夏休み
────寂しい。
『そうなんだ。……そうだよね。自分が他人と違う存在だと知りながら。違和感を感じながら、何もなすことが出来ずに、ひとりで。生き続けるのは、辛いよね』
暗い闇に1人の女と巨大な影がある。
巨大な影は嘆き続けてきた。
自分の手が大きく、爪は鋭いから。
自分の力が強く、破壊しか産み出せないから。
──何かと寄り添って生きていくことが、出来ないから。
『大丈夫だよ。本当は、みんなそうなんだ。
みんなと同じである事を美徳として。同じである事を強要されて、その枠に収まらない人はハサミで張り付けにされて。
見せしめにさせられて、爪弾きにされる。
───でも、それが普通なんだ。同じ個体はない。
きみは私の『家族』じゃない。──なら否定するのか? って。 ……そうじゃないよ、否定したいんじゃないんだ。ただね……』
女の手が、それのザラザラとした顔に触れる。彼女は目を細め、慈愛に満ちた表情だ。
『きみが分かるまで傍にいよう。きみが理解できるまで言葉を尽くそう。それはきっと、名付けるのならば『
女は、口を弧に描いて言った。
『だけど私は、今────きみに会えて、すごく、すごく……嬉しいんだよ』
※※※
「それでね、相棒! あたしは先程まで、確かにカナデといたの。彼女は自分の役割は無いって言ってたわ」
「でも攫われた、って事? どうして?」
「……相変わらず呑気な奴だな……。黙って動かないままでいれば、そんな目に遭わなかったんじゃないか?」
その言葉に放浪者──
しかし、その表情は僅かに曇っていた。
「まあまあ。でもそれはカナデのいいとこ、だよ。
でも、そしたら──カナデは噂の『悪龍』か……何者かといる、って事になるのかな?」
宥める様ににこやかな笑顔を浮かべながら『森の妖精』の役割を与えられたスメールの有名な踊り子でもあるニィロウが、一同の顔を眺めながらまとめるように言う。
「……って事は! カナデが大変かもしれないぞ!? でも、オイラ達はまだカナデがどこにいるのかわからないぞ!?」
その言葉に慌てたようにパイモンが言う。だが、蛍は落ち着いていた。
「そうだね、まだ分からないけど……。
でも、とりあえずはまだ大丈夫だと思うな。
カナデは強いし、そういう事には慣れてると思うし」
すると───この地、シムランカの住人であるおもちゃの兵隊達がパタパタと、木で出来た足を動かしながら慌てたようにやってきた。
「ボス! 情報が入りました! 『砕けた海』の方に『騎士』がいるみたいなのですが、そこは被害が強くて……申し訳無いのですが、助けてはもらえないでしょうか!」
「ありがとう。いつも情報の提供、助かっているよ。
わかった。あたしが何とかする」
ナヴィアが微笑むと、兵隊達は安堵したように足取りを軽くさせて持ち場へと戻っていく。
ナヴィアはそれを見届けながら「そう言うわけだから、相棒。皆。悪いけど、付き合ってもらえない? 騎士とやらのいる所へ、さ」
と言って蛍達に頼み込んだ。
無論、反対する者などいない。こうして一行は、兵隊が指定した場所へと向かった。
※※※
その場所に行けば、あるのはひび割れた地面と、倒された沢山の魔物。
そして、その中心にいた青年は両手に持っていた水の双剣を消す。
「これで全部?」
「はい。『騎士』様! 助けてくれてありがとうございます!」
折り紙のリスは、その青年に礼を言うと、パタパタと他の仲間のいる場所へと戻って行った。
蛍達──ニィロウ以外はその青年に見覚えがあった。特に
何故ならこの青年は──。
「あれ?
蛍に気がついた青年──タルタリヤは、笑顔で手を振った。
するとニィロウが「蛍の知り合い?」と言えばまさかファデュイの執行官と言う訳にもいかず、
「……ソイツはカナデの恋人だよ。……はぁ。まさか会うことになるなんて」
「ちょっ!?
