「そういえば、2人でしたい話ってまさか、『散兵』の話とか言わないよね」
秘境から出て、櫻がある近くの草原にシートを敷きながらカナデはタルタリヤに尋ねた。
そんな彼女に、彼はキョトンとした表情を浮かべて首を傾げる。
「え、違うけど……なんで?」
「なんだ、違ったんだ。てっきりそうだと思ってたよ。よいしょ、この辺り魔物いないんだよねー。のんびりできるよ」
カナデはそう言って、敷き終わったシートの上に座った。
そんなカナデの姿を見て、タルタリヤもまた彼女の隣に座り込む。
「じゃ、2人でしたい話って何?」
そう言って不思議そうにカナデはタルタリヤを見上げながら、若干距離を近づける。
そんな彼女の行動に、少し驚いた表情を浮かべて固まったが、すぐに苦笑し、口を開いた。
「君に伝えたいことがあるんだ」
そう言って、彼は少し考え込むように顎に手を当てた後、懐から何かを取り出した。
それは、手のひらに収まるくらいの小さな木箱で、中には何かが入っているようだった。
「? またネックレスとか? いつも高いのはいいって、言ってるのに」
カナデは箱を受け取り、困惑した表情を浮かべたが、タルタリヤはただ微笑むだけだった。
「いいから開けてみてくれ」
促されてカナデは箱の蓋を取り外すと、中に何かが入っている事に気づいた。
「……指輪? 前にも貰った事あるよね。でも、なんか、いつもとちょっと違う」
カナデは箱から指輪を取り出し、じっと眺めて呟く。
その指輪には小さな青い石が嵌められており、一見しただけではそこまで目立つような石ではないが、よく見ると細かく磨かれているのが分かる。
カナデはその指輪を光に透かすように掲げて、じっと見つめた。
櫻の花びらが舞い散る中、既に夕暮れ時を迎えようとしており、カナデの頬を掠めながら地面に落ちていく。
幻想的にも感じられるそんな光景に、カナデは見惚れていたが、慌ててタルタリヤに向き直り、疑問の表情を浮かべた。
「それで? この指輪はなに? なんか記念日だっけ?」
カナデの問いに、タルタリヤは一瞬困ったように眉を下げたが、すぐに笑顔を作り答えた。
「────『婚約指輪』だよ」
「は? へー。そうなんだ。……は?」
カナデは、一瞬何を言われたのか理解できず呆然としていたが、その意味を理解して顔を真っ赤に染め上げた。
そして、慌てて指輪を箱に戻そうとしたが、その手を優しく握られて阻止されてしまう。
「カナデ」
名前を呼ばれて、振り返るとそこには真剣な眼差しを向けるタルタリヤの姿があった。
カナデはその視線に耐えられずに俯いてしまうが、彼はそのまま続ける。
「俺は、君の事が好きだよ」
その言葉にカナデは小さく肩を揺らした。
そんな彼女の様子を気にすることなく、タルタリヤは言葉を続ける。
「本当は直ぐに渡したかったんだけど、作るのに時間がかかったのと、中々会えなくて、でも、流石の俺でもこういうのは直接渡したくてね」
そう言って彼は優しく微笑むと、カナデの右手薬指にそっと指輪を嵌めた。
「あ、え……っと、その」
カナデは混乱しながらも、何か言葉を発しようとするが上手く言葉にならない。
すると、そんな彼女の反応を見て気を良くしたのか、彼は更に言葉を続けた。
「俺は本気だよ? それにそろそろ虫除けをしておこうと思ってね」
そう言って悪戯っぽく笑うタルタリヤに、カナデは更に戸惑うばかりだった。
そんなカナデの様子を気にすることなく、タルタリヤは彼女の手を握ったまま言葉を続けた。
「本当はそのまま結婚して、一緒に旅をしたかったけど、生憎面倒事が山積みでね。だから、とりあえず『予約』をさせて欲しいんだ」
そう言って、彼はカナデの手を握る力を強めた。
「よ、やく?」
カナデはその言葉を繰り返しながら首を傾げて、頭の中でその意味を理解しようと必死になる。
だが、考えが纏まらないうちに、タルタリヤは先に口を開いた。
「そう、予約だよ。俺と結婚を前提にこれからも付き合って欲しいんだ」
そう言って彼は真っ直ぐにカナデを見つめる。その瞳からは強い意志を感じて、カナデは目を逸らすことが出来なかった。
「あ、う、うん。うん!? 今のは違う! いや、違わないけどそうじゃなくて……」
カナデは動揺しすぎて言葉が支離滅裂になるが、それでも必死に答えようと言葉を探す。
