汚いガキどもを見つけたので虐待することにした。   作:史上最恐の悪役

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これはサドが次の目的地へ向かうまでに起きた、今までとはちょっと違ったお話です。


間章①
“惡”の華 立志編


 

 

 

 

 

 「はぁ……」

 

 

 今日も至って普通な1日だった。

 

 

 普通に学校に通って。

 普通に勉強をして。

 普通に体を動かして。

 普通に給食を食べて。

 普通に帰宅する。

 

 

 特に刺激もなければ波乱もない、平々凡々な日々。

 なにもなさすぎて退屈な日々。

 

 「でも、きっとこれが良いのよ。えぇ、そうよ」

 

 世の中にはこの普通を送れない人もいれば、いくら望んでも普通が手に入らない人は何人もいるってニュースで言ってたわ。

 その反面、私はその人が喉から手が出るほど欲しい日常をなんの見返りも代償も払わずに享受している。

 

 ……でも、やっぱり波乱に満ちた人生に憧がれてしまう。

 何処かで流れた映画のワンシーンのような、危険と常に隣り合わせの日々が──────

 

 

 

 「頑張れ〜!お兄さ〜〜ん!!」

 

 

 

 そんなことを考えながらいつもの帰路を歩いていると、帰路の途中にある公園から小さな女の子の声援が聞こえてきた。

 少し気になって公園の入り口からひょっこり顔を覗かせてみると、そこには幼稚園児あたりの小さな女の子が。

 

 ……でもあの子、木の上に向かって応援しているわね。

 あんな何の変哲もない木になにが──────

 

 

 「ククッ、クククッ……!オラ、早く来いよ!この猫畜生がァ……!」

 

 

 そこには烈火に燃える火の顔を持つ人が木に登って必死に手を伸ばしていた。

 

 “不審者……?”と一瞬頭を過ったけど、その手の先には小さな白猫ちゃんが1匹いたことから大体の事情を察したわ。

 きっとあの白猫ちゃんだけで降りれなくなったのね。

 

 「ぐぬぬ……!あともうちょい……!」

 「頑張れ〜!頑張れ〜!」

 「ごくりっ」

 

 その光景を固唾を飲んで見守る。

 自然と拳を握って心の中で名も知らないあの人に“頑張れ”と声援を送っていた。

 

 「ニャー」

 「よし、来た────!?」

 

 白猫ちゃんがあの人の元へ歩み寄ろうとしたその瞬間、まるで限界が来たかのように枝がポッキリと割れ……ってあら!?白猫ちゃんが空中に放り投げられちゃったわ!?

 

 あんな高さから落ちて、たとえ猫ちゃんといえど無事では済まない。前の文とは何の関係もないが、実は猫は4階ぐらいの高さから落ちても普通に着地出来たりする。そのまま猫ちゃんは強く地面に打ちつけられて………あぁ、もう無理!見てられない!

 

 「勝手に俺から逃げるんじゃあねぇ!!」

 「ッ!?」

 

 あの人の声が聞こえてきて、閉じた目をこじ開けてその光景を映す。

 

 彼は樹幹に絡ませていた手を離して、幹を土台にして足を蹴り上げ空中へ。その行先は勿論小さな猫ちゃんの元へ。

 彼は自由落下で落ちていく白猫ちゃんへ手を伸ばして────そのまま見事に胸に抱き込んだわッ!!

 

 そのまま土煙を立てながら地面に滑り込み、完全に勢いを殺した。

 思わず見惚れながら拍手してしまうほどに見事な着地だったわ。

 

 「オイ、ガキ。お前の探していた猫はコイツでいいのかァ?」

 「うん!シロを助けてくれてありがとう、火のお兄さん!」

 

 どうやらお尋ね人ならぬお尋ね猫だったらしい。

 小さくて若い猫ちゃんってやんちゃだものね、目を離したらいつの間にか外に出ていたなんて話をよく聞くわ。

 

 「クククッ、礼はいい。それより早く報酬を差し出せよ!クククッ……!」

 「ッ!?」

 

 肝が冷えるほどに冷たく、悪辣さが滲み出た笑い声を上げながら急かす彼を見て言葉を失う。

 うぅ……やっぱり善意で猫を探していたわけじゃないのね。優しい人だと思ってたんだけど……

 それに、あんな小さな子が払える金額なんて今日のおやつ代しかないだろうし────ハッ!?もしかして言いがかりを付けて、あの子の親御さんからお金をたくし上げるつもりなのかしらッ!?

