転移で魔法少女の守護者になっちゃう系女騎士 作:おねロリお願い
亀裂を抜けると、開けた道の真ん中に私は立っていた。敷き詰められた石畳の様式は私の知らない物だ。道の端に立ち並ぶ街灯も同様に。
しかし、今一番に注目すべきは私達に向けられた三者の視線だ。
内2人は私が横抱きにしている少女と似通った出立ちの少女。それぞれ銀と薄紅色をしている。腕の中の少女を見て、驚いた様子だ。
内1人は草木が人の形を模った者……ドリアードと呼ばれる種だ。青々とした巨大な葉を立ち襟にして、頭の上に王冠の様な蕾を頂く様はさながら女王。見た目に中身が伴っているかはさておき。
先に口を開いたのはドリアードだった。
「あら、何故貴女が此処に居るのかしら」
「ふざけないで! アンタのせいで私死に掛けたんだから!」
私に抱えられたまま指を指して怒鳴る少女だが、この格好では示しがつかないだろう。
「失礼しますね」
私は視線を気にせず膝を突き、抱えていた少女を足から降ろす。空いた足を抱えていた手で少女の手を取りそのまま立ち上がらせる。騎士として叩き込まれたエスコートの作法の一つだ。
「今更ですが、お怪我は?」
「……はっ!? あ、だだ、大丈夫!」
林檎の様に赤らんだ顔を振り回す少女。失念した、少女だからと言って、1人の戦士に対して礼を失した振る舞いだったか。少女に恥をかかせてしまったかも知れない。
「……いいなぁ」
そう自戒に励んでいた時、どこからか呟きが聞こえたが良くは聞き取れなかった。翻訳魔法の不調か、あるいは遠方への魔法の効きが悪くなっているのだろうか。
そんな事をしている内に場の空気が緩んだ気がしたが、私の殺気はまるで萎えない。目の前に敵が居るのだから。
下手に仕掛けてくるなら即座に首を斬り落とすつもりだったが……むしろ、こんな隙を晒しても仕掛けに来ないのは仮にもつい最近まで戦っていた敵国の兵士としてはあるまじき事だ。我々の敵はここまで腑抜けていただろうか。
もし、腑抜けるだけの余裕があったと言う事なら──随分と舐められたものだ。
私は盾の裏から手斧を取り出す。同族の血に塗れたそれを見て、漸くドリアードは目の前に居るのが敵であると認識したか、周囲に触手の様な蔦を伸ばし始めた。
「気をつけて! 相手は蔦の先から種を飛ばして来ます!」
言葉と共に蔦の先が八つに裂け、肉肉しい内側が晒される。私は少女の前に立ち、盾を構えた。
間髪入れず襲い来る嵐の様な衝撃。
盾を礫が打ち鳴らす。先程薄紅の少女から忠告を受けた通り、種子を射ち出しているのだろう。器用な真似をする。
「この、やめなさいよ!」
「今なら!」
「ここで終わらせる」
ここで三者が動き出した。
青の少女は私の背を飛び越え斬りかかり、薄紅の少女はハートを模った杖を振りかぶり、銀の少女は硝子の大剣を突き刺す構え。一見すれば詰みの様相だが、相手はドリアード、手は幾らでもある。
「っ!」
誰の舌打ちか、数を増した蔦が彼女らの進みを妨げる。それどころか、死角から伸びた蔦が少女に絡みついていた。それはまあ如何わしく。私も一応は女、嫌悪からか喉の奥が苦くなった気がした。
「ちょっ、どこ触ってるの!?」
「きゃぁっ?!」
「くっ」
私にもそれは伸びていたが、奴が蔦を増やそうとした時に生まれた意識の隙間を逆手に取り、迫る蔦をすり抜け更に深く間合いを詰める。
奴と私の目が合う。危機感の欠片も無いつぶらな瞳で無邪気なまでにこちらの命に手を掛けようとする。これだから魔族は恐ろしい。
背後から迫る
狩るか狩られるか、魔族との戦いはいつだってそうだった。命を掴む時、こちらもまた命を掴まれる事を覚悟しなければならない。勝利に近付いた時とは、敗北に一番近い時でもあるからだ。
その言葉の通り、手斧を振りかぶるその瞬間、奴の腹が裂け中から鋭い蔦が飛び出す。相打ちを狙った物だろう。