しかし、そんな彼女の様子を見て、タルタリヤはただ微笑みを深めるだけだ。
そんな笑顔を見て、カナデは更に混乱しながら口を開いた。
「幸せにするね!? じゃない! 違う! そうじゃ……あーっもう!」
カナデは頭を抱えながら叫び声をあげるが、それも直ぐに止まって黙り込んでしまう。その様子を見て、タルタリヤは楽しそうに笑い声を上げた。そしてカナデの頭を優しく撫でると、耳元で囁くように言った。
「大丈夫。ゆっくりでいいからね」
そう言って微笑む表情を見て、カナデは少し落ち着いたのか大きく深呼吸して顔を上げた。
「はぁ。うん、ちょっと落ち着いた」
そう言いながらもまだ混乱している様子だったが、それでもその瞳には決意のような物が見える。そして、意を決したように口を開いた。
「ん。わかった。『婚約者』としてよろしくね」
そう言って恥ずかしそうに微笑んだカナデを見て、タルタリヤは嬉しそうに笑うと、カナデを抱きしめる。
「うぎゃっ!? ちょ、ちょっと!」
突然の事で驚いたのか声を上げながら抵抗するが、タルタリヤは構わずに抱きしめる力を強めた。
「ありがとう! 嬉しいよ!」
「はぁ……まったく、大げさだよ。それに、地味に痛い」
カナデはそう言って、彼の背中を叩いて抗議をするが、彼は構わずに抱きしめ続ける。
「……相変わらず愛情表現が激しいね。大型犬みたい」
カナデはそう言って苦笑するが、諦めたように彼の背中に手を回し、抱きしめ返した。
※※※
「ありがとう、来てくれて」
カナデが蛍達を呼んだのは木漏茶屋だった。
この茶屋は柴犬の太郎丸と言う忍者犬があり、神里家が認めた者だけが入ることができる。
カナデは神里家と関わりが前からあるのと、蛍達は稲妻の騒動に関わった時から神里家に関わりがある為、今回、この場所に移動したのだ。
衝立を隔てて個室になっており、カナデは奥の席を蛍達の為に取っておいたのだ。
「じゃ、とりあえず注文しようか」
カナデはそう言ってメニュー表を蛍達に渡すと、自分の分のお茶も頼んだ。
それから暫くすると、お団子や甘味が運ばれてきて、皆思い思いに手を伸ばして食べていった。
「わぁ! 美味しそうだな! これ、全部食べていいんだろ!?」
そう言って目をキラキラと輝かせながら見ているパイモンに蛍は苦笑しながら言う。
「パイモン、ちゃんと私の分も残してね」
「分かってるって! いっただっきまーす!」
そう言って嬉しそうに食べ始めるパイモンを横目に見ながら、蛍はカナデに話しかけた。
「それで、話したいことって?」
蛍がそう尋ねると、カナデは少し困ったように眉を下げたが、にこりと微笑むと口を開いた。
「うん。なんだか、君達になら話してもいいかなって思っちゃって」
そう言ってカナデは一口お茶を飲むと、静かに語り始めた。
「……そうだな、小説のネタにもなるかもしれないし、聞いてくれる?」
「うん、分かった。」
───私は、モンドに産まれて、今まで色々な場所を旅して生きてきた。
───モンドは私にとって第二の故郷みたいなものだし、やっぱり大切な場所だと思ってる。
───そうだね、だから小さな女の子の話、しようか。
『キャロル』は両親が居ない女の子だったけれど、前世の記憶があった。
普通の人なら、両親が居ない事に寂しさを感じたり、家庭環境に不幸を感じる事だってあると思うけど、キャロルは前世の記憶があるから、比較的早くにそれを受け入れて生きてきた。
それに、キャロルには祖父母がいたし、モンドの皆はキャロルを受け入れてくれた。
そのおかげで、キャロルはすくすくと明るく育っていったんだ。
そして、冒険者になったキャロルには恋人が出来た。でも、キャロルの恋人の父は特殊な『邪眼』のせいで亡くなり、勿論キャロルは恋人と一緒に行こうとした。
でも、恋人はキャロルに幸せになれ、と、そう言って一人で行ってしまった。
キャロルは泣いたよ。だって『ずっとそばにいる』と約束したのに、恋人はキャロルを置いて行ってしまったんだから。
それに、同時期に祖母が亡くなってしまった。
最悪な事がかさなってしまい、キャロルは酷くショックを受けた。
だから、キャロルは旅をする事にしたんだ。いろんな国を巡り、いろいろな出会いがあった。
