汚いガキどもを見つけたので虐待することにした。   作:史上最恐の悪役

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サドに目を付けられた憐れな少女たちの運命は如何に……


第34話

 

 

 

 

 

 ───キヴォトスで1番の忍者になりたい。

 

 

 幼い頃から焦がれ続ける夢……それが忍者でした。

 

 

 誰もが驚く神出鬼没さ。

 色とりどりの忍術。

 そして、主君への絶対的な忠義。

 

 

 自身が認めた主にその身を捧げる姿に憧憬を抱いたのです。

 

 

 でも、自分で言うのもなんですが、忍者になりたいという夢は……人から笑われる夢でした。

 

 

 誰もがイズナの夢を聞けば愛想笑いをして、それ以上の言葉をかけてはくれませんでした。

 

 

 分かっています。今どき忍者を目指すような人はいないって。

 でも、諦めきれなかったんです。どれだけ人から笑われても、バカにされても、それでもって……

 

 

 ……辛くなかったと言われたら嘘になります。

 本当は夢を応援して欲しかったですし、少し寂しかったです。イズナにとって忍者とは本気で目指す夢だったから。

 

 

 

 

 

 『忍者を目指すゥ?……ククッ、どうやらこの百鬼夜行には肝の据わったガキがいるようだ』

 

 

 『た、確かに今どき忍者を目指すような人なんていないことは知っていますが……イ、イズナは……!』

 

 

 『確かにイカれた夢かもしれねェ。だが、ガキが見る夢はそれぐらいバカげていた方が丁度いい。随分と目指し甲斐のあるいい夢だ』

 

 

 『───え?』

 

 

 

 『クククッ……!()()()()()()()、立派な忍者によォ!』

 

 

 

 

 

 ───だから、あの時の言葉がどれほど嬉しかったのかなんて、とても言葉では言い表せません。

 

 

 あなたは誰よりもイズナの目を真っ直ぐに見てくれました。

 あなたは誰よりもイズナの話を真剣に聞いてくれました。

 ……あなたはその焔でイズナを明るく照らし出してくれました。

 

 

 ───イズナは“運命”に出会うことができたんです。

 

 

 他の誰かではダメなのです。

 イズナは主殿なら───サド殿だから心の底から仕えたいと思えたのです。

 

 

 喩え主殿が悪に手を染めようとも、イズナは何処までもお供いたします。

 喩え世界中が敵に回っても、イズナだけは主殿の味方です。

 

 

 それがイズナなりの忠義であり、覚悟なのですから────

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 俺は虐待者、この世で最も許されざる行為を行う悪逆非道な人間である。

 俺の名を聞けば虐待という2文字が浮かび上がり、虐待という2文字を聞けば俺を浮かべる───つまり俺は虐待者の代名詞として後世にも名を残すほどの人間であるということは、もはや疑いの余地もないだろう。

 

 さて、そんな俺だが、ふと思ったことがある。

 

 

 

 ────俺専用の部隊が欲しいな〜って。

 

 

 

 傲慢を地で行く男ではあるが、これでも立派で真っ黒な組織の一員。“悪”の組織にいるっつーことは、やはり強力な部下は必要不可欠となってくると思ったわけだ。

 今回の“悪”っぽいガキを“道具”にしようと思ったのもその一環だ。ワカモは順調に“悪”としての才能を開花させつつあるが、どうせならもっと欲しいと、そう思わないか?

 

 そんなことを考えていたらよ、ご都合なことに俺の前にゴロゴロと転がり込んできたわけよ、とってもご都合的なガキどもがなァ?

 虐待神から投げ捨てられたモノはビックリ仰天、なんと忍者を目指すガキども──そのうち1人は半ば巻き込まれた感じだが──であった。

 

 忍者───あぁ、もちろん知っているとも。むしろ男児は幼少の頃に何度も夢見た憧憬だったのではなかろうか?

 何故か男子が見当たらないこの世界で忍者の存在を聞くとは思わなんだが……ククッ、どうやらこれも虐待神のお導きってヤツか?

 忍者部隊……歴史に名を残す“悪”の暗部としてこれ以上ない適役ではないか!?これは手中に収めるしかないぜ!

