If 転生パロ 配信者と一般人 01
「は?」
友人に見せられた動画。
それはありきたりな、一般人が動画を撮っているもので。踊っている青年が写しだされていた。
内容自体はよくあるもの。
私が驚いたのは──その人物が『前世の恋人』によく似ていたからである。
※※※
彼女───カナデには前世の記憶がある。
それだけを聞けば電波を持ったヤバい女性だとか、ゲームのやりすぎだとか思われてしまうかも知れないが、それは紛れもない事実である。
そして、前世だけでなく前々世の記憶さえある。
日々暮らしていくうちに役に立たない記憶はほぼ記憶の片隅に、もしくは無くしてしまったのだが、それが口に出してはいけないものだと物心がつき始めた頃に
それまでの記憶については既視感を覚える度に脳が口に吐き出そうとするのを堪え、何とか社会人になることが出来たのだ。
たまに、前世に会ったことがある様な、見た事がある様な人がいても気がついてないフリでカナデはやり過ごしていた。
そんな中、高校生からの友人に見せられた最近見ている動画。
スラリとしているが筋肉がない訳ではなく、体質上か無駄がない引き締まった体。
ふわりと跳ねた、ショートカットより長めのテラコッタ色の髪(僅かに左髪は白く、メッシュになっている)。
暗く、深海を思わせる様な暗い瞳。
───そして、その顔立ち。
「それでね、この『タルタリヤ』なんだけど──どうやら、前世恋人の恋人がいるって設定らしくて、その子に会いたいが為に動画配信とかした、みたいな設定なんだよね」
そして、その経緯。隠すことが無いその態度。
カナデは頭を抱えたいのを何とか堪えながら『そうなんだ』と無難に相槌をする。
しかし、大っぴらにそんな発言していいのだろうか?
いや、海外のアイドルでは『恋人がいる』と明かしながら活躍している人もいるだろうし、気にする事では無いのだろうか。
それに下手したら頭おかしい人に思われても仕方ないのに。
カナデがそう思案している中でも、友人はカナデが肯定してくれたと思い嬉しいのか、少しづつ情報を出しながら興奮している。
普段は明るいがしっかり者で真面目な彼女にしては珍しい。
友人は、チャンネル登録をして直ぐにプレミアム会員とやらになった様だ。
あとは『FPS』も上手くて、となどと実況ゲームもしている、だとか俳優を目指しており──今は日本で、既に事務所に入っているとか。
カナデは相変わらずの行動力に呆れを抱く。僅かな嬉しさも感じてしまったがそれには気がついていないフリをした。
向こうもこちらも覚えていたとしても、今は今だ。
きっかけがそうだと言っていてもいつかは忘れるだろう。
カナデは自分から接触するつもりは無かった。
上手くやれる自信が無い。前と違い阻むものは軽いかもしれないが、それでも。
前と同じように接触する、という事はカナデには出来そうに無かった。
「ね、チャンネル登録してくれない? ほら、ボタン押すだけだしさ。もうすぐ5万人いくんだよね! それに、たまにコラボする人達もかっこいいし、きっとカナデが気に入る子もいるよ!」
「……まあ、そういう事なら……」
友人に誘われ、動画サイトのチャンネル登録ボタンをタップする。カナデのお気にいり動画サイトは実況者が多いが、その中で動画が流れて来なかったので彼女は今まで知らなかったのだ。
友人曰く女性向けファッション雑誌にも乗っていたらしいが、カナデがたまに買う雑誌とは違っていた。
どうやら今の今まですれ違っていたらしい。
──そんな事より今のカナデにとって大事なのは喫茶店のパンケーキに乗ったアイスが垂れてきている事だった。
※※※
カナデがその日仕事を終え、コンビニで適当に買った夜ご飯を食べていると、新着に例の彼の動画のサムネイルが並んでいた。
あの時は友人の手前断れなかったから登録したが、たまに目について気になってしまう。
───消してしまおうか。それとも出ないように設定しようか。
カナデは思案しながら画面をタップしたその時、電子ポッドにお湯が出来た音が聞こえ──意識を逸らした際に、間違えてボタンを押してしまった。
テーブルに置かれたタブレットからはフリーのよく聞く音楽bgmが部屋に流れ始める。
『──……で、俺は─……』
どうやら生放送だったらしい。少し音を大きくしていたのに話が途中であった事で直ぐにカナデは理解した。
懐かしい声。昔と声まで同じだなんて……。
カナデは懐かしみを覚えてしまう。
しかし、これは見ちゃいけないものだ、と本能が判断しカナデはそっと閉じようとしたが──……
『でさ、その子が俺に……』
彼が話始めたのは、前世にあった恥ずかしいエピソードだった。
カナデは顔を真っ赤にすると、まさか、と嫌な予感が頭を過ぎる。
動画を消し、無言で『タルタリヤ 切り抜き』で検索すれば彼が前世の恋人とのエピソードを話す動画が出てきた。
「あ、あのバカ……!?!」
全世界に恥を晒していたと今、カナデは知った。
なぜ、友人は教えてくれなかったのか。
いや、そんな話をしても仕方ないからしなかったのか、話が長すぎてカナデが聞いてなかったのか。
カナデは顔を怒りと羞恥心で赤くさせた。
多分本人は本気で言っている。
だが、彼の雰囲気や話し方から周りは『設定』だと思ったのだろう。
動画横のコメント欄も『いいな〜』やら『私が彼女だ』なんて冗談めいたものばかりである。
しかし、既にこれが数日、何年続いており、認知度が高いのであればもう──……。
「終わった……」
カナデはその場に頭を抱え蹲り、恥ずかしさをどうにか発散させようとする。
いっそ見なければ良かった。
そうやってカナデを釣る作戦なのかもしれないが。
(イヤイヤ! 私は釣られない!)
