汚いガキどもを見つけたので虐待することにした。 作:史上最恐の悪役
おや?今回はあの小柄な女の子が今宵の犠牲者だそうですねぇ……
今、俺は
季節も秋に入り始めたということもあり、窓から差し込む陽射しがちょうどいいもので、電車の等間隔に発生する揺れも相まってか少しずつ眠気に誘われる。
あぁ、このまま睡魔に身を委ね、目的地まで深い眠りに────つければどれだけよかったか。
「…………」
ファサファサと掛かる
ガタンゴトンと揺れる電車に同調する様に、隣にいるアズサの白髪も揺れる。何なら揺れすぎて俺の肩にかかるぐらいだ。
コイツのサラサラヘアーが妙にくすぐったいので何度か跳ね除けているんだが、まるで磁石の様に舞い戻ってくるのでとうに諦めていた。これでは気になって睡眠など出来やしないってんだ。
「〜〜♪〜〜♪」
対してアズサは幸せ溢れるオーラを醸し出しながら鼻唄を歌っていやがる。何の歌かは分からないが、恐らく俺の隣にいる事への恐怖を紛らわす為の行為なのだろう。
……ククッ、いい事を思いついたぜ!
「オイ、アズサ───じゃなくて
「ムっ、サド───えっと、
「多分映画館を戦場だと思っているのはお前だけだ」
そう、今回コイツと一緒に向かう場所は映画館────そして、そこで公開される『ペロロジラの逆襲』という如何にもいいとこのB級映画を観に行くところだ。
ちなみにお互いをコードネームで呼び合っているのはセキュリティーやら盗聴やらを警戒してのことらしい。俺らを追尾する輩なんている筈ないが、面白そうだから乗っかっているだけだ。
さて、映画の話だったな。これを説明するにはつい先日まで遡らないといけない。
先日、俺がデパートを彷徨う中でたまたま見つけちまったガラガラくじにチャレンジしたところ……なんと当たってしまったのだ────映画のペアチケットが。
あの時は流石にキレたね。ガラガラくじって普通最新のゲーム機とか温泉旅行券じゃねェのかよってな。
まぁ、屋台のオッちゃんが『これが限界で……』って言うもんだから許してやったけどなァ。自ら貧しさを認めさせて恥辱を与える……まさしく虐待!虐待をしたとなりゃあチケットの1枚だろうが2枚だろうが我慢してやるさ。
しかし虐待をしてもチケットが旅行券に変わることはなく、結局のところ俺にとってはただの紙切れを────否、紙切れ以下も同然な物を貰ったということになった。
そこでだ。しかし、と。いや待てよ、と。俺の虐待的脳細胞がSTOPをかける。そういえば、以前この舌を出した化け鳥を見てキャッキャと喜んでいたガキがいたな、と。
そん時にピンと来てしまったのだよ────“アズサを連れて行く”という恐ろしき虐待をなッ!!
「しかし、随分と楽しそうじゃねェか。そんなに映画が楽しみなのかァ?」
「……うん、映画はすごく楽しみ。だけどそれ以上に─────」
そう区切って俺を見上げるアズサ。
潤んだ薄紫色の瞳は揺らめき、ほんの僅かに顔に紅を付けている。
なるほど、これは─────
「ククッ、醜い痩せ我慢だぜ。お前の潤んだ瞳、ほんのり紅い頬……これはどう考えても怒り心頭ってなァ……!!」
「─────ッッッ!?!?」
アズサはすぐさま顔を両手で覆い隠すが、時は既に遅し。俺に指摘されて一瞬で顔が真っ赤になり、何なら隠しきれていない耳すらも真っ赤になっている!阿呆だ、ここに本物の阿呆がいるぜ!
「フハハハッ!そんなに俺が嫌いか?結構結構、俺は赴くままに虐待をするだけだからな!」
ガキどもに一切容赦などせず、ブレずに我が道を征く────なんて酷い大人なのだろうか!
……ただちょっと声量は小さくしようと思うぜ!周囲の視線が痛いからな!
それから、コードネーム呼びはアズサが普通に名前を呼び始めたことで自然と消滅した。何がしたかったのかこれっぽっちも分からなかったぜ。
◇◆
「…………普通に面白かったな」
「うん!!すっごく面白かった!!」
映画館から出ての第一声がこれである。
いや、こんなに面白いとは流石の俺でも予想つかなかったわ。
普通に迫力あったし、サウンドも良かったし、セリフ選びも良かった。何なら今後の虐待的活動に使えそうな語録とかあったしなァ。
ちくしょう!!前々から計画していた『ポップコーンを取るときに手が重なり合うイベント』を
────まぁ、いいか。普通に面白かったし。
「…………」
「あ?」
先ほどから黙りをしているアズサが気になって目を向ければ、自身の手のひらをじっと見ていた。
まさかコイツ、自分もペロロジラみたいになれるだなんて思っているわけじゃあるまいな……?
