汚いガキどもを見つけたので虐待することにした。 作:史上最恐の悪役
これはサドとシロコが次の目的地に行くまでに起きた閑話である。
“惡”の華 集結編①
酷暑を知らせる太陽は黒い雲に覆い隠され、紫外線の代わりに大粒の雨が降る今日この頃、私は行き慣れたようにビルの間を進む。
冷たく、建物同士に挟まれたことで日の差さないこの場所は今のような青葉の季節には適した場所だ。ついでに今でいえば、横風が吹くこともないから滅多に濡れることはない。
人間から見れば路地裏は結構悪いイメージを持たれやすい場所だ。なんとなく汚いし、なんとなく薄暗いし、なんとなく危なそうな場所……そんなイメージ。
まぁ、実際その通りなんだけど、それはあくまで人間から見た考え方だ。
「ニャー」
「……今日はちゃんといるんだね」
路地裏に人工的に作られた段ボールの家から1匹の猫の鳴き声が聞こえる。
この子というのは、この猫のことだ。たまに出払っている時があるけど、流石にこの大雨では動く気にはなれなかったらしい。
「はい、ご飯」
いつものようにビニール袋からツナ缶を取り出し、そっと入り口付近に置いてあげる。
そうすれば、警戒心を剥き出しにしながらもノソノソと顔を出してツナ缶を食べてくれる。
最初の頃なんて首を出すどころか威嚇されて追い払われていたから、その頃と比べると随分と信頼されているように思える。……まだ警戒されているけどね。
……この子を見つけたのは偶然も偶然だった。
たまたまこの路地裏を見つけて、たまたまこの段ボールの中身を覗いたら痩せていたこの子を見つけてしまっただけ。そして、何だか放っておけなかった……ただそれだけ。特に深い意味はない。
─────それなのに、どうしてこうも頻繁に通っているのだろう。
─────もう何日、胸に抱く侘しさを解消出来ていないのだろう。
「……あなたは1人だけど、寂しくないの?」
私はいつも何かに縛られて生きてきた。
いつも何かに囚われて、捕らわれて、擒われて………もう何もかもがどうでもよくなってしまった。
だから、逃げた。
私を縛り続けるもの全てから。
私とつながっていた全ての縁すらも断ち切って。
………向き合わなければならない現実からも。
そうやって逃げて、逃げて逃げて逃げて……
逃げ続けた先にあったのは解放感や自由なんかじゃなく─────
「ニャー」
「あっ……」
猫は私の問いかけを無視するようにその場で寝てしまった。
………何か言葉をもらえるなんて、最初から期待していなかったから。猫が人語を話せるわけでもないし……
…………………………………
…………………静か、だね。耳を澄ましても騒がしい人の声は一切聞こえず、ただ雨音が聞こえるのみ。
可笑しいよね、前までこの静寂が欲しかったのに、今はただただ苦しい沈黙にしか感じない。
……考えるのはもう止そう。こんな日は雨音と一緒に“ブラック・デス・ポイズン”でも聞いて─────
「お〜〜い、猫助〜!今日は猫じゃらしを─────あ?」
「…………」
……なんかすごい人が来た。
薄暗い路地裏の奥からやって来たのに、不相応な程にキッチリとした服装を身に纏っている。その容姿も相まってあまりにも異質で、自然と彼の動作を観察してしまう……が、特に武装をしているわけでもなさそうなので、すぐにその不躾な視線を切った。
そんな彼の両手にはツナ缶と猫じゃらしが。たまに置いた記憶のない空き缶があったけど、おそらくこの人がこの子にあげていた物だったのだろう。
……私は邪魔かな。
この人も私を見て驚いているっぽいし、邪魔者はさっさと退散した方が─────
「…………猫ガキ?」
「は?」
彼と交わした最初の一言目はロマンチックでもなければ運命的でもない────むしろ最悪の一歩手前のような会話だった。
それが、今日まで続く幸せの1ページ目だったなんて、きっと神様でも想像が付かなかったと思うよ。
◇◆
よぉよぉ〜!!完全無欠、超絶怒涛のサドだぜェ!!
