汚いガキどもを見つけたので虐待することにした。   作:史上最恐の悪役

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おや?あそこに可愛らしい少女が1人……
彼女は一体……?


第35話

 

 

 

 

 

 人の行き通う足音は終ぞ止まず。

 人の朗朗たる声は辺りを木霊する。

 

 私にとってはただの騒音でも、それがより一層この百鬼夜行()の街道を盛況なものにしているのだろう。

 

 ……いいえ、今は有象無象に気にしている暇ではありません。あの方が来られる瞬間まで身なりを確認し続けなければ。

 いつも持参している手鏡を通して見える私は、まさしく()()()()の恰好でした。

 

 花柄を基調とした綺羅びやかな着物。

 雪除け用と思い持参したシンプルなデザインの和傘。

 ───そして、外に晒すその相好(お顔)

 

 これが私生活での姿───日常に()()()()ための衣装です。

 

 「約束の時間まであと15分……」

 

 私が特定の人と約束事を交わすとは───なんて思われるかもしれませんが、無論、待ち人とはサドさんのことです。今日はサドさんと商店街に赴く約束───もとい、私の()()()()を叶えて下さるとのことでしたので、こうしてお待ちしているのです。

 

 ……思い出すのはあのご老人との会話。 

 私はかのご老人のお話に1ミリたりとも共感を抱くことが出来なかった。思い出など抱いたことのない私には無理のない話ではありますが、それでも────

 

 

 

 

 

 『───識るのだ、ワカモよ』

 

 

 

 

 

 ───私は識りたいと()()()

 今にも消え果てそうなご老人の瞳があんなにも煌々と輝かせる程のモノとは一体どんなものなのか見てみたくなった。

 誰もが持つ“思い出”という記憶の一部に、一体どれほどの魅力が帯びているのか感じてみたくなった。

 

 そして、もしそれら(思い出)をサドさんと共有出来れば……それは一体どれほど素晴らしいものなのかと夢を見た。

 私の頭に、記憶に、細胞に、経験に、過去の素晴らしき一端に彼が映り込んでいることは……何故だかとても嬉しく思える。

 

 「……そういえば、サドさんは私の私服をご覧になられるのは初めてですね」

 

 いつも正装でお会いしていますから、こういった機会は今日が初ということ。ふふっ、この衣装を見てどう思って下さるでしょうか。綺麗だと……そう仰って頂けるのでしょうか。

 そんな不安と仄かな期待が混ざり合う心情を抱きながら、そっと目を閉じて────

 

 「───あら?初めて?」

 

 何の気もなく呟いた言葉が妙に引っ掛かってしまった。

 初めてということは、サドさんにとっては()()の私をご覧になられるということ。つまり、今はまだ()()なのです。

 ……もしや、もしかすればですが────

 

 「……サドさん、もしや私の姿を見つけられない可能性がお有りで……?」

 

 ……完全に失念していました。

 そうです、今の私は彼にとってもはや別人も同然。今までの露出の多い服装から一転、首元から足首までピッシリ覆い隠された和服へと衣替え。素顔はこれまで晒したことなどなく、普段着けている狐のお面やひょっとこのお面も今は手持ち無沙汰。

 このような様でどうして普段の格好から私を特定しろだなんて無茶振りが出来ましょうか。

 

 せめて和傘だけでも……しかし、それでは今もなお鬱陶しい程に降っている雪が頭に被さって髪型が崩れてしまいますね……

 いえ、それも必要経費として割り切るしか。私の不手際でサドさんを困らせてしまう可能性があるのですから、そうまで思い至ってどうして躊躇うことが出来ましょうか。

 

 そんな意気込みを抱えて、次の瞬間には和傘を畳み────

 

 

 

 「ワカモ!お前早いな!まだ約束の時間まで10分あるぞ!」

 

 

 

 ここ最近で聞き馴染んだ声が背筋を這った瞬間、トントンと肩を叩かれる。

 後ろを振り向けば和服から執事服に衣装替わりをしている見慣れないサドさんの姿があった。

 

 「サド、さん?」

 「ん?あぁ、そうだが?」

 

 何てことのないように、まるでここにいるのが当然かのようにその場に立ち、私を見るサドさんに驚嘆の念を隠せない。

 僭越ながら、私の変装はかなりのものだと自負している。それはこれまで一度もバレてこなかった事実が如実に表していますし、顔が割れていたらこうまで堂々と街道を歩ける筈もない。

 しかも、サドさんは私服どころか顔すらも初見である筈。どうして私のことが分かったのか、失礼ながらそんな疑問が私の胸中を占めた。

 