 

 つーことで、あの忍者3人娘を最高で最低な俺専用の部隊へと育成すべく、ヤツらに虐待的教育を施していくことになった───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「忍者の鉄則その1!!『忍者とは、一度交わした約束は必ず守るもの』!!はい復唱!!」

 『忍者とは一度交わした約束は必ず守るもの!!』

 「excellent!忍者研究部に10点!!」

 「えっ、なにその加点……?」

 「ククッ、何だろうな?」

 

 フハハハッ!!ミチルの困惑めいた声が何と心地良いものか!

 この加点ルールはな……特に意味はない。だが、加点されるとお前らは『何かあるんじゃないか?』と心理的に焦り出す!何もないのに、意味もなく頑張ろうとする!ついでに変な冷や汗を掻くだろう!

 精々無駄な汗を掻くことだなァ。俺は特に何もなかった時に見せるであろうお前らのマヌケ顔を拝むのを楽しみにしているからよォ!

 

 「いいか?お前らはいずれこのキヴォトス史上最強(最凶)の忍者となるのだ」

 

 全ては俺が自由に扱使える戦力兼手軽に虐待できる“道具”としてな!!

 

 「はい!イズナは主殿を守るための盾となり、主殿の敵を薙ぎ倒す矛となります!」

 

 イズナは手をブンブンと上げながら目をキラキラさせて俺を見ている。見ろ、手と一緒に狐の耳もそそり立っておるわ。

 虐待による恐怖で心が折れてしまったのか、それとも洗脳にかかったのかは分からないが、イズナは歴代の“道具”どもと比較しても忠誠心という面だけで見ればぶっちぎりにあるのは間違いない。やる気も歴代トップレベルだ。そういった部分は是非継続してもらいたい、が……

 

 「……イズナよ」

 「はい!主殿!」

 「……お前、昨日の昼ごろ何をしていた?」

 「えっ!?そ、それは主殿の追尾護衛を───じゃなくて!!えっと、その、あっ!映画!映画です!服部にゃん蔵が手掛けた忍者映画を見ていました!!」

 

 言うとりますがな。もう言っちゃっておりますがな。

 だが必死に隠していることを評価して、今の醜態は見逃してやる。

 

 ───なんせ、また別の醜態を掘り起こすことになるんだからなァ?

 

 「そうかそうか、映画か……。いやはや、実はな?昨日街へと買い出しに行ってたわけよ。そこでな〜〜んか視線を感じるな〜と思って後ろを見たら、やけに可愛らしい狐の尻尾と耳が見えたわけよ」

 「か、可愛らしい……!?」

 「見事な黄金色で、可愛らしい耳でな〜、あんな綺麗な尻尾と耳を持つヤツはイズナに違いない。ならば今日にでも褒めてやろうか───なんて思ったわけよ」

 「えへ、えへへへ♪主殿!もっと褒めて───」

 「しかし、どうやら違ったみたいだ。なんせイズナはお家で大人しく映画を見ていたんだからなァ?あ〜あ、滅茶苦茶綺麗な尻尾だったな〜、一体誰なんだろう────」

 「えぇっ!?!?イ、イズナです!!アレはイズナなんです、主殿!!だから褒めてください!!」

 「バカめ!!!罠に引っかかったなイズナァ!!!テメェ、ま〜〜た俺を追跡してたのか!!」

 「あっ!?ひ、ヒドいですよ主殿!?」

 「ヒドいも糸瓜もないわおたんこなす!!いつも言ってるだろうが!!俺を尾行するならなァ…………もっとバレないようにしろってよ!!!」

 「あっ、気にするところそこなんですね……」

 「まぁ、それがサド殿らしいというか何というか……」

 

 それもそうだろう!!なんせ───

 

 「お前らにはより完璧な忍者を求めているんだ!当然要求するレベルは雲のように高いんだよ!!」

 

 そう言い放つとガキどもは水面に石が投げ入れられたように静寂が波紋状に広がっていった。

 心なしかいつも明るい色を彩る縁台もしんみりしている。ククッ、こりゃあガキどもにはキツいプレッシャーだったか?まぁ、これぐらいの気概でやってもらわねば困る。

 

