汚いガキどもを見つけたので虐待することにした。   作:史上最恐の悪役

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今日もちゃんとイカれてるぜ、サド!


第38話

 

 

 

 

 

 ガキどもが頑張っている中、俺だけジュースをチューチューするのは間違っているだろうか。

 

 

 さて、いよいよ今日から本格的にお祭りに向けての準備がスタートした。

 シズコ、ウミカ、フィーナといった百夜堂メンバー───いや、確か【お祭り運営委員会】だったか?まぁ、そいつらを中心に企画立案、運営、設営、費用から広報活動まで、お祭りに関することの1から10をこなしていくのだ。そんで現在は屋台を作り上げている最中だと理解してもらえればいい。

 

 んん?お前はそんな暢気に説明している暇があんのかって?ククッ、何故俺がお祭りの手伝いなどしなければならんのだ?

 よく考えてみろ。これは謂わばガキどもの実力を証明するために行われるお祭りなのだ。俺が1から10関わろうものなら流石の仏の心を持つニャン天丸さんも黙っちゃいないだろう。

 

 だから今こうしてリンゴジュースをチューチューしてるんですけどね〜!!

 そう、その心はまるで海浜で寝そべる日焼け男の心境よ。だから、わざわざアロハシャツに着替えてガキどもが汗水流しながら働いているところをよく眺められる場所に陣取り、こうしてビーチチェアに寝そべっているというわけだァ!

 腹立つよな〜?ムカつくよな〜?邪魔じゃないけど、なんか視界に入ってイライラするよな〜?安心しろ、むしろそれを狙ってお前らに精神的虐待をしているからよ!

 

 「サドさん、新しいリンゴジュースをお注ぎしましょうか?」

 「いいのかァ?流石はウミカ、気が効くぜ!」

 「えへへ♪」

 

 しかもこうしてウミカにジュースを注がせてすらいる!こんな季節外れのアロハ野郎のためにジュースを注ぐなんてさぞ屈辱的だろう!

 

 「屋台作りは順調か?」

 「はい!地域の皆さんの協力もあって順調に場所決めをすることが出来ましたし、あとは屋台の完成と照明器具の配置で会場は出来上がると思います!」

 「ふん、上手くやっているようだな。だがそれぐらいやってもらわないと困る!」

 

 おそらく褒め言葉1つや2つ欲しかったんだろうが、ガキだからってそう何でもかんでも安易に褒め言葉が出てくると思ったら大間違いだぜ!

 俺の中じゃあこれぐらい出来て当然なんだよ。なんせお前らは俺の“道具”なんだからな!

 

 「きっと素晴らしいお祭りになること間違いなしです!みんなで頑張って、みんなで作り上げること……それもまたお祭りの醍醐味だと思っています!そして、それらが最終的にいいお祭りにつながっていくことも……全部()()()()()から再確認しましたから」

 「あのお祭りだァ?」

 

 自然と耳に拾ってしまった単語を復唱すると、ウミカは目をキランっと輝かせてズイッと顔を近づける。

 

 

 「そうです!私は今回のお祭りをあの()()()()()()()と同じくらいの規模感で盛り上げてみせたいんです!」

 

 

 ……アビドス砂祭りだァ?

 

 

 「お前、アビドス砂祭りのこと知ってんのか?」

 「もちろんですよ!アビドス砂祭りといえば数十年前を境にパタリと途切れてしまった、お祭り好き界隈では【伝説のお祭り】と称されるほどの伝統や格式のあるお祭りなんですから!そんなお祭りが再び開催されると発表された時はお祭り好き界隈に激震が奔った程ですよ!あっ、当然ですが私もアビドス砂祭りに参加させていただきました!最後に残された資料や記録ほどの規模感や出し物は残念ながらありませんでしたが、それでもお祭りに参加している人たちはみんな笑顔で本当に楽しそうにしていたのがとても印象的で……!私もいつかこんなお祭りを手掛けたいだなんて夢見たんです……!」

 

 

 ククッ、すげェ。知っている筈の言語なのに外国語を聞いているかのような早口弾丸スピーチだったぜ。

 

 「あっ、す、すみません……!お祭りのことになるとつい熱が入ってしまって……」

 「ククッ、気にするな。お前の熱弁などこれまでお前にしてきた数々の虐待行為と比べたらほんの些細な抵抗よ。それに懐かしい話も聞かせてもらったしなァ?」

 

 ククッ、アイツらにも聞かせてやりたかったな。

 お前らがああも苦しみながら虐待を受けていた中、コイツのように有頂天に楽しんでいたヤツもいたらしいとなァ……!

 いつかアビドスに帰った時にでも聞かせてやろうか───あぁ?そういや『しばらくアビドスに行ったらダメですよ』って黒服さんに言われてたっけ。じゃあ無理だわ。

 

 「出来るといいなァ、その砂祭りみたいなお祭りをよ!!」

 

 そして是非とも実現させてくれよ。

 かつてとある砂のガキどもを地獄へと叩き落とした最低最悪の虐待祭───アビドス砂祭りの再現をなァ……!!

 

 「ッ、はい!!」

 

 ククッ、返事だけは一丁前だなァ!!

 

 「オラッ!休憩が終わったならさっさと散れッ!!それとリンゴジュースありがとうな!」

 「はい!頑張ってきます!」

 

 おうよ!無理せず頑張れよ!

 

 「……そういやワカモとシロコは仲良くやってんのかね」

 

 ガキを追い払い気持ちよくジュースをチューチューしている中、ふと唯一懸念点であった事柄を思い出して思わず顔を顰めてしまった。

 というのも、何の因果か、あの相性最悪な2人がなんと同じグループに組み分けされてしまったのだ。

 空を見上げても煙幕が上がっていない今の状況を見るに特に大きな騒動とかは起こしていないようだが……まぁ、そん時はそん時だろう。なんとでもなる筈さ。………それに俺は関わんねェしな!