だが読めていた。貫かれる前に蔦を掴み、こちらに引き寄せる。ここに至り、奴から余裕の表情が剥がれ落ちた。だがもう、遅い話だ。
手斧がドリアードの首を切り飛ばす。同時に私はもう片方の手のひらを宙に舞う緑の首へ向け唱える。
「『滾れ炎よ』」
頭一つ分ほどの火球を放てば、忽ち首は跡形もなく焼き尽くされる。短射程高火力のこの魔法であれば、苦痛すら感じる間も無かっただろう。ただそれは慈悲ではなく、少しでも次の敵を早く殺しに向かう為の工夫でしかない。
ともかく、これで勝負は決した。
命尽きたドリアードの身体は灰となり、風に攫われ消えた。
後に残るのは、私へ向けられる奇異の視線のみ。
既に
さて、どうすべきか。
──□──■──□──
──少女達は、風に消えゆくドリアードを見つめる騎士に視線を集めていた。
武器から手を離さない騎士には、近寄り難い雰囲気もあったが、青の魔法少女、
「あ、あのっ! さっきは助けて貰って……ありがとう」
「お互い様ですよ。貴女は私に逃げ道を教えてくれましたから」
鎧の重厚さに似つかわしくない柔和な声色で語りかける騎士は、まるで慈母の様であった。……が、ここでサキは違和感を覚えた。
──あれ、騎士様から女の人の声がするんだけど?
女騎士、今の世の中では珍しくもないキャラクター性ではあるが、実際の人物としてフルプレートの騎士を見た時、一目で女であると予想を付けられる人間はそう多くはない。気が動転する事の連続で、そこまで気を回せなかったサキの立場からすれば尚更である。
「……あ、あの〜」
「何かありましたか?」
そう言って小首を傾げる仕草は女性のそれであった。そんな姿に、いよいよサキは何も言えなくなって閉口した。
困惑しきりのサキであったが、一番の困惑は騎士が男ではなく
そんな事になっているとも気付いていない鈍感な女騎士は、次に薄紅色の少女の元へ向かう。
サキが居ない間、ドリアードとの戦いに臨んだ2人──薄紅の魔法少女・
女騎士は、王子から常々礼節について説かれる事があった。今でこそ穏やかな気性であるが、かつてはバーバリアンナイトの異名を
先のエスコートもそう。今もまた、女騎士は若き戦士に敬意を払い、2人の前で膝を突く。ユリは目をぱちぱちと瞬かせ、何をする気だろうと興味深々の様子。一見冷静を装ったミラもまた、無表情の奥に警戒と好奇を忍ばせていた。
「失礼、手を取っても?」
「は、はひ……」
「あと、先程の忠告、貴女でしたよね。感謝します」
「いやそんな……えへへ」
目の前に紅い外套を下に敷かない様に払いながら膝を突いた騎士。
まるで物語のワンシーンの様な光景に、サキより一等そうしたヒロインへの憧れがあったユリはタジタジであった。傷を負った華奢な手を重厚な籠手の掌に乗せると、女騎士は一節を唱える。
「『命繋ぐ癒しよ』」
すると、彼女の傷が見る見る内に癒えていく。時計の針を巻き戻す様な、超自然的光景であるが、魔法少女からすれば然程珍しくもない光景である。ユリはただただ感心し切っていた。
「ありがとうございますっ!」
癒し終われば、彼女は慌てて礼を言う。女騎士は手をひらひらと振り、大した事はしていないと見せた。内心、獲物を横取りした事を恨まれてはしないかと考えている位である。無論、一部を除いてそんな魔法少女は居ないのだが。
(……この騎士、
しかし、その光景に猜疑を覚える者もまた1人。ミラである。
魔法少女の魔法は1人に1系統。それが常識であった。
解釈や発想によりそのレンジはまちまちであるものの、例えば風を操る魔法少女が炎を操る、などと言う事はまず無いとされる。
それをこの女騎士は炎と癒しの魔法を操って見せたのだ。それはどちらかと言えば、彼女らが敵対する魔族……この世界では異界人と呼ばれる者達に似ていた。
