汚いガキどもを見つけたので虐待することにした。   作:史上最恐の悪役

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最凶の師弟、邂逅────!!


“惡”の華 集結編②

 

 

 

 

 

 ─────夏休み。

 

 それは学生に与えられた最高の特権。

 学生はみんな、夏祭りだったり、海に行ったり、キャンプしたり、バーベキューをしたりと1年で最も忙しくなる時期でもある筈だわ。

 

 私?私はもちろん最高の夏休みを送っているわよ。日々、師匠から教わった極意の復習と実践を繰り返して、着実に真のアウトローに近づいているわ。

 ふふっ、なりたい物のために頑張れることってこんなにも素敵なことだったのね。

 

 ………あぁ、だけど────

 

 

 

 「はぁ〜……ししょ〜……」

 

 

 

 抑えきれない感情の吐露と共にそっとスマホのホーム画面を指でなぞる。

 その画面には昨日までやり取りしていたトーク履歴が表示されているわ。昨夜、私が送信したメッセージを最後にトークは途絶えているわけだけど…………はぁ〜……。今日は忙しいのかしら、師匠……

 

 「くふふ〜。アルちゃん、ま〜〜たサドっちに会いたくなっちゃったのかな?」

 「えっ!?そ、そんなことないわよ!?」

 

 後ろから画面を覗き込もうとしてくるムツキから全力でトーク画面を隠す。

 こんなところ見られたら情け無いったらありゃしないわ!!

 

 「な〜〜んだ。てっきりサドっちに会いたくて会いたくて仕方がないのかと思った〜」

 「ふ、ふふっ、私はアウトローを目指す者であり、あの偉大な師匠の弟子よ?そんなセンチな感情になるわけが─────」

 「え〜?本当かな〜?」

 「ぐっ……!?そ、そういうムツキはどうなのよ!?そんなこと言っちゃって、ムツキこそ会いたくて仕方がないんじゃないかしら!?」

 「私?………私は会いたいよ?サドっちに」

 「………………へ?」

 

 何とも素っ頓狂な音が口から漏れたけど、今はそんなこと気にしてなんていられなかった。

 

 『会いたい』と、そう言葉にしたムツキの表情があまりに切なそうなものだったから─────

 

 「くふふっ!だってサドっちを早くゲームでボッコボコにしてあげたいもん!私に喧嘩を売ったことを後悔させてあげるんだから〜!!」

 

 『おー!』と、細い腕を上げて拳を天へと突き刺すムツキの顔に、さっきのような寂しげな表情は一切なかった。

 …………見間違えだったのかしら?いや、でも………うん?やっぱり見間違い?ダメね、ちっとも分からないわ……!

 くぅ……!こんな時に師匠がいてくれれば──────はっ!?何故か分からないけど、今師匠が『それはスルーしても問題ないヤツだぜ!』とお告げを下さったような気がするわ!

 これは……もしかしてイマジナリー師匠!?師匠に会えない寂しさが限界を迎えて、とうとう想像上の師匠が頭の中に出来上がった────って誰が寂しがってるよ!?!?

 

 「ふふっ♪アルちゃんの百面相も見応えがあるけど、どうやらサドっちに会いたい子は私たちだけじゃないみたいだよ。ね?ハルカちゃん?」

 「え゛っ!?!?わ、私ですか!?!?」

 

 突如として変化球を当てられたハルカは、不意打ちを喰らったかのようなオーバーリアクションを取り、顔を真っ赤にしながら口をパクパクと開いていた。

 なんだかお魚さんみたいね。すごく可愛いと思うわ!