 これは警察に通報した方がいいのでは……!?

 

 「うん!いいよ!」

 

 バックからスマホを取り出し後は通報するだけの所まできて、猫ちゃんを抱き抱えた女の子は何の気負いもなく返事をしてポケットから何かを取り出す。

 あれは────飴?

 

 「確かにりんご味の飴を頂いたぜッ!いいかァ?今後飴ちゃんを取られたくなかったら、もう二度とその猫から目を離すんじゃねぇぞ!ハーッハッハッハ!!」

 「うん!シロを助けてくれて、本当にありがとうございました!!」

 

 白猫のシロちゃんを抱えたまま手を振る女の子に、彼は背を向けたまま片手でひらひらと返す。

 

 

 そこに言葉はなく、厚かましさもなく。あるのは片手に握りしめられている飴玉1つだけ。

 

 

 雄々しく、スマートに歩くその後ろ姿が、まさしく彼の生き様を物語っているようで─────

 

 

 

 

 

 「────カッコいいわ……!!」

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 「私を弟子にしてください!!」

 

 

 ガキを虐待し終えて気分上々で歩いていたら、すぐに別のちんちくりんなガキから弟子を申し出された件。

 ビックリして思わず飴玉を噛み砕いちまったぜ……!もっと愉悦に浸りながら舐め回したかったのによォ……!

 

 「弟子ィ?いきなり何言ってんだ、お前」

 「先ほどの猫ちゃんの()()()を見ていました!すごく……その、ハードボイルドでッ!!とってもスマートでッッ!!私もあなたみたいな人になりたいって……そう思ったんです!」

 

 どうやら俺の()()()の目撃者だったらしい。

 

 ククッ、しかしどうやらコイツは俺が良いことをしたと思って勘違いをしているようだなァ?

 あの現場を見といて何処をどう勘違い出来るのか理解できんが、現に目の前にいるから否定は出来んよな。

 

 「ククッ、ちゃんと見ていたのか?俺は猫を助ける代わりに、あんな小さなガキに飴を要求した!あのガキの3時の楽しみを奪ったんだよ俺ァ!つまり俺が行ったのは“惡”!まさしくハードボイルドでアウトローだッ!!お前らガキが憧れる“正義”とは真反対のことをしたんだよッ!!」

 「あ、あれがアウトロー……!良い……!すごく良いわ!!是非私にご教授頂けないでしょうか!?」

 

 うおっ、顔ちかっ!?

 コイツの眼鏡に俺の顔がこれでもかと全面に写っていやがる。

 

 しかし何だろうか。

 たまたま虐待している所を見られてしまったわけだが、その姿がカッコいいだなんて言われて………何だかちょっとむず痒いぜ。

 

 「な、なかなか見込みのあるガキじゃねぇか!気に入った!お前を俺の一番弟子にしてやる!」

 「ほ、本当!?」

 

 両手をあげて飛び跳ねるという今どきでは滅多に見なくなった古くさい喜び方をしているガキを見ていると、ふと大事なことを聞き忘れていたことを思い出す。

 

 「そういえば、お前の名前はなんて言うんだ?」

 「あっ!えっと……陸八魔、陸八魔アルです!」

 「アル……いい名前だな!ちなみに俺はサドっつーもんだッ!このキヴォトス史上最恐最悪の虐待者とは俺のことよォ!!」

 「サドさん……!すごくハードボイルドでカッコいい名前です!」

 

 ハーッハッハッハ!!分かってるじゃねぇか、コイツはよォ!!

