白星の君へ   作:F1さん

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間章 3
君に『名』を


 

 

 ──森林に囲まれた国、スメール。

 

 熱砂と生い茂る雨林が同時に存在するその国に、一人の少年がいた。

 

 大きな笠を被り、稲妻の修験者の様な服装をした彼は、その土地では見慣れない出で立ちだった。

 

 少年は嘗て(かつて)、ファデュイという組織で執行官をしていた。

 

 ──いや、正確には昔の執行官の少年は前生で、過去に手を、歴史改変をしようとした。

 

 しかし、それは完全にしきれはしなかった。だからこそ、今の少年がいるのだから。

 

 嘗て様々な名前で呼ばれていたその人形の少年と向き合っている金髪の横髪は長いが、ショートカットで珍しい、見たことのない様な白い花飾りをした少女は困ったような表情をしていた。

 

「名前って言われてもなぁ……」

 

 そう。今、旅人として功績を積み重ね、スメールも救った蛍はこの国草神、ナヒーダに少年に名前を付ける様に提案されていた。

 

「スカラマシュは嫌なんでしょ? 他に放浪者とか、国崩とか以外に呼ばれていた名前は無いの?」

「……呼び名なんて気にした事なんてなかった。そもそも君の知る『親』にあたる様な奴が名付けなかった訳だしね」

 

 少年は諦めた様な表情を見せながら、遠くを見つめた。

 その表情は蛍にも見覚えのある顔だった。遠い過去を思い出して悲しみと寂しさが混ざった様な表情だ。

 

 少年は、『雷電将軍』の為に作られた。『神になる為に』だ。

 

 ───しかし、『将軍』に望まれていた事は叶わなかった。

 

 少年は突然閉じ込められたのだ。しかも、それからはずっと放置されていた。

 元は無垢な礼儀正しい人形だった少年は様々な裏切り(一部は勘違いしていたが)により、今はひねくれた性格になったのだ。

 少年は、未だに過去に囚われていて──前生の後悔を引きずっている。

 

「……でも、他に──……」

 

 蛍がそう言いかけた時、スラサタンナ聖処の扉が開く。

 この場所はナヒーダ、つまり草神『クラクサナリデビ』の居城。

 本来は誰かが訪れることは滅多にない。

 

 しかし、その女性は堂々とした様子で入ってきた。

 

 スラサタンナ聖処には誰もいないと思っていたが、入口近くに人がいたので驚いた表情を見せる。

 

「ナヒー……って何!? 何で蛍と……ナナくんがいるの?」

「ナナくん?」

「そうそう。七七ちゃんとは違うんだよ。私は先にナナくんに出会ってたから、後であっ! 被った! ってショックを受けてね──って違う! ナヒーダ、どうしてここにこの2人が?」

「あら。旅人がした事をカナデは知っているでしょう? あなたは渡り鳥の様な人だから」

 

 そう建物の主である花を思わせるようなサイドポニーの少女が口元に人差し指を持っていきながら、首をこてん、と傾げながら言う。

 

 カナデはその言葉に、ああ、と納得したように頷く。

 

「蛍達がスメールの大騒動に関わっていたのは聞いたよ。ドリーが『オッホホ! いい情報があるんですのよ!! カナデさんになら教えてあげてもいいですわ〜!!』みたいな感じで色々教えてくれて……。勿論モラは払わされたけど。そう! それでね、今日はナヒーダが外を歩けるようになったって聞いたから、来たん──「ちょっと待ってくれ! カナデ! もしかしてカナデには、コイツの記憶があるのか? それに、コイツの知り合いなのか!?」へ? コイツ? ナナくんの事? 前に話してなかったっけ、ナナくんは私の弟みたいなものだって」

 

「いや、ああもう! ツッコミたいところがいっぱいだぞ!?」

 

 パイモンが混乱をし、半分怒りながら、頭を抱え、ふよふよと浮く。

 その様子を見る事もせず、ナヒーダはいつもの調子でカナデに声をかける。

 

「それは後よ、今は『彼』の名前を付けなくちゃいけないの。蛍が今、悩んでくれている所よ」

「……相変わらず騒々しいというか。ますますあの脳筋にそっくりになったんじゃないか?」

 

 そう、少年は呟く。一瞬、『脳筋』が誰を指しているのか蛍とパイモンには分からなかった。

 

 しかしカナデは直ぐ様、それが誰の事を言っているのか、分かってしまい、複雑そうな表情を浮かべる。

 

「は?誰が『公子(タルタリヤ)』そっくりになったって? ……って今は名前を決めるんだったね」

 

 カナデは、はぁと大きな溜め息を吐くと、少年に向き直る。そして、腕を組んで少し考えるような素振りを見せた。

 

「それってさ、私にも権利はあるんじゃない?」

 

「権利? 何のだ」

「名前を付ける権利だよ。旅人は、ナナくんの名前を付けようとしたんだよね? なら私も付けていいんじゃない? ちゃんとした名前。君と私は似たもの同士。似た様な目的があるし、見た目も似てるし、何よりナナくんは私の弟(仮)! ……ってことは、私が名前を付けてもいいよね?」

 

 そう得意気な表情を浮かべたカナデに蛍とパイモンは唖然とした。

そして、ナヒーダは「あら」と目を少し見開いた後、クスクスと笑った。

 

「確かに蛍は彼と因縁みたいなものがあるようだけれど、カナデにもあるのね。そういえば前に弟みたいに思っている人がいるって言っていたような?