 

 「うん。だってサドっちの名前が出るたびにソワソワしていたの、このムツキちゃんにはお見通しだったよ〜?」

 「う、うぅ……」

 「それで?ハルカちゃんはどうなのさ?サドっちに会いたい?ねぇねぇ〜」

 「わ、私なんかがサド様にお会いしたいだなんて、そんな御無礼なこと言えませんっ!!」

 

 ハルカはこれでもかと首を振っている。

 どれくらいかというと、このまま首を振っていると首がもげてしまうのではないかと心配になる程には激しく振るっているわ。

 

 「……ハルカちゃんもアルちゃんみたいに見栄っ張りなんかしないで「見栄なんて張ってないわよ!?」もっと遠慮せずに言うべきだとムツキちゃんは思うな〜?言うだけならタダなんだからさ〜」

 「で、ですが……」

 「ほらほら〜、早く言っちゃいなよ〜。夢は口に出せば叶うって言うし、もしかしたらふらっと現れるかも?」

 

 

 私の抗議を華麗にスルーされて大いに不満はあるけど、今はハルカに出番を譲るわ。

 

 ハルカはね……幼い頃からイジメられていたらしいの。師匠と私がハルカに出会ったときもたまたまその場面だったわ。

 そんな境遇も相まってか、いつも私たちの顔色を伺いながら言葉に出していることが多いわね。ハルカは友達であり仲間なんだから、顔色を伺うだとか、そんなことしなくていいのに……

 

 最近では、少しずつ馴れてきたこともあってか、出会った頃よりはだいぶマシになってはいるけど、それでも自分の気持ちを言葉に出さなすぎよ。

 万一にも、ハルカの願望が叶う可能性は塵芥にも満たない程の大きさだろうけど、それでもあの子の気持ちを聞けるのは良いことよね。

 

 …………はぁ〜………言えば叶うのならどれだけ苦労しないのかしらね……

 

 「………えっと、その………わ、私も、その……サ、サド様、に、お会い……したい、です……なんて、ふへへ……」

 「ほう?いい趣味してんじゃねェか。お前ら2人もそうだったのか?」

 「も〜〜、だから私もそうだって──────あれ?」

 「だ、だから!!もう揶揄うのはよしなさいって─────へ?」

 

 ふと男性特有の低い声が鼓膜を揺らした。

 普段は聞き馴染みのない声色の筈なのに、()()()()()()()()()()()()()

 

 ほぼ脊髄反射で声がした方へ顔を向ける。

 そこには、ハルカの頭を撫でながらコチラに顔を向けている絶対にして唯一無二(師匠)の姿が─────

 

 

 

 「久しいな!お前ら!!!」

 

 

 「ししょ〜〜〜〜〜!!!!!」

 

 

 

 ほぼ反射的に駆け出し、脳で考える前にその敬称を口に出していた。

 

 あぁ、あぁっ、あぁッ……!!師匠よ!本物の師匠!!夢じゃなければ幻でもイマジナリーでもない、本物の師匠!!

 もうっ、来るんだったら連絡の1つでもして欲しかったわ!でも、いいわ!許す!全然許しちゃう!そんなことどうだっていいもの!

 

 

 

 ずっと、ずっとずっと会いたかったんだから───────!!!

 

 

 

 

 

 「………師匠?何の話?」

 

 

 

 

 

 もはや誰にも止められないと感じていた疾走感と高揚感は、師匠の背後から現れた1人の女の子によって打ち消された。

 師匠の服の袖を摘みながら見上げるその顔は、心から師匠のことを信頼しきっていると分かってしまう表情で─────

 

 

 

 

 

 …………だ、だ、だ、だ────────ッ!!!

 

 

 

 

 

 「誰よその()ッ!?!?!?」

 

 

 いや、ほんとに誰よ!?!?

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 よォ〜!!久々の弟子とのサプライズ再会に()()を収めた男ことサドだぜ〜!!

 いや〜、やはりサプライズで行って正解だったなッ!!おまけにカヨコとの出会いも印象付いていいこと尽くし!!流石は虐待王と褒めてやりたいところだァ!!

 

 

 …………その筈、だよなァ?