 「……サド殿はいつも応援してくれるよね。私たちの夢を笑わずに、こうやって講習も開いてくれるし……」

 

 ミチルはそう言い切って、不安と期待が混ざったような瞳に俺を映す。

 

 「どうしてサド殿は私たちを応援してくれるの?どうして私たちの夢を笑わずに向き合ってくれるの?」

 

 どうして、か。応援する理由は言わずもがな、俺の“道具”として恥じぬ忍者部隊となってもらいたいから。

 ならば夢の話か。ふむ、これも実に簡単な話だ。

 

 「前もって言っておくが、お前らの夢は随分とバカげてるぞ。それも相当な」

 「うっ!?ちょ、直接言われると心が……」

 「……だが、()()()()()()()()。目指し甲斐のあるいい夢だってなァ?理由はそんなんで充分だろ」

 

 ガキはバカげた夢を見ているぐらいが丁度いい───それは何ら変わらない事実だろう。

 俺は決してコイツらを笑わねェ。どんな夢だろうと本気で目指している人間の前で笑うヤツは(虐待者)以下のカスだ。俺は虐待者だが、そこまで堕ちきったつもりはねェ。

 

 「だからお前らに力添えをしようと思ったわけよ───この極悪人がな!!

 

 まぁ、夢を応援するヤツがこんなヤツ(虐待者)だったらプラマイゼロどころかマイナス突き抜けちゃうんですけどね!夢を笑うヤツはカスだが、どのみち虐待者もカスなのは変わらんだろうて!

 それに、今もお前らは知らず知らずのうちに俺に背中を押され続け、ちゃんと地獄の沼に片足どころか下半身が埋まってしまっているのだよ……将来、俺のために働かされる“道具”になるとも気づかずに!!

 夢を利用されて誇りをも貶す所業……!!これを虐待と言わずして何というか!!

 

 「………イズナの気持ち、よく分かったかも」

 「わ、私も、です……」

 「えへへ♪イズナの主殿は世界一なんです!!」

 

 ククッ、したくもないヨイショなんかしやがって……!!一丁前に生意気になったもんだなァ、オイ!!ハーッハッハッハ!!!

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 さて、今日も今日とて罪を重ねて行くことにしますかァ!

 

 「テメェら!武器は持ったなァ!?」

 『お〜!』

 

 俺は雄叫びにも近い号令を掛けた後、自身の装備品を天に掲げるように上へと突き出す。

 ガキどもも俺の真似をするようにそれぞれの支給品を上に掲げ、覚悟が決まりきった顔で返答する。

 

 ククッ、素晴らしい表情だ。今から自身がやらされるものを理解していながらも、もはやどうすることも出来ないことを悟って腹を括った顔……

 認めよう!今のお前らは紛れもなく戦士だッ!!

 

 

 

 

 「では───この街一角のゴミどもを駆逐せよーッ!!!!

 

 

 

 

 指揮棒をタクトのように振るう。その先は今も平和ボケな表情を隠そうともせずノソノソと歩き回る住民どもがいる百鬼夜行のとある商店街。

 

 さぁ、今からこの街に蔓延るゴミどもを駆除すんだよ!!!

 

 「オラァァァァァァ!!!」

 

 まず最初に俺が武器を使用する。指揮官とは言葉で軍を統一するものだが、まず自ら先陣を切らねば小隊もついてこない。故に俺直々に剣を振るってやる!

 

 ククッ、喰らえよゴミども!俺が裁きを下してやるからよォォォォ!!

 

 目標を捉え、武器を構える。そして─────

 

 

 

 

 「これは燃えるゴミィィィィィ!!!!」

 

 

 

 

 ()()()で捕らえたゴミをそのまま燃えるゴミに突っ込んだ。ククッ、何とも呆気ない最期だったな。ザマァないぜ。

 

 

 「燃えるゴミと燃えないゴミはちゃんと分けるように!特に缶類は気をつけろ!ヤツらには最後の足掻きである“飲み残し”というものがあるからな!分かったか!?」

 

 『は〜〜い!』

 

 

 さぁて!まずはイカれたメンバーを紹介するぜ!

