「はぁ。やれやれ、面倒な事になったな」
───メロピデ要塞にて、タルタリヤはため息を零す。
彼は免罪(まあ、様々な犯罪はしてはいるが)によってメロピデ要塞に投獄された。
しかし、フォンテーヌの法律ではイレギュラーとはいえ『諭示裁定カーディナル(諭示機)』が決めたのなら──と、タルタリヤは有罪となった。
しかし、彼はファデュイの執行官。
ファデュイが黙っているはずが無い。
それにこの地には今、タルタリヤ以外にもフォンテーヌを基本的な拠点としている執行官『召使』がいるのだから。
召使は凛としてクールな雰囲気を持つ、高いヒールでありながら鎌を使った体術が得意であり、頭の切れた女である。
だからこそ、タルタリヤがメロピデ要塞から出れるのに時間はあまりかからないだろう。
また、タルタリヤはそんな事で動じる性格ではない。
『またよく分からない召使等の策略で、何か面倒なことに巻き込まれでもしたら……』と勘ぐっていたが。
メロピデ要塞に投獄されてからもタルタリヤは自由だった。
この場所の裏ルールがあると聞き、わざとそれを試して、『ゲーム』を楽しんだり、鉄拳闘技場という施設に戦いが好きなタルタリヤは心を踊らせたが、1回参加しただけで飽きてしまった。
そこで何か面白い事はないかと探していると───最近、何かが呼んでいるような気配がして、それが酷く気になる様になった。
その場所は分かるが──おそらくメロピデ要塞の奥地。脱獄をしないと分からない可能性がある。
そんな時、ちょっかい(タルタリヤは嫌がらせだと気が付いていても気にしていなかった)をかけてきていた男達がタルタリヤに様々な話をしてくれる様になった。
どうやらいつの間にかタルタリヤを兄貴分の様に慕う様になったらしい。
彼らの話によると、最近商人の女が来ていたが、ある日を境に姿を消したと言う。
1人の囚人がその現場を見たらしいが、誰も信じていなく、ただ単に別の場所に移動したのだろう、と。
しかし、女の行方は分からずじまいだったらしい。
「それに、もしかしたらリオセスリが何らかの思惑で流してるんじゃないか、っていう奴らもいるんですよ」
リオセスリ。
────過去には死者が出る事も珍しくなかったメロピデ要塞では、彼が管理者になってからは、全ての者にある程度の衣食住が保証され、規律を守り正しく働けば努力の分だけ報われる環境へと劇的な改善を遂げた。
社会に馴染めずこの場所に来る事になった囚人達には特に居心地が良いようで、刑期を終えても「水の上」に戻りたくないという声もちらほらと聞こえ、実際に囚人の身分を返上した後も労働者として根付く者が居るほどである。
ただそんな場所でも残念ながら秩序を乱す者は現れる。そんな時は彼が拳で体裁を与える。
また、武力のみならず情報戦にも秀でており、隠れて動いている囚人に対して彼が動かないとしても、それは決して気づいていないのではない。黙認しているだけだ。
「……フォンテーヌには有名人が多数います。
中でもリオセスリとクロリンデはかなりの実力者。後は、シュヴルーズとかですかね」
囚人の男の1人が異国からの訪問者であるタルタリヤに分かりやすいように話し出す。
その話はタルタリヤも知っている。
他の場所にいても前者の2人の話は耳に届いていた。
それとは別ベクトルに有名なのはフォンテーヌの法を捌くヌヴィレットに、マスコットの様に親しまれる、舞台女優でもある水神『フリーナ』だろう。
「うん。俺も聞いた事があるよ。
一度リオセスリに手合わせをしてくれないかと、厄介な手続きの後に直ぐに申し立てに行ったら『今は忙しいから後にしてくれないか? 騒動が落ち着いたら時間を作れるようにしてもいい』と、断られてしまったよ」
「はははっ。そりゃあそうですよ。アイツあんな体型なのに基本的に自室で書類処理してるんですからね。でもアイツはヤバいくらい強いです。あの怪力と体力は底知れないですからね」
リオセスリの屈強な体躯を思い浮かべた囚人達が、困った様な表情をした。
リオセスリはスーツの様な服を着ているが、見えている肌からは傷跡がちらほら見える。それは、誰から見ても分かるくらいだった。
それが強さの保持を見せるためか、ファッションなのかは知らない。
「まあ、リオセスリの事は良いよ。それよりもその女商人が気になるね。その目撃者の囚人は何処に?」
「あいつですか。最近様々な奴に声をかけてるみたいですよ。『姐さんを助けたい』とか言って───」