 

 

 

 

 

YOU LOSE

 

 

 

 

 

 

 「…………なぁ、ムツキ」

 「ん〜?な〜に?」

 「その………なんか怒ってね?」

 「あはっ♪怒ってないけど?」

 「………ッス」

 

 今は公園でムツキとゲームをしている……んだが、かれこれもう10連敗目を喫した。もはや顔馴染みと言えるほどに見た真っ黒な画面と『YOU LOSE』の文字。ククッ、どうやら俺の画面はバグって『YOU WIN』が消えちまったみたいだ。

 それにしても可笑しい……いつもは何勝か出来る筈なのに、勝つどころか勝ち筋すらも見当たらねェ……

 

 しかも、だ。いつもならムツキが挑発してきたり、ガキみたいにおちょくってきたりと、とにかく喧しくなるのが常であった筈なんだが……今日は()()だ。()()()()と笑顔を貼り付けて、()()()()()のまま俺のキャラをボコしにかかってくる。

 見ろ、この華麗な即死コンボを。プロでもそうお目に掛かれは────ってあぁッ!?そんなこんなしている間にまた負けちまったッ!?

 

 「な、なぁ……やっぱ機嫌悪い?」

 「いやいや、全然?私たちのことを放っておいて()()()()()()()()()()()()()()ことになんて、これっぽっちもぜ〜〜んぜん怒ってないよ♪

 「…………」

 

 『現なんて抜かしてねェよ!!』────と言いたかったが、無言の笑顔圧力の前に声を上げる気力すらも削がれてしまった。

 

 クソッ!!これじゃあまるで蹂躙だ!!俺の未来はこの画面のようにお先真っ暗ってわけだッ!!

 

 「サ、サド様、頑張ってくださいっ……!」

 「ハルカ……!!お前ってヤツはよ……!!」

 

 胡座の上から蹂躙を見物していたハルカが、まるで戦場に舞い降りた天使のように思えた。

 ……ん?俺は虐待者だから、ここは天使じゃなくて悪魔の方が良かったか?まぁ、どうだっていいな!悪魔なら絶対ムツキだろうし─────

 

 「ん〜、何やら失礼なことを考えていそうだな〜。よし、もう1回ボッコボコにするね♪」

 「えっ、ちょッ、ま、待て!!!落ち着け!!!話し合えば、話し合えばきっと分かり合える!!!」

 「バイバ〜〜イ☆」 

 「NOOOOOOOOOOOO!?!?!?!?」

 

 あ、悪魔たん……

 本物の悪魔がここにいるぞ……!!

 

 「し、師匠!?大丈夫ですか!?」

 「ア、アルよ……儂にはあの悪魔を倒すことができなかった……。だが、お前なら……お前ならヤツを倒せる筈じゃ……。後は、頼んだぞ………ガクッ」

 「師匠〜〜〜ッ!?!?!?」

 「サド様〜〜〜ッ!?!?!?」

 

 アル──それと何故かハルカ──の絶叫が公園で木霊する。

 いつか、いつか俺の無念を晴らしてくれェ……!!

 

 「………騒がしい人たちだね。いつもこんな感じ?」

 「まぁ、サドっちがいるかいないかでだいぶ変わってくるけど、大体こんな感じかな〜。賑やかなのは苦手な方?」

 「………前まではそうだったけど、今はそうでもないかも」

 「くふふっ、それは良かった♪」

 

 そして、今回のメインであるカヨコだが、どうやら会話に混じっている────いや、会話に()()()()()()()()()状態になってしまったらしいなァ。

 ククッ、計画通り……!虐待王たる俺にかかれば、このような計画の遂行など赤子の手を捻るように簡単だぜ!

 

 「ところで、サド。何で私をここに連れて来たの?」

 「ハーッハッハッハ!!待っていたぜ、その問いかけをよォ〜!!」

 

 カヨコの問いかけはもはや既定路線ッ!!むしろ待ちに待ちすぎて“赤子が初めてハイハイをし出した”瞬間と同じくらい感動ものだぜェ!!

 

 さて、そろそろ答えを欲していそうな純粋無垢なお顔に現実を叩きつけてやるとしますか。

 お前はもう、逃げられない!!

 

 

 

 「お前をここに連れて来た理由、それは──────お前に友達を作ってもらうためだァァァ!!!

 

 

 

 名付けて『カヨコ、友達100人出来るかな作戦』だッ!!

