汚いガキどもを見つけたので虐待することにした。 作:史上最恐の悪役
この残虐で悪辣な物語を続けてしまった私をどうか赦して下さい……
第30話
しんしんと粉雪が音もなく降り続けている。
文字にして読めばそう珍しくない光景ではあるが、その照り輝く天花がより一層その街の魅力を引き立たせていた。
街の端にありながらその街のシンボルとなっている巨大な神木の下に彩られるのは多種多様な建造物ばかりだ。
聳え立つ荘厳な城郭しかり、一寸の隙も埋める商店街しかり、風情に溢れた大庭園や中央広場しかり……
全体的に和として統一された都市は、都会疲れした若者にはうってつけの場所といえよう。
────ここは百鬼夜行連合学院。主に観光業を生業にして三大校にも引けを取らない知名度を誇るツーリズム産業都市である。
さて、そんな冬ざれの侘しさをも味方につけた街の中で、とある一角の店屋にてわいやわいやと人の騒音が聞こえてくる。
その騒ぎの中心となっているのは────とある3人である。
「らっしゃ〜〜い!!!今日も百夜堂はやってるぜ〜〜!!」
「ん、美味しいよ」
「今日はなんと冬限定の薯蕷まんじゅうが出ますよ〜♪ きゃるる〜〜ん♪」
「……………ぶりっ子」
「ちょっと聞こえてるんですけどッ!?!?」
百鬼夜行の伝統的な喫茶店───百夜堂。
今日も平日問わず満席です。
◇◆
お前も虐待ファミリーに加えてやろうか!?
ど〜〜も、虐待王を邁進中である、KING・サドだぜ〜!!
さて、今回の目的地はココ!!百鬼夜行だッ!!
百鬼夜行……話に聞いていたが、かなり和風チックな街並みでオシャンティーだ。
ククッ、こういう城とか街並みを見るとなんだか懐かしい気分になってしまうぜ。なんでだろうな?
さて、早速本題に入る前に相互確認といこうではないか。
まず貴様ら凡夫どもはこう思っただろう。『なんで今更百鬼夜行なの?』、『とうとう虐待から足を洗って旅行にでも来たのか?』と。
ノンノンノン……まったく、見通しが甘すぎるぜ。俺が改心する日なんて、この世が天地ひっくり返ってもありはしないってのによ。
俺がこの地にやってきた理由……それはとあるヤツからの
まぁ、とあるヤツとは言ってもバリバリ知人なんだがな。あっ、お前ら知ってる?バカみてェに薄着で綺麗な
そもそもだが可笑しな話だよな、アイツから『百鬼夜行来ない?』って誘ってきたくせに、一向に姿を見せやしないなんてよ。
まぁ、今はいっか!いつかあっちから顔を出してくんだろ!
そんなこんなでシロコを引き連れて百鬼夜行にやって来たわけだが、なんやかんやあって今は百夜堂という喫茶店のオーナーをやっているぜ。
前のオーナー兼店長がかなりの高齢で、もうそろそろで店を畳むかもって話を聞いたときに思わず名乗り出てしまったのが始まりだ。
ここは観光業が盛んなこともあってかホテル料が高いのなんの。だから店を運営させる代わりに宿として利用しているってわけよ。
ククッ、良い子のみんなは俺のような悪どい“大人”になっちゃあいけねェぜ?
「サド、オーダー入った」
「はいよッ!!あと、仕事中は“オーナー”か“店長”って言ってんだろうが!!」
「ん、善処する」
そんな『改善する気のないヤツが言うセリフランキング第3位』を堂々と吐き捨てて去っていくシロコ。
口では反抗的な言動が出ちまうみたいだが、こうやって俺の命令に大人しく従っている時点でお察しだよなァ?ククッ、まさしく『体は正直』ってことよ!!