 

 「─────う!」

 「ん?」

 

 何処からか声が聞こえた───そう認識した瞬間、大通りからバカみたいに煙を上げながら近づいてくる物体を見つけた。

 

 

 「────しょう!!」

 

 

 何かを叫びながら近づいてくる物体の姿形が徐々に見えてくる。

 まずはその特徴的な赫色の髪。そして後ろに見える髪と同色の尻尾は龍のようなカッコよさと異質さを堂々と放ち。最後に額に生えてある黒い角と天真爛漫な笑顔。

 

 

 

 「し〜〜しょ〜〜う!!おわったよ〜〜!!!」

 

 

 

 【百鬼夜行の赤き猛獣】、【脳筋of脳筋】こと不破レンゲさんの御成だァァァァ!!!

 

 それにしても早いな!さっき出てってから10分とかそんぐらいなんじゃないか?

 

 「おう!相変わらず喧しい挨拶で大変清々しいな!おかえりだぜ!」

 「うん、ただいま!()()!」

 「だから師匠じゃねェって言ってんだろうが!」

 

 それと()()()弟子を自称してくる恐れ知らずなヤツでもある。

 

 「いやいや、サドさんは立派な【青春師匠】だよ。青春活動にも付き合ってくれるし……何よりアタシを青春の沼に引き摺り込んだ張本人だしな!」

 

 そう、コイツが称する師匠とは一般的な師匠ではなく、その名も【青春師匠】という特別なカテゴリに分類されるものであった───わけわからんって?俺も分からん。

 ただ来年高校デビューを控えていると聞いたんで、将来に関するネタバレ───もとい体験するであろう楽しみな部分をつらつら語る虐待をしていたら、何故か“青春”という2文字に魂の髄まで魅了されてしまったらしい。

 そんでその予行練習を兼ねて青春活動をしていくうちに付いてしまったのが【青春師匠】というわけだ。……改めて説明してもわけわからんな。

 

 さてそんなことはどうでもいい。今はコイツの認識を改めねばなァ……!

 

 「ククッ、残念ながら()()()1()()()()と決めているんでな。よってお前を弟子とは認めん!」

 

 そう!アルという愛弟子がいるんでなァ!!

 よってその枠は埋まっている。お前に用意されているのは“道具”枠のひとつのみよ!!

 

 「えー…………なぁ、その弟子ってもういたりするの?」

 「おうとも。ここから何千里と離れた遠い地に、な」

 「────ふ〜ん、ふ〜〜〜ん」

 

 なんだコイツ。ほっぺ膨らませながら拗ねたように明後日の方向見やがってよ。

 つーか腋を隠せ、腋を!後頭部に手ェ組んでるせいで乙女の恥じらいの場所が丸見えだっつーの!お前らは何でそういつも腋が甘いんだよ、文字通りの意味でなァ!

 

 「───いいし」

 「あ?」

 「別にいいし。師匠が認めてくれなくても、これからも勝手にサドさんの弟子だって名乗るし。皆んなにもそうやって広めるし……」

 

 お前はそれでいいのか……?とはいえこれも中坊特有の“アレ”だろう。この時期は色々と肩書きとか悪いものに憧れてしまうモンなァ。

 きっと高校デビューして本物の青春を味わっていけばいずれ目を醒ますさ。お前は絶対悪人向きじゃねェからな!

 

 つーか、一時期でも俺に弟子を懇願してしまったことが心に癒えない傷跡を残しちまうかもしれねェな!フッ、またしても無自覚に虐待をしてしまったようだ……

 

 「クククッ……ところでレンゲ、お前の幼馴染はどうしたんだ?」

 「ん?キキョウのこと?アイツなら───あ、ほらアレ」

 

 先程レンゲが走ってきた道奥に大人数の人影が見えていた。それはまるで軍隊アリのように規則正しく行進しており、その先頭に俺たちが話題に挙げていたガキが不機嫌そうな顔をしながら歩いていた。

 アイツが桐生キキョウ───俺に途轍もない反骨心を抱く底知れないガキだ。

 

 「ククッ、お疲れ様だな。どうよ?初めて指揮官の立場になった感想は」

 「…………別に、そんな大したものでもなかったよ。単なる機材配置と屋台設備の運搬指示だけだったし」

 

 何処からともなく漂う『楽勝でしたけど?』という雰囲気に思わず唾をぺっと吐きたくなってしまうが、流石に内心だけで留めておく。

 ……にしても本当に不機嫌だな、キキョウのヤツ。そんなにも俺に話しかけられたことが気に障ったか。

 

 「………ねぇ、レンゲ」

 「んぁ?アタシ?」

 「あんた以外に“レンゲさん”がいるのなら是非紹介して欲しいけど、今は私と言葉を交わしてる方のレンゲに話しかけてるの」

 

 ククッ、すまねェな、レンゲ!どうやら俺が話しかけたことで虫の居所が悪いみたいだァ。

 えらく棘のある言い方だが……まぁいつものことだろう!笑って許せ!

 

 「あんた、あそこのエリアの屋台建て終わった瞬間ダッシュで戻ったでしょ」

 「え?うん。だってアタシの仕事はひたすら木材を運ぶだけってキキョウから聞いてたし、仕事終わったから早く師匠のところに戻ろ〜って」

 「…………………」

 

 ククッ、流石はキキョウ、適材適所というものをよく理解している。そしてレンゲもそれを完遂させたのだから流石は俺の“道具”と褒め称えