転移で魔法少女の守護者になっちゃう系女騎士 作:おねロリお願い
──暗黒大陸西部・人魔大戦停戦から1ヶ月後。
空気は悪いし、飯も不味い、到底人が暮らせる環境じゃないこの地に人の気配は無い。
「……王子も酷な事を仰る」
かつて、というよりは最近までそれはもう苛烈に人類と魔族はやり合っていた。かくいう私も王子から勅命を受け、各地を転戦して来た過去がある。顔や姿を隠せる全身鎧とマント、頑丈な手斧とラウンドシールドを持って戦っていたからか、
そんな日々も今は昔。人類と魔族を別つ大戦は魔族からの申込みにより停戦が締結されている。人類も魔族も、消耗著しい為だった。
……だが、王国の諜報部は魔族が水面下で怪しい動きを見せている事を確認していた。その動きの訳を知る為、小回りの効く触覚として私がこの任務に宛てがわれたのである。
魔王が住まう首都から遥々離れた大陸の角の地下で動きを見せる魔族。王子は何らかの新兵器の開発を行っているのではないかと睨んではいるが、今までこの一帯の調査を続けている私に言わせれば、これは違う。
兵器開発を行っているにしては物資の搬入が少ない。それよりは人員の輸送の方が多い。それも研究者などではなく、兵士の類が多い。練兵を行うにしてもここまで密かに行う理由が分からない。それに入っていくばかりで出てくる奴らも居ない。
まるで暖炉の薪の様に、何かに焚べられている様な印象すらある。ただ、幾ら何でも物量に秀でた魔族とは言えそこまでの無駄遣いをする理由は無いだろう。とすれば、それだけ兵士を必要とする何かがある。
「まさか、こちらの大陸へ続くトンネルでも掘る気か?」
それは一大事だろう。私は更に深く調べる必要があると確信していた。手斧と盾を携え、バイザーを降ろす。これが私にとっては私人と公人の切り替えだ。
「『身隠す霧よ』『音消す雪よ』」
潜入する為、二つの魔法を行使する。姿消しと音消し、諜報部が開発した魔法だ。見えない身体と聞こえない足音で以って見張を掻い潜り容易く地下へ潜入する。
壁面から薄らと光を放つ結晶が道を照らしている。研究施設にしては足元が悪い。よほど隠したい事があると見える。
何か怪しい物は無いか、目を凝らしながら一歩一歩と進んでいく。
どこを見ても岩、岩の殺風景な光景が続く事暫く。
暗い通路の向こうには光があった。私は手斧をより一層握り締めて向かう。ヒリついた戦場の気配がした。背中を逆撫でるそれはいつであろうとも私に喝を入れてくれる。
魔法の恩恵もあり、何事もなく光が見える開け放たれた門らしきものの元へたどり着いた私は一先ず脇に寄って向こうを覗き見ようとした。
瞬間、目の奥がぞわりと痒みを訴えた。
眼前には背中を突き出しながら急接近する魔族の姿。身を屈め衝突をかわす事を優先し、避けたそばから手斧を投げる体勢を取り振り向く。
だが、既に事切れた様子だった。吹き飛ばされたのか。
……おかしい。誰かが先に立ち入るとしても、この任務に向かったのは私1人。現地で協力者と合流する手筈になっているなど聞いていない。内輪揉めか、或いは。
身を滑らせる様に、更に奥へ。光に満ちたその場所は、補強された土壁で作られた広い空間であった。一見すれば研究室や実験場の雰囲気を醸すこの場所、何やら魔族の言葉で記された資料が散乱しているが、それよりも気にすべきは現在の状況だ。
耳を劈く打撃音、肉と骨が打ち鳴らす原始的闘争の音色が周囲を満たしこの場を闘技場さながらの血生臭い空間へ変えてしまっている。
「──!」
「────!」
その音の狭間を抜ける人の声。一方は魔族、もう一方は全く聞いた事のない言葉だった。ただ、こうした場合でも翻訳魔法がある。
「『言紡ぐ詩よ』」
姿を消す魔法や事を消す魔法と同じく門外不出、軍用の短詠唱魔法である。機能は至って単純だがどれも効果は絶大。大戦を戦い抜くには欠かせなかった魔法の一つだ。
「こいつ! 一体まだどこにこんな力が!」
「捕まえて嬲ってやるからな!」
「っ……まだ、私は!」
切迫した事態、誰かと誰かが戦っている最中に違いないだろう。私は更に踏み込み、複数人の魔族に囲まれた丈の短い異質なドレスの様なものを着た少女を見た。
……民間人、ではない。少女は魔法で作られた服を着ている。私の知る魔法にああした装備出来る魔法という物は存在しない。だが、少女自身は見たところ人間の様だ。
見慣れない諸刃のか細い剣を振るう姿は確かに修練の跡を感じさせるが、実戦経験がまだ足りていない。意思はそうであろうとも技の泥臭さが足りない。それは骨を斬られても首を断つ様な殺意の有無だ。
少なくない積み上げはあったのだろうが、少女の振るう一撃が悉く命から皮一枚遠い。
……彼女が1人でも問題なければ監視に徹する事も考えられたが、このままではむざむざ殺されるのを眺めるだけになりそうだ。いや、女であるならもっと悲惨な事になり得るか。どちらにせよ、介入すべきだ。後で始末書の山と格闘する事になるだろうが、威力偵察としてお目溢しを頂こう。
