最も満足する造物として、彼が「訣籙陰陽寮」にいた時の唯一の友として、僕は彼を導いた。

彼は僕に言っていたよ。新たな「意義」を探しに行くと。一ヶ月かかるかもしれないし、一年、何百年かかるかもしれない。どんなに長くても、僕はいつの日か彼が願いを叶え、ここへ戻ってくることを願っている。来る日も来る日も待ち続け、僕は深い眠りについた……。

はぁ……晴之介よ、君はもう戻っては来ないだろう」

 

 そう話す式大将は、今にも泣きそうな声だった。

 その様子を見て、辛炎は一歩前に進み出て言う。

 

「そんな悲しむなって、『式大将』」

「惟神晴之介はあんなに強い仙法を学んで、「神通」だって身につけてる。もしかしたら不老不死になってるんじゃないか?」

 

 そう語りかける辛炎の言葉を、パイモンが引き継いだ。

 

「まあ、この世界には様々な長寿の生物もいるしね。メリュジーヌとか」

 

 カナデがそう言うと、パイモンは相槌を打つようにうんうんと頷く。

 メリュジーヌはフォンテーヌにいる生物で、人型だが、ウミウシの様な姿をしている。

 ポテポテとしており、可愛らしい外見をしているため、一部の界隈では人気があるらしい。

 

「外に行けば新しい出会いもあるかもしれないし。どうかな、式大将」

「……カナデさん。うん。みんな、もう決めたよ。

晴之介がこの世にいてもいなくても、僕は彼のために生きるのはやめる。君たちに会ってから、一つ学んだことがある。信じることだ。晴之介は自分の道を歩んでいる、僕はそう信じる

 

 ……そして僕自身も、そんな道を歩んで行けると信じてる。

 

 この世に生まれ落ちた時から、僕たちは孤独の果てに向かって歩んでいる。

だけど霧の中には火の光があり、夜空の下には新たな仲間がいる。

……僕たちの使命が、長い旅によって終わることはない。晴之介のやったすべてに価値がある。

そして僕の「意義」こそ、僕の使命なんだ。

この点についてはずっと変わらないし、奪われることもない。

我こそは武人を補佐する「式神」が長「式大将」、この「訣籙陰陽寮」不変の寮司。我が責務は武人を補佐し、武道を極限まで鍛え上げる者に手を差し伸べること。

世の中にはまだ、高き山を登る者が必ずいる。僕はその山々の綱となり、彼らの武器となり、彼らと共に頂へ向かおう」

 

 式大将は、蛍たちの方を向き、言う。

 その言葉には、強い決意が満ちていた。

『式大将 』のその言葉に、辛炎は頷く。

 

「よし、その意気だぜ!」

「やっと答えを見つけたね。私もすごく啓発された」

「記憶が完全に戻った式大将は……なんだかすごく頼りになる感じだな!」

 

 パイモンは、式大将が記憶を取り戻したことを喜び、いつもより高く浮き上がる。

 

「すでに『訣籙陰陽寮』は再び制御した。

今後『鏡の魔物』が逃げ出すことはない。

今回のことも、これで終わりだ。あと何日かすれば、符術の力の脈絡を整理し、『訣籙陰陽寮』を元通りに戻すことができる。

──ここは予測不能でありながら、安全で頼れる試練の地。今後は僕もここをずっと守護し、武道を極める者に最も効果的な試練を与えよう。

天領奉行もそろそろ秘境に入る頃合いだ。彼らが来たら、僕が今回の事を詳しく説明する。それについては、僕に任せてくれ」

 

 そう言って式大将は、にっこりと笑う(表情に出ないが、何となく雰囲気で分かる)。

 その様子を見てパイモンは心強さを感じたのか、更に嬉しそうに宙返りをする。

 

「わかった、つまりオイラたちは後処理をしなくてもいいんだな? ん~オイラ、こういうなにも気にしなくていい感じ、すごく好きだぞ!」

「君たちのおかげで、僕は真の自分を取り戻せた。少しばかりの礼を用意した。みんなの恩とは比べ物にならないが、少しは役に立つだろう」

 

 すると、式大将は符術の力を凝集し、「拓本」を一枚、蛍に渡す。

 

「「拓本」?」

「彼のことは、「式小将」と呼んでくれ。

「式小将」は他の「拓本」と違い、大陸のどこにいても、僕と連絡を取り合える。『訣籙陰陽寮』を離れれば、彼は『式札』と符術を使うことができなくなるが、君たちを加護することはできるだろう。彼を連れて各地を渡り歩けば、僕をそばに置いて連れ歩くのと同じ……」

 

 式大将は段々と悲しげな雰囲気を纏いながらも、蛍にそう説明する。

 

「わかった、大事にするよ」

 

 蛍は式札を受け取り、それを大事そうにしまった。

 辛炎は式大将の様子を見て、明るい声で、彼に話を投げかける。

 