……そうね。あなたはどう思うの? こういうのは当事者に決めてもらうべきね」

 

 そう言うと、ナヒーダは少年に向き直ると、ニコニコと柔らかな笑顔を向ける。

 だが、少年は呆れた様な表情を浮かべる。

 

「……そもそも僕はコイツをそういう関係だと考えた事は無い。勝手に言ってるだけだ」

「ええー! 冷たいよ、ナナくん! 丁度いい機会だし、今度こそちゃんとした名前付けるからさー! ね? いいでしょ?」

 

 カナデがキラキラとした期待した子供の様な目を少年に向ける。

 そんな目で見るな、と少年は鬱陶しそうな顔をする。

 

「その呼び方はやめろと何回も言っているよな?何回言えば分かるんだ?」

「じゃあアイディアを出す! どうしようかなー……。じゃあ『(ハク)』とかどう? 何にでもなれる色だし、これから先、色々なれますようにって感じで」

「それは……」

 

その名前に蛍もパイモンも驚いた。ふざけた態度をしていたが、考え方はまともだったからだ。

 

「ええ、いいわね。物語の始まりって感じがするわ。でも、蛍達はどうかしら?」

 

 ナヒーダはカナデの言葉にうんうんと頷きながら尋ねた。

 蛍もパイモンも、意外な提案に驚いたが……。

 

「私はいいと思うよ!」

「うん! オイラもいいと思うぞ!」

 

 ────とすんなり受け入れた。

 そして、少年は「はあ」と深い溜め息を着く。

 

「それで、良いなら構わないけど。……けど、そんな安易な名前でいいのかい?」

「ポチとかタマとかが良かった? そういうのが安易な名前って言うんだよ。それに比べて私は、人の名前を付けるセンスがある!知らなかったの?」

「……」

「それにナナくんだって『(ハク)』は嫌いじゃないでしょ? だって少し嬉しそうだよね。今の仕草、おじいちゃんが嬉しい時にしてた行動に似てる」

「はぁ……。どうして君はいつもそうやって強引なんだ。いいよ、それで」

 

 そう呆れた様に、でも何処か嬉しそうに少年は言う。カナデは満足そうに頷き、「じゃあ決定」と少年に抱きつく。少年は鬱陶しそうにしながらも、その行動に抵抗する事はなかった。

 

 そんな二人を見て、蛍は今はどこかに居る双子の兄の空をふと思い出した。

 

 あんな風に自分も兄を抱き締めたら、困った様に笑ってたな……。

 

 懐かしい事を思い出しながら、蛍は目の前で──白(ハク)にじゃれつくカナデを見て笑った。

 

※※※

 

 それから状況のすり合わせをした後、カナデは『そんな事になっていたんだ』と呟く。

 

 スメールでの事件の黒幕はファデュイの執行官『博士』であり、実行犯は少年『(ハク)』だったらしい。

 

 神として作られた白(ハク)が『神』として役割を果たそうとしたが、蛍が止め。

 

 その後、世界樹を管理するナヒーダの手伝いを蛍と(ハク)がしようとしたが──その時に隙を見て(ハク)の前生が過去に行き、書き換えた。

 

 だが、全てを書き換える事はナヒーダの知恵により回避。

 

『執行官』としての立場さえ無かった事になっているらしい。

 

 それは本来ならばカナデにも影響を与えてもおかしくは無いが、カナデが別世界の魂なのか、別世界の記憶があるからなのか、その影響を受けていなかった様だ。

 

 最初は何故、という雰囲気だったがカナデがあっさり『私が異世界の記憶あるからじゃない?』と返し、(ハク)だけが「は?」と声を漏らした。

 

 しかし蛍とパイモン、それにナヒーダはカナデに聞いていたので、そうなんだ、と言いたげにあっさり受け入れたのだった。

 

「前世の記憶ってそんなの」

「ありえないって? ナタでは似た様な事が出来るんだからありえなく無い話では無いよね? 

