汚いガキどもを見つけたので虐待することにした。   作:史上最恐の悪役

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何やら皆さんはサドがどうやって百鬼夜行から脱出するのか気になっている模様。
というか、そもそも何故逃げ出すことが前提なのか、コレガワカラナイ(今までの所業から目を逸らしながら)


第33話

 

 

 

 

 

 今日も今日とて縁台でガキどもの相手をする───ど〜も、虐待者のサドです。

 

 この前はチセたちを相手にしていた俺だが、今日もかなり濃いメンツを相手にしている最中だ。まったく、どうしてキヴォトスにはこうも虐待しがいのあるガキどもがウヨウヨいやがるんだ。

 

 

 「すぅ……すぅ……」

 「…………」

 

 

 ───まぁ、そのガキどものうちの1人は絶賛おねんね中ですけどね!

 

 

 俺は下を向いて嘆息する。そこには俺の膝を枕代わりにして熟睡しているガキ───ツバキの横顔が映る。

 巷では【眠り姫】なんて大層な二つ名で呼ばれているが……敢えて言おう、こんな二つ名で呼ぶヤツらはバカであると。そんな高貴そうなものより【バカ服3号】がお似合いだ。

 

 そしてある意味、コイツはこの百鬼夜行連合学院の中で厄介な部類のガキだと認識している。

 何故か。それはこのバカみてぇな二つ名からも分かる通り、コイツは大抵どんなことがあっても眠れるという最強の武器があるからだァ。

 

 たとえ道の中、森の中、火の中、水の中───そして俺の膝の上であろうとコイツは気付けば熟睡している。つまり、コイツが起床中に受けるべき虐待の数が比較的に少なくなることを意味する。

 

 これは由々しき事態だ。なかなかないシチュエーションに困ったモンだが、実際に起こってるのだからどうしようもねェ。だからわざわざこうして膝を貸して、その幸せそうな横っ面を眺めながら頭を撫でているわけよォ!! 眠っている最中に勝手に身体を触られる虐待……!ククッ、お前の特技が仇となったなァ、ツバキ!!

 

 「オイ、またサドさんが【眠り姫】に膝枕をしているぞ……」

 「うわぁ、本当だ」

 「この男性観キラー!」

 「女誑しー!」

 「虐待(笑)マン!」

 「だーってろバカどもがッ!!誰が好んでガキに膝枕してると思ってるんだ!?えぇオラ!!」

 『こわっ!?』

 

 好き勝手言ってんじゃねェぞバカども!!ツバキがいなかったら今頃お前らは市中を引き摺り回されていただろうな!

 

 「───むにゃ……?おやつの時間……?」

 

 そんなアホとバカが絶叫するように奏でるヤジと戦っていると、下からスッゲー眠そうな声が聞こえると同時にツバキの顔が上がってきた。

 ボーッと周囲を見渡して、最後に俺の顔を見つめる。そして、ふんわりと顔を綻ばせた。

 

 「あ、サドさん……おはよ〜……」

 「ククッ、おはようだぜ!今日も寝ている最中に頭を撫でてやったぞ!どうだ、苦しいかァ!?」

 「ん〜……?そうだったんだ……。だから、よく眠れたのかな〜……」

 

 ククッ、強がりやがって……!

 その微笑みの仮面の下にどれほど苦渋に満ちた顔が広がっているのか……ククッ、想像が捗るぜ!

 

 「………ねぇ、サドさん」

 「なんだ?」

 「もうちょっと膝を借りても、いい……?」

 「ハーッハッハッハ………いや、ちょっと待───ってもう寝てるし……」

 

 あまりにも早い睡眠……俺は見逃しちゃったね……

 

 なるほどなァ、これはもしやコイツなりの反抗なのかもしれん。ならば迎え撃たねばなるまいて!退かすなどチンケな方法は取らん、正面から叩き潰してくれる!!

