───数時間後。
「あれ?」
カナデは家を歩き回っていたが、先程までいたタルタリヤの姿が見えない。
庭にでもいるのか? と出てみると、腕を組んで目を閉じているスカークの姿があった。
(もしかしたら、スカークさんなら見てるかな? さっき話をしに行くって言ってたし)
カナデはそう考え、彼女に近づくと、直ぐにスカークは瞳を開きカナデに視線を移した。
「どうした?」
「あの、タルタ……アヤックス見ませんでした? 見つからなくて」
「ああ、あいつなら出ていったぞ。この辺りで戦ってくると言って」
「え? ……あ、あのバカ……! 人を散々惑わしておいて……! スカークさん、ちょっと行ってきます」
「ああ」
カナデが慌てて家を飛び出すと、スカークは僅かに目を細める。
彼女は、少し懐かしむような、慈愛に満ちた目でカナデの背を眺めていた。
※※※
───場所は変わって、歌劇場ではフリーナの裁判が行われていた。
蛍に論破され、ヌヴィレットが有罪を、諭旨機が───「水神」に死刑を言い渡す。
フレミネが遅れてやってきて、最後の石板を蛍達や、観客達にみえるように持った。
それには、先代の水神が、純粋精霊から人を作っている様子が描かれていた。
───原罪とは、先代の水神が天理から原始胎海を奪い、勝手に人間を作ったこと。ゆえにフォンテーヌ人は胎海の水に溶け───否、元の姿に還るのだ。
そして、その瞬間───空間が裂け、巨大な鯨……『呑星の鯨』が現れた。
ヌヴィレット……──水龍でもある彼が何とか鯨を押しとどめようとする。
だが、鯨は止まらない。ヌヴィレットでさえも倒すためには手こずる。
そんな時───黒と紫を基調とした鎧姿の男が現れる。
宇宙を思わせるようなマントが風に揺らいだ。
恐らくは長らくその鯨と戦闘していたのだろうということが傷ついた鎧やボロボロになった手に持つ槍の様子から見て取れる。
「あれは───」
蛍とパイモンは知っていた。その男の正体を。
男は槍で鯨を突き刺す。そして、誰かに見せつけるように、やってやったと言うようにサムズアップ──指を立てた。
それから元の空間には戻ったが──それだけではこのフォンテーヌの危機は救えない。
蛍はフリーナの過去を精神世界の様なもので知り──ヌヴィレットは本来の水神『フォカロルス』と出会った。
フォカロルスは「偽の神」に予言を遂行させることで天理を欺きフォンテーヌを守り、自身が神座もろとも消滅することでヌヴィレットに古龍の大権を還すという計画の全貌を伝えた。
フォカロルスはずっと暗躍をしていたのだ。
──そして、フォカロルスはヌヴィレットの目の前で、死刑となる。
その力はヌヴィレットへと還った。
ヌヴィレットは───フォンテーヌ人に『 原罪』の判決を下す。
彼が普段持ち歩く長い杖が、地面を叩いた。
『───無罪』
それが古龍として。それでも、人間達と長年接してきた
そして、蛍とヌヴィレットの2人は原始胎海に入り、呑星の鯨を苦戦しながらも、何とか倒すことに成功したのだ。
鯨が地面に倒れ──その時、2人の影が空間の裂け目から現れる。
妖精を思わせるような神秘的な女、スカークは鯨に向かい───その裂け目に大雑把に放り投げた。
あれほどヌヴィレットと蛍が苦戦した鯨を片手で放り投げる実力。
だが、その時点ではスカークは見知らぬ強い女──緊張がその場に走る。
「あ、あなたは……?」
蛍は警戒しながらスカークに尋ねた。
すると、スカークは次に、倒れて邪眼による変身が解けているタルタリヤの服の首根っこを掴み、もう1人の人物であるカナデに放り投げた。
「うわっ! ちょっ、スカークさん、この人怪我人だから! もっと優しく!」
カナデが慌ててタルタリヤを自分の方に抱き寄せ、地面につかないように支える。
蛍は慌ててカナデに駆け寄った。
「カナデ!? この人は?」
「この人は……スカークさんだよ。タルタリヤの師匠で、凄い強いひとなんだ。……よっと、私はこのバカを運ぶから説明はスカークさんに聞いて」
「あ、うん」
蛍はカナデに言われスカークの方に向き直る。
するとスカークは口を開いた……。
※※※
「全身大怪我だけど、何か申し開きはあるの?」
カナデは念の為にファデュイの制服を着て、林檎をナイフで剥いていた。
ベッドの上にいる、全身包帯だらけで素人目に見ても骨を折っているのがわかるほど重症のタルタリヤは、カナデのその問いに対し、バツが悪そうに頭に手をやり、「はは」と乾いた笑いをこぼした。
「いや、これは……」