「事実だろう? そこのマフィアのボスはきっとソイツの立場を知っているだろうけど、そこの踊り子は知らない筈だ。
ならそう言った方が分かりやすい」
確かに一般人であるニィロウには、説明するのは憚られる……。
「……へえ、そうなんだ? そういえばお兄さん、私たちここに『騎士』と呼ばれる人が来てると聞いて来たんだけど……あなたがそうなのかな?」
「ああ、その事か。うん、そうだよ。俺は確かに『騎士』らしいね。まさかこんな場所でも役割を与えられているとは思わなかったけど」
「そっか! なら、カナデがいる場所には心当たりがあるよ。『悪龍』がカナデを攫ったのかもしれないの。お兄さん強いみたいだし、良かったら一緒に探してくれる?」
そう言ってニィロウが手を差し出すと、「もちろん」と答え、その手を取りながら「でも、『悪龍』か。……強そうな相手だな」と、ニィロウに聞こえないように小さく呟く。
恐らくは戦いたい、と思っていたのだろうと、タルタリヤの事を知っている
しかし、此処にいる
───過去に犯した
それは蛍には
そんな事を考えながらも、
※※※
蛍達はみんなそれぞれが本を開く事でこのシムランカに来た。
シムランカは魔女会に属する女性達が作り上げた場所だ。
『魔女会』のメンバーは昔、「風神バルバトス」に挑んだが、風神が詩で争いを終わらせた。
それ以来魔女たちは争わず、『森の中、崖の近く、空の上』モンドの空の上でわだかまりを解くお茶会を開くようになったらしい。
その中のメンバーでは、モンドの火花騎士のクレーの母親のアリス。占星術師のモナの師匠。アルベド達の造り手。
様々な不思議な力を持った女性達が存在している。
中には普通の人間に戻って、亡くなっている人間もいるようだ。
「──ああ。カナデに前聞いた事がある。
それに俺達も同じ様な境遇だ。カナデが彼女の家にあった本を開いて、来た時は一緒に居たんだ。
絵本の様な世界だから、2人で弟達が喜びそうだ、なんて話をしていたんだけどね、彼女が崖から落ちて。
──風の翼を使っているだろうから怪我はないと思うけど。
その場所に向かったんだけど、姿はもう無くて。
カナデなら大丈夫だとは思っているんだけど...。」
タルタリヤは
「カナデは誰かと行動している時、基本的には勝手に動く人間じゃない。少ししたらいつもなら使いの鳥が飛んでくる筈だ。
それが無かったという事は、それすら出来ない状況にあるって事だ」
そして、その言葉を付け足した。その言葉に
律儀なカナデは基本的には話に入った順番で物事を進める。
緊急性のあるものがあればそちらを優先する事もあるが、それもすぐに伝わるようにしている筈だ。
「どっちにしろここに留まるよりは『悪龍』に会ってから決めた方がいいね。もしかしたら……──」
これまでの話から悪龍は悪い存在だ、と言われはしていたがその割に住人が殺された、みたいな話は無い。
「
ニィロウが首を傾げると、蛍は取り繕う様に笑う。
「ごめん、何でもない。
──でも、そうだね。みんなの言う通り早く悪龍と会ってみた方がいいかもしれない。行こう」
そして、
※※※
滝の裏側の先に進むと、悪龍の正体などが
『悪龍』は不思議な能力があった。
彼は別に誰かを傷つけたい訳じゃなかった。
この世界は『魔女M』が現実のドゥリンを嘆き、哀れんで作り出した場所らしい。
──『悪龍』のその過去は
この世界のドゥリンは、他者に害を与えたい訳でなく、皆と仲良く暮らしたいだけだった。
だが、この世界の人々や旅人達は彼を最初悪い龍だと思っていたが、違う様だ。
しかし、このままでは触れたものはすべて積み木になる呪いを持つ『悪龍』は周りに危害を与えたままだ。
だが、一同が『「言葉」の魔法』で祝福を与えると、彼の姿は小さくなった。
「そういえば君はカナデを見かけた? 俺は彼女と来たからずっと探しているんだけど」
「カナデ? うん、知ってるよ! カナデはボクの影響を受けないみたいで……心配だからってずっと傍にいてくれたんだ。だから、案内するね」
パタパタと魔女会のアリスに『ちびドゥリン』と呼ばれた彼は、先導して先に飛ぶ。