 

 「サドさん、お待たせしました───って、まだツバキは眠っているのですね。申し訳ありません……流石にご迷惑でしょうし、そろそろ起こさないと……」

 「ククッ、ノープロブレム!俺たちは今、お互いの矜持をかけた闘いをしているのだ。他者の介入は不要ッ!!だから退かさなくていいぞ!」

 「……?ふふっ、そうですか。なら、今日もお言葉に甘えさせていただきます」

 

 そう言って腰の低いピンク色のガキ───ミモリはお淑やかに笑いながら俺の隣にふわりと座る。

 その両手には多種多様なお菓子が載せられたおぼんが持ち上げられていた。

 

 「それで?この虐待王の舌に合う出来のいいお菓子は出来たのかァ?」

 「はい!今までのサドさんから教わったものを全て結集させた出来だと思っています!」

 

 そう、今言った通り、コイツが今日百夜堂の敷地を跨いで来た理由の1つとして、是非お菓子作りにチャレンジさせて欲しいというものであった。

 というのも、コイツは将来立派な大和撫子になりたいという大層な夢を持っている。故に“修行”と称してこれまでたびたび百夜堂の厨房に入っては俺の料理を見たり、教えを乞うてきたのだ。

 今日は初めての実践、どうなるか見ものであったわけだが……うむ、どうやら外見は完璧らしい。

 

 「全て誤差なく、一寸の狂いもなく、レシピ通り作り上げました。まさしく完璧なお菓子です!是非実食してみて下さい!」

 

 ほう……そこまで言うんならスゲー美味しいんだろうな!

 今から食べるのが楽しみだぜ!

 

 「ククッ、それじゃあ遠慮なく───いただきます!」

 

 まずは簡易的な和菓子から摘む。

 さて、その味は如何に……!!

 

 

 「あーーーむ……───────」

 

 

 ……………………………………うむ!

 

 

 「どう、ですか?」

 「あぁ!美味いぜ!」

 「フゥ……ふふっ♪よかったです♪」

 

 ホッと息を吐いて胸を撫で下ろしているところを見るに、余程気合いを入れて作ったらしい。

 ………うぅむ、まぁ、少しだけアドバイスしてやるか。

 

 「だがな、ミモリ。もしかしたらだけどよ───」

 「ミモリ〜!アンタそのお菓子もしかして───ってもう食べちゃった!?」

 「ん、手遅れ」

 

 俺の言葉を遮るように百夜堂からシロコとシズコのライバルコンビがやって来た。

 本来なら即虐待モノの無礼だが、どうやらアッチも急ぎの用事があるようだし、今回だけは見逃してやる!

 

 「オウ、食ったぜ!そう言うお前らも和菓子食いに来たのか?」

 「いや、そういうわけじゃ───ってパクパク食べてる!?だ、大丈夫ですか!?それ多分()()()()()()()()()()()()()()()!?」

 「───え?」

 

 ミモリの素っ頓狂な声が木霊すると共に、まだ俺が手を付けていない和菓子を摘んで食す。

 ……みるみる顔が青くなって来たな。

 

 「うっ……しょっぱいですね……」

 「やっぱり……。接客から厨房に戻って来たら塩だけ置かれていたから、もしやと思って後を追って来たんだけど……」

 

 なるほどなァ、だからシズコの手に塩の瓶があんのか。

 

 「うぅ……す、すみません、サドさん……。私がちゃんと確認していれば……ど、どうしてこんなミスを……。サドさんにも気を遣わせてしまいました……」

 「───いいや?俺は美味いと思ったから美味いと言っただけだぜ」

 「え……?」

 

 まったく、傍若無人かつ傲慢不遜を地で行く俺がお世辞や気を遣うなんて行為をすると本気で思っているのか?

 ククッ、とんだ幻想を抱いてやがる!俺はお世辞なんか言わねェし、相手を気遣うなんてこともするわけがないだろうが。

 

 「俺は思ったことしか口に出さねェ!だから、気遣いだとかそういった優しい人種とは程遠い存在なんだよ、俺という人間はな」

 「で、ですが、砂糖ではなく塩でした……これではとても食べられません……」

 「ハァー、お前は料理の真髄というものを全くもって分かっとらんな」

 「そう、なんでしょうか……」

 

 すっかり意気消沈しやがって……

 いいぜ、教えてやるよ!料理の極意───その真髄をなァ!