 「サ、サドさん?何故私を見つけ出すことが……」

 「あぁ?そりゃあお前……己が所有する“道具”を認識出来ないわけがねェだろうが!つまりお前がどんな姿でいようとどんな顔でいようともな、俺には全て筒抜けってわけよ!分かったか!!」

 「ッ」

 

 言語道断と豪語するように言い放つサドさん。

 そして、次の瞬間には私の姿形を確認するように眺め───ひとつ頷く。

 

 「ほ〜〜ん、()()()()()じゃねェか。変な服でも着てきたら笑ってやろうかと思ったが……ケッ、ムカつくほど()()だな!」

 「〜〜〜ッ!!!」

 「だがいい、むしろ唆るじゃねェか。その綺麗な服と穢れなき眼が今日の夕方ごろには濁りきったものになっていると思うと笑いが止まらねェよ!」

 

 『覚悟しろよ!』と、そう笑いながら私の手を握り歩を進める。しかし、その歩幅は決して無理やり強引なものではなく、私に合わせるかのような歩調で。

 

 「………温かいで御座いますね、サドさん」

 「ククッ、流石は俺の見込んだ“道具”だ。手を繋がれているというのにこの余裕とはな!」

 

 雪は留まることなく降り続けている。

 だというのに、どうしようもなく温かい。

 

 そのことを自覚しながら、私はサドさんと共に街の中へ一歩踏み出した。

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 よう!ワカモのお気に入りであろう服装を褒めることで()()、あまつさえ無断で手を握るという、初っ端から虐待フルスロットをかましている俺の名はサド!いずれ虐待王になる男だ!!

 

 今日は待ちに待った【百鬼夜行お出かけツアーwithワカモ】をお送りしちゃいま〜す!

 

 ククッ、今日という日をどれだけ待ち侘びたか……!俺は今日という日をお前と迎えられて嬉しいよ、ワカモ!今日は記念日だァ!!

 

 見ろよ、ワカモ。この平和ボケした街をよォ。

 俺は“悪”は“悪”でも別ベクトルの“悪”だから、ここの市民が楽し気に暮らしていても何とも思わないが……お前は違うだろう?

 お前の趣味は破壊と略奪……ならば、お前は今すぐにでもコイツらの笑顔を奪い取ってやりたい気持ちで胸がいっぱいだろう!もはやアレルギーが発生して身体中を掻きむしりたくなっているかもなァ!!

 

 ───だからこそ、ここでお預けされたらどうなるだろうなァ?

 

 「ワカモ、今日は破壊活動はしちゃならねェ。分かったな?」

 「え?しょ、承知致しました……」

 

 ハーッハッハッハ!!言ってしまった!!『今日は趣味趣向に走るな』と、『今日は禁欲だ』と、そう言ってしまったぞ!!

 コイツにとってそれは目の前にありつけるご馳走に待てをされているようなもの……つまり、ただただ周囲の笑顔を見るだけの辛いお出かけとなってしまうってことよ!

 

 「ククッ、ワカモ!今日は楽しもうな!」

 「ッ───はい!!」

 

 ハーッハッハッハ!!もはや笑うことしかできないってかァ!?俺の皮肉にまるで花が咲き誇るような笑顔を返してきやがったぞ!

 素晴らしい。ほんと、今まで見た中で最高の笑顔だぜ、ワカモォ!!まぁ、お前の顔は今日初めて見たがな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「サドさん、見て下さいませ!この綿飴……すごく美味しいですわ!」

 「何味だァ?……なるほど、パイナップル味とはまた珍味なモノを作っていやがるな……。ククッ、俺も買うぜ!」

 「ふふっ、是非に!」

 

 

 

 

 

 

 

 「見ろ!これがヨーヨーを極めし者が扱える業───その名も【ヨーヨー乱舞】だッ!!」

 「す、スゴイですっ……!!ヨーヨーが速すぎて、残像がまるでサドさんの衣装を形取っているようにも見えます……!」

 「ククッ、俺は田舎では【お祭り名人】(自称)と謳われていたからなァ!!これぐらい造作もないことよ!」

 「私もやってみてもよろしいでしょうか?」

 「勿論だぜ!わんさかやりな!!」

 

 

 

 

 

 

 

 「しかし、今日は一段と冷えるな!ワカモは大丈夫か?」

 「そうですね、少しだけ悴んできたかもしれません」

 「なにィ!?そういうことは早く言うんだよ、バカ!!」

 「いえ、それほどのことでは………ってサドさん?私の手を見て何を───ひゃうっ!?」

 「ククッ、粗治療だがやむを得ねェな!俺の手で直接温めてやる!勝手に手を握られる虐待を受けちまっているが、それも全てお前のミスが呼び起こしたものだからなッ!!」

 「───これではまるでご褒美です……」

 「あぁん?何か言ったか?」

 「い、いえ!何も!」

 

