汚いガキどもを見つけたので虐待することにした。   作:史上最恐の悪役

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ん?短編なんてやけに特別扱いじゃないかって?
だって彼女はブルアカのメインヒロイン()だしね仕方ないね。


短編 親愛なる、はじまりのあなたへ
砂狼シロコ①


 

 

 

 

 

 「………お腹空いた」

 

 誰もいない路地裏で背もたれをかけながら、ふとそんなことを思った。

 

 ……一体いつからちゃんとしたご飯を食べれていないのだろうか。最近はずっとゴミ箱を漁って、食べかけの物や既に捨てられた物ばかり食べているような日々だ。

 

 「…………」

 

 そもそも、()()()()()()()()()()

 私には『砂狼シロコ』という名前以外の記憶がなかった。

 気づいたらここにいて、気づいたらお腹が空いてて、気づいたら飢えと戦っている……そんな毎日だ。

 

 死んでしまった方が楽なのかもしれない………だけど、やっぱり()()()()()()()()

 だから、今日もボロボロの体に鞭を打ってご飯を探しに行かなきゃいけない。

 

 

 「あぁ?やけにデカいゴミ袋かと思ったらただのガキじゃん」

 

 

 ────ふと、上から声が聞こえた。

 

 ゆっくりと顔を上げてみれば、そこにいたのは異形な顔をした人間だった。

 

 汚れひとつない綺麗な服装と、荒々しく燃え上がる真っ赤な焔。

 記憶のない私でも、目の前にいる人間が普通ではないことは理解できた。

 

 「…………」

 「…………」

 

 お互いがお互いの顔を見合わせたまま、そのまま黙り込む。

 不思議と目の前の異常な人間を前にしても臨戦態勢に入ろうとはしなかった。……多分空腹で追い返す気力もないだけだと思うけど。

 つまり、今の私は早く目の前の人間が立ち去ってくれるのを待つだけの、ただの木偶の坊と化していた。

 

 「…………」

 

 目の前の人間が無言で私の下へ向かってくる。

 ……それでも戦闘態勢には入れなかった。

 

 やがて私の目の前までやってきた異形の人間は、私に目線を合わせるようにしゃがみ込む。

 

 何が目的なのか、何で私を見るのか、その焔の顔からではよく分からない。

 

 「……オラよ」

 

 目の前の人間から何かを羽織られる。

 その羽織物は私が着ている薄着よりもよっぽど丈夫で、何より温かい。

 

 「オイ、ガキ。名前は?」

 

 どうして私の名前を聞くのだろうか。

 それすらもよく分からない。

 

 「……シロコ。砂狼シロコ」

 「シロコ……いい名前だな!」

 

 ……初めて誰かに褒められた。それも私の名前を。

 名前以外の記憶がない私にとって、この名前が自分の全てだったから……なんだか胸がぽかぽかする。

 

 「さて、シロコよ。お前に素晴らしい提案をしよう」

 

 立ち上がった彼は仰々しく手を広げ、私に提案を持ちかけてくる。

 急すぎてよく分からないけど、この人は私の名前を褒めてくれた人だ。つまりいい人。だから、ご飯をくれるならなんだって──────

 

 

 

 

 

 「お前も“道具”にならないか?」

 

 

 「ん、いやだ」

 

 

 

 

 

 ん、悪い人だったみたい。

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 ふと目が醒める。

 見慣れない白い天井と、私を包み込むふわふわで温かい何かを確かめながら体を起こす。

 

 これは……毛布?

 

 「ククッ、起きたか」

 「ッ!!」

 

 周囲を見渡していると部屋の奥からエプロン姿の彼が覗き込んでくる。

 なんでエプロン……?とは思うけど、それよりも────

 

 「……ここはどこ?」

 「クククッ……ここは俺のアジトの1つだ。テメェは俺におぶられている最中に爆睡をかまし、為すが為されるままにどんぶらこと連れてこられたのだ!」

 

 そうだ、少しずつ思い出してきた。

 結局彼におんぶされて、その背中が温かくていつの間にか寝ちゃったんだ。

 

 ………恥ずかしい。寝顔見られたかな……?