(私達に取り入ろうとしてる? いや、どうして然程功績もない私達みたいな魔法少女に)
ややお人好しの気があるサキとユリに代わり、2人を守る使命感に満ち溢れた少女、ミラは無愛想なままその光景を眺めている。ただ、サキを助け出した事には感謝はしていた。今の状況が余りにも信じ難い故に、表に出せていない。
「……さて」
そんな気配に気付いた女騎士はゆっくりと立ち上がる。
「これ以上、貴女を怖がらせるつもりではありませんでしたが……帰る事は叶わない様ですね」
「……え?」
そう惚けた声を漏らしたのはサキであった。女騎士はサキの背後、先程まで此方と彼方の世界を繋いだ亀裂が跡形も無く消え去っていたのである。
──気付いたサキの顔色は、その服の青より尚青く染まる。
「……あ」
「失礼しますが……ここで野宿が出来る場所は?」
「えぇと、野宿ですか?」
自らの世界への帰還手段を失った筈の女騎士よりも動揺している2人。
「……ああ! 別に構いませんよ。私に
そう女騎士は言ったが、それが更に2人の顔色を悪くさせると流石に彼女も首を傾げてしまう。彼女はいち騎士としては一人前であったが、人心を読む事は然程得意ではなかった。
「その格好で野宿なんてしたら捕まるわよ」
そんな様子を見兼ねてか、ミラが口を開く。サキとユリは、あまりに直球過ぎる言葉に面食らっていたが、女騎士は何かに納得した様子である。
「確かに、この
女騎士は紅いマントに手をかけると、徐に引っ張った。
すると、鎧が光となり虚空に消えていく。更に引き抜いたマントは紅いストールへ変化する。
今日何度目かの驚きと共に、3人はその光景を見た。それはまるで、魔法少女が変身を解除する時の様で──。
「──ふぅ、これならば怪しまれないでしょうか」
女騎士が先程まで立っていたその場所には、長い金髪と碧眼を備えたスタイル抜群の美女が立っている。怜悧な顔立ちは、どこか狼を思わせる鋭さもあり、愛嬌もあり、なんとも言えない美しさを醸していた。
飾り気の無い萌葱色のチュニックを着ているだけであったが、それでも何かのモデルかと錯覚してしまいそうな美女は今、性懲りも無く野宿をすると宣っていた。
「ちょっと! それは不味いでしょ!?」サキは怒った。
「それはダメですよ!」ユリは止めた。
「貴女、自覚は無いの……?」ミラは引いた。
別に5秒後の命が定かでない程この街の治安が悪い訳ではない。寧ろ、先程の様な魔族との遭遇が無ければ女騎士が居た世界よりは遥かに治安が良い部類に入る。しかし、鴨がネギを背負っても煮込まれないと確信を持って言える訳でもない。実情は熊が食える物なら食ってみろと鍋を構えているような有様であるが。
しかし、万が一と言う事もある。
魔法少女達を統括する組織が存在する。ならばそこへ連絡を入れ、保護を頼むのが筋というものだろう。
それが一般人であるならば、であるが。
サキとユリはその発想に辿り着いたが、ミラは一つの懸念を抱いていた。女騎士が
ミラは知りうる限りで亀裂から現れた存在が友好的であったケースを知らなかった。急に現れた彼女がどう扱われるかはまるで未知数であり、そこで人らしい対応をされるかも分からない。
そこまで考えるのは、自身が守るべき存在と定義していたサキの命の恩人でもあるからか。
「確かに、営みの中に見知らぬ異邦人の姿が混じれば人々も安心して眠れませんか……」
或いは、全く見当違いの懸念を並べる女騎士の姿に並々ならぬ危機感を抱いた為か。
ともかく、心の天秤は警戒のみから保護へと傾きつつあった。
ミラは考えた──その結果。
「なら、私の家に来ますか?」
魔法少女の姿から制服姿へ、長い黒髪の少女は女騎士の手を取りそう言った。
『え?』
こうして、見知らぬ美女1人を彼女を家に連れ込まんとする