今日のフォンテーヌは快晴だった。
そんなフォンテーヌの中心都市であるフォンテーヌ廷には1人の少女がベンチに座って、ぼんやりしていた。
猫耳に黒を基調とし、エメラルドグリーンが混じった服を着た少女は彼女曰く、『待機モード』の最中だ。
それを見て、1人の女性が苦笑をした後、少女の前に立つ。
「───リネットはお昼寝中? リネはどうしたの?」
「お兄ちゃんはそこの店で買い物中。私は休憩中」
「そっか。なら1人は危ないし、隣に座ってもいい?」
「うん。カナデなら構わない。どうぞ」
「ありがとう」
女性──カナデは猫耳の少女──リネットの横に座る。リネットはそんなカナデの様子を不思議そうな顔で見る。
「疲れた様子だけれど……ちゃんと寝てる? 顔色が悪いみたい」
「寝たけど、最近眠れなくて」
リネットは些細なことにもすぐ気づく。
それは、リネットが人気マジシャンのリネのアシスタントとして。ファデュイの『召使』の子飼いの子供であるからだろう。
リネはファデュイの一員なのだ。
初めてフォンテーヌに来た時。スリにお金を取られかけたカナデを助けてくれたのは彼女の双子の兄、リネだった。
最初は正体は知らなかったが、次にフォンテーヌに来た時にリネやリネットが所属する召使の孤児院の子供達……『壁炉の家』の中の一人を助けた事があり、それからは交友関係が続いている。
2人は太陽の光を並んで浴びる。カナデは眩しそうに目を細めた。
「まあ、ちょっと悩み事があって。最近、あの人が調子悪いみたいで心配で」
「あの人。……ああ、あの方(公子様)の事? カナデはいつも気にかけてるのね。」
「だって無茶ばかりするんだから、アイツ。もし何かあれば教えて貰ってもいい? 私も何かあれば伝えるから」
「良いよ」
カナデはリネットに『お願い』をすると、リネットは快く頷いた。
相変わらず無表情で分かりづらいが、リネットの優しさにカナデは微笑んだ。
「ありがとう」
「気にしないで。私もカナデには助けられてる」
「そう。なら良かった」
カナデはリネットとその後、他愛の無い話をした。どこのスイーツが美味しいだとか、どこの猫は可愛いだとか。そんな他愛の無い話だ。
基本的にはカナデが話を振り、それにリネットが相槌を打ちながら会話は進む。
リネットは基本的にはダウナー系と呼べばいいのだろうか。
抑揚のない声で話すので、分かりづらいが、それでもリネットは優しい子だ。カナデはリネットの優しさに甘えている。
すると、身に覚えのあるシルクハットを被った少年が荷物を抱えてカナデに近づいてくる。
「リネット!あれ? カナデもいるんだね。久しぶり」
「うん。久しぶりリネ。調子はどう?」
「元気だよ。もしかしてリネットと話してた? ありがとう。妹は特殊な立場だから中々友達が出来ないみたいでね」
「失礼な事言わないで。私にも友達くらいいる」
「うん。それは分かっているけど『知っていて』仲良くしてくれる人なんて本当に少ないんだ。そうだよね?」
リネはリネットの頭を撫でると、リネットは少しむくれたような顔をした。そんなリネの返答にカナデは「それもそうか」と考える。
ファデュイの構成員と仲良くする人間は少ない。事実を知らなければ仲良くする人もいるかもしれないが、リネもリネットもファデュイの構成員だ。
それに、リネは表舞台でマジシャンとしてスポットライトを浴びる身だが、リネットは好んで彼の影にいる事を選んでいる。
「……確かにそうだけど。リネはいつも私の事を気にしすぎだと思う」
「そうかな?」
リネットはムスッとしながら言うが、リネは気にもとめず、リネットの頭を撫でる。
その姿を見て、ついカナデは笑ってしまった。
先程の会話を思い出したからだ。
「私が『彼』を気にするように、リネはリネットを気にしてるんだね」
「そう?」
リネットは首を傾げるが、カナデの指摘通りだ。カナデと『彼』──タルタリヤは婚約者で、リネとリネットは双子のきょうだいだ。
だから、家族とかそういう関係では無いが、互いが互いを気にしている。
「うん。リネとリネットはお互いを大事に思ってるんだね。『私』にはきょうだいがいないから、ちょっと羨ましいな」
「カナデもきょうだいがほしい?」
リネットは無表情で言う。その問いに対してカナデは少し悩んだ後、『ちょっと違うかな』と返す。
前世にはいたような、いなかったような気がするが、今世ではいない。
でも、まあ。恐らく。カナデには将来的にはきょうだいは出来るだろう。
タルタリヤには上も下もきょうだいはいるからだ。
「とりあえず。リネも戻ってきたみたいだし私はそろそろ行くね。またね2人とも」
「うん。さよなら」
カナデはベンチから立ち上がる。リネットは手を振った。そんな様子を見て、カナデは微笑む。
「またマジックを見に来てね。カナデなら大歓迎だから」
「うん。時間があったらお邪魔させてもらうね」
リネがそう言うとカナデは『楽しみにしてる』と言ってその場を後にする。
リネとリネットはその姿を見送ると、2人並んで歩き始めたのだった。