……旅をして知ったんだけれど、私は一度死んだみたい。それを受け入れたく無かった私の両親がファデュイや魔女会の人とか、色んな人に頼り、何かしらの実験でこの体に今の『私』の記憶が宿ったみたい。

だとしたら『私』は何なのか、って思うところはあるけれど。

……ああ、ファデュイに関係していた事は『召使』さんに聞いた。私はタルタリヤとは別のルートで彼女と知り合っていてね」

 

 ──とカナデは、ファデュイの執行官『召使』から事実を聞かされた話を付け足す。

 

「私は『博士』が両親に関わっていたんだと思う。直接じゃないかもしれないし、直接かも知らない。

ただ、この肉体の本来の魂はどうなったのか、融合されたのか、私が宿る前に死んだのか、そう言った事までは分からないけど」

 

 カナデは腕を組みながら、ふぅと息を吐いた。

 

「それでも私が描く『神』になりたいって気持ちは変わらない。

ナタの『神』みたいなのじゃなくて……

正確には『理想の私』と言うべきなのかな?

でも、そうなったとしても私は異世界に帰るつもりは無いよ。

自由に行って帰れるようになりたいんだよね。最終的には。

だってそこが私がいた世界って保証は無いから。

もし私がいた世界でも前世の家族と接触するつもりも無い。

今の私は昔の名前は思い出せないんだ。何となく覚えている名前。ってこんな話はやめ、やめ! 今日はナヒーダと『夢の中』じゃなく、本当に会えるようになったってアランナラ達に聞いて来たの」

 

 カナデが両手を合わせてパンっと軽く叩く。どうやらこれ以上、この話をするつもりは無い様だ。

 

「でも丁度いいや。結局は蛍はナヒーダと(ハク)を助けてくれたって事になるんだよね? ありがとう。大切な人を救ってくれて」

 

「え、いや……私はそんな大層なことしてないよ?」

 

 カナデは笑顔をパッ、と浮かべると蛍の手を握りながら、ぶんぶんと手を上下に振る。

 

「ううん、お礼を言う時には言わないとね。

ナヒーダは私の『友達』なんだ。

あと、もしかして蛍はあの事も覚えているの? 皆が話さないから……いや、いいか、これは。

とりあえず、良かったらお礼に料理作るから一緒に食べない? 丁度お昼の時間だよ?」

「え、いいの?」

「……本当だ! もうそんな時間か! オイラもお腹が空いたぞ!」

 

 パイモンが『料理』に反応すると、目を輝かせた。

 彼女は食べる事が大好きなものの一つだからだ。小さなその体にどうして入るのか、という量を食べる。

 そして、そんなパイモンに釣られてなのか……蛍も空腹感を感じた様だった。

 

「確かにお腹空いたかも。……なら、良かったらお願いしてもいいかな? カナデ」

「うん、勿論! (ハク)も食べてね。食べなくても大丈夫だとしても、食べる事は大切だから!」

 

 そう言うとカナデはナヒーダをひょいと抱き上げる。慣れた行動なのか、ナヒーダは抵抗しない。

 

「凄い……触っても感覚がある。夢の中だと錯覚しかしないのに。なんか感動する!!」

「ええ。ふふ、不思議ね」

 

 カナデがナヒーダと仲がいい事は事実だ。

 ナヒーダは『神』であり、カナデは人間。

 しかし、そんな関係を感じさせない程、二人は親しげにしている。

 それはナヒーダの周りの人間には中々難しい行動だ。

 ナヒーダは神であり、知恵の神でもある。

 だからこそたまに見透かす様な発言をする事があり、 実際心も読める。そんなナヒーダの周りは、『神』として敬う者が多い。

 世界が書き換わって、ナヒーダの前の神がいなかった事になっているのだから尚更だ。

 

 ナヒーダは『偉い人に何かしらの企みで幽閉されていた』というのがスメールの人々の共通認識だ。

 

 だけれど、カナデはナヒーダに気に入られたいからナヒーダを普通に扱っている訳では無い。

 ナヒーダが好きだから無意識にそうしているだけ。

 だからこそ、ナヒーダと『親しげ』に接する事が出来るのだ。

 

 もし他者に咎められたとしても「私はナヒーダの『友人』だ」と堂々と言うだろう。

 

 そして、カナデは気が付いてないがもしカナデに何かをする人間がいれば仲良くなって来た人間が裏で手を回し、カナデが悲しむ事が無いようにされている。

 

「じゃあ、行こうか。この近くで料理をする事が出来る場所があったから。いや、私の家でもいいんだけど、今日は天気がいいから『外』で食べよう!」

 

「え、『外』?」

 

 そういいながらカナデはナヒーダを抱き上げたまま歩き出す。

 その行動に蛍とパイモンは驚いたが、ナヒーダが「大丈夫よ」と微笑んだので、そのままついて行く事にした。

 

 それからそこにいる面子でカナデの料理を食べ、談笑をしたのだった。

 

どんな話がみたいですか? 参考にいたします!

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