汚いガキどもを見つけたので虐待することにした。 作:史上最恐の悪役
サドはアジトなどと抜かしておりますが、普通にただの事務所です。
─────A.M.7時
「オイ、シロコ。7時だぞ、さっさと起きろ」
荒々しい言葉遣いとは裏腹に優しく揺らされて少しずつ意識が浮上する。
一体誰だ、なんて考えることもなく、もうそんな時間かと少し不機嫌になりながら目を開ける。
私は勝手に乙女の部屋に入ってきただけでなく睡眠を妨害して来た下手人────サドを視界に収める。
「…………ん、やだ」
「お前に拒否権などないわたわけめ」
強引に脇に抱えられて起こされる。
ん、サドはもう少し優しく起こすべき。
「まったく、毎朝こうであっては堪ったものじゃないな」
「でも、いつもそう言って私のことを起こしに来てくれる」
「そりゃあ“道具”のコンディションを整えるのが俺の役目だからな!不眠はもってのほかだが寝過ぎも良くないからよォ、そのせいで体調崩されたら最悪だからなァ!!」
またしてもよく分からないことを言ってるけど、ここ1週間で少しだけ慣れた。
だからいつものように片耳から片耳へ話半分に聞いている。
彼に連れられて1週間と少し。この僅かな期間で分かったことがある。
ん、わざわざ詳しく言わなくても分かると思う。まとめるなら、サドはすごくアホであるということ。
私は彼から日々虐待を受けている…………らしい。
とりあえず、私が受けている虐待の内容を是非聞いてほしい。
例えば朝は7時に起き、夜は10時までには寝るみたいに早寝早起きを徹底されていたり。
毎日必ず『おはよう』と『おやすみ』は絶対に言わないといけなかったり。
毎日“コンディション調整”と称して外に出て一緒に運動を付き合ってくれたり。
サドが綺麗好きなためか、毎日シャワーを入ることを義務付けられたり。
毎日
…………ん、アホ。
しかも本人は本気でこれらの行いが虐待だと疑っていないのだから、本当にどうしようもない。
最初に警戒心を張り巡らせていた私がバカバカしく思えてくるからこれ以上変なことを言うのやめてほしい。
「今日の朝食はトーストだッ!!しかし、ただのトーストじゃないぞ?お前にはこれをつけてもらうッ!!」
ドンっとテーブルに置かれたのは、キラキラ光る瓶の中にこれでもかと詰め込まれているジャム。
「この超お高いジャムをトーストに塗りたくるのだッ!!」
「……いいの?」
「ククッ、あぁ、もちろんだとも。見ろ、この如何にも高級そうなジャムを!こんな立派なジャムを朝食に使うだけでなく、コンビニで売られているような至って普通のトーストに塗りたくってしまう罪悪感と共に朝食を味わうんだな!!」
……そんなに美味しいのなら使わない手はない。
もちろん罪悪感なんて欠片も抱かない私は遠慮なくトーストにいちごジャムを塗りたくる。
……すごい。このジャム、なんだか光ってる。
「ん、美味しい」
「フハハハッ!!それはそうだろう!なんせ高級なんだからな!!」
あくまで高級に拘るサドに“らしさ”を感じつつも、モグモグとトーストを食べ進める。
…………でも、サドが作ってくれたご飯の方が美味しい。どうしてだろう、このジャムは高級な筈なのに。
……ん、後で今度から高級なジャムはいらないって言おうかな。
◇◆
「サド、今日も勝負しよ」
「クククッ……!!そろそろ言う頃だと思ってたぜ?そのセリフをよォ!!」
最近のマイブームはサドと勝負することだ。
きっかけは………ただ一緒に遊びたかったから。
サドは外に出て動く時間が私にとって癒しだと分かっている。だから、この時間だけはサドからあまり深く干渉してこない。
それが彼なりの気遣いなんだろうけど………私にとってそれがとても寂しかった。
だから、こう言ってあげた。
『ん、私は自分より強い人の言葉しか聞かない』
こう言えばサドは絶対に乗っかってくれるって信じてた。案の定、すぐに乗っかってくれたし。
あ、ちなみに今のところ私が全勝中。ぶい。
「ククッ、もうそろそろ勝たないと俺のメンツに関わるのでな、今日は絶対ガチで勝ちに行くぞ!」
「ん、それ何回も聞いた」
「い〜〜や、今までの発言や勝負の内容は全て嘘だったのさ!今日はガチ!本当にガチで行く!!」
どうやら今までのは全部手加減していたみたい。
その割にはハンカチを噛み締めて悔しがっていたけど……
「それで、今日は何で勝負する?」
「ククッ、ここで答えてやってもいいが外に出たらすぐに分かるだろう!」
『こっちに来い!』と私の手を引くサドに大人しくついていく。
……行動が突発で少し強引な部分もあるのに、こうやって無意識に私に寄り添うように歩いてくれる。いちいち行動や言動に優しさが滲み出てしまっているのだから……本当にどうしようもない。
「シロコ!アレだ!今回はアレを使って競走するぞッ!!」