 

 ガキのくせに友達がいないなんて生意気だからな!そんな生意気なガキには、この喧しいガキどもを宛てがってやるよォ!!

 しかもその内の1人は俺の愛弟子!!ククッ、“()”と“(アル)”に挟まれちまったとなりゃあ、もうこのキヴォトスで平穏に生きていくことは出来なくなってしまったというわけだッ!!

 

 1人で暗がりになんか行かせねェぜ?

 お前には必ず日の目を浴びてもらう!!

 

 「ククッ、余計なお世話だなんて言わせねェぜ!泣いてるヤツ、お腹を空かしているヤツ、イジメられているヤツ、1人でいるヤツには漏れなく声をかけ、そして虐待をする────それこそ真のアウトローだッ!!

 「サド様……!!」

 「流石だわ!師匠!!」

 

 フハハハッ!!見よ!!ハルカ(被害者)アル(弟子)も思わず感涙咽び泣いておるわ!!

 

 カヨコからも何か一言もらいたいが……何やら目を瞑って頬にえくぼを作っていやがる。ククッ、強がりかァ?

 

 「それじゃあまずは自己紹介からね!私は陸八魔アル!師匠の唯一の弟子にして、いずれキヴォトスの真のアウトローになる女よ!!」

 「は〜い!私は浅黄ムツキといいま〜〜す!好きなことはアルちゃんやサドっちにイタズラをすることで〜〜す!!よろしくね♪」

 「わ、私は伊草ハルカといいます……。す、好きなことは………なんでしょうかね。強いて言うなら雑草を育てることぐらいしか……あ、あとサド様に撫でてもらうのも………あぁ!?こ、こんなこと聞かれてませんよね!?ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!話が長くなってごめんなさい!!!と、とにかく私のような名前なんて早く忘れてもらってもいいので……よ、よろしくお願いします……」

 

 う〜〜ん、濃いッ!!自己紹介だけの筈なのにめっちゃ濃いッ!!個性がこれでもかと凝縮されているぜ!!

 まぁ、いいか。カヨコは普通に握手しながら『よろしく』って言ってるし。なんだか場馴れ感半端ないな。

 

 「それにしても、師匠がカヨコさん───じゃなくて、カヨコを連れて来たときは本当にビックリして肝が冷えたわ」

 「ほう?何故だ?」

 「いや、それは、その……」

 「新しい弟子が出来たと思って焦っちゃったり?」

 「えぇ、そう────じゃないわよ!?!?

 「え〜?うっそだ〜」

 「ほ、本当よ!?本当なんだからっ!!!」

 

 ムツキとアルがキャッキャし出したのを傍目に、俺はとあることを考えていた。

 それはたった今、コイツらの話題のタネでもある将来の弟子についてだ。

 

 う〜〜む、とはいっても、アルを弟子にしたのだって、ことの成り行きみたいなモンだったからなァ。

 アルにはかわいそうだが、今のところ新たな弟子を取るつもりはねェぜ!妹弟子を作れなくてごめんな!

 

 「そ、それより師匠!!私の修行の成果を見てちょうだい!!ちゃんと“一日一惡”もやって来たんだからッ!!」

 「いいぜ!俺もお前がどれほど成長したのか楽しみなんだッ!」

 

 弟子の成長を楽しみに待つ───俺もだんだん師匠として型が付いてきたんじゃあねェか?

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 アルとサドが迷子の子供を親御さんの下へ届けている姿を後ろから眺める。

 私だけじゃない。ハルカも、ムツキも、まるで微笑ましそうにあの2人の姿を見ていた。

 ……2人もこの光景が好きらしい。

 

 

 

 

 

 『お前をここに連れて来た理由、それは──────お前に友達を作ってもらうためだァァァ!!!』

 

 

 

 

 

 先ほどのサドのセリフがフラッシュバックする。

 

 私は1人でいたいと願った。

 人とつながればつながるほど、私を縛るものが増えていくものだと思っていたから。

 