今日も今日とてキヴォトスの何処かにいるガキどもを泣かすために誠心誠意虐待していく所存で〜〜す!!
ところで余談なんだが、最近猫ガキを見つけたんだ。
おっと、猫っつーのは比喩表現な?猫みたいなガキを拾ったって意味だぜ。
猫みてーな鋭い目つき、猫みてーに整った顔つき────見方によれば威圧感のある顔面はホシノやサオリと近しい雰囲気を持っている。
あとあの特徴的な白と黒の髪の毛は……猫の種類で言うんならハチワレみたいだよな?
「………サド?どうしたの?」
「あぁ、いや……相変わらず猫みてーなガキだと思ってただけだ」
「………ふふっ、まだそんなこと言ってるんだ」
猫と称されて不快な筈なのに、何処か嬉しそうに微笑むコイツの名は鬼方カヨコ。
俺が暇つぶしに猫と戯れようと向かった先で見つけた猫ガキがコイツのことである。
「そういえば、なんであの時“猫ガキ”なんて言われたのか、理由を聞いてなかったや。なんで?」
「あぁ?そこ気にする?」
「うん。だって、女の子にとって“
なんとも誤解を招きかねない言い回しだが、そんなもんかと理解して受け流す。
「まずはその顔だな。怖いほどに
何を言っているんだと思われるかもしれねェが、1回コイツの顔を見てみろ。
『あなた、本当に高校生ですか?』ってぐらい圧のある顔………所謂、美人と称される顔立ちなのだ。
あぁ、容易に予想がついちまうよ。おそらく多くの人間はコイツのことを『美人だスゲー!』と持て囃してきたに違いない。
だから俺は敢えて前に“怖い”という不吉な単語を混ぜ合わせてやったぜ!
今まで賞賛しかされてこなかった顔面にケチをつけられた気分はどうよ─────って、そのポカン顔を見れば答えは分かるか!
「あん時はマジでビックリしたよな〜。マジわけわからん程に
「もう黙って……っ」
急に口を両手で抑えられる。
つーかコイツから教えろって言ったよなァ!?なのに黙ってとかなんだコイツ!?………マジでなんだコイツ!?
「………もう行こ。ほら、立って」
口を抑えられたかと思えば、今度は両手を引っ張り上げられる。
いつぞやか誰かが言っていた“女の子は気分屋”────ん?“ガキは気分屋”だったか?まぁ、そんな感じのセリフを想起させるような行動ばかりしているよな、カヨコのヤツ。
それとも、その綺麗な白い顔面が赤面するほどの理由と何か関係があるのか……まぁ、そんなこと知ったことではないな!
◇◆
『お前の死の絶叫を聞かせろよ!!私はそれを聞きながらスヤスヤ寝てやるからなぁぁぁぁぁ!!』
カヨコと肩を寄せ合いながら、有線イヤホンを通して流れ伝う絶叫にも似た音は決して防音検査の音でもなければ工事音のものでもない。
歴とした人の声であり、コイツの大好きなヘビメタのボーカルが出している歌である。
「どう?今回の新作。私は結構好き」
「………ククッ、趣味は人それぞれだしな、俺から言うことは何もありはしない。ただし!コイツらの曲を無闇矢鱈に他人に聞かせようとすんじゃねェぞ?下手したらお前はある種のテロリストに落ちぶれる可能性があるからなァ……!」
「……?」
コイツ……!可愛らしく首を傾げやがって……!
ククッ、なんてあざといヤツだ!これで世の男や女を堕としてきたのかと思うとゾワゾワしちまうよ!
しかしなるほど……コイツは無自覚ながらに自身の才能を存分に発揮しているようだな。
ククッ、鬼方カヨコ………コイツはとんだ“惡”の原石なのかもしれねェな!!