 

 

 1番。コイツほど肝が据わってるヤツはいないだろう!アビドスの端っこで拾い上げた問題児、砂狼シロコ!このメンバーの中では1番“道具”歴の長いガキだ!何故か最近図々しさが倍々になっているような気がするぞ!

 

 2番。可愛い面して結構腹黒か!?百鬼夜行随一のビジネス変面、河和シズコ!最近の趣味は看板娘パンチを特訓すること!何やら『やり過ぎだと判断した時に使いますね♪』とのこと!よく分からん!

 

 3番。いずれはキヴォトス最強の忍者へ!夢に猛進する運動神経オバケ、久田イズナ!呼べば1秒もかからずに目の前に現れるぞ!原理は知らん!『主殿のお側にいつもいますから!』というのが本人談だ!

 

 4番。忍者の知識においてコイツの右に出る者はいない!超忍者オタク、千鳥ミチル!最近Youtube始めたらしいが全然伸びないらしいぞ!仕方ないから毎動画見てやってるぜ!

 

 5番。色々と不憫属性の質を持つガキ!忍者街道を歩き始めた期待のルーキー、大野ツクヨ!やたらデカいことを自慢───もとい自嘲しながら話すが、約189cmの俺からしてみればまだまだチビだ!出直してこい!

 

 6番。コイツが今日の主役!素晴らしい“悪”の才能を持つ荒削りな原石!狂乱の狐、狐坂ワカモ!最近は狐のお面の他にひょっとこも集めているらしいぞ!

 

 

 以上、この6名で商店街の()()()()()()()()()()()をしているぜ!

 

 ボランティア……なんて鳥肌が聳り立つ単語なんだ……

 ボランティアほど善意を証明出来る行動はないだろう。なんせお金も貰わず、損得もなく、精々あるのは住民からの労いの言葉だけ。

 

 だが、案外ボランティアって虐待向きなんじゃないかって思ったわけよ。

 悪人側から見たら言わずがもがな、その行動自体がアレルギー発症並の苦行であるため。

 また善人、または中間の人間からしても、ボランティアを自身からやるならともかく誰かに強制的に参加させられた場合でも気持ちよく活動出来るか?いいや、出来ないに決まっている。

 

 つまり、今回の虐待は一石二鳥の虐待大判振舞いキャンペーンってわけだ。あぁ、こんな悍ましいことを考えられる自分に惚れ惚れしちまうよ……

 

 「サドさん、あの子が……」

 

 シズコがひょっとこお面のワカモを見ながら、何やら意味深に問いかけてくる。忍者のガキどもはひょっとこお面のアイツを見ても特に何も言い出しはしなかったが、流石にシズコは察したか。

 ………つーか察するか。だってシロコとワカモがバチバチに睨み利かせてるし。

 

 「おう、お察しの通りアイツがワカモだ」

 「…………そうですか」

 

 感情の分からない瞳をワカモに向けるシズコを見て………俺は何処となく危機感を煽られた。

 思い出してくれ、シロコとワカモが初対面したあの惨劇を……。また土台から全てひっくり返られたらたまったもんじゃねェよな……!

 

 「な、なぁシズコ?お前も変なこと考えているわけじゃねェよな?いきなり銃ぶっ放すとかしないよな?」

 「私のこと何だと思っているんですか!?そんなことしませんよ!」

 

 『た、確かに思うところがないわけではありませんが……』と、何処か迷いにも似た言葉が続く────が。

 

 

 

 「でも、それはもういいんです。だって言いたかったことを全部シロコが言ってくれたみたいですし。だからもうこれ以上この話を掘り返そうとは思っていないんです」

 

 

 

 そう言い切ったコイツの顔は何処か割り切ったような表情で、いつになく凛とした横顔だった。

 ……ククッ、まぁコイツがそう言うんなら信じてやるのが“主人”である俺の役目だよな!

 

 「やっぱ強ェガキだな、お前は!是非ともその屈強な心を忘れずに持っといてくれや」

 「ちょっ!?な、何で頭撫でるんです!?いつもいつもっ………少しはこっちの気持ちも考えて下さい!!」

 「クーックックック!!俺はそうやって嫌がる表情を見たいがためにやっているんだよなァ〜」

 「えっと……嫌がっているっていうか……むしろその逆なんですけど……

 

 急にモニョモニョ喋りやがって……!全然聞こえねェわボケナス!!