 

 「それよりもシロコよ、今テメェがどういった状況なのか、ちゃんと理解しているのか?」

 「ッ」

 

 あぁ、肝心なことも思い出した。

 あの人は私のことを“道具”にしてやるって言った。だから彼は悪い人。あのぽかぽかを返してほしい。

 

 「…………何をするつもり」

 「クククッ……!!いい睨みだ。俺はお前のような反骨心に溢れたガキの心根をボッキボキのけちょんけちょんに叩き折ってやるのが大好きなんだよ!!」

 「…………最低」

 「ハーッハッハッハ!!!もはや聞き馴染みすぎた言葉でむしろ心地よい響きだわ!!おおっと、手元を探っているところ悪いが、お前の銃は既に俺が預かってるぜ?当然だよなァ?」

 

 むっ、やられた。私の唯一といっていい持ち物が────ってあそこに綺麗に立て掛けてある……

 用心深いのか気が抜けてるのかよく分からない……

 

 「お前は為すすべもなく俺の嗜虐心を満たすためだけの“道具”に────」

 「来るなら来ればいい、絶対に負けないから」

 「……ほう?俺の決め台詞を遮るとはいい度胸だ。だが、その態度も今のうちだぜ?なんせ、これから地獄の方が生ぬるいと感じるほどの虐待がお前を待ち構えているのだからなァ!!」

 

 地獄でも生ぬるい……一体どんな酷いことをされるんだろう。

 怖い、怖いけど……絶対に勝つ。コイツに真正面から打ち勝って、堂々と抜け出す。

 

 「では早速、お前への虐待を告げる!耳の穴をかっぽじってよ〜〜く聞けよッ!!まずは─────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────ピピッ♪お風呂が沸きました♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「─────お風呂に入ってもらうぜェ!!!」

 

 

 

 「え」

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 「これがお風呂……」

 

 初めて浸かるお湯に全身が解されていくのを感じながら、1人そう呟いた。

 あまりの気持ち良さに船を漕ぎそうになってしまうが、彼から『お風呂では寝るなよ!危ないからな!』と言われているので無理矢理目を開ける。

 

 「オイ!アツアツのお湯責めはどうだ!!」

 「ん、気持ちいい」

 「ハーッハッハッハ!!見え透いた強がりをどうもありがとうだぜ!!」

 

 ムッ、本当なのに……

 

 というかあまり気にしてなかった────というか気にする時間もなかったけど、私って今まであの汚れ具合で彼の背中に張り付いたり、ベッドの中にいたってこと……?

 なんか、その……今更匂いとか汚れとか気になってきた……。あのベッドも彼のものだろうし……

 

 「クククッ……!!ここに着替えを置いておくぜ。お前は震えながら次の虐待を待っているんだな!」

 

 言いたいことを言い終えたのか、ドタドタと足音が遠ざかっていくのを耳で確認した後、改めて肩まで湯船に浸かる。

 ………温かい。心がぽかぽかする。

 

 「やっぱりいい人……?」

 

 ぬくぬくと温まりながら考えることもやっぱりあの人だった。

 私のことを“道具”って呼んでた。でも、温かいお風呂に入れてくれた。

 ………よく分からない。

 

 「ん、警戒は大事」

 

 さっきより気持ちは弛んでしまっているけど、やっぱり警戒するに越したことはない。

 もしかしたら、お風呂に入れさせた後に何かされるのかもしれない。

 

 ……もう上がろうかな。『長湯はダメ絶対!!』って彼も言ってたし。

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 浴室の前に置かれてあった男物のシャツを着て来た道を戻る。