 

 「まずお前ら、料理を提供する上で1番大切な要素はなんだと思う?」

 「えっと……味、でしょうか?」

 「見栄え?」

 「それはもう最高の接客とサービスです!そしてまた来たいと思ってもらえるようにしてリピーターの獲得を目指します!」

 「ブッブー!全員大外れ!なんも掠ってねェ!!」

 

 まぁ、ガキだしな。そこら辺は追々先で知っていくのだろう。だが、今からでも知っておくのも損はねェ。

 

 「いいか?料理で大事な要素はたったひとつ、それは────“心”だ」

 『心……?』

 

 そうだとも!大事なのはハート───つまり“心”なのだよ!

 

 「どんなに味が不味くても、見栄えが悪かろうとも、接客が上手くいかなくても、“相手に食べてもらいたい”という気持ちが篭った料理であればどれもが絶品に生まれ変わるのさ!」

 

 俺だっていつもガキどもを考えながら料理を作ってるしなァ。

 虐待精神マシマシの料理で泣かなかったガキはいない───つまり、必ずその心は届くのさ。

 

 「お前の和菓子……確かにしょっぱかった。だが、それ以上に気持ちが篭っていたぜ。俺に食わせようとして頑張って作ったんだろ?それで十分じゃねェか」

 「ッ」

 

 もしかしたら反抗のためにわざとしょっぱくした可能性も捨てきれないが、『それは違うよ』とこの和菓子たちが言っている。味は幾らでも後から修正出来るが、この心の持ち様はそう簡単に得られるもんじゃねェからな。

 

 「だからこの和菓子は美味い。他の誰がなんと言おうとお前の菓子は最高だったぜ。俺が保証してやる!」

 「────」

 

 『それはそれとして虐待はするね!』ということでピンク色の頭に手を置き、そして撫で回す。ククッ、これぞ激励と恥辱の2つの性質を用いる虐待……!まさしく一石二鳥の大技ッ……!!

 

 「───サド、さん……っ」

 

 ミモリは俺の手をその白くて綺麗な頬に持っていき、まるで擦り合わせるように頬を掌に密着させている。

 ククッ、髪は女の命って言うし、そこを穢されるぐらいなら顔面でいいってか?覚悟決まりすぎてんだろ、コイツ……!

 

 「クククッ……!それにしても、俺のような畜生にもここまで気持ちを込められるヤツはそういねェ。ならば、将来お前の手料理を毎日食べられるヤツ()はとんだ幸せ者だろうな!!」

 「────ッ!!」

 

 まぁ、俺は結婚式には絶対呼ばれないだろうけどな!相手も見れずじまいで終わるのだろう!

 だが、ミモリが選ぶ相手だ、きっと俺とは真反対の聖人を地で行く好青年だろうということは予想に難くないぜ!

 

 「ククッ!見ろよ2人とも!コイツの手が全く離れねェ───ってオイ、なんだその顔は」

 「いえ……ただ、『またやってるわこの人……』って思っただけです」

 「ん、とんだ女誑し。いつか背中刺されそう」

 

 オイオイオイ、お前らの目は節穴か?この悪魔も目を背けたくなるような所業を好印象に捉えるどころか女誑しなんて妖艶な言葉がどうやったら出てくるよ。今度全員で眼科行くか?

 

 「さて、そろそろ戻る───」

 「サドさ〜〜ん!!シロコ〜〜!!」

 

 随分と聞き覚えのあるガキの声が遠くから聞こえてくる。

 ドタドタと走ってくる遠くに影は止まることを知らず、このままではこちらに突っ込んでくるのではないかと思うほど───ん?突っ込んでくる?………マズイ、アイツならやりかねないぞ!?