「……これで何回目? 死なないからいい、ってもんじゃないし、無茶はしていいけど誰も身体ボロボロになるまで戦え、なんて言ってない」
カナデは不機嫌そうに怒りながら、林檎を兎の形に切ると、皿の上に置いた。
「いや、その……」
「言い訳しない。どうせずっと戦いたい相手をたまたま見かけたからこの瞬間しかチャンスは無いって思って後先考えず突っ込んでいったんでしょ。このやんちゃ野郎が」
カナデは深いため息を吐いた。タルタリヤは戦闘狂の気があり……死ななければ大丈夫、と無茶をする悪癖がある。
カナデはそれを見て呆れていたのだ。
「しかも……神の目腰にないから他の場所に閉まってるのかと思ったら蛍に渡してるとか。君さぁ、馬鹿なの? 死ぬの? 神の目がないと副作用あるかもしれないんだよ」
「いや、それは……」
カナデはまた深いため息を吐く。
そして、ベッドの横の椅子に座り、包帯が巻かれている部分に手を当てた。
「痛っ!」
「当たり前でしょ、骨折れてるんだから。こう見えても手当てはしてあげてるんだよ。でも無理に回復術に頼ると体に良くないから自然治癒を待ちなよ。その方が動きが鈍くなるし、ハンデになるから」
「……はぁ。君って中々Sだよね」
「誰のせいだ、誰の! ……はぁ。仕方ない。蛍から返して貰いに行くか。外の騒動は落ち着いたみたいだし、君がたまたました行動は今回はいい方に転んだ訳だから。いいけど……あんまり弱味みせないようにしなよ」
カナデは立ち上がると、スタスタと扉の方に迷いなく歩く。だが、扉に手を伸ばそうとしたその時──音がしたかと思えば、いきなり後ろに引っ張られる。
「うわっ!? な、何?」
「どこに行くつもり? 俺も連れてってよ」
「連れていってて……重体患者が何言ってるの? 安静にしてなよ」
「もう殆ど治ってるよ。それに、『
「……はぁ。
「それは無理かな」
「即答か!」
カナデは暫く悩んだ後、渋々と言った様子でゆっくりと頷いた。
そして、「はあ」と深いため息を吐く。
「分かったよ……でも、戦闘は禁止だからね。破ったら触るの暫く禁止にするから」
「は? それは困る」
カナデは「なら大人しくしてなよ」と、呆れた様子でそう言うと、また深いため息を吐いた。
それからタルタリヤの腕を掴み「ほら行くよ。とっとと用事済ませよう」と引っ張る。
「はは、了解」
それから2人は外に出て、フォンテーヌ廷に向かって歩く。
途中にいたファデュイには軽く説明をし、とりあえずは召使から探す事にする。
こういう時には召使の『子供達』がいる壁炉の家……つまり孤児院にとりあえず、当たりをつけ向かう。
いなくとも誰かに話せば約束は取り付けるだろう。まあ、それでなくとも、召使の居場所は分かるし、探し回る必要はないのだが。
「召使さんってかっこいいんだよねー。クールでできる女って感じで……はぁ。久しぶりに会うの楽しみ」
「……やっぱりカナデって変わってるよね。確かに召使は女性に人気があるみたいだけれど、執行官でもあるんだよ?」
「召使さんなら大丈夫だよ。私も全ての執行官に会った訳じゃないけど……この前お茶会をしたんだ」
「はあ……君は本当に危機感がないなぁ」
「それ、君だけには言われたくないんだけど!??」
それから暫く無言で歩くと壁炉の家に着き、ドアを開けて中に入ると、フレミネの姿があった。
驚いた様子で目を丸くした後、フレミネは口を開く。
「公子様? えっと、お父様に用事ですか?」
『お父様』というのは
フレミネは気の弱そうな少年だが、大剣を振り回したり、潜水が得意だったりと意外と武闘派だ。
「ああ、少し用事があってね」
「えっと……その方は?」
フレミネはカナデの方を見て、不思議そうな表情をする。
「あ。今変装してるけど、カナデだよ。彼が召使さんに用事あるからって……リネリネは?」
カナデは自然とリネとリネットの兄妹を探す。手品師としての顔を持つ2人は壁炉の家ではリーダー的な立場で、他の子供達を纏めている。
「リネとリネットなら……その……さっき外に……。うん。2人をそんな略し方するのはカナデさんくらいだよ。だから、間違えないね」
「そう? でもなんか可愛くない、この略し方」
「カナデ、話がズレてるよ」
「あ、ごめんね。ええと……スケジュールは空いてるのかな? ちょっと用事があるんだけど」
「ああ、えっと……」
「……? なんかいつもと態度違うね。2人とケンカでもした?」
「えっ、いや、そんな事は……でも、実は今ポワソン町で色々あって……今回は荷物を取りに来ただけなんだ。だから僕もすぐ外に行くから……」