 袖に手を出せないくらいダボダボで、ほんの少しだけ彼の匂いが染み付いていた。……少し落ち着く。

 

 「ん……?」

 

 廊下を歩いていると、彼の匂いとは別のいい匂いが鼻腔を擽る。 

 何の匂いかは分からない。だけど、その匂いを嗅いでいるだけで食欲が刺激された。

 

 「……ただいま」

 「おかえり!!ククッ……あれだけのお湯責めにあってもなお随分と余裕そうじゃねェか。文字通りお前にとってはぬるま湯だったってか?」 

 「ん、気持ちよかった」

 「ククッ、クククッ……!!その余裕そうな表情……次の虐待を受けても崩さないでいられるかな!?」

 

 『次の虐待はこっちだ!』と案内してくれる彼に大人しく着いていくことにした。

 少しずつ、少しずつあの匂いが強まっていく。

 

 そして、そこにあったのは────

 

 

 「お前にはこれからこれを食ってもらうぜ─────そう、俺が作ったシチューをなッ!!!」

 

 

 ホカホカと、クリーム色のシチューから湯気が立ち昇っている。

 そのシチューにはいろんな具材が入ってあって、今まで私が食べてきたゴミや食べかけの物なんかとは比べ物にならない程に完成された料理が目の前にあった。

 

 

 ─────ギュルル

 

 

 私のお腹から大きな音が鳴り響く。

 ……くつくつと彼が笑っている。

 

 「クククッ……!なんて憐れな……。俺のようなクズが作った料理を前にしても、やはり飢餓には堪えられないとは……。そんな人間の本能を突く俺はなんて最低な男なんだろうかッ!!」

 「ッもう……もう食べていいっ……?」

 「ククッ、シチューは逃げないんだからそう慌てるな。ちゃんと席に着いて、ちゃんと『いただきます』をしてから食え。いいな?」

 

 これでもかと首を縦に振る。

 もう何だっていい。あのシチューを食べられるなら何だって言うことを聞く。

 

 「よ〜〜し、それじゃあ─────いただきます!」

 「い、いただきます……」

 

 逸る気持ちをどうにか抑えながら、スプーンを手に取ってシチューを一口。

 

 

 「───────」

 

 

 ……“美味しい”。本当に、ただただそう思うことしか出来ない。

 

 じゃがいもも、にんじんも、玉ねぎも、ブロッコリーも……その全てが美味しくて。

 

 そして何より…………とても優しい味がした。

 とっても温かくて、とっても優しくて、彼の優しさが味になったのだと思える程で……

 

 「どうだ?美味いか?」

 「……ん、美味しい」

 「ククッ……!!そりゃあ良かったぜ!だが忘れるなよ?それはこれからお前を虐待していく極悪人が作った物ということをなァ!!」

 

 忘れない、忘れる筈もない。

 

 初めてちゃんとした物を食べれた。

 初めて温かい食べ物を食べれた。

 初めて安心できる場所で何かを食べれた。

 

 ……こんなにも嬉しい“初めて”は初めて。

 

 「フハハハッ!!……ときにシロコよ。お前は一体どこ中なんだ?」

 「どこ中……?」

 「“何処の中学校出身だ”って聞いてんだよ。アビドスにいたってことはアビドスの中学校なのか?俺の記憶にはお前のようなヤツはいなかったけどなァ」

 「…………いの」

 「あぁ?」

 「……記憶がないの、私」

 「ッ!!」

 

 そこからは自分でも驚くほどにつらつらと自身の詳細を明かしていった。

 どうしてここまで初めて会って間も無い彼に打ち明けられたのかは分からない。

 

 だけど……多分、聞いてほしかったんだと思う。

 誰にでもいいから()()()()()()()()()()()()んだって、()()()()()()()()()()んだって思った。

 

 

 「ククッ、クククッ……!フハハハハハッ!!!そうかそうか、お前も記憶喪失だったのか……!!ククッ、なるほど……あの場で俺がお前を拾ったのも、これもまた運命というべきなのだろうな!」