 すぐに避難を───ってツバキは膝上、ミモリには片腕を抑えられてるんだった!?

 

 「おっ、待てッ!!1回止ま───」

 「サ〜〜ド〜〜さ〜〜ん!!会いたかったよ〜〜!!」

 「グハァ!?!?」

 

 その勢いのまま俺の顔に飛び移って来やがった。熱くないし燃えないとはいえ、躊躇いなく火にダイブして来たな、このガキ……

 

 「───え、誰?」

 「ん、あの子はサドとサイクリング中に出会った。名前は勇美カエデ」

 「───ぷハァ!?……ご覧の通り、とんだ暴れ狸だ」

 「む〜〜ッ!!誰が暴れ狸だって〜!!あ、シロコもいた!お久しぶり!!」

 「ん、久々」

 

 このガキ───カエデはシロコとココに向かっている最中に通った田舎で出会ったイタズラ好きのクソガキである。最終的にはとある目標ができたとかなんとかって言って落ち着きを得たが、この分じゃまだまだ理想に届くのは長そうだぜ……

 

 「そうだ!見て見て、サドさん!どう?久々の私は。立派なレディーになって来たでしょ?これでサドさんもメロメロに───」

 「寝言は寝て言え」

 「あうっ……」

 

 そう、コイツが目指しているのが“立派なレディー”という概念なのである。意味分からんって?俺も分からん。

 なんでも、俺をメロメロにさせたいがために目指しているらしい。なるほど、ハニートラップといえばそうなのかもしれない。

 確かに、ハニートラップとは効きやすいと聞くし、凡人相手であればいい罠かもしれんな───俺がお前らの身体など1ミリも興味がないという致命的な部分がなければなァ!

 

 「オイ、お前ら!……カエデと遊んできてもいいぞ」

 「え」

 「……いいの?」

 「あぁ、この浮かれアンポンタンにこの街の恐ろしさを思い知らせてやれ!……そうだぜ、おいミモリ!コイツらと一緒に街の案内を────ってミモリ?聞いてるか?」

 「───ハッ!?す、すみません。少し未来を想像してトリップしてました……」

 「大丈夫かよ」

 

 そういやさっきから手が固定されていたの忘れてたわ。なんかだんだん痺れてきたな。

 

 「えっと……私は何をすれば……?」

 「まぁ、簡単に言うならこのガキどもを街に連れ出してくれ。シズコは大丈夫だろうが、そこの暴れ狸と暴れ狼には気をつけろ。目を話した隙に何をしでかすか分かったもんじゃねェ」

 「暴れ狸じゃないよ!!」

 「ん、心外」

 「ふふっ、承りました。ツバキもそろそろ起こしますか?」

 「あぁ、頼む……って、こんなに騒がしいのにまだコイツ寝てんのかよ……。ハァ、まったく、ミモリがいてくれて助かったぜ!お前だけが頼りだな!」

 「わ、私だけ……ふふっ、ふふふっ♪

 

 ……?なに笑ってんだ、ミモリのヤツ……

 

 

 

 その後、それぞれお小遣いを分け与えて街に行かせた。

 そんで、店も早めに閉めて、()()()()()のために街に出たついでにアイツらの様子を見ようと足を運ばせたら、案の定不良どもに銃撃戦を仕掛けているシロコとカエデを見つけてしまった。

 

 ほんと、騒がしいガキどもばかりで飽きないぜ───ってありゃ?あの電柱にいるのは……

 

 「ククッ、丁度いい」

 

 どうせだしこれからある用事にもアイツに手伝ってもらうとしますか!それに……試したいこともあるしなァ?