私は物陰で姿消しと音消しの魔法を解く。これは軍部の秘中の秘。そうした魔法があるという事自体を無闇に喧伝してはならない規則だ。
もう一度物陰から様子を見れば、少女が羽交い締めにされ首を締められている。
「……申し訳ありません、今行きます」
私は聞こえる筈もない謝罪を呟き、飛び出した。
──□──■──□──
「離しなさい!」
青いドレス姿の魔法少女、
四方は敵、どころか敵陣の最中。敵の罠により1人仲間と分断された彼女は、此方と彼方の世界を繋ぐ転移門の向こうに居た。
1人でひっくり返す事が出来る力量があればこうはならなかったかも知れないと彼女は思いながらも、絡みつく怪物の丸太の様な腕を振り払おうとしていた。
──
そんな中、1人の魔法使いが現れた。その魔法使いは、ある魔法を授けた。
それこそが『魔法少女』、使い手は一部を除き少女と呼べる者達のみ。
存亡の危機にあった世界は藁にも縋る思いでそれにしがみ付いた。そうして幾らかの時を経て、運用方法が確立された現代。サキもそうした社会で生き、魔法少女となった存在であった。
「やめっ、息が……だれか、たひゅ」
走馬灯の様な何かが見え隠れする視界、霞んでいく。怪物が更に彼女の細い首を締め上げていく。振り子の様に揺れる足の振り幅が小さくなっていく。
このまま悪夢の中に溶けるのは嫌だ。小さな戦士の心は折れかけていた。
助けを求める声は、本来ならば誰にも届く筈は無かった。ここは秘された場所、侵略の橋頭堡となる最重要の基地である故に。
だがここには騎士が居た。
「──離しなさい」
麗しき声に紡がれたその言葉は、果たして怪物の耳に届いた。
既に
「っはぁっ! はぁっ!」
虚空に溺れようとしていたサキの身体に新鮮な空気が流れ込み、忽ち息を吹き返す。そんな姿に目もくれず、怪物の背から飛び出した騎士は真っ赤なマントを翻し、唖然としていたもう1人の怪物の首を手斧で刈り取り、用は無くなったと言わんばかりに乱雑に蹴飛ばしている。
魔法による誤射を防ぐ為、最前線でも目立つ様にと仕立てた紅の頭巾と一体になったマントだが、サキはそんな騎士の姿に夢見心地であった。騎士の居るこの世界に騎士らしさ、などという言葉は存在しないが、少女からすれば物語の騎士の様な救い手の姿が見えていた。
戦場に違いないというのに、サキの頬には場違いな朱がさしていた。微かな熱に気付いた彼女は目を見張って自らの頬に触れるが、熱が冷めない。
そんな中、騎士は更に屍を積み上げていた。
周囲の怪物達の闘気は忽ち萎び、騎士から距離を取る。それも当然だ。つい最近までは戦闘経験もロクに無い若い人間とばかり戦っていたのだから。腑抜けた者には過ぎたる檄だ。
だが騎士は驕りも萎縮もしない。ただ淡々と状況を見極めるのみ。その蛮族めいた武器の主らしからぬ冷徹さが更に異質な圧迫感を生み出していた。兜の奥の瞳が誰を見つめているか、次の犠牲者になりたくはないと怪物は二の足を踏む。
(このままでは、埒が開かない)
騎士は兜の奥でため息を吐く。兵士の質は悪かろうと基地と言うだけあって人員は少なくはなく、相手が出て来ないのならこちらが手を出すのはただただ騎士にはリスクであった。騎士は一対多をしているのではなく、突出した相手との一対一を繰り返しているだけであり、好き好んで囲まれ叩かれる趣味は無かった。
騎士は考える。少女を連れてここから逃げるのは難しい、と。元々は単独潜入任務に近い形である為、現地で追われる身になった場合の用意は不足気味であったからだ。
そうなれば、と他の手段を考えた時、騎士乱入の衝撃から立ち直った魔法少女、サキが騎士の側にやって来る。
「騎士様! 私の言葉、分かる?」
「ええ」
「私、あの亀裂からここに来ちゃったの、あそこに入れば逃げ出せるかも!」
そう言われた騎士は怪物の壁の向こうへ目を向ける。サキの言葉の通り、この部屋よりも遥かに強い光を放つ亀裂が虚空に開かれている。
騎士に与えられた選択肢は2つ。
後ろに逃げるか、前に逃げるか、のみである。
ならばと、騎士は即断即決で答えを決めた。
「ひゃっ?!」
次の瞬間、サキは情けない悲鳴を上げていた。手斧を盾にしまった騎士がその身体を
そのまま騎士は猪の如くに加減知らずな直進をしていく。
「いやぁぁぁっ!?」
サキは騎士の首に手を回し、騎士はサキの様子など気に留めない。
向かう先には怪物の壁、だが、騎士は脚に力を込めると容易くそれを飛び越えてみせる。
呆然と見上げる怪物達の視線を背に受けながら着地した騎士は、軽く会釈をする。
「それでは皆様、私はこれで失礼します」
マントを棚引かせ、亀裂の向こうへ騎士は容易く少女を連れ去っていく。
怪物はただ、それを見送る事しか出来なかった。