白星の君へ   作:F1さん

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メイドの日(出遅れ)

スカーク引きます(素振り)
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「くっ……なんでこんな事に……」

 

 カナデは顔を赤らめたまま歪ませ、悔しそうに呟きながら目の前を歩く人物を睨んだ。

 何故なら、カナデは普段の動きやすさを重視したパンツスタイルとは違い、今の格好はメイド服と呼ばれる物だったからだ。

 

「そもそも……! きみって私が何着ても気にしないみたいなこと、前に言ってなかったっけ!?」

 

 カナデは前を歩く人物になぜ自分がメイド服を着なければいけないのか、後を追いながらその不満をぶつける。

 スカート丈は膝上なのがまだ救いだったが、普通の服のように生地が薄いためちょっとした動きでヒラヒラと裾が舞う。

 すると、目の前の青年が振り返り、その青い双眼が彼女を見下ろす。

 青年は基本的には誰かとの対話時には笑顔を浮かべているが、今はいつもより特に嬉しいのか屈託のない笑顔を浮かべていた。

 

「確かに、前にそう言ったね」

 

「じゃあなんで私はこんな格好をさせられてるの!? しかもこの衣装、どこから持ってきたわけ!?」

 

 カナデはそう叫びつつ、自分の今の格好を再確認させるようにスカートの裾を掴むと、その裾がまたヒラヒラとはためくのを視界の端で捉えて、さらに顔が熱くなる。

 

「別に俺の趣味じゃないよ? ただ、前に俺の部下達が『メイド服は男のロマンだ!』って騒いでるのを聞いてね、その時の俺には良く分からなかったけれど……うん。今なら少し分かる気がする」

 

「いや、もう、私を見ないで!? キビキビ歩いてくれないかな!? そして、この服をきみに持ってきた犯人を今すぐに教えてっ!! 今すぐ殴りに行くから!」

 

 カナデは立ち止まって頭から足先まで口元に手をおきながら眺めてくるタルタリヤに羞恥を誤魔化す様に叫んだ。

 片手は拳を作り、ぷるぷると震えるほど力強く握っている。

 

「まあまあ。似合ってるよ? うん。すごく」

「うれしくないが!?! ……別にメイド服を着る機会は何度か仕事であったから抵抗は無いけれど。着るのは大半がロングスカートだし……この服だと動きにくいんだよ」

 

 カナデはそうぼやくと、スカートをつまみ上げながら不満そうに眉を寄せた。

 戦ったらスカートの中が見えそうだ。

 一応スパッツは履いてはいるが、それでもあまり人に見せたい物ではない。

 

 しかし、そんなカナデの不満を他所に、タルタリヤはいつもの調子で話を続ける。

 

「まあ、そんなこと言わずにさ。心配しなくても俺が守るから、ね?」

「そういう問題じゃないんだけど?!? はぁ。きみって女心ってものが分からないよね。……で。これいつまで着ないといけないの? 出来れば早く脱ぎたいんだけど」

「もちろん、今日一日は着て貰うつもりだよ。せっかくだから、今日一日はメイドとして俺に仕えて貰おうかな。もちろん拒否権は無いよ」

「えぇ……せっかくって何? それに今日一日ってきみ、もしかして一日中こうして私を連れ回す気なわけ? 嫌だよ〜……。帰りたい」

 

 カナデは先程よりもげんなりしたように溜息を吐き出すと、肩を落とした。だが、それでも目の前の人物はペースを崩すことなく言葉を紡いでくる。

 

「そんな我儘は通らないよ? そもそもカナデが言い出したんじゃないか。手合わせで負けた方が勝った方のいう事を何でも一つ聞くって」

「確かに言ったけど……。まさかこんな服着させられるとは思わなかったから、つい……」

 

 カナデは今回の手合わせの条件を思い出しながら苦々しい表情をする。

 あの時は何となく勢いで言っただけで、ちょっと仕返しを出来たらと思っていただけだ。

 まさか本当にその条件をここで出して来るとは思いもしなかった。しかし今となっては後の祭りである。

 

「負けたから仕方ないとは思うけれど。はぁ、なんでこんな事に」

 

 カナデは身長差で自然とタルタリヤを見上げ、恨むような視線を送る。

 しかしそんな視線を物ともせず、彼はむしろ楽しんでいるかのように笑みを浮かべると、その青い瞳を細めた。

 