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 今日も相変わらず騒がしい百鬼夜行を電柱の頂点から見下ろす。

 

 何故そんなところにいるのかといえば……答えは至極単純、とどのつまり私の趣味に付き合ってもらうための()()の物色をしているためです。

 

 私の趣味といえば破壊と略奪───つまり今日は久しぶりに破壊活動を思う存分楽しむためにこうしてフル装備で街中にいるというわけです。

 嗚呼、本当に久しぶりで御座いますね。何故趣味から久しく離れていたのか……そんなもの考えるまでもないでしょう。全てはかの御仁───サドさんがいたからです。

 ここ最近は彼と一緒にいる時間が多く、それも虐待と称して施しを受けるので、とてもではありませんが趣味に奔る時間がありませんでした。

 かといってそれが大層不満だったかと言われたらそうではなく、むしろ破壊や略奪をしている時とは違った心地よさを感じていました。

 

 「えぇ、しかし、それも今は忘れても構わないでしょう」

 

 今日は何やら用事があるらしく来れないと仰っていたので、今日は思う存分趣味を楽しむことが出来ますね。

 ………もし、サドさんが私の趣味趣向に反対の意を示していたら、恐らくですがほんの少し我慢出来ていたのではないかと考えています。私にとってあの方は唯一の“友”と呼べる方ですから、そんな彼からの頼みとあらば少しぐらいは聞いてあげることもやぶさかではありません。

 しかし同時に、もしあの時私の趣味趣向に否を申し出ていたとするならば、恐らくここまでの関係性は築けなかったと確信を抱いておりますので、結局は私の趣味を止められる人間はいないということですね。

 

 「そうですね………試しに陰陽部に嫌がらせでもしましょうか」

 

 狙いを陰陽部のモノに定める。

 私怨もなければ特に重要な理由もない。あの百花繚乱のモノでもアリでしたが、何となく頭に過ったものが陰陽部だったので。

 

 さて、狙いを定めたことですし、早速大きな火花を散らしに────

 

 

 

 「お〜〜い!ワカモじゃねェか!そこで何してんの?」

 

 「ッ」

 

 

 

 電柱から一気に急降下。音もなく着地した後、一瞬でサドさんとの間合いを詰め、俊足でサドさんを抱え込みながら路地裏に入り込む。

 はぁ、危なかったですわ……

 

 「サ、サドさん……!私、これでも百鬼夜行ではそれなりに名が知れ渡っているのです!だ、だから市中であぁも大声で名前を叫ばれてしまうと……」

 「あっ、そっか。すまん。バレたらマズいんだったな」

 「……いえ、そうではないのです。私のことはお気になさらずに」

 「……?」

 

 えぇ、まぁ、別にバレてしまってもどうということはありませんでしたが。ただ───

 

 「もしサドさんが私と関わりがあることを周知されたら……」

 

 その時はどうなるか分からない───そう口に出そうとして、そっと人差し指を立てて私の口を塞ぐ。

 

 「クククッ、この俺が周囲の評判なんか気にすると思っているのか?」

 「で、ですが……」

 「喧しい!いいか?俺は他人がどう思うかなんて関係ない!俺は俺の信念で突き進むだけよ!だから、機会があればお前のことを公衆の面前で『コイツは俺の“道具”だ』と堂々と紹介してやるッ!覚悟しておけよ!」

 

 ………ふふっ────

 

 「……やはり変わっていますね、サドさんは」

 「ククッ、むしろ虐待者が変人でなければ誰が変人なんだァ?」

 「確かにその通りかもしれません」

 

 まるで世間話をしているかのような温かな雰囲気になりつつある中、サドさんは何かを思い出したように私に顔を向ける。

 

 「そういや何でここにいんだ?」

 「あぁ……今日はサドさんもお忙しいということで、久々に趣味を楽しもうかと」

 

 趣味という単語を耳に入れてピクリと肩を揺らすサドさんは、次第に悪どい含み笑いを喉で鳴らす。

 サドさんには私の趣味趣向についてはお話してありますものね。この態度を見るに、やはり彼は私の趣味趣向についてはどうとも思っていないみたいです。……やはり変わった殿方ですわね。

 

 「そうだぜ……オイ、ワカモ。今日は趣味に奔走しに来たんだよな?ならいいところがあるぜ」

 「え?」

 「ククッ、ついてこい!!」

 