 

 「あーっ!?シズコ殿だけズルいです!イズナもなでなでされたいんですよ!?」

 「ん、私にもすべき」

 

 さて、シズコを虐待をしていたのはいいが、何故か周りのガキどもから『ブーブー』とブーイングの合唱を喰らっている。

 ククッ、もしやシズコだけに負担をかけぬよう『私たちにもやれ……!』という庇い合いでも発生したか?

 あ〜、なんて素晴らしい関係なのだろう。思わず涙がちょちょぎれそうだ────まぁ、それは愉悦の極みからくる腹筋大爆笑って意味だけどな!

 

 ………しかし、まだコイツら文句が出てきやがる。どうしたらここまで文句の語句が出てくるのか分からん程に出てくる。お前らはいつまで『ブーブー』鳴いてんだ?いつから豚になったんだテメェらは。

 唯一黙って静観しているのはワカモぐらいだ。お前ら全員ワカモを見習えってんだ!

 

 「喧しいィィィィィ!!!そんなモン後で幾らでもやったるわボケナスども!!つーか、ちゃんとゴミを集めてきたヤツらには漏れなく対価を用意するぜ!忍者グッズも好みの銃も何でもござれだ!」

 「えっ本当!?」

 

 ふっ、やはりガキは御しやすくて便利だな。欲しいものがあれば損得を度外視して魚みたいに喰らい付いてくる様はもはや滑稽よ。

 

 「よ〜〜し、では1時間後ここに集合な!同じ箇所に集まるんじゃねェぞ!それじゃあ意味がないからな!」

 

 こうやって前もって釘を刺しておくことで、ウチの問題児であるシロコの初動を防ぐことに成功出来た。見ろ、あの超不満気な顔。絶対付いてくる気満々だったろ。

 ククッ、まぁ、たまには見に行ってやるか。もちろん監視の意味合いを込めてだけどな〜!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ククッ、お次は…………お?」

 

 ゴミ集めも順調に進み、いよいよ終盤に差し掛かってきた頃、俺の視線の先にワカモがせっせとゴミを袋に入れている姿があった。後ろから声を掛けよう───そう思ったが、咄嗟に電柱に隠れて様子を見ることにした。

 何故なら、突如として犬のお爺ちゃんがワカモに話しかけたからだ。

 

 「ゴミ拾いとは感心するの〜、うら若きお嬢さんや」

 「い、いえ、これはとある人から言われてやっているだけで……。なので褒められるようなことは何も……」

 「それでもじゃよ。儂にとってこの街は生まれ育った場所での、至る所に()()()が詰まっとるんじゃ。こんな歳になっても鮮明に思い出せる程の出来事が……想いがこの街に染み込んでいるんじゃ」

 「…………」

 「もはや何も出来ぬ老耄じゃが……感謝を告げる口はまだ持ち合わせているつもりじゃ。だからどうか言わせておくれ。儂の思い出の街を綺麗にしてくれて、どうもありがとう」

 

 お爺ちゃんはくしゃりと笑い、背中を丸めたまま人混みの中に消えて行ってしまった。

 

 ────ククッ、どうやら()()()()タイミングで目撃出来たみたいだな。

 

 「よう、ワカモ!」

 「ひゃっ!?サ、サドさん……?」

 

 何故か棒立ちのワカモに後ろから声をかけてやれば、面白い程にオーバーリアクションなワカモを見れることが出来た。 

 ククッ、お前ともあろう者が背後から迫り来る敵に気付かないとは……今の出来事は余程()()()と見える。

 

 「ククッ、今の一部始終ぜ〜〜んぶ見てたぜ!」

 「ッ、いらしたのなら声をかけて下されば良かったのに……」

 「いや〜、最初はそうしようと思ったんだが丁度よく面白いイベントが発生していたからなァ。それで……どうだったよ?()()()()()()()()っていうのはよォ……!!」

 

 これがこのボランティア活動を開催した理由……!つまり───()()()()()()()()()()()()ということだァァァァぁ!