「ん……?」
外に出てサドが懸命に指を指す部分を目で追えば─────そこには2台の
「今日はサイクリングで勝負だぜ!!」
「サイ、クリング……」
サイクリング……ん、なんだかいい響き。
「クククッ、なんだ?その如何にも『余裕ですよ』と言いたげな澄まし顔は」
「ん、楽しそう」
「オイオイオイ、冗談はやめてくれよ。お前の生殺与奪の権が握られそうだってのに出てきた言葉が“楽しそう”ってか……?随分と舐められたもんだぜェ……!!」
きっと楽しいと思う。
だって、サドと何かするときはいつも楽しいことばかりだから。
◇◆
海が見える道路沿いを真っ直ぐに奔り去る。
私の頬に風が伝い、ほんの少し零れ落ちた水滴がその風に運ばれるように消えてゆく。
その何度目かも分からない感覚にハマりそうになりながらも、チラリと後ろに流し目を送る。
「ゼェ……ゼェ……!!待てやシロコ〜〜!!!」
……ん、いつも通りの展開。
最初は大見栄張って豪語するけど、途中からいつもこんな感じで劣勢に立たされている。
そして終わった頃には息を切らして地面に手を着けているのだ。
疲れきったサドはしばらく動けない。
だから、その時だけはいくら脇を突いても、こちょこちょしても、背中に張り付いても大丈夫だし、何ならその時に運動後特有の汗の匂いも──────ん、なんでもない。
「サド、早く来て」
「あぁ?なに速度を落として────」
「ん、見て」
サイクリングをしながら指をさす。
そこは清々しい程に澄んでいる大海原の地平線だった。
「おぉ、海じゃねェか。必死過ぎて全然気づかなかった」
「……綺麗だね、すごく」
「ん?そりゃあ海だからな」
如何にも『当たり前だろ』みたいな反応をされたけど、私にとっては当たり前なんかじゃなかった。
今までずっと砂しか見てなかったから。もしかしたら記憶をなくす前は分からないけど……
…………ん、綺麗。今日はここに来てよかった。
「ん?………オイ、シロコ。今回のゴールはアジトから30km地点だったよな?」
「……?……ん」
「………もう過ぎてね?」
その言葉を聞いてようやくロードバイクに備え付けられているスマホの画面を見た。
…………ん、しっかり30km超えてた。
「この感じだとついさっき超えたっぽいな。……おっとォ?ついさっきってことは俺がギリ追いついたときなんじゃね?つーか、お前に呼ばれて少し前に出たよな?な?」
「ん、それは違う。サドが来る前に私がゴールしてた」
「い〜〜や!!俺がほんのちょっぴり前に出てた!!」
「出てない……!!」
「出た!!!」
「出てない!!!」
私と
ムゥ……絶対私が前に出てたのに。サドは“大人”の癖に大人気ない。
…………でも、サイクリングはすごく楽しかった。
「…………サド」
「あ?」
「………これからも一緒にサイクリングしよ?」
「いいぜ〜!!」
─────名前以外何もなかった私に、初めて好きなものが出来た。
◇◆
夜、私はひそひそと忍び足になりながら自室を出る。そして、すぐ近くにあるサドの部屋に辿り着き、ドアに耳を押し当てて中の物音を確認する。
………ん、物音は聞こえない。ちゃんと寝てるみたい。
あ、勘違いしないでほしい。これは決して脱走とかネコババをするためじゃない。
いや、サドに用があるのはその通りなんだけど……
「ん……」
そんな自問自答をして間も無く、静かにドアを開けて素早く侵入した。
そしてそのすぐ側で暢気に熟睡しているサドの姿も確認する。
……結構不用心。私だったからよかったものの、もし暗殺者だったらサドは死んでた。
……だから、今から行うことも仕方のないこと。
「…………」
極力音を立てないように、静かに、静かに彼の布団に潜り込む。
……ん、完璧。
「────あったかい……」
彼の胸板に頭を預けるように耳を押し当てる。
静かに鼓動する心臓の音、僅かに聞こえる規則正しい呼吸、太陽みたいに温かい体温、大好きな彼の優しい匂い……
ずっと……ずっとこれが欲しかった。
夜になると離れ離れになって少しだけ心に棘が刺さったように痛かった。
また1人の頃を思い出して嫌だった。
温かい毛布に身を包まれているのに、寒くて寒くて仕方がなかった。
─────ずっと、ずっとずっと寂しかった。
だから、今日はもう我慢の限界だった。きっと時間の問題だったと思うけど、それが今日爆発してしまっただけ。
……サドも酷いことをする。むしろ、あっちの方が虐待っぽかった。……そんなことないって断固拒否してくるんだろうけど。
………ん、だんだん眠くなってきた。
やっぱりサドの側が1番落ち着く……
次の日の朝、混乱しているサドを説得してこれから毎日一緒に寝れるようにした。
ん、流石は私。ぶい。
(無意識な)虐待には定評のあるサド氏、またしても(無意識に)虐待をクリティカルヒットさせてしまう。