 サドさんに手を引かれ、薄暗い路地裏から光差す大通りへと連れ出される。 

 私を連れ出すその手は何よりも温かく、その背中は何よりも大きかった。

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 最近、ふと思ったことがあるのだ。虐待、それ即ちなんぞや───と。

 

 これは決して道を見失ったからではない。道を極めるために、改めて原点に立ち返るといった神聖な行いなのである。

 

 虐待───それ即ち“悪”。誰もが忌避する行いであり、おおよそ普通の人間ではやる側もやられる側も耐えられない精神的かつ肉体的苦痛を強いる行い。 

 だが、結局は“悪”なる行いの範疇から抜け出せないでいるのだよ、虐待というものは。世間一般的に“悪”であると認知される行いは、人間がする全ての行動の中でも更に分けられ、更にその中から虐待と関連する行いであれば、更に絞られてしまう。

 とどのつまり、()()()()()()()()()()()。このままでは虐待のボキャブラリーが限界を迎えてしまい、いずれ既視感ありまくりの二番煎じの虐待しか出来なくなってしまう。

 

 許せるであろうか?いいや、許されない。

 常に新鮮な気持ちで虐待を受けてもらい、真新しい感情で咽び泣いて欲しいというのが生産者(虐待者)の願いであり喜びなのだ。

 

 そうして、真に未来を憂いる1人の虐待者として何とかならないかと考えて───あることを思いつく。

 

 

 

 ────あっ、()()()()()()()()()()()()()()()()、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「本当にいいんですかい?ニャン天丸さんよォ」

 「うむ、むしろありがたい。ここら一帯の古民家には随分と手をこまねいていたのだからな」

 

 な〜んて商店街のボスのお墨付きとありゃぶち壊しがいもあるだろう。

 

 さて、ワカモを連れてやってきた場所は百鬼夜行の商店街の外れも外れ、今や誰も居なくなった古民家が立ち並ぶ一帯だ。

 百鬼夜行の歴史は古く、その伝統や文化が各所で見られる。この木造建築もその一部ってわけだな。

 ただ、全てが全て数百年前当時の建物として残しておけるわけでもない。既に大抵の建物には色々と梃入れが入っているが……それでも全ての建物までには手が届いておらず、こうやって誰も住まなくなった古民家は残されたままだ。

 木造建築だし崩落の危険性があるもんな。会長としては放って置けないのだろう。これらの家の1つひとつに誰かの()()()が詰まっているんだろうが……ちっとも心が痛まないわ!何故なら虐待者であり悪人だからな!

 

 ちなみに、ぶっ壊した後は商店街を作るみたいだ。人格者である筈のニャン天丸さんが目を$マークにして揚々と話していたぜ。

 

 「と、ところでサド殿?その、そちらの方は……?」

 

 さっきまで威風堂々とヒゲを伸ばしていた姿は何処へやら、急におっかなびっくり腰を低くして尋ねてくる。

 その視線の先には()()()()()()()を着飾ったワカモの姿があった。

 

 「コイツは俺の知り合いだ。解体作業が得意ってのを思い出して連れてきたぜ」

 「そ、そうか……。ふぅ、何故か【災厄の狐】と姿が重なって見えましたが、どうやら儂の見間違いのようじゃ」

 「【災厄の狐】?」

 

 俺が疑問を向けたことを発端に、ニャン天丸さんはまるで怨恨を吐き出すかのように【災厄の狐】について語り出す。

 

 曰く、突如現れてはその場を更地にして帰っていく厄災のような怪物であると。

 曰く、人の負の感情が大好物で人の絶望を喰らうべくやってくる化け物であると。

 曰く、素顔は鬼のように怖い、悪魔のように醜いものであると。

 

 …………………これ、絶対ワカモのことだよな。そっとひょっとこお面のワカモに目を遣っても視線逸らされたし。

 

 「儂もヤツには何度も辛酸を嘗めらされたものでね……大金を叩いて作り上げた商店街が一瞬で更地にされた日のことは今でも夢に見る……!」

 