「……アズサ、映画を見てもお前がデカくなれるわけじゃないぞ……?」
「なっ!?そ、それぐらい分かってる!!これは……その……サドの、手が……」
だんだん声が小さくなって最後らへんは聞こえなくなったが、最初の反応で大体の事が分かってしまった。
ククッ、そうも過敏に反応されたら『はい、そう考えてました』って言っているようなモンだろうが馬鹿め!分かったか、俺に敵うなんて100年早いんだよ!
「あ、あの!!!」
そっぽ向くアズサの頭を
声がした方へ目を向ければ、何やら両手に握り拳を作り目を爛々とさせたガキが俺たちの事を見ている。
……まさか、今の呼びかけは俺たちに対してだったのか?
「ククッ、なんだァ、嬢ちゃん。俺たちに何か用かァ?」
「あっ、はい!その、えっと……!あの……!!」
「あー、急かさないから落ち着きな。ほら、まずは深呼吸」
「わ、分かりました!スゥ〜……ハァ〜……」
何故か目の前でテンパっていた嬢ちゃんに目線を合わせるように中腰になる。上からだと威圧感を与えちまうからなァ?
「落ち着いたか?じゃあまずは嬢ちゃんの名前を教えてくれよ」
「は、はい!私はヒフミって言います!よろしくお願いします!」
コイツはしっかり挨拶が出来るヤツらしい。腰をしっかり90度に曲げてらァ。
ククッ、挨拶をちゃんと出来るガキは嫌いじゃないぜェ?
「ヒフミだな、よろしくゥ!!ちなみに俺はサドっつーモンだ。で、コイツが────」
「…………」
いつの間にか俺の背後に陣取って半分だけ顔を覗かせるアズサは、じーっとヒフミを半目で睨みつけていた。それを受けるヒフミは『どういう事ですか?』と俺の顔とアズサの顔を右往左往している。
……ははーん?さてはコイツ、この何とも無害そうな同性であるヒフミが俺に近づかないようにとしているわけか。俺がヒフミに悪さを出来ないようにと。
自身が嫌われようとも、このいたいけな少女を逃そうとする精神性……やはりお前には目を見張るものがあるな!
しかし、少し頂けない部分もある。
「……アズサ、俺は人に会ったらまず何をしろと教えた?」
「…………挨拶?」
「分かってんじゃねェか。理由は何であれ、まずは挨拶と名乗り……それが基本だ。いいなァ?」
「……そう、だな。ごめんなさい」
「分かればいいんだよ、分かれば」
背後に隠れていたアズサの背中を押してやりヒフミと対面させる。ククッ、コイツが何を言うのか見ものだぜ。
「……私の名前は白洲アズサ。ちなみにサドの道具だ。よろしく」
「はい!よろしくお願い─────ん?道具?そ、そういう遊びなんですかね……?」
何かを確認するように俺に顔を向けるヒフミに肩を竦めるポーズを取る。
しかし、まさか自分から『道具である』と宣言するとは……。自身の口からはとても躊躇われる言葉だと思うんだがな……
いや、待て。もしやこれはヒフミに送った遠回しの警告なのかもしれない。もしくはSOSの可能性もある。
『私は彼の道具なんです、コイツは危険人物なんです!助けてください!』と伝えているのか?ククッ、考えたじゃねェか、アズサ!!
だが残念な事に、お前の音なきSOSはヒフミに届かなかったようだなァ……!
「それで?ヒフミは俺たちに何の用だァ?」
「あっ、そのその!!皆さんももしかしてペロロ様のファンなのかなって思いまして!」
最初のキョドリは何処に行ったのか、目をキラキラさせながら聞いてくるヒフミ。
何なら少し狂気を感じる程だ。盲信、信仰、崇拝……想像するだけでも碌な感情なんてちっとも宿っていないような瞳だぜ。
ヤベェな、何かコイツの地雷でも踏んだか……?