フレミネはモゴモゴと要領の得ない言い方でそう返してきた。カナデは少し考えた後、何かあったんだなと察し、笑顔で話しかける。
「そっか。分かったよ。ありがとう」
「うん。こっちも探してみるけど、もし会ったら……『公子』が探してるって伝えといて」
「あっ、はい」
フレミネの返事を聞くとカナデは「またね」と言って、タルタリヤに振り返る。
「とりあえず
「了解」
カナデとタルタリヤは壁炉の家を出て、召使を探しながら歩き回る。すると、少し海に近い場所に召使の姿が見えた。
カナデは嬉しそうに近づいて召使に話しかける。
「
「……? 声からして、カナデか。ごきげんよう。それに公子も。何か用でも?」
「……ちょっと話があってね」
「あ。じゃあちょっと席外した方がいい? それなら、適当にその辺を歩いて時間を潰しておくけど」
「あーいや、いいよ。別に聞かれちゃまずい話とかじゃないからさ」
「そう? ならいいけど」
「───ふむ、では話とは?」
「本当は嫌なんだけれど、ちゃんと休暇とらないと、周りがうるさいだろ? 特にカナデがうるさいから君から他の奴らに説明しといてくれる?」
「……なるほど。まあ、分かった。私から説明しておこう」
「助かるよ」
「それはいいが、ある程度控えめにしておかなければ、またそこにいるカナデが騒ぐと思うが?」
「はは、違いないね。……ん? どうやらお客さんみたいだ。丁度いい。もう1人の探し相手の方から来てくれたみたいだね」
タルタリヤが視線を後ろに向ければ、蛍とパイモンがこちらに向かって歩いてきているのが見えた。
彼女は
「あれ? なんで公子もいるんだ? あ! そうだ、蛍! コイツにアレを返してやれよ! アレ!」
「……? ああ。はい、返すね」
パイモンが蛍の前で浮いたまま思い出した様にそう言うと、蛍はマジックポケットの中からタルタリヤの神の目を取り出した。
「そうそう、これだよ。預かってくれてありがとう。これでカナデにもう怒られなくて済む」
「……軽率だから私は怒ったんだよ」
「え? このファデュイ、カナデなのか!? も、もしかしてカナデはファデュイ「違うって。立場だけ作って貰ってるだけ」えっ、あ、そうなのか?」
カナデが困惑したパイモンの言葉を遮るように言うと、タルタリヤの背中のスカーフの様になっているサッシュを引っ張る。
「ほら、早く行くよ。怪我人」
「はは、分かったよ」
「あ! ちょっと待ってくれ!」
パイモンが慌てて2人を呼び止める。
「ん? 何か用事があるの?」
「その〜……ま、まだ話しようぜ! オイラ、もっとカナデの話が聞きたいぞ!」
明らかに慌てた様にパイモンがそう言うと、カナデは自然とタルタリヤと目を合わせる。
(よく分からないけど時間稼ぎがしたいみたい? どうする?)
(暫く話を合わせておけばいいんじゃないかな)
無言だが、何となく互いにそう考え、アイコンタクトを取った後「いいよ」と口を開いたのはカナデだった。
「もう少し話をしようか。
「ああ、構わない。まだ次の用事には時間がある」
「ありがとう。じゃあ、何か話そうか……」
だが、カナデは自分達にも気が付かれてるなら召使にも気が付かれていると思うけど、と内心思う。
しかし、会話はカナデが思っていたよりも長く続き、結局フォンテーヌ廷に戻れたのはそれから1時間後だった。
※※※
「具合どう?」
スネージナヤ行きのファデュイの船の中でカナデはタルタリヤに問う。
とりあえずは故郷の家族に会う事にした様で、カナデも今回は別行動ではなく、一緒に行く事にしたのだ。
「ま、悪くないかな」
「そう? 怪我もそうだけど疲労も溜まってる筈だよ。いきなり強い力を使ってるんだから。疲れはない?」
「まあ、少しね」
「そう……じゃあ、ちょっと寝てていいよ。私が見張っておくから。出来る用事があれば私が引き受けるし」
「はは、じゃあお言葉に甘えて。何かあったら起こしてもらえる?」
「はいよ。……そういえば。寝る前にちょっといい? ……前に、
「ああ、うん。綺麗だよ。俺も好きなんだ」
「そっか。……そういうものを2人でまた見に行きたいな」
「そうだね。見たいな」
2人しかいない空間で、少し沈黙が流れるが、カナデはにこっと笑ってすぐに「はい、寝る時間だよ、おやすみ」と話を切り上げる。
「……おやすみ」
「うん。ゆっくり休んでね」
少しして、カナデは眠ったタルタリヤを見て、目を細める。
その表情には、少しの憂いが見てとれた。
どんな話がみたいですか? 参考にいたします!
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