そうする内にキャロルは気が付いたんだ。
『神』になれば、前世の世界に行けるんじゃ、って。
それに色々な人を守る力にもなるって。
「だから、私は神になろうかな〜って。ね。」
そう言っていつもの様にカナデは言う。その言葉を聞いて、パイモンは目を丸くしながら言った。
「それ本気だったのか? だって、お前……」
そこまで言って口篭るパイモン。その様子を見てカナデは苦笑しながら言った。
「まあ、普通夢物語だと思うよね。でも本当なんだよなぁ。ちなみにそのせいで最近流行ってる『転生系小説』がちょっと苦手」
そう言って肩を竦め、カナデはお茶を一口飲む。
とんでもない発言してはいるがカナデ自体は平然とした様子で、蛍とパイモンはその言葉をどう受け止めていいのか分からずに困惑した表情になっていた。
カナデはそんな二人の様子を気にする様子もなく、淡々と話を続けた。
「まあ、勘違いしないで欲しいのは私は力を得たとしても悪用するつもりは無いからね」
そう言って、カナデはニコリと笑顔を見せる。だが、その瞳の奥にはいつもとは違う決意の様な何かが宿っている様に見えた。
「それにさ、違う姿で前世にいた場所に戻れても仕方ないからね」
そう言ってカナデはお茶の入った湯飲みを両手で包み込み、ふうっと息を吐いた。
「……そういうものなのか?」
パイモンが不思議そうに首を傾げると、カナデは微笑んで答えた。
「そうだよ。……噂で聞いたけれど、蛍は双子のお兄さんとずっと色んな世界を旅していたらしいね? だから、今、行方不明のお兄さんを探しているんだよね?」
カナデがそう言うと、蛍は驚いたように目を見開き、そして少し寂しそうに微笑んで頷いた。
「うん。よく知ってるね」
蛍がそう言うと、カナデは「まあね」と返事を返してから言葉を続けた。
「ちなみに『キャロル』じゃなく『カナデ』って名乗ってるのは前世の名前、ペンネームに近いからかな。……偶然音楽関係の名前になったのは不思議だけどね」
そう言ってカナデは苦笑すると、一度話を区切り、お茶を一口飲む。そして再び口を開いた。
「……まあ、色々とあるんだよね。他にも言いたい事があるけど、これ以上は長くなるから今回はこれで終わりにするね。ほら、私が今日奢るから好きなの頼んでいいよ」
そう言ってカナデがメニュー表を蛍達の前に置くと、パイモンは途端に目を輝かせて勢いよくページを捲った。
そして、メニュー表に書かれた美味しそうな料理の写真に釘付けになり『これもいいな〜』と悩み始めていた。
蛍はそんなパイモンの姿を見て苦笑いしながらも、カナデに話しかけた。
「それで、さっきの話だけど……なんで私たちに教えてくれたの?」
蛍がそう尋ねると、カナデはキョトンとした顔をした後、小さく笑った。
「うーん、なんでだろうね? でも、なんというかね。君は凄い事成し遂げそうだから。頼って欲しいなって思って」
そう言って、カナデは蛍に優しく微笑む。その表情からは悪意や裏表などは一切感じられない。
蛍はそんなカナデの言葉に驚きながらも、素直に感謝の言葉を口にした。
「……ありがとう」
「どういたしまして。あ! 別に変に利用したいからって訳じゃないからね? 生きてるんだからしんどくなるのは普通だし、もし、評判になるような立場になっても気楽に話してね〜って事」
そう言ってカナデは明るく笑い、「あ! これ美味しい! 新作かな」と言ってお団子を頬張った。
そんなカナデの様子を見て蛍は「うん、分かった」と言って微笑んだ。
それから三人は暫くの間他愛のない会話を楽しんだ後、解散する事にした。
「それじゃあまたね! 蛍、パイモン」
カナデは笑顔で手を振ると、背を向けて歩き始めた。
「おう! またな!」
パイモンは手を振り返し、蛍も小さく手を振る。
カナデは二人に向かってもう一度手を振ると、そのまま行ってしまった。
「行っちゃったな」
パイモンは残念そうに呟く。蛍も少し寂しそうな表情をしているが、すぐに微笑んで言った。
「そうだね、また会えるといいね」
そう言って二人は歩き出す。
「おう! そうだな!」
パイモンは元気よく返事をして、蛍の後について行った。
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