 でも、この子たちを見ていると……何処か羨ましく思ってしまう自分がいた。

 私も誰かとこの子たちのような関係を築けたら……なんて、らしくもなく思ってしまう。

 

 いや、別に過去のことを後悔しているわけじゃないよ。趣味に没頭する時間も増えたし、心を休ませることもできたし、何より()()()()()も果たすことができたから。

 ただ、それでも思うところはあるって話。

 

 「……ねぇ」

 「ん〜?どしたの〜?」

 「さっきサドが言い出したことだけど………困ってない?大丈夫?」

 「あぁ、大丈夫だよ〜!サドっちが突発的なことをするのはいつものことだからさ!」

 「わ、分かります……。でも、それがサド様らしい、ですよね……」

 「……うん、ちょっと分かるかも……」

 「でしょでしょ♪……でもね?渡りに船だとも思ったの。カヨコちゃんとお友達になるっていうサドっちの提案にはね?」

 「え?」

 

 意外も意外な答えに目を瞬かせると、あの2人(サドやアル)の前でしていた小悪魔のような笑みを潜め、今は天真爛漫で純粋な笑みを浮かべながら私を見ている。

 

 「私、本当にカヨコちゃんとお友達になりたいなって思ったよ?」

 「……どうして?」

 「ん〜、なんとなく?」

 「えぇ……」

 

 そこまで深い意味はなかったらしい。

 

 「くふふっ♪()()()()()()()()()()()()()()()?『カヨコちゃんとお友達になりたい』……その気持ちさえあればお友達になるのには十分すぎる理由だよ!」

 「ッ」

 「わ、私も、カヨコさんと……お、おおおおお友達になりたいですっ……!!」

 

 ………どう答えるべきなのだろう。

 

 いや、なんとなく私の中で、もう既に答えは出ている。

 ただ、その本心を知るのが怖くて、必死に目を逸らしているだけにすぎない。

 

 これ以上のつながりが出来るのは、私には分不相応なのではないのか。

 また、あの日々の繰り返しになるのではないか─────そんなことが脳裡を過ぎるから。

 

 「私、は……」

 「あっ、カヨコさ───じゃなくて、カヨコ!!あなたに言わなきゃいけないことがあったわ!!」

 

 迷子の子供を送り届けたらしいアルは、息切れをしながら私の下へ駆け寄る。

 そんな息を吐くぐらいダッシュしなくてもいいのに……

 

 「……大丈夫?水いる?」

 「だ、大丈夫よ!それよりも、いい?これから私が言うことを耳を綺麗にしてよ〜〜くお聞きなさい!!」

 

 その腕組み仁王立ちスタイルは、何処かの誰かさんの幻影を彷彿させるようで。

 自然と、次に彼女が発する言葉に耳を傾けてしまう。

 

 しかし、その言葉は─────

 

 

 

 

 

 ()()()言うわ!!私とお友達になりなさいッ!!!」

 

 

 「────え?」

 

 

 

 

 

 ──────その言葉は私を困惑させるのに十分すぎるものだった。

 

 どうして仕切り直しのように友達の申し出を繰り返したのか。さっき挨拶を交わしたのではなかったのか。

 この子なりに意図があって発言したんだと思うけど、私にはその意図を察せられる程の思考力は持ち合わせていなかった。

 

 そして、『改めて』───この言葉が妙に引っ掛かった。

 

 「くふふっ、アルちゃん、もしかして今のセリフを言うためにダッシュで帰ってきたの?」

 「うっ、し、仕方ないじゃない!!た、確かにカヨコと出会ったのは()()()()()()()だけど、私からもお友達になりたいって伝えなきゃ!!このままだと“()()()()()()()()()()()()()()()()()”って勘違いされちゃうかもしれないじゃない!?そう思ったら居ても立っても居られなくて……」

 「─────」

 

 ……つまり、この子はこう言いたいらしい。

 『誰かに頼まれたからじゃなくて、自分がなりたいからなった』、と。『そこに他人の意思は関係なく、あくまで自分自身で決めたものである』、と。

 