「ああ、なんかアイツその女に惚れてるっぽかったしな。兄貴は強いから声掛けたら直ぐに話せるんじゃないか? 最近チラホラ兄貴の名前はココでも広がってるし。でも絶対騙されてると思うけどな、アルフィオは」
「アルフィオ?」
「はい、ソイツの名前です。フォンテーヌ人で、確か騙されて軽犯罪に手ぇ出して、囚人になったんですよ。詳しくまでは分からないですけどね。でも確かになんというか、騙されそうだな、って雰囲気の奴なんですよ」
「ふぅん……成程、有力な情報だね。ちょっとアルフィオに会わせて貰えるかな?」
「良いっすよ! 多分昼くらいに食堂にいつもいるんで……もうちょいしたら行きませんか?」
「ああ、構わないよ」
囚人の男達は快く了承し、アルフィオがいつも居るという食堂まで案内してくれた。
赤毛の男は沢山並んだテーブルの一番奥に座っていた。
明らかに落ち込んでいる様子で、周りの囚人は「またか……」という表情でアルフィオを見ていた。
「おい、アルフィオ」
「ん? ああ、なんだお前ら……。って、そこにいるヤツは……見かけない顔だな。新入りか?」
アルフィオは立ち上がり、タルタリヤを認識すると、不思議そうな顔をした。
数日寝てないのか目の下には隈があり、髪もボサボサな状態である。
「ああ。最近メロピデ要塞に来たんだ」
「へぇ……そうか。はぁ。でも、お前ら何の用だ? 俺は忙しいから、手短に済ませてくれよ」
そう言ってアルフィオはテーブルに突っ伏してしまう。
どうやら本当に忙しいのか、そのまま寝てしまうつもりらしい。
「アルフィオ」
「ん? なんだよ、寝ようとしてるのに……」
囚人の男の一人がもう一度声をかけると、アルフィオが顔だけタルタリヤ達に向けた。やはりその顔色は良くない。
「君の持っている情報が欲しくてね」
「情報? 何の話だ?
……皆俺の話を信じない。姐さんはあの日、『アビスの詠唱者』っていってた奴と戦って──助けを呼びに行って、戻ったら姿を消していたんだ。……姐さんに頼まれた手紙も渡せてない。はぁ。俺はダメな奴なんだ……」
アルフィオは哀愁に満ちたため息を吐くと、再びテーブルに突っ伏す。
「その手紙ってこれの事か?」
「え? あ、落ちてたのか。すまん、重要なやつなんだ。拾ってくれてありがとう」
アルフィオが慌てて顔を上げる。先程動いた際に紙のような物が地面に落ちたので、何気なく案内してきた囚人の一人──ポワリエが拾ったらしい。
それを手渡そうとした時に、ついでに宛名が見えたらしい。
「……? アヤックス? 聞いた事ない名前だな」
その単語を読み上げ、タルタリヤは、ピクリと僅かに反応をする。
腕を組んで、アルフィオの手元にある手紙に視線を注ぐ。
身に覚えのある字体、差出人の名前。
────それは確かに、『自分』への手紙だった。
「アルフィオ。君が言う『姐さん』の名前は『カナデ』もしくは『キャロル』じゃないか?」
「へ? なんで知ってんだ?」
アルフィオは、初対面で、しかも新入りである相手が何故知っているのかと目を丸くした。
「その手紙、少し貸してくれない?」
「え? いや! でもこれは大事な手紙で、俺が宛名の奴に渡さないと行けないんだ。だから……」
「ああなら、アルフィオ。その心配はないよ。その名前は俺の名前の一つだからね。それでも信用出来ないなら、俺は君の疑問や質問に答えられるし、もし失踪した商人が『カナデ』なら、俺が『カナデ』を探そう。だから貸してくれないかな?」
アルフィオの目を真っ直ぐに見て話す。その目を見てアルフィオは何かを感じ取ったのだろう。
「……分かった。なら『カナデさん』が付けている指輪の位置を教えてくれ」
「指輪? ああ、あれか。確かチェーンを付けて首に下げてたな」
「───正解だ。はぁ。じゃあ、アンタが……。分かった。アンタを信じてみるよ」
そう言ってアルフィオは、『カナデ』から頼まれた手紙をタルタリヤに渋々と渡した。
「もし姐さ……カナデさんを見つけたら、『ありがとう』って伝えてくれないか? 俺、まだちゃんとお礼言えてないんだ。あの人は強いから大丈夫だと思うけど……。でも心配なんだ。だから、もし会えたら」
「分かったよ、カナデに会ったら伝えておく」
「ありがとう。アンタ、優しいな」
「ははっ。それはどうも。じゃあ俺は行くよ。ありがとう。ああ、そうだ。悪いけど誰か彼を医務室に連れて行ってくれないか? 看護師長に見せた方がいい。……俺はカナデを探すから」
「え?」
「分かった、兄貴。じゃあとりあえずなんかあったらまた知らせるから、また後でな」