「おい! そんなしょげたこと言うな、アタイたちはまだここにいるだろ。

それに、旅人と九条裟羅さん、北斗さんのおかげで、アタイが稲妻に来るのもそこまで難しいことじゃねぇ。

もしかしたら、たまにまたここに来て、あんたに会いに来るかもしれねぇぜ!」

「辛炎さん……それは……君の時間をとってしまうことになる」

 

 式大将は、辛炎に申し訳なさそうな声でそう言った。

 そんな様子の式大将に対して、辛炎は明るく笑い、『聞くが、ロックはどうだった?』と尋ねる。

 

「ロック……僕にとっては、非常にいい音楽だった」

「それだけで十分だ。アタイは音楽の良さを知っている人にしか演奏しない。みんな、よく聴けよ、アタイが一曲奏でてやる!」

「えっ!? ここで曲を弾くのか!?」

 

 パイモンは驚いたような声を上げる。

 だが、気にせずに辛炎は彼女専用のギターをその手に持っていた。

そして、軽くギターを弾き始める。

 その辛炎のギターの腕は確かで、次第に演奏に熱が入り始める。

 蛍やパイモン、式大将は、目をつぶってその演奏を聴き入る。

 

 カナデはそれを見て小さく微笑んでいると、隣にいたタルタリヤが無言で少し離れると、カナデを手招きした。

 カナデはどうしたのかと首を傾げながら、彼に近寄ると、そのまま手を引かれる。

 

「え、ちょっ」

 

 カナデは思わず声を上げたが、すぐに口を噤んだ。

 なぜなら蛍たちが演奏に集中しているからだ。

これ以上声をかけて邪魔をしてはいけないと、カナデは口を閉ざした。

 訳も分からず手を引かれ、歩いているとしばらくして、彼は足を止めた。

 

※※※

 

「急にごめんね」

 

 珍しく少し申し訳なさそうな顔をして謝るタルタリヤに、カナデは首を振る。

 

「大丈夫だけど……。あのさ、何かもしかして隠し事してない?」

 

 そう訝しげに見るカナデに、彼は驚いたように目を見開く。

 そしてゆっくりと目を細めた後、小さく息をついた。

 

「やっぱり、君相手に隠し事はできないか。……カナデは『散兵』を知っているよね。君は『散兵』と会ったことがあるだろ?」

「……確かに、彼のことは知っているけど。それがどうかしたの?」

「実は──……」

「おいっ──! 公子! どこ行くんだよ、まさか、こっそり逃げようとしてるんじゃないよな!」

 

 突然、パイモンの大きな声によって、言いかけた言葉はかき消されてしまった。

 どうやらいつの間にか演奏は終わっていたらしい。

 

「逃げる? 俺はただ、休憩する場所を探して、考え事をしようとしていただけだよ。旅人、俺が調査していたことを君に教える時が来たね」

「……これまでの私の経験と関係してる?」

「ああ、正解だ。やっぱり鋭いね。君の目は人の心を見透かしてるんじゃないかって、時々疑ってしまうよ」

 

 タルタリヤはそう言うと蛍と視線を交わして静かに語り始めた。

 

「今回はすごく楽しかった、正直、稲妻はかなり好きだよ……些細な厄介事……そして、それがもたらす影響を考えなければね。

元々は、この秘境が「散兵」と関係していると思い、ここへ来たのさ。だけど、彼はいなかった。「神の心」を持った「散兵」は俺たちと連絡を絶った……これにはおそらく何か裏がある。

だが「散兵」がこんなことをするのも、俺はまったく予想していなかったわけじゃないよ

……俺が戦いを求めてファトゥスになったのと同じように、ファトゥスの多くは自分の目的を持っている。あの「心」はもう少し泳がせておこう。いつか、どこに行ったのかが分かる。その時は、君ならどう選択する? 旅人、()()()()()()()()()()()()()?」

 

 そう話を締めくくって、彼は笑った。

 だが、蛍はその言葉には答えず、ただ静かに彼を見つめるだけだった。

 カナデは少し考えたように目を瞑っていたが、口を開く。

 

「……タルタリヤ。私は執行官の事にはあまり詳しくないけれど。『散兵』の事は()()()()()()

 

『散兵』とは、ファトゥスの一人である『スカラマシュ』という少年のことである。

 彼は見た目は少年だが4〜500年は生きる人形だ。

 常に生意気で、高慢な性格をしている。

 

「君に会うために前に連れて行って貰った事もある。『散兵』はファデュイの『博士』が『散兵』を実験体にしているんだよね」

 

 カナデがそう言うと、蛍は驚いたように目を見開く。

 

「『博士』は紳士ぶっているけど中身はマッドサイエンティスト。様々な年齢の自分を作って、日によって使い分けている。……私は、彼は兎も角、あの人が苦手。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう、カナデは眉をひそめながら吐き捨てるように言った。