「でも約束は約束だからね。今日一日は、俺のメイドとしてしっかり働いて貰うよ?」

 

 その笑顔はまるで悪戯が成功した子供のようだった。しかしその表情とは裏腹に、その目の奥にある光は鋭く光っている。

 カナデはその目に見つめられると思わずドキリとしたが、すぐに首を横に振り、考えを振り払うと口を開いた。

 

「はぁ、もう分かったよ。こうなってしまった以上仕方ない。それに、私が負けたのは事情。……ただ、もし今度同じような事があって、私が勝ったら、その時は何でも言う事聞いてもらうからね?」

 

 カナデはじとっとした視線をタルタリヤに向け、苦虫を噛み潰したような表情で呟く。

 

「へぇ、俺に勝てると思ってるんだ。いいよ、その時は何でも言う事聞いてあげる」

「言質とった。よし、なら仕方ない。今日は一緒にいてあげる。ただし! 今日一日だけだからね」

 

 カナデはそう言うと腕を組みながらそっぽを向いた。しかし口元は緩んでおり、どこか満更でもなさそうな様子である。

 そんな彼女の態度を見て、タルタリヤも同じように顔を綻ばせた。そしてゆっくりと口を開く。

 

「うん、よろしく」

 

 そう言って彼は手を差し伸べてきたので、カナデはおずおずとその手を握り返す。するとそのままぐいっと引き寄せられて彼の腕の中に収まってしまった。

 

「ちょっ、いきなり何するの!?」

「いや、つい」「ついじゃない! もう。きみってばまったく油断も隙もないね! ほら、離してくれない?」

 

 カナデは語気を強めて言うが彼は微動だにしなかった。それどころか更に抱きしめる力を強くしてくる始末だ。

 

「ちょっ、くるしっ!!? 馬鹿力!? それに、もし誰かに見られたらどうするつもり??」

「その時はその時だよ」

「……きみってば本当に無責任だね。ほら、私はどこにも行かないから離して! もう」

「嫌だと言ったら?」

 

 そう言って微笑むタルタリヤの瞳は悪戯っぽい光を宿していて、カナデは言葉を詰まらせる。

 

 だが、ここで引き下がってはダメだと思い直し口を開いた。

 

「もう! きみってば本当に意地悪だね!? 分かった。じゃあこうしよう、離れてくれたら後でいいことしてあげるよ」

「いいこと?」

 

 カナデの発言に怪訝そうな顔をするタルタリヤだが、カナデは気にせず余裕たっぷりな表情で答えた。

 

「そう! ああ〜でも直ぐに離さないと気分が変わっちゃうかも〜〜」

「ふぅん、例えば?」

 

 挑発的な態度をしても、特に気にする様子もなく聞き返すタルタリヤを見てカナデは内心、舌打ちをする。

 

 しかしここで諦める訳にはいかない。

 

「ええ? 知りたいの? きみってやらしいんだね。でも……教えてあ〜げない」

 

 そう言って挑発するようにクスクスと笑うカナデの声色にはどこか小悪魔的な響きが含まれており、それがまた彼女の魅力を引き立てていた。

 その挑発的な態度は普段の彼女からは想像できないほど妖艶な雰囲気を漂わせており、それが逆に彼女の魅力を引き立てているようにも見えた。

 

「へぇ? じゃあ、教えてくれなくてもいいからこのままでいようか」

「えっ?」

 

 カナデは一瞬何を言われたのか理解できずに思わず素っ頓狂な声を上げてしまうがすぐに我に返り慌ててタルタリヤに反論する。

 

「ちょっと! それは困るんだけど!? ……というか効いてない!? ええっ、あんなに言い方変えたのに! ……実は私に興味なかったりする? ね、ねえちょっと! 魅力ないってこと?? それならそうとはっきり言ってよ!」

 

 カナデは顔を真っ赤にさせながら叫ぶように早口で捲し立てる。しかしそれも虚しく、タルタリヤはそんな態度も気にした様子なく、微笑み返す。

 

「別にそんなことはないよ? カナデのことは可愛いと思ってる」

「……嘘だぁ。じゃあさっきの余裕の態度は何?」

 

 カナデは眉を寄せながら疑い深い目で彼を見つめる。

 

 しかし彼は変わらず笑顔のまま、カナデの頭を優しく撫でてくるだけだった。

 