 まさかこの俺に中坊の弟子が出来る日が来るなんて夢にも思わなかったが、これもまた虐待神のお導きか……

 なるほど、ならば俺がコイツを立派なサディストに育て上げるとしますか!

 

 「俺は1ヶ月半後にはゲヘナを出なくちゃなんねぇ。だから、この1ヶ月半はお前に俺の崇高な時間をくれてやる。ククッ、覚悟はいいなァ?」

 

 アルは静かに、されど力強く頷いた。

 

 ………お前の覚悟、確かに受け取ったぜ。

 

 

 

 

 

 「これからよろしくな!アル───いや、弟子よ!」

 

 「よろしくお願いします!師匠!!」

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 「虐待者たるもの、知識を常に蓄えておくべし!特にお金のやり繰りは重要だァ。今のうちに学んでおいて損はねぇぜ!」

 「はい!師匠!!」

 

 

 

 

 

 

 

 「学校には毎日元気に登校するように!宿題もちゃんとやることだァ。お前が人の上に立つ日がきたとき、いつ何時も用件には遅れを出しちゃならねぇ!」

 「はい!師匠!!」

 

 

 

 

 

 

 

 「美意識は大切にしろよォ!“惡”には華がないとダメだからなァ!!」

 「分かりました!師匠!!……ところで、今から改善していった方が良い部分ってありますか?」

 「う〜〜ん、全部」

 「全部ッ!?」

 「そうだ!!お前はいい肌にいい髪質を持ってるっていうのに、それを全く活かしきれていねぇ!!」

 「そ、そうですか?」

 「おう!つまりお前はもっと可憐に、そしてスマートになれると俺の慧眼が見抜いたぜ!よって今度お前に合いそうなお肌ケアの化粧水や化粧品、保湿クリームを買いに行くぞッ!!」

 「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 「なぁ、アル」

 「何ですか?」

 「お前っていつも尊敬語か謙譲語だよな。学校でもそんな感じなのか?」

 「え?えぇ、まぁ……」

 「ならそれをやめろォォォォ!!!」

 「えぇ!?」

 「虐待者たるもの、舐められたらそこで終了だァ。尊敬語だとか謙譲語だとか、相手に舐められる匂いプンプンじゃねぇか!」

 「た、確かに……!」

 「すぐにとは言わねぇが、少しずつ意識していけばすぐに無意識でも出来るようになるぜ」

 「分かりました───じゃ、じゃなくて……わ、分かったわ!!」

 「great!!やはりお前はやれば出来るヤツだなァ!」

 

 

 

 

 

 

 

 「あの……師匠?相談があるのだけれど……」

 「なんだァ?」

 「ほら、髪が肩までかかっているでしょう?だから髪を切ろうと思っていて────」

 「え、マジ?髪の伸びたお前って(虐待ウーマンとして)結構似合ってると思うけど」

 「…………………へ?」

 「まぁ、髪は女の命っていうしな。弟子の髪型にいちいち口出しはしねぇよ。そのボブカットを維持したいなら遠慮なく切れば─────」

 「い、いいえ!?やっぱり今のなし!このまま伸ばすことにするわっ!!」

 「ん?そうか。ならお前への楽しみが1つ増えたなァ。どんな立派で華麗な(虐待ウーマンの)姿になるのか、ワクワクしながら待ってるぜェ?」

 「…………ふふっ、えぇ!期待して待っていて頂戴!!」

 

 

 

 

 

 

 

 「今日もハードボイルドな1日だったわね!師匠!」

 「おう!迷子のガキを親御さんの元に届けては泣かせ、惨めにイジメられていたガキを助けては泣かせ、アイスを持ってぶつかってきたガキを泣かせたな!!」

 「アイスの件はすっごくハードボイルドだったわ!特にあの時の『悪ィな、俺のズボンがアイスを食っちまった。次ァ5段を買うといい』ってセリフ!私もあんなカッコいいセリフをスラっと言えるようになりたいわね!」