すると、男の1人、アレクシスがアルフィオを軽々と抱えて医務室に向かって行った。
それを見て、ペコリと軽くお辞儀をしてレオニードとポワリエは立ち去る。
それを見送ったあと、アルフィオから受け取った手紙の中を、タルタリヤは確認する事にした。
「『タルタリヤへ───』」
…………………………………………
………
宛名をわざと変えたのはその方が都合がいいかなって思ったからです。
でも、この宛名の名前、呼ばなくてしばらく経つね。
ってそんな話を書いてる場合じゃない。
私はいまとある方(名前は明かせない。依頼だからね)に頼まれて、メロピデ要塞で商人として働いている。
なんで冒険者のままじゃないかと言うと───私は前々からマーセルさんが怪しいと思っていたんだ。
カブリエール商会の会長で、有名な人なんだけれど……なんというか。訳あって知り合った時にやけに私に優しくしてくれたんだよね。
どうやら彼の知人がモンド人らしいんだけど、やけに私が『冒険者』である事を気にしてた。
それで、君が巻き込まれた事件。
『ロシ』って知ってる? 麻薬のようなヤバい液体なんだって。
こういうのの巣窟は犯罪が集まる所。
怪しい場所を見つけたから、私は行ってみようと思う。
君ならきっと分かるだろうからヒントはあげない。
だって重要な事を書いて誰かに見られてしまったら困るからね。
では、怪我に気をつけて。可愛い妹達を心配させないように。Kより
…………………………………………
……
「……また危ない事に首を突っ込んで。……カナデ。どうして君は……これは後で説教だな」
タルタリヤはため息を小さく吐く。
───神の目の調子が悪いからと
といっても、タルタリヤは神の目が無くても邪眼がある。
それに彼は元々身体能力は高い。だから特に支障はないし、『神の目』が無くてもそれなりに戦える。
「……またか」
───何かが呼んでいるような、音がする。
「……調子悪いな」
といってもタルタリヤは、今は不規則な生活はなるべく控えている。前にカナデが知った時散々叱られたからだ。
数時間口を聞かない! と拗ねられた。
カナデはそういう所が子供っぽく、感情的になる。
(……前に聞かれた時にはあまり体調が悪くない様にしていたけど……直ぐに気がつく人だからな、昔から)
カナデは、感受性が豊かで、とても繊細だ。
基本的には中立ではあるが、どちらかと言えば善よりの人間だ。
だからその優しさに触れたら、大抵の人は安心するのだろう。そしてその中に惹かれる者が居て、恋愛感情が芽生えるのも当たり前の事である。
アルフィオも、その1人で─────。
(──はぁ。だから心配なんだよな。まあ、やけにあの男は指輪を気にしているようだから、やっぱり虫除けに渡しといてよかった。……あとは、カナデの居そうな場所は……)
手紙の内容を思い出しながら考える。
タルタリヤがメロピデ要塞に来ると知っていて、待たずに一人で向かう理由。
それは『時間に制限がある』からに違いない。
限られた時間にしかいけない場所があるのだろう。
しかし、その詳しい場所のヒントはカナデの字からは読み取れない。
(でも、ここのメロピデ要塞の
タルタリヤは手紙を折りたたみ、封筒の中にしまい直す。
僅かに香るいい匂いはインクの匂いだ。
裕福な人間の嗜みとして、花などの香りをほんのり漂わせるため、インクに匂いの元を混ぜるのはスネージナヤではよくある事である。
カナデが文章を書くのを好きだと知ったタルタリヤがカナデに贈ると、気に入ったのか毎回手紙を書く時には同じ匂いを手紙に付けるようになった。
それだけでその手紙がカナデが書いたものだという信ぴょう性は増す。
「……本当はリオセスリを問いただし、ついでに戦う──と言いたいところだけど、それよりも今はカナデが優先だ。騒ぎになれば面倒だしな。……でも、やっぱり1回手合わせをして貰いたかったなぁ。クロリンデやヌヴィレットより強いんだろうか」
まあ仕方ないか、とタルタリヤは残念そうにため息を吐きながら手紙を懐にしまう。そしてそのままその場から移動する事にした。
どんな話がみたいですか? 参考にいたします!
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タルタリヤ 番外編
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ディルックルート
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