「本当だって。それとも証拠を見せようか?」

 

 そう言って彼はカナデの顎に手をかけると顔を近づけてきた。カナデは反射的に目を瞑るが特に唇に何の感触もなかったので恐る恐る目を開けてみる。

 すると目の前には悪戯っぽい笑みを浮かべる彼の顔があり、カナデは恥ずかしさのあまり顔を赤くさせた。

 

「……また騙した。卑怯者」

 

「あはは、ごめんごめん。つい反応が可愛くてさ」

 

 悪びれもなく言うタルタリヤの反応を見て、カナデはもうこれ以上何を言っても無駄だと悟ったのか大きな溜息を一つ吐いた。

 

 それから、足を踏みつける。

 

「いっ?!」

 

 痛みに顔を顰める彼を無視して、カナデはそのまま歩き始めた。

 

「ちょっ、待ってよ。どこに行くつもり?」

 

 慌てて追いかけてくるタルタリヤに対して、カナデは振り返らずに答える。

 

「守るって言った方が私に危害くわえてるじゃん。調子に乗るな、ばか。もうしらない!」

「ごめんって。謝るから許してよ、ね? あ、そうだ! お詫びに今日は君の好きな物何でも食べさせてあげる。何がいい?」

「私はそんなに食いしん坊じゃない! それに、君に借りを作るのは癪に障るからいい。……せっかく譲歩してあげたのに、それも無駄にして」

 

 そう言いながら、カナデは歩いている間も怒りながら文句ばかり言っている。

 そんなカナデの態度に苦笑しながら、タルタリヤはやれやれといった様子で肩を竦めてみせた。

 

「全く頑固だなぁ。そこが可愛いところだけどさ」

「誰のせいだよ、誰の」

「はいはい、俺のせいだね」

「開き直るな! それにはい、は1回。習わなかったの?」

「はい。で、結局何が食べたい?」

「だから、別にお腹すいてるわけじゃない! 

……こうなったら無茶ぶりしてやる。きみが作った料理が食べたい」

「俺の?」

 

 カナデの言葉に一瞬目をぱちくりさせるがタルタリヤはすぐに嬉しそうな笑みを浮かべる。そしてカナデの手を取るとそのまま歩き出した。

 

「分かった、腕によりをかけて作るよ」

「え!? ちょっ、ちょっと待ってよ。本当に作ってくれるの? 冗談のつもりだったんだけど」

「もちろん本気だよ」

 

 戸惑うカナデに対して、タルタリヤはさも当然というように答えた。

 カナデは少し考える素振りを見せた後、小さく溜息をつく。そして諦めたように口を開いた。

 

「じゃあ、お願いしようかな」

 

「うん。楽しみにしててね」

 

 タルタリヤは満面の笑みを浮かべると、鼻歌交じりに歩き出す。

 その様子を見てカナデは再度溜息をつくと呆れ顔を浮かべる。

 しかし、その表情には隠し切れない喜びが滲み出ていた。

 

 カナデはそんな自分の感情を認めたくないのか、そっぽを向くと小さな声で呟く。

 

 

「全く。仕方ない人なんだから」

 

 しかしその言葉とは裏腹に、彼女の口元は緩んでいる。そんなカナデの様子を後ろから見ていたタルタリヤは小さく吹き出した。

 

「……なんで今笑ったの!?」

 

 恥ずかしさのあまり、振り返って睨みつけるがタルタリヤは動じない様子で笑みを浮かべたままだった。

 

「いや? 別に何も?」

 

 そう言いつつも彼の口元はまだ笑っている。それがまた余計に腹立たしく思えてきたカナデだったが、ここで口論しても無駄だと思い直すと溜息をつくにとどめた。

 

 なんだかんだ、カナデはタルタリヤに甘いのだ。

 

「はぁ、もういい。それより早く行こう」

「そうだね、行こうか」

 

 2人はそのまま並んで歩き出す。

 

 カナデは何気なく横の彼を覗き見る。その横顔はどこか楽しげで、足取りも軽やかだった。その様子を見て、カナデは自然と笑みが溢れるのを感じた。

 

 

 

 

どんな話がみたいですか? 参考にいたします!

  • タルタリヤ 番外編
  • ディルックルート
  • ディルックルート 番外編
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  • 過去話
  • タルタリヤ if
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