※※※
「カナデ! 丁度いい所に来たわ! 良かったらこれ食べない?」
カナデがポワソン町に行くと、ナヴィアが満面の笑みでマカロンを渡してきた。
「ありがとう」
とお礼を言いながら受け取るとナヴィアは嬉しそうに笑い、カナデはその場で一口、マカロンを頬張る。
「美味しい?」
「うん」
ナヴィアは見た目はお嬢様らしく派手だが、性格は真っ直ぐで面倒見がいい。
まあ、今はお金持ちでは無いが、それでも父親が亡くなってマフィアのボスになったナヴィアはそれを感じさせない。
カナデがマカロンを思わず幸せそうに頬を緩ませていると、ナヴィアはニコニコと笑みを浮かべる。
「カナデは本当に甘い物が好きね。あたしも作りがいがあるわ」
「ナヴィアのお菓子はどれも美味しいからね。まあ、いきなり器具用意だして前に作り出した時はびっくりしちゃったけど」
「ああ。あの時はごめんね。でも、カナデ、頭悩ませてたみたいだから。和むかなって」
ナヴィアはそう言うと、悪戯っ子のように舌を出して笑った。それを見てカナデもつられて笑う。
「確かにあの時はシュヴルーズが来るまで緊迫してたよね。まさか買い物してたら強盗に会うなんて」
「そうよね!」
カナデの言葉にナヴィアは笑いながら相槌を打つ。
犯人もまさかナヴィアが部下に調理道具を用意させ、いきなりお菓子作りをするなんて思っても居なかっただろう。
「まあ、確かに少し気は緩んだけど。面白い事するな~って」
「それに、それであの後あたしはカナデの役に立てたから結果オーライよね」
「うん、まあそうだね。犯人が唖然としている間に上手く捕まえられたし」
「でしょ? でもあの時感心したわ。数人しか人質はいなかったけど、カナデが冷静だったから。皆無傷で犯人を捕まえられのはあんたのお陰だよ。ありがとうね」
「うん。どういたしまして。私も人質になってたし、何かしないとって思って。それに犯人が計画犯では無くて、ただ金目当ての強盗でよかったよ。計画犯なら私じゃどうしようもなかったし」
ナヴィアが笑うとカナデも釣られて笑う。
二人の間には穏やかな空気が流れていた。
それから二人は、近況報告や他愛のない会話を楽しんだ後、カナデはナヴィアの部屋を後にした。
ナヴィアは忙しいのであまり長話をすると邪魔になってしまうと考えたからだ。
※※※
ポワソン町を出ると、砂浜を歩く。
草とは違う、ジャリジャリと砂を踏みしめる音を楽しみながら、カナデは目的もなく歩く。
時折強い潮風が吹くが、彼女は気にしない。
こうしていると、前にタルタリヤが釣りをしているのを見ていた事を思い出す。
カナデは釣りはしないが、ぼんやりする事は好きなので、誰かが釣りをしているのを見るのは好きだ。
亡き祖父もよく釣りをしていた。
釣れた後にその人が嬉しそうに魚を見せてくる姿を見るのはカナデは好きだ。
だが、過去の話である。
それに、今は誰も近くにはいない。
───そう思うと寂寥感に襲われる。
「いや、いやいやいや!」
カナデはぶんぶんと頭を振る。これは一種のホームシックに近いモノだ。
そうに違いない。カナデは自分にそう言い聞かせるが、寂しさは拭えない。
最近リネとリネットの仲良さげな姿を見たせいだろうか。
カナデは自分でもよく分からない感情に振り回されながらも歩みを進める。
この辺りには魔物は生息していないため、基本的に安全だ。だが、魔物がいないからと言って油断は禁物である。
人間は来てもおかしくは無いのだから。
──次、タルタリヤに会ったら何を話そう。今度こそ、ちゃんと変な反応をせずに話せるだろうか。
そんな事を考えつつ、カナデは海を見る。
彼の瞳よりは薄い色の海原は日に照らされて輝いていた。
カナデは水を見るのが好きだ。
モンドで暮らしていると湖を必ず目にする事になるからだ。
カナデは子供の頃から水が綺麗で透き通っている湖を祖母や祖父と見るのが好きだった。
それに、今は。タルタリヤを彷彿させるからますます好きになった。
だがその事は誰にも言った事がない。
普通に恥ずかしいからだ。
カナデは何気なく水を見ると、その水面に自分の姿が映るのが見えた。それを見てカナデは苦笑する。
「なんて顔してるの、私は」
その水面に映った顔は、落ち込んでいる様に見えた。
これはリネットに心配をかけられるはずだ。
カナデは両手で己の頬をペチペチと叩くと、気を取り直して歩き始める。
「よし! 大丈夫!」
カナデは自分にそう言い聞かせ、前を向く。
「うん、私は大丈夫」
カナデは再度、自分にそう言い聞かせる様に呟いてから前に進んだ。
どんな話がみたいですか? 参考にいたします!
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タルタリヤ 番外編
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ディルックルート
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