 そんなこと、別に気にしてなんかなかったのに。

 たとえ話そうとも黙っていようとも、特段何も変わりはしないのに。

 むしろ、黙っている方がよっぽど楽な筈なのに。

 自分から話し出すのは勇気と苦労のいる行動である筈なのに。

 

 それでも、この子は()()()()()()

 自分自身が気に食わないと思ったから、この子は行動できたんだ。

 

 ………あぁ、似ている。今この場にはいない()と本当に似ている。流石は師匠とその弟子ってわけか。

 

 「…………ふふっ」

 

 ─────気づけば心の中で蠢いていた恐怖心は霧散していた。

 あるのは───そう、心地良さだけ。空気の美味しさとも表現できる居心地の良さだけだ。

 

 元々、私が彼の手によってこの場に連れてこられた時点でこうなる運命だったのだろう。

 だって、私は他人が絡むことには足を踏み入れないけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()だしね。サドのときもそうだった。

 

 

 ────『友達になりたいという想いだけで十分』、か。まったく、本当にその通りだったね。

 

 

 

 「………私もあなたと───あなたたちと友達になりたい。これからもよろしくね?」

 

 

 

 決して差し出すことはないだろうと思っていた握手を、今度は私から差し出す。

 アルたちは嬉しそうな表情をして握手を返してくれた。

 

 ………この選択が正しかったのか、それとも失敗だったのかは分からない。

 もしかしたら、あの日々を繰り返して後悔する日がくるかもしれない。

 

 ただ、今は後悔なんてこれっぽっちも抱いていないのは確かだった。

 

 「クククッ……!!なんだなんだ、()()してんなァ、テメェら!!」

 

 愉悦に浸る笑い声を上げながら、()()()()()()()()()()()でサドが帰ってきた。

 あたかも『たまたま良いタイミングで帰ってきたぜ』風な態度だが、私は全て()()()()()

 

 

 さっきから視線を感じていたことも。

 

 その視線の主は電柱の後ろに隠れていたことも。

 

 その電柱の後ろから、トレードマークであるが見え隠れしていたことも、全部。

 

 

 ……でも、それを指摘するのは野暮だよね。

 せっかく彼が私たちに気遣ってくれたのだから、言わぬが花ってやつでしょ。

 

 

 ただ───────

 

 

 

 「サド」

 

 「あ?」

 

 「─────ありがとう、いろんな意味でね」

 

 「ククッ、皮肉をどうもありがとさん!!」

 

 

 

 私が彼に告げたかったのは“感謝”だった。

 

 あの雨の日から続く縁への感謝。

 私をずっと見てくれたことへの感謝。

 私と他愛のない話をしてくれたことへの感謝。

 この子たちに巡り合わせてくれたことへの感謝。

 

 ─────何より、私と出会ってくれたことへの感謝を。

 

 思えば、ずっと伝えていなかったと思う。

 だけど、今なら。過去を少しだけ乗り越えられた今なら、ようやく伝えられると思った大切な言葉だった。

 

 ……まぁ、案の定な返しをされたけどね。

 ほんと、困った性格だよね。まぁ、それがサドらしいといえばそうなんだけどさ。

 

 「よ〜〜し、テメェら!次の虐待先に行くぞ!!」

 「おー!!」

 「お〜♪」

 「お、おー……」

 「……おー」

 

 サドのかけ声にみんなが合わせるのを追随するように、私も小さく右手の拳を天に掲げた。

 らしくない────そう思いながらも、かつてない程に満ち足りた心を抱きながらサドの隣を歩いた。

 

 その心模様はまるで………今のキヴォトスのように、雲ひとつない青空のようだった。

 




電柱の裏から後方腕組み師匠面(事実)
“大人”とは空気を読める人間のことですからね、幾ら彼でもでしゃばっていい場面とそうでない場面はちゃんと見極められます。

さて、次回からようやく次章に入れそうっすね!
リアルが忙しくてなかなか手をつけられていませんが、いつか必ず投稿するので、次の被害地及び被害者が誰なのか想像しながらお待ち下さい!
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