 

 通常のガキであれば感謝されれば照れるか素直に受け取るだろう。しかし、このワカモは普通のガキであらず。俺と同じく純粋な“悪”としてこの世に生まれ落ちた存在!故に感謝とはコイツにとって害でしかなく、もはやアレルギーと言っても過言ではないかもしれない。

 良いことをするだけでも限界が近かっただろうに、トドメに感謝もされてしまうとありゃあ…………そりゃあもう全身鳥肌不可避だろう……!蕁麻疹も出来ちゃうかもね!

 

 「…………よく分からないんです」

 

 しかし、俺の期待とは裏腹にそう呟くワカモのリアクションは落ち着いており、声は少し揺らいでいるように見えた。

 

 「私はこれまで生きてきた中で誰かから感謝されたことなどありませんでした。ですから、どう受け取っていいのかも分からないほどに無頓着で……。それに、先程あの方が仰っていた“思い出”というものも抱いたことがありません。……あの人が何を思って、どうして感謝したのか……何ひとつ分からなかったんです」

 

 「人として当たり前にあるものが私にはない……その違和感がどうしても拭えなくて、脳裡に張り付いているのです……」

 

 おぉ、まるで迷える憐れな仔羊だよ、お前は。俺的には今のお前のセリフから『ちゃんと純粋悪でよかった……!』と心底安心しているんだが、今の会話でほんの少し迷いが生じてしまったようだ。

 ククッ、迷える子供を導くのが“大人”の役目。故にお前を導いてやろう─────虐待者であるこの俺がなッ!!

 

 「───なら、これから思い出を作っていけばいい」

 「え?」

 

 恐怖というものは未知から来るとはよく言われるが、むしろ知っているからこそ恐怖するものもあると俺は思っている。

 結局覚悟の準備が出来るか出来ないかの違いだけ。結局覚悟が決まっていても怖いものは怖いものだ。むしろ先を知っていれば知っているだけ、その恐怖も倍増するものがあることも“大人”であれば理解出来るのではないのだろうか。

 

 故に、俺はコイツの背中を地獄へと押してやるのさ────

 

 

 

 「少なくとも今、お前は誰かから初めて感謝を受けた。それは紛れもない事実だ。ただ、その現実を目の当たりにして少し困惑しているだけにすぎん」

 

 

 

 「───故に識るのだ、ワカモよ。思い出とは何か、感謝とは何か……それらを全て識って初めて、お前はようやくあの爺さんが言わんとしていたことが理解出来る」

 

 

 

 それと同時に感謝を受けることに対する苦痛もなッ!!

 

 「…………サドさんはそのお手伝いをして下さるのですか?」

 「オフコース!!俺でよければ幾らでも手伝ってやるぜェ?」

 

 虐待のためなら何だってやってやんよ!

 

 「───ふふっ、なら近いうちにお願いしますね?」

 「おう!任せておけ!」

 

 ククッ、少しだけ雰囲気が晴れたか?勝手に迷われて間違って善性の道へと辿られたら堪ったモンじゃねェからな、アフターケアはしっかりしておかないとな!

 

 さて、そろそろ時間か。丁度良いしさっさと戻るとしますか。それにしても、アイツらはどれくらいゴミを集めれたんだろうな〜。何やかんや全員真面目だし、きっと面倒くさくなりながらもせっせと集めていたに違いない。

 まぁ、そのための飴としてご褒美を用意してあるんだがな〜。さてさて、何を買ってやりますか───

 

 「サドさ〜〜ん!大変大変!!」

 

 そんなことを考えていると、道奥からシズコがバタバタと走ってくるではありませんか。

 大変などと言っているが、所詮山に穴が開くよりは大したことではないだろう。さっさと解決して────

 

 

 

 

 

 「シロコがコンビニのゴミ箱を撃ち抜いてるって!!」

 

 

 「何やってんだアイツはァァァァァァ!!!!!」

 

 

 

 

 

 その後、シロコに事情聴取をしたところ『ん、大量のゴミを集めたらサドに褒められると思った』と全く反省した顔をせず、むしろドヤ顔で供述していた。

 無論そのまま済ますわけもなく、コイツには“1週間俺の布団に潜るの禁止刑”に処してやった。当然だよなァ?

 




街を綺麗にすることで感謝されるという虐待……!お前はそれいいのか、サド!!
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