 「ククッ、お前にはまだまだ早ェよ!まずはちゃんと“一日一惡”を達成出来るようにしなッ!!」

 「はい!!」

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 「いよいよ別れの日だ、弟子よ」

 「師匠……」

 

 3月の中旬、ついにこの日が訪れてしまった。

 師匠は私に背中を向けたまま、何処か遠くを眺めている。

 ………その事実を確認しただけで、どうしようもなく胸が締め付けられる。

 

 ────もう………もう師匠に会えないのかしら……

 ここでさよならして、このままずっと……

 

 

 ………………

 

 

 い、いいえ!?私は別に、ちっとも、これっぽっちも寂しくなんかないわ!?

 だって私は師匠から直々に教えを乞うた一番弟子なの!彼から高潔なハードボイルドを受け継いだんだから!

 だからっ……寂しいだなんて全然ッ……!!

 

 「……あ、そうだ。お前と交換するの忘れてたぜ」

 「…………へ?」

 「ほれ、()()()

 

 振り返ってスマホを片手にプラプラと揺らす師匠。突然の行動に脳の処理が追いつかなかくなり、揺れるスマホがだんだんひよこに見えてきたわ。

 というか、師匠は何をやっているのかしら?えっと、連絡先?連絡先なんて遠の前に…………ん?前に?ま、え──────あっれぇぇぇ!?してない!!してないわ!?私、師匠の連絡先知らないっ!!

 

 「あ、あっ!ちょ、ちょっと待っ────ってキャー!?荷物が散らかっ────ってまたキャー!?

 「なにやってんだ、オメェ……」

 

 うぅ……踏んだり蹴ったりだわぁ〜……

 どうしてスマホを取り出そうとしただけなのにバックの中身全部出てきちゃうの……

 どうして拾おうとしただけで躓いちゃうの……

 

 でも、なんとか師匠の前で怪我をするっていう最悪の事態は免れたわ!師匠が支えてくれたお陰ね!

 …………って結局師匠のお手を煩わせているから変わりないじゃないッ!?

 

 「ほれ、全部拾ってやったぞ!あとスマホはバックの中になかったから、お前の胸ポケットに入ってるんじゃねぇのか?」

 「えっ?」

 

 半ば茫然自失なところで(師匠)の声。

 言われるがまま胸ポケットを摩ってみると妙に固い固形物に触れる。

 

 「あ、あったわ……!というか荷物まで……!うぅ、最終日だというのに恥ずかしい姿ばかり見せてすみません……」

 「ククッ、まだまだ半人前の方が可愛げがあるってモンよ!だから気にすんなっ!」

 「ししょぉ……!」

 

 やっぱり師匠は他のアウトローな人たちとも1つも2つも器が違うわッ!!

 私も師匠のように部下の失敗を平気で受け流せるぐらいの器になりたいわね!

 

 そんなこんなでようやく連絡先を交換した。

 これが師匠の連絡先……これでいつでも連絡出来るわ!

 

 「じゃあ俺は行くぜ!元気でやれよ!勉強しっかりな!あとムツキに『今度会ったらボードゲームで絶対ボコす!』ってのと、ハルカには『なんかオモロい観葉植物があったら持ってくるから暴れんなよ!』って伝えておいてくれや!!」

 「分かったわ!お気をつけて!」

 

 寂しいけど、一生の別れじゃない。

 ハードボイルドでアウトローを志す私たちは涙を流してはいけないの。

 

 ここに在るべきなのは────そう、“感謝”のみよ。

 

 私は涙を堪えて精一杯手を振る。

 師匠は振り返ってはくれなかったけど、()()()のように背を向けたまま片手を振ってくれた。

 その後ろ姿がやっぱりカッコいいと再認識しながら、彼の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。





“惡”と“惡”は引かれ合う……!
最恐最悪の師弟コンビ誕生だァ!!
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