 

 

 人の半生を聞いて返ってきた言葉が励ましでもなければ同情の言葉でも無い────大きな笑い声だった。

 ん、とうとう腹を抱えて笑い出した。

 

 ……ムゥ、別に同情をしてほしかったわけじゃないけど、それでも笑うのは良くない。

 ん、やっぱり悪い人かも。

 

 「クククッ……!!そう睨むなって。まさか俺と似た境遇のヤツがいたと思うと笑いが込み上げてきてなァ……!!」

 「別に睨んでな─────似た境遇?」

 「そう、()()()()()()なんだぜ!それも、お前と違って本名すらも覚えてないんだわ」

 

 この人も、記憶がない……?

 それも名前も知らないなんて……そんなの─────

 

 

 

 「─────寂しくないの?」

 

 

 

 無意識に溢れ出た言葉は、それでも限りなく本音に近い言葉だった。

 

 私には他の記憶がなくても“名前”だけはハッキリと覚えていた。だから、私はこの世界でちゃんと生きているんだって思えた。

 でも、彼にはその“名前”もなかった。私がもし“名前”すらも分からなかったら……なんとなくだけど、世界から途方もない“寂しさ”に襲われていると思う。

 

 「いや?全然だが?」

 「え」

 

 ……そんなこともなかったみたい。

 

 「……そうなの?」

 「おう!カッチョいい名前も付けられたし、このキヴォトスにはお前たちのような“道具”候補に抜擢されるガキどもがウヨウヨいやがる!それに俺を見てみろ。スッゲー楽しそうだろ?」

 「ん、楽しそう」

 「だろう!?……だからよ─────」

 

 そう区切って真っ直ぐに私を見る視線は、何処までも真っ直ぐで。

 その視線もとても温かいものだった。

 

 

 「だから、そんな()()()()()()()()()()シケた面すんなや」

 

 「案外記憶がなくても楽しめるもんだし、寂しくもないし、自分(テメェ)自分(テメェ)だと胸を張って言えるもんだぜ?」

 

 

 彼は私の頭をワシャワシャと撫でる。

 撫で方は乱暴だけど、その温かい言葉と温かな手から、まるで私に激励してくれているような優しさが身に沁みてくるようで。

 

 ほんの僅かに涙腺が緩んだような気がした。

 

 「おっと、俺の右手が悪さをしてしまったらしい。まだ“道具”の成り立てで頭ナデナデの虐待は刺激が強すぎる────」

 「ん、もっと撫でるべき」

 「なっ!?コイツ、自ら俺の手に頭を擦り付けてきた、だと……!?」

 

 彼の温かい手が離れる気配がしたので手首を掴んで頭に固定させた。

 ん、なんか引き離そうと頑張っているみたいだけど絶対に離さないから。

 ………やっぱり温かい。

 

 

 「……そういえば、まだ名前を聞いてない。あなたの名前を教えて?」

 「あ?そういや名乗ってなかったか。ククッ、俺の名前はサド!!お前を絶望のどん底に叩き堕とす男の名だ───!!」

 

 

 ……サド。サドっていうんだ。

 

 

 サド、サド、サド……

 

 

 サドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサド…………ん、覚えた。絶対に忘れない。

 

 

 「……()()って自分で付けたの?」

 「これって言うな」

 「……ふふっ、ちょっと変な名前。センスない」

 「はぁ!?カッコいいだろうが!」

 「………ん、センスはないけどサドっぽくていい名前」

 「だろ!!!」

 

 最初に抱いていた不信感はすでに消え失せていた。

 ………かつてあった空腹や孤独感、そして寂しさも。

 

 

 再びシチューに口を付ける。

 その味は────やっぱり胸がぽかぽかするような味だった。

 




原点回帰……!
やはりシチュー、シチューが全てを解決する……!!
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