 カナデが中々しない様な、恨みの籠もった声。

 その声を聞いた瞬間、パイモンはびくりと体を震わせた。

しかし、彼女のその表情はすぐにいつもの表情に戻る。そして何事も無かったかのように笑顔を作った。

 そんなカナデを、パイモンは不安そうに見るが、彼女は気付かないふりをして口を開く。

 

「そんなのはいいよね。ごめん。関係ない事だね。

それより、『散兵』は稲妻にいい思いは持っていない。彼は稲妻で作られたから。『雷電将軍』を模して作られた彼は、捨てられ『力』を求めている。多分、『神として』作られた彼が『神になりたい』のは普通で当たり前の事だからね」

 

 カナデはそう言って目を細める。

 その姿はとても美しく、同時にどこか儚げに見えた。

 

「でも、私は『彼』が嫌いじゃない。あの子は優しいんだと私は思う。『彼』が『博士』に何をされているのか、私には分からない」

 

 カナデはそう言って目を伏せる。

 その表情からは『散兵』に対する強い想いが感じられた。

「優しい」というカナデの言葉に対して、パイモンは訝しげな表情を浮かべる。

 

「優しい? アイツがか? 人をおちょくって楽しんでいるだけにしか見えないけど……」

「……これまで聞いてはいなかったけれど、カナデ。君は『散兵』のことを知っているようだったけれど、いつから面識があったんだい?」

 

 そんなタルタリヤの質問に、カナデは困ったように笑う。

 

「数年前かな。……あの子は私にちょっと()()()

「似てる?」

 

 蛍が不思議そうに首を傾げると、カナデはこくりと小さく頷いた。

 確かに2人は稲妻人の様な外見をしているが、人助けを生業にするカナデと、人を殺す事を生業としているファデュイの『散兵』とでは、共通点は無いように思える。

 

 そんな疑問に答えるかのように、カナデは続けた。

 

「彼は孤独に慣れているし、私も孤独に慣れている。

でも、私は誰かがいたから歩みを止めなくても大丈夫だけど、彼はいないから、不安で、誰かを遠ざけている。私も、信じるのが心の奥底から怖かった時期があったから、それがすごくわかる」

 

 そう言って、カナデは静かに目を瞑って、小さく息を漏らす。

 そしてゆっくりと目を開き、微笑んだ。

 

「──でも私はもう大丈夫だから心配しないで。置いてかないって言ってくれた人がいるから」

 

───そして、目の前にいるタルタリヤに視線を向けた。

 

 彼は少し驚いたような表情をしたあと、すぐに優しい笑みを浮かべる。

 そんなタルタリヤの様子を見て、カナデは満足そうに笑ったが、慌てて話題を変えた。

 

「それにね、私も『神』になりたいんだよ。『魔女会』に入れる様な才能は無いからね。それが手っ取り早いから」

 

 そう言って、カナデは肩をすくめる。

 そんな彼女の物言いに、蛍とパイモンは驚いたように目を見開いたあと、ほぼ同時に口を開く。

 

「えっ!? カナデは神になりたいの!?」「神になりたいって、どういうこと!?」

 

 2人は酷く驚いているようだった。

 そんな2人に対してカナデは苦笑し、口を開く。

 

「ウェ……バルバトスから聞いた事が無い? 『天空の島』に行けば、神になることが出来るって。私が旅をしていたきっかけは……。そうだ、明日待ち合わせをしよう。ここで話すと長くなりそうだからね」

 

 カナデはウェンティの姿を思い浮かべながらそう言うと、少し考えるような素振りをする。

 そんな様子に蛍たちは不思議そうな顔を浮かべたが、直ぐに頷いた。

 

「分かった。……明日のお昼に稲妻城集合しよう。ほら、借りてた鳥も返さないといけないし」

 

 蛍がそう返すと、カナデは安心したように微笑んだ。

 

「うん、そうだね。辛炎には別に連絡するって伝えといて。……ほら、行こう、タルタリヤ」

 

 カナデは蛍たちにそう伝えて、タルタリヤの手を引っ張りながら出口に向かって歩き出す。

 

「ちょっ、カナデ!?」

 

 突然のことに驚きながらも、タルタリヤは手を引かれるがままに、彼女に着いて行った。

 

「それじゃ、また明日!」

 

 カナデは笑顔で手を振りながら出口へと急ぐ。

 そんな彼女の様子を見て蛍とパイモンは不思議そうに顔を見合わせるが、そのまま手を振って見送った。

 

どんな話がみたいですか? 参考にいたします!

  • タルタリヤ 番外編
  • ディルックルート
  • ディルックルート 番外編
  • 他キャラとの絡み
  • 過去話
  • タルタリヤ if
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。