 どうやら被害者だったらしい。なるほど、だからこうも負のオーラが出せるわけね。

 

 「ふぅ……すまない、少し取り乱した。さて、後は任せても大丈夫か?儂はこの後会議があるのでな」 

 「おう!じゃあな!」

 

 そう言って去って行くニャン天丸さんの背中を見送った後、ここまで1ミリも動かなかったワカモが俺の隣にやって来る。

 

 「お前、やっぱ色んなヤツに恨まれてるな。あと何であんなに恨まれてんのにバレてねェんだよ」

 「それはこのひょっとこお面のおかげですわね。活動する際は狐のお面を被っていますから」

 「あの爺さん眼科行った方がいいんじゃね?」

 

 だから急にひょっとこお面買ってきたのか。お面ひとつでそうまで変わるもんなの?

 

 まぁいい。今はそんなことよりも……!

 

 「さて、話は聞いていたな?ワカモ」

 「はい。ここ一帯の古民家であれば好きに破壊してもよろしいと……」

 

 ククッ、その通り。しかし、そこで何かに気づかないか?

 

 「しかし、今までの趣味活動とはわけが違う……そうだな?」

 「えっと……?」

 「ククッ、分からんか?これは商店街のボスの()()での破壊活動だ。何ならぶっ壊してくれと()()()()()()()よなァ?クククッ……!」

 「……?えぇ、まぁ……」

 

 ムッ、いまいち要領を掴めていないな?

 しょうがない、理解していなければ意味ないし、ここは答えを教えてやろう。

 

 

 

 

 

 「つまりお前は今から()()を積むことになるんだよォ!!!!」

 

 

 

 

 

 虐待の申し子であるこの俺が真剣に考えて行き着いた先───それが善行すらも虐待にしてしまおうという神すらも泡吹いて倒れる所業であった。

 

 誰かに頼まれてその問題を解決する───あぁ、確かに善行だろう。事実ニャン天丸さんは何ら損することなく問題が片付くからハッピーであるに違いない。

 

 しかし、その問題を片付けるのがワカモ(“悪”)であるならばどうなると思う?

 

 俺たち“悪人”にとって善行など吐き気を催す邪悪そのものなのだ。無論、それは同じくこちら(“悪”)サイドのワカモも同類の筈だ。

 もし善行などしようものなら───あぁ!想像しただけで総毛立つ!全身が痒くて痒くて仕方ねェ!俺だってそうなのだ、ならワカモ、テメェもその筈!!

 

 ───ククッ、テメェには味わってもらうぜ?善行という名の地獄をなァ!!!

 

 「善行……良いこと、ですか……」

 「クーックックック!!!そうだ、善行(地獄)だ。何だ、驚きすぎてリアクションも取れねェか?」

 「…………そう、ですわね。私が誰かのために良いことをするなんて、今まで考えたこともありませんでしたから……」

 

 だろうな!俺も虐待のためじゃなかったら善行なんて苦行に更々関わるつもりもなかったからな!だが、これもまた虐待の進化───ひいては未来のため。お前はその尊い犠牲なのだよ、ワカモ。

 

 「さぁ!さっさと破壊活動(善行)でもするんだな!今回ばかりは人目憚らずやって良いからよォ!!」

 「────はい!」

 

 ククッ、なんか心なしか声色明るくなってね?いや、まさかな。コイツが誰かのために良いことをして喜ぶわけがない。

 まぁ確かに?幾ら悪ぶってるガキでも所詮()()()()()なら喜ぶかもしれんが、ワカモは普通のガキ……()()()()()なので喜ぶ筈がない。

 つまり強がりってわけか。ククッ、俺に悟らせぬようひょっとこの下に更に仮面をつけやがったな。素晴らしい反抗だ!その余裕がいつまで続くか楽しみでならねェよ!!

 




【サドの思考回路まとめ】
ワカモは悪人→悪人は悪いことをする→悪いことが大好き→つまり善行が大嫌い→善行は苦行→善行させたら虐待出来んじゃね? QED
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