 

 

 

 「申し訳ありません、サドさん……。このような小休憩を頂いてしまい……」

 「ククッ、気にするな。俺はお前に万全の状態でこの商店街を遊び尽くしてもらいたい(虐待を受けてもらいたい)からなァ?これはいわば戦略的休憩よな!!」

 「ふふっ、左様で御座いますか」

 「それにしても見ろよ、この和風庭園をよォ!!すごく綺麗だな!」

 「…………えぇ、とても。こんな場所にこうも深雪の季節を引き立てる庭園があったのですね……」

 「ククッ、これが風情というやつだな!」

 

 

 

 

 

 

 

 「…………」

 「サドさん?何をご覧になられているのですか?」

 「いや!?何もねェぞ!?これっぽっちも怪しいことなんかしてねェからな!?そ、それよりもうお土産コーナーはいいのか!?」

 「え、えぇ、確かにお目当ての物は購入しましたが……」

 「あぁ?もう買ってたのか。ならさっさとズラかるぞ!」

 「あっ……!?お、お待ち下さい、サドさん!?」

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 夕焼けはすっかり鳴りを潜め、百鬼夜行の中でも随一のフォトスポットにて、サドさんと並んで雪夜に輝く神木を眺めながら今日のことを、そしてこれまでのことを振り返っていた。

 

 本来、私にとって“物”────いえ、“物”に限らず、感情も、費やしてきた時間も、努力も、人も。それらはただ壊し、そして奪い取るだけの存在価値でしかありませんでした。

 必要であれば残し、そうでなければ自身を満たすための贄に。そこには何ら思い入れはなく、ただ壊して愉悦に浸るのが“(狐坂ワカモ)”という人間の生き方でした。

 

 これまで壊してきたモノを思い出そうとしても、きっと何も思い出せはしないでしょう。

 何故なら、それらには一切の思い入れがないから。私がそれに何か心を動かされたことなど一度もなかったから。

 

 ですが、今日という日を振り返って思うことは─────

 

 

 「───サドさん。このワカモ、今日ほど()()()()()()はありません」

 

 「(腹が立ちすぎて『満たされた』と言ったのか?)クククッ、そうかそうか……」

 

 

 どうしようもなく、満たされているのです。

 

 何かを壊してきたときとはまた違う、高揚感にも似た胸の高鳴りが今もなお私の中で鳴り響いているのです。

 こんな高台から望む街並みの中で、今日訪れた場所を見るだけで、サドさんと共に培った思い出が鮮明に思い出せるのです。

 

 今日体験したばかりだからすぐに思い出せるだけ………そんな単純な話ではないことは分かっています。

 きっと、これからもずっと、その場所を見るだけで()()()()()()を鮮明に思い出せるだろうという確信。そして、生涯に渡って私を構成する大切な一部分になっていくだろうということは想像に難くない。

 

 

 

 

 

 『────至る所に()()()が詰まっとるんじゃ。こんな歳になっても鮮明に思い出せる程の出来事が……想いがこの街に染み込んでいるんじゃ』

 

 

 

 

 

 …………あのご老人が仰ったことが、今なら理解出来ると思えます。

 

 「───あ〜、そういやワカモよ。お前にこれを贈ろうと思ってだな……」

 「……?これは……」

 

 サドさんがぶっきらぼうに懐から手に取り出したのは何の変哲もない緋色の紐。

 まるでサドさんのお顔の色のようだと無粋にも考えてしまうその紐は、しかしそう思えば思うほどにこの紐が太陽のように輝いて見えてくるのです。

 

 「いや〜、お前って結構髪長いだろ?今みたいに髪下ろしてるのもいいと思うが、ポニーテールにして纏めてもいいんじゃねェかって思ったわけよ」

 「…………」

 「ククッ、怒りのあまり言葉にすることも出来ねェか……!それもそうだろう、何故なら女の子にとって髪は命という相場が決まってんだからなァ!!そんな命にも等しい髪にあれこれ言われたらそりゃあ腹も立つだろう……!」

 

 サドさんの言葉が聞こえていないわけではない。

 もちろんサドさんの言動に怒りを抱いているなど、そんな空想は天地がひっくり返っても起こり得ません。

 

 では、何故応えられずにいるのか。

 それは本当に至極真っ当な感情でありながら、しかし生きてきた中で初めての感情に満たされていたから。

 

 

 

 

 

 ───サドさんが私のことを考えて贈ってくださった。

 

 

 

 

 