さて、もう1人の
「いらっしゃいませ〜〜♪ご主人様!!にゃんにゃん♪」
「…………」
あそこで神経を逆撫でするような猫の鳴き真似をしているガキの名は河和シズコ。
俺とシロコでは人手が足りないと感じてアルバイトを募集したところ、ものの数秒で食いついてきた逸材である。
「あっ!オーナーさん!期間限定のまんじゅうのオーダー入りましたよ〜♪」
「………商魂逞しいこったな」
「ちょっと待って!?なんで今の会話からそんな話に────って、オホンッ。アハハ♪オーナーさんもご冗談が上手いんですから♪」
『おほほ〜』とお上品に笑うシズコを一瞥した後、ささっと頼まれたまんじゅうを取り出す。
「ほれ、まんじゅうだぜ。………またあのサービスやんのか?」
「ふふっ、勿論です!私のドジっ娘サービスでみんなをメロメロにして多くのリピーターをゲットしちゃいますよ!……それに────」
そう会話を区切り、シズコは今も接客を行なっているシロコに目をやる。
その目の内側に、まるで俺の顔のような燃え上がる炎を幻視した。
世間では百夜堂は今が全盛期であると噂がある。
元々百鬼夜行の伝統的な喫茶店であり、それなりにネームバリューというものは存在していたが、それでも今が全盛期と太鼓判を叩かれるのはこの2人のお陰でもあった。
天真爛漫で愛嬌もよく、たまにドジっ娘──設定──なシズコ。
泰然自若にして接客を接客とも思わぬ行為をしながらも、それが一定の層に突き刺さったシロコ。
まるで正反対な2人だが、その対極さと顔面の良さ故に各々のファン層が出来上がりつつあった。
しかも、コイツらを見たいが為に来る新規顧客も増えつつある。
つまり、コイツらは今ではすっかりウチを代表する看板娘となっているわけだ。
世間一般から見てもそうだし、俺だってどちらかが片方だけではなく、この2人がウチを代表する看板娘なんだと思っている。
ただ、当人たちがどう思うかはまた別で─────
「私、シロコよりもたくさんのファンを作って、たくさんの売り上げを残したいんです!!」
そう、なんとコイツらは切磋琢磨し合うライバルへと変貌したのだった。
『何言っちゃってんの?』と思うかもしれないが、事実そうなのだからしょうがない。
コイツらはお互いがお互いを認め合いながらも、しのぎを削る宿敵と認識し、『コイツより……!!』という気持ちで日々働いているのだ。
まぁ、分からんでもない。シロコの歳は知らねェが、多分シズコと同じ中坊あたりだろう。
この時期はとにかく多感で自己欲が高い時期だからなァ。アイツらの性格的に、自分が1番でないと気が済まないのだろう。
………しかしまぁ、何とも憐れなピエロだなァ、シズコよ!!
「ククッ、前から思っていたが、お前の
「な、何ですかその言い方ッ!?それに、本来の強みって一体……?」
オイオイ、ここまで言ってやったというのにまだ理解していないのかよ。まったく、これだからガキは……
「しょうがねェ、この俺が教えてやるよ、お前の接客業における最大の強みを!!耳の穴かっぽじってよ〜〜く聞くんだなァ!!!」
「は、はい!!」
返事だけは一丁前だなァ!!
だが、その心意気よし!俺も気持ちよく話せるってもんだ!!
「お前の本来の強み………それは素のお前の方が圧倒的に可愛いということだァァァ!!!!」
「─────は、はいぃ!?」
猫かぶってるお前より、素のお前の方が何倍もいいだろうがッ!!
それなのに本来の味の良さを打ち消し、敢えて味の不味くなる方法に着手している……これを滑稽と言わずして何と言おうか!!
そう伝えたかったんだが……何故かは知らんが、俺の言葉を聞いた途端顔を真っ赤に赤らめて思いっきり後退りした。
何だ?特に変なことは言ってない筈だが……
「な、何でそんな恥ずかしいセリフをスラスラと言えるんですかっ!?天然なんですか!?オーナーさんは天然ポジでも狙っているんですかっ!?」
大声で一息もせずに早口で捲くしたてられたせいで、その殆どの言葉は右の耳から左の耳だ。
しかし、そんな恥ずかしいセリフとはなんぞや?もしかして『可愛い』などと褒めたことを言っているのだろうか?
……いいや、あり得ない。コイツにとって『可愛い』なんて言葉は何十、何百、何千回と、耳にタコが付くくらい聞いてきたであろう言葉だ。つまりダウトという意味よ!
ククッ、俺は無駄な虐待はしない主義。効果のない虐待をするほど、惨めで滑稽なことはありはしないからなァ。
「クククッ、ちょうど今のお前の顔を見せてやりたいぐらいだぜ。その素のおちゃらけた性格の方がとても歳相応で可愛らしいと思うがなァ?」
「う、うぅ……!な、何これ?新手の拷問……?」
クククッ……!拷問……言い得て妙だな!
俺とお前、どちらが上か日頃から沁み込ませてやらないとな!
「…………サド」
「ん?おぉ、シロコじゃねェか。ちゃんと接客やってんのか?この前みたいに客のショートケーキの苺を素手で食っちゃいないだろうな?」
「ん、大丈夫。それよりサド、私は?」
「……は?」
「わ・た・し・は?」
うおっ、圧強っ……
つーか、そんな迫られても意味分からんて!
そんなこんなでシロコと取っ組み合いを開始していると、ガラガラと店の扉が開く音がした。
そこには雪のような印象を抱かせるその肌と髪を持ち、全体的にか細く儚い雰囲気を醸し出すガキがひょっこり顔を出していた。
「ククッ、今日も来たのかァ?ナグサ!!」
「うん、来ちゃった」
「出た、泥棒猫」
オイシロコ!!ナグサはちゃんと代金払って食いに来てんだから泥棒じゃねェぞ!!
◇◆
俺たちは外に配置されてある緋毛氈が垂れ下がった縁台に腰をかけている。
誰かしら知り合いが来たらここに座って雑談しているんだが、ナグサはよくこの縁台で俺とお喋りをしているガキの1人だ。オイオイ、暇人なのかマゾなのかどっちなんだ?
「もぐもぐ」
「……お前っていつも葱鮪食うよな。そんなに美味いのか?」
「うん、美味しい。特にサドさんが作ってくれる葱鮪は」
ククッ、俺を褒め称えたところでお前の不遇な現状は何ひとつ変わらねェけどな!だけどいい心映えだ、今日はこの虐待だけで済ませてやる!
「ほれ、口元にタレが付いてるぞ」
「ん……ありがとう」
高1にもなって異性に口元の汚れを指摘される恥辱……!さぞ乙女のプライドをズタズタに引き裂かれたことだろう……!!
「そういやアヤメは?」
アヤメというのはコイツの幼馴染に当たるガキの名だ。コイツを陰と喩えるならアイツは陽と言えるほどに対照的で明るいガキでもある。おかげでいつも喧しいったらありゃしないぜ。
「アヤメは………ほら」
「あぁん?」
食べ終わった串をとある方向に指す。そこには───
「アヤメお姉ちゃん!あそぼあそぼ!」
「ダメ!私が遊ぶの!」
「私が!!」
「お姉ちゃんの“ぶゆーでん”聞かせて!!」
「サドさ〜〜ん!!ナグサ〜〜!!た〜す〜け〜て〜!!」
……なんかガキどもに囲まれてるな。
まぁ、アイツは人気者だってことはこの街に来たときから理解はしていた。なんせTHE・陽って感じだし。ガキどもからも慕われやすいのだろう。
「オラ、呼ばれてんぞナグサ。行ってやれよ」
「サドさんも呼ばれてるよ。助けに行けば?」
俺が人を助ける?ククッ、こりゃあ傑作だ。人を“道具”扱いし、かつ虐待もするような男が人助けとはこれ以上ない矛盾だよなァ!!
「にしても、相変わらずアイツはガキに好かれてんな。まぁ、人から好かれるどころか嫌悪される俺から言わしてみれば、好かれんのもなかなか大変でありゃしないだろうと思うがな!ハーッハッハッハ!!」
「それをサドさんが言う?……でもそうだね。アヤメは私と違って愛嬌いいし、明るいし、みんなに慕われているから……」
そう誇らしげな言葉を吐くわりに、何処か寂しそうで消え入りそうなナグサの表情が目に入る。
………ククッ、また悪い癖が出ていやがるぜ!!
「オイ、ナグサ」
「……?どうした───ッ!?」
俺は黙ってナグサの頭をガシガシと乱雑に撫でてやった。ククッ、その綺麗なお顔が困惑の表情で歪まされてますねェ!
「
「んっ……わ、分かってるって……」
フハハハッ!!この絹のような髪を撫でられた気分はどうよ!?異性の頭を無断で撫でる虐待……古来から伝わる伝統的な虐待ではあるが、どうやら効果は覿面らしい。
武器といえど色んな良さあるように、“
「そういえばサドさん、聞いた?【山の化け狐】の話」
「は?何だそれ。怪談か何かか?」
「まぁ、似たようなものだね」
俺からしてみれば銃を撃たれてもへっちゃらなキヴォトスのガキどもの方が怪談っぽいけどな───なんて言葉は言わず、黙ってナグサの話を聞いた。
曰く、山には化け狐が棲みついたと。
曰く、その狐は暴れ狂う天狗の如く、癇癪を起こすかのように山に生える木々をへし折るとか。
曰く、山に近づいて来た者は漏れなく気絶させられたとか。
「目撃者の1人が意識を途絶える前にかろうじて見えた狐の顔から【山の化け狐】ってか……」
「うん。だから、今度陰陽部の依頼で百花繚乱紛争調停委員会が山を探索することになったの。どうせ化け狐なんかじゃなく、ただの暴れん坊な生徒の仕業だと思うけどね───ってサドさん?聞いてる?」
「───決めた」
「え?」
「俺、そいつに会いに行くわ!」
こんな面白そうなことを何で俺に話さねェ!?俺抜きで何かをやろうだなんてな、俺が支配しているうちは無理だと思え!!
それに話を聞いている限り、随分とじゃじゃ馬なヤツじゃねぇか。
これはあるんじゃねぇか?“悪”の下に付く“道具”としての才能がなァ!!
「つーわけで行ってくる!シロコとシズコに後で伝えておいてくれや!!」
「いや、待っ────行っちゃった……」
「ふ〜、やっと抜け出せた。もうっ、2人揃って見捨てるなんて酷いじゃないか!」
「…………来るのが遅い」
「流石にそれは酷くない!?」
◇◆
幾つものへし折られた木々を潜り抜け、その先には小さく蹲る狐のお面を被った少女がいた。
その上等そうな着物は彼女をただ人ではないと告げており、しかしそれらの気品を全て台無しにするかの如く小さな汚れが至る所に付いていた。
焔の彼は噂との違いに拍子抜けしながらも、和服をたなびかせながらゆったりと近づき、声をかける。
「よぉ〜、俺の名前はサド。よろしくなァ!それで───お前の名前は?」
「…………」
数秒後、彼は爆風によって気絶することになる。
その下手人である狐の少女の名は狐坂ワカモ。
このイカれた都市キヴォトスの中でも最上位にヤバいイカれ方をしている災厄の少女である。
次の虐待に選ばれた地はここ───百鬼夜行です。早速各所で被害が見られますね……。サドよ、お前はなんて恐ろしいヤツなんだ……