カナデは至極真面目に真剣にそう考えた。
もし仮に、向こうが気がついていたとしても関わりたくないし会いたくない。
いや、そもそもこのチャンネルに登録しただけで会う確率なんて0に等しいのだ、とカナデは自分を落ち着かせる様に深呼吸をするのだった。
※※※
次の日の朝。
中々眠れず化粧で隈を誤魔化したカナデは、住んでいるマンションから出勤しようとして、玄関に有名な配送会社のトラックが見えた。
誰かが引っ越すのか、もしくは引っ越してきたのかも知れない。
しかし、田舎じゃあるまいし、わざわざ確認する必要も無い。
気にも止めずスマホでSNSを見て新しいソシャゲの情報やらを確認した後、イヤフォンを嵌めて音楽を流しながらカナデはいつもの様に出勤をする。
カナデの悩みはそれだけでは無い。
最近、視線を感じる様な気がするし、誰かに付けられている様な気もする。
だが、それは自意識過剰で被害妄想が激しいだけかも知れない。
だが、警戒して損はしないだろう。
帰りに防犯グッズでも買おうか、だけれど他に出費が……と朝から別の事も考えるのが終わらない。
現実逃避をしているのかもしれない。
やっぱり引っ越した方がいいのか? とも思いつつ、でも引っ越すには色々費用がかかるし交通も悪くなるかもしれない。
今住んでいる場所は少し高いがセキュリティはそこそこしっかりしているし、職場にも近い。
カナデは悶々と考えていればいつの間にか仕事先のビルの目の前にまで辿り着いてしまった。
(仕方ない、とりあえずは置いておこう)
カナデは一旦その考えを保留する事にした。
※※※
「ただいま」
誰も居ない部屋の電気を付けてカナデがそう言うと、バタンとドアが閉まる音がした。
『ただいま』を言うのは癖だ。誰もいる訳でも無いのだから言わなくていいのに。
カナデは上着を脱ぐとハンガーにかけて手を洗ったり、必要最低限の事をする。
そして、洗濯物が乾くまで手持ち無沙汰になり、スマホでSNSをチェックし、動画サイトのアプリを開いた。
とりあえず適当に眺めつつ、買ってきたコンビニの晩御飯を袋から取り出す。
今日は自分へのご褒美にアイスまで買ってしまった。ご飯を食べてからにするか、食べる前にするか。
アイスが溶けても勿体無いし、今食べようか。
カナデがそう考え始めた時だ。
『ピンポーン』とチャイムの音が聞こえた。
「え、何?」
宅配を頼んだ記憶は無いし、友人はこんないきなり来ないはずだ。連絡をくれるはず……。
では、誰だ? とカナデが警戒しながらドアスコープを覗けば、誰もいない。
最近ストーカーがいるのでは疑惑があるのでドアを開くのは躊躇われた。
無視をしよう、とカナデがドアに背を向けた途端。
『ピンポン』とまたチャイムの音がした。
「ー……ッ」
カナデは息を飲み、思わず玄関の方を見てしまう。
しかし、やはり再度確認をして見ても、そこには誰も居らず。
だが。確かに音は鳴った筈だ──……。
カナデは少し怖くなり、部屋の音を立てずに静かに過ごすことにした。
※※※
(あ。ゴミ捨てなきゃ)
朝早く。休日のその日、起きて直ぐにカナデは今日はゴミ出し日気がついた。
いつも纏めて出すのに、と慌てて袋を持ち玄関に向かうが、そこでまた『ピンポン』とチャイムの音がなった。
「ー……っ!」
カナデは急いでゴミを持つと、そのまま家から出た。
いざとなれば、コレで殴ればいい。
怖くなってから色々と考えたが、取り敢えず先手必勝だ。
カナデがゴミ袋を構えて、気配のする方に勢いよくゴミを投げようとした時だ。
「──……ッ!」
『それ』は姿を見せるなりカナデに抱きついてきたのだった。
「ー……え」
カナデは驚きのあまり手からゴミ袋を落としてしまう。
しかし『それ』が邪魔で拾う事は出来ないし、身動きがとれない。
カナデは混乱し、『それ』を思わず押しのける。
すると『それ』が離れた事によって、ようやくカナデはその姿を見ることが出来た。
「な……っ」
なんで、と言おうとしたが驚きのあまり声が出なかった。
だって、その彼は昨日見た動画に映っていた──……。
「……やっと会えた」
彼はそう言うと嬉しそうに笑ったのだった。
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