「そこにいるんだ!」
『ちびドゥリン』が指をさした先には小さな洞窟のような場所があった。
一同はそこに向かうと、あまり変わりがないカナデの姿があった。
「カナデ! 大丈夫?」
ニィロウが慌てて声をかけて駆け寄ると、「え? なんで君たちが? いや、タルタリヤとナヴィアはわかるけど……」と困惑したように答える。
そして、ドゥリンを見て目を丸くさせる。
「大分小さな姿になったね……竜の知り合い居るけどそれくらいの姿だ...」
「うん。この姿ならみんなと仲良く出来るって、思ったんだ」
「そっか。えっと、よく分からないけど、説明してもらっても……?」
完璧に部外者のカナデは困惑しながら蛍に問いかける。
それを見て、ニィロウがカナデに説明を始めた。
しばらくして。カナデはニィロウの話を聞いて、「なるほどね」と頷く。
「じゃあ『ちびドゥリン』は悪龍の呪いを祝福に変えて、小さくされた姿って事? なんか物凄く既視感があるんだけど……というかまさかここでドゥリンの話を聞くとは……。だからこの子が他人事に思えなかったのか」
と、カナデは『ちびドゥリン』の頭を撫でる。
「うん。でもボクも、この姿になって良かったって今は思ってるよ! みんなと仲良く出来るし!」
「そっか。良かったね。ちびちゃんは
「うん! 君は
『ちびドゥリン』は無邪気に微笑みながらカナデに近寄るとパタパタと羽を動かす。
「実質弟だよ。ねー、
「勝手に姉を名乗るな。まだ言ってるのか」
白(ハク)は露骨に眉を寄せ、嫌な表情をする。
「だって、『
「カナデ! ボクは家族?」
「うん。もちろん」
「えへへ、嬉しいな〜」
カナデは『ちびドゥリン』を抱っこすると、頭を撫でる。
ほのぼのとした雰囲気に一同がなごみながら、今後どうするか話す。
それぞれしばらくしたらこの世界から出るらしい。
「あ。でも……うーん。一応話をした方がいいかな……。おいで、シュヴァルツ」
カナデは、そう言うと虚空に手をかざす。するとその手の先から空間が広がり、一羽の鳥が現れた。
「あれ? その鳥、よく見るヤツだよな? カナデ、沢山鳥を飼ってるよな?」
パイモンが興味深そうにカナデの腕に止まった黒く、ふわふわした鳥に近寄る。
「うん。まあね」
そう言ってカナデはシュヴァルツの頭を指の腹で撫でる。
シュヴァルツは、機嫌良さそうに「ピィ」と鳴いた。
「......そいつは?わざわざ急に出して、何か言いたい事でも?」
「だから、もう1体のちびちゃんみたいなものかな?」
その言葉にそこにいる一同は目を丸くさせ、困惑する。
だが、タルタリヤだけは軽く説明をカナデが前をして聞いていたので納得した様に「なるほど」と呟く。
「でもこの子はそれなりに強いけど、街とかを崩壊したりする程の力は無いよ。前に知り合いからは『契約』で『使役』している様なもの、って言われた」
カナデはそんな一同の困惑する様子に苦笑しつつ説明を続けると、そっとシュヴァルツを再び空間の中に戻した。
「で、皆はいいけど……ちびちゃんはどうするの? 私と来る? それとも
カナデは、『ちびドゥリン』に問いかける。
すると、『ちびドゥリン』は「ボクは……」と言いかけるとナヴィアが口を開く。
「まだ結論を出すのは早いんじゃない? とりあえずここでちびドゥリンはゆっくりしながら決めた方がいいと思う。あたしは兵士達と話をしてから直ぐに戻るけど、何人かはしばらく残るんでしょ? ね、カナデ」
ナヴィアはカナデに問いかけると、ニィロウも「うんうん! 私も戻らないと行けないけど、もうちょっと残るし! ね? だから遊ぼう?」とちびドゥリンの手を握りながら笑顔で頷いた。
「なら、俺ももうしばらく残るよ。まだ『仕事』の予定には時間があるから」
「……まあ、僕も時間はある」
「オイラ達もまだ焦っている訳じゃないしな! な、
「うん。そうだね」
───夏はまだ長い。
彼/彼女たちは長いようで短い夏休みをまだ楽しもうとしていた。
どんな話がみたいですか? 参考にいたします!
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