「そういやお前っていつも猫の世話をしてんのか?俺が猫助の世話に行くときは必ずお前がいるような気がするんだが……」
ここでふと頭に思い浮かべたことをそのまま聞いてみることにした。
俺たちは何も『あの路地裏で会おう』と約束して、こうやって他愛もない会話をしているわけではない。
俺が路地裏で様子を見に来るとき、必ずと言っていいほどカヨコが路地裏にいるのだ。
むしろ疑問にならない方が不思議であろう。
「ん〜……まぁね」
「そんなに猫好きだったのか。だったらいい場所を知ってるぜ!ペットショップとか猫カフェに行けばもっといろんな猫を見れるんだぜ!」
「…………ありがたい提案だけど、今はこの子だけでいいかな」
「なに!?」
俺がせっかく下水道みたいな濁りきった親切心を見せてやったというのに、カヨコはあまり浮かない顔を浮かべるだけでなく、あまつさえ断ってきやがった。
本来なら即虐待ものの無礼であるが、さっき虐待したから今回ばかりは許してやる。だが、次はないと思え!!
「ククッ、アイツに愛着があるのか?」
「…………うん、まぁね。これまでお世話してきたし、この子に支えられた日もあったから。だから、それが私がここに来る理由…………だった」
だった─────そう意味深に区切ったカヨコは、その真紅の瞳に俺の姿を映す。
「─────だけど今は、もう1つ理由が増えたかな」
カヨコは俺の顔を見ながら、僅かに上げた口角を携えてそう言った。
儚くも確かな本音であると告げるように微笑むカヨコは、“本当に高校生のガキか?”と疑いたくなるほどに妖艶な雰囲気を纏っている。
なんともまぁ、しみったれた雰囲気だ。俺ァ、このジメジメした空気感が嫌いなんだぜ!
……というかなんだろう、コイツは演技派の女優でも目指しているのだろうか。じゃないと、ここまで妖しい雰囲気を作り出せはせんだろう!
ならば、ウチのサオリとキヴォトスの最優秀女優賞をかけて争うことになるかもしれんな!勝敗は分からんが、どっちも応援しておいてやるぜ!
「ククッ、まぁ、猫の世話も殊勝な心がけで大変素晴らしいと思うが、今の時期はガキ同士で自由気ままに遊んでおいた方がいいと思うがな。友達ぐらいいるだろ?」
「─────いよ」
「あ?」
「……友達なんかいないよ。前まではそう呼べる人はかろうじていたかもしれないけど、今はもう……」
なん、だと……!?
ガキのくせに……ガキのくせに友達がいない、だとォ……!?
な、なんて生意気なヤツ!!ガキは友達と遊んでこそだろうがよッ!!
俺の目が黒いうちはそんな反抗的な態度が許されると思うなよォ!!
それともアレか?あえて孤立したとかそんなパターンか?
いいや、そんなことどうでもいい。コイツは今、孤立している────その事実さえ分かっていればいいのだ。
しかし、その事実が分かったからと言っても何が出来るというのか。
コイツを孤立させないための作戦は、安易に考えれば俺が常にそばにいることだが、残念ながら俺は常にゲヘナにいるわけじゃねェ。結局コイツを1人きりにしちまう。
むむっ、何かいい案はないか──────あっ、いいこと思いついた!!
「カヨコ!俺に付いてこい!!」
「え?」
見ろ!困惑と戸惑いでその端正なお顔が歪んでますねェ!!
それにプラスしていきなり異性に手を引っ張られる虐待!!この現場を他人が見たら『お前の血は何色だーッ!!』と叫んでいたに違いない。
「ど、何処に行くの?」
「そりゃあお前……着いてからのお楽しみってヤツだぜ!」
「…………うん、分かった。サドが一緒にいてくれるなら、何処だって─────」
ん?小声でなんか言っているが、どうせ俺に対する罵詈雑言だろうから無視だ!
つーわけで─────
「─────久しいな!お前ら!!!」
「ししょ〜〜〜〜〜!!!!!」
ハーッハッハッハ!!!てなわけで連れてきてやったぜ!!!
我が最凶の弟子が1人、陸八魔アルの下になァ!!!
ちなみにシロコはお留守番中です。きっと今頃部屋をゴロゴロしている最中でしょう。