「ッ!!ヒフミもモモフレンズが好きなのか!?」
「はい!!それはもうすっごく!!!……という事は、アズサちゃんも……?」
「うん!私も好き!特にこのスカルマンが!!」
そう言って少し大きめのバックから取り出したのは以前俺があげたスカルマンくんのぬいぐるみだった。
何故わざわざそんな大きなバックを……とは思っていたが、まさかそれを持ち出すためだったとはなァ。
ククッ、俺の言い付け通りちゃんと大切にしているらしいな!ちょっと安心したぜ!
「スカルマン様いいですよね!でも、やっぱりペロロ様の方が─────!」
「確かにペロロも可愛いけど、絶対スカルマンの方が────!」
そんなこんなで自身の“推し”の可愛いところをひたすら曝け出して討論するという聞くに堪えない醜い争いをして、何やかんやで終わる頃にはお互いの“推し”を認め合うようになり、最後には何だかんだで唯一無二の友人関係を築いていた。
テンポが早すぎて正直ビビってるぜ……
ククッ、だが外でも友達を作れたのはよかったなァ?なんせ友達っつーのは大きい存在だからよォ。
ちなみに俺にもちゃ〜んと友達はいるぜェ?我が崇高なる虐待に理解を示してくれる最高の友達がなァ!!……ただ、あんまし人前に出るのが苦手なヤツらだからガキどもに紹介するのは難しいかもしれんけどな。
そんで最後にモモフレンズショップに訪れてぬいぐるみを買わされた。可笑しいな、俺って虐待王なのに……
だが俺的には満足したぜ!今日もより良い虐待dayで心は晴れやか─────え?は?写真?えっ、俺がこんなぬいぐるみを持って写真だと?
いや、落ち着けよ。マジで落ち着け。どう考えても似合わん。な?分かったろ?よし、それじゃあ帰るうわなにするやめ──────!
◇◆
帰りの電車。私は電車に揺られながら1枚の写真を眺める。
その写真には私とヒフミが、そしてその間に苛立った様子のサドが挟まれていた。
「ふふっ、変な顔」
「あぁん!?なんか文句あんのか!?つーか表情なんてわかんねェだろうが!!」
確かに分からない。だって、彼の顔は炎だから。
でも、何故か口角を無理矢理上げて引き攣った顔になっているのが容易に想像出来てしまう。
「今日はここに連れて来てくれてありがとう、サド」
「ククッ、良い思い出になったかァ?」
私は首を縦に激しく振る。
彼と何処かに出かける事も、何かを買ってもらえる事も、何気ない日常も────こうやってサドが隣にいてくれる事でさえも、私にとってはかけがえのない思い出だ。
「クーっクックック!!思い出の中に俺の存在が残っちまうとは可哀想に!」
「…………」
思わずジト目になってしまう。
誰のおかげで思い出になったのか、彼はちっとも理解していない。
……それが何処かもどかしく、だけど恥ずかしくて言えなかった。
─────それこそ、今も速まる鼓動が彼に聞こえないか心配になる程に。
「……またサドと一緒に行きたい」
「は?俺とか?」
「うん」
「ヒフミと行けよ。モモフレンズ好きの仲間なんだろ?」
確かにヒフミは同志であり友達だ。だからまた一緒に何処かに行こうって約束もしている。
だけど、やっぱり─────
「─────2人がいい」
「あ?」
「サドと2人っきりで行きたい……」
思い出すのはヒフミとの初邂逅。
彼の視線が、声が、感情が。あの瞬間、全てヒフミに向けられた時………私の中で
あの一瞬で
それでも、あの感情は今もなお消えない。ヒフミと友達になった今でさえ、重く仄暗い感情が私の裡に潜んでいる。
私はこの感情を知らない、この気持ちを知らない───けど、きっとサドのせいだ。サドが私に何かをしたのだろう。
なら、サドにもう一回2人っきりで連れて行ってもらうのが筋というものだ。
「ククッ……何が目的かは知らねェがいいぜ。テメェの計画に乗せられといてやるよ!」
「もうっ……!そんな計画なんてないのに……」
「俺がその言葉を素直に受け取るとでも?」
相変わらずすぎる彼にため息が出る────が、やっぱりこの空間が心地良い。
私の“幸せ”がすぐそばにあると感じられるから……
「じゃあ約束だよ?ほら、小指を出して!」
「はいはい」
私とサドは小指を絡め、小さくて尊い約束を結んだ。
その約束がいつか叶うと信じて疑わずに─────
またしてもいたいけな少女に未知なる感情を教え込むサド氏。
その感情が爆発する前に逃げ切れるといいですね(にっこり)