 その事実が、ただ本当に、どうしようもなく嬉しくて。

 今声を出してしまえば、思わず涙声が出てきてしまうと思って、ただ口を開けずにいるだけなのです。

 

 「クーックックック!!今日は気分がいい。だから特別に俺が直々に髪を編んでやろう」

 「えっ……よ、よろしいのですか……?」

 「ククッ、当たり前だろうが!」

 

 自信満々といった風に紐を受け取り、私の背後に立って髪を扱う手つきは、普段の勇ましい言動からは想像も出来ないほどに優しいもので。

 あぁ、どうしましょう。胸の高鳴りが抑えられない。私の鼓動が背中を伝い、サドさんにまで伝わってしまわないか心配な程に。

 

 「出来たぜェ〜!!ハンッ、よく似合ってんじゃないの!やはり俺の慧眼にかなった通りだったぜ」

 

 鏡を取り出して私に見せる───が、私自身がどう思おうと最早どうでも良かった。無論、誰からどう思われても同じです。

 

 

 

 

 

 ───ただ、()()()()さえ『似合っている』と、そう仰って下さるのであれば。

 

 

 

 

 

 「───()()()……このワカモ、この紐を生涯……いえ、死んでも、何度生まれ変わろうとも、この紐を肌身離さず大切にしていくことをここに誓います」

 「クククッ、流石にそこまで保たんだろう!お前も面白いジョークを言えるんだな!ハーッハッハッハ!!」

 

 冗談なんかではありませんのに……

 

 「じゃあ帰ろうぜ!」

 「はい!」

 

 そう言って歩き出すサド様に着いて行くように歩き出す────そして、少し歩いてから再び先ほどまでいた高台を見遣った。

 

 「……ここも思い出の場所、ですね」

 「オイ、ワカモ!何やってんだ!忘れ物か?」

 「ふふっ、何でも御座いませんわ♡」

 

 

 

 

 壊したい場所ではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 どんなに廃れようとも()()()()()()()()()()()()

 人生を彩る中で基盤となる()()()()()

 

 

 

 ───人はそれを“()()()”と呼ぶのでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふむ────相も変わらぬ男よの、其方は」

 

 

 そこはまさしく秘境とも呼べる空間であった。理想郷ともいうべき楽園があった。

 緑が栄え、空気は澄み渡り、生と死の概念も曖昧な場所───それがソコであった。

 

 そんな誰もが足を踏み入れることの出来ない小さな聖域に、たった1人佇む小さな少女。

 

 

 その者はただの傍観者だ。

 何者にも触れられぬ場所で、何者にも認識されぬ場所で、ただ1人の(物語)を眺めるだけの傍観者。

 

 

 「……“愛”とは毒のようなものじゃ。一度注がれてしまえば、もう“愛”を識る以前のようには戻れぬ。ゆっくりと、時間をかけて身体を蝕み、やがて永久に燻り続けるもの。それが喩え何十年、何百年、何万年経ようともの」

 

 

 クツクツと笑う狐の少女は自嘲気に、されど朗々として自身の胸を触る。

 そして───やがて宿るのは、自身と同じ狐の少女への()()

 

 

 「くふふ。同情するぞ、狐の少女───いや、ワカモよ。()()()()()()を思えば、な」

 

 

 その者は未来を───孤坂ワカモたちに降りかかる末路を見た。

 

 

 幸福の終わり。

 

 

 届くことのないその手。

 

 

 そして───伝えられぬ想い。

 

 

 嗚呼、あまりに惨い。惨すぎる。されど、もはやその未来を変えることは出来ない───時計の針を止めることも、出来ない。

 

 

 世界(箱庭)の終焉は近い。そして、()()()()もまた同じく────

 

 

 「…………止まらぬのだろうな、其方は」

 

 

 それは確信であった。()()()()()()()()()()()()()()()、彼はまた同じ選択をする。

 

 

 

 

 

 

『またな!』

 

 

 

 

 

 ───あの日のように、()()()()()

 

 

 刹那に垣間見せた儚げな表情はとくと消え失せ、やがて仄暗い情愛を坩堝に詰め込んだような表情を被って彼を───異端者を見る。

 

 

 「案ずるな。どんな瞬間であろうと妾は其方の側におる。生きる時も其方と共に生き、其方が逝く時は共に逝こう。じゃからどうか思う存分今を生きよ────のう?妾の愛しき人(サド)よ」

 

 

 彼女はこのキヴォトスにおける特異点であり、この世で最も真理に近い存在。

 名をクズノハ。全能に近い存在である彼女は妖艶に、されど純粋で狂気的な“愛”を向けながら、ただただ彼だけを眺め続けるのであった。

 




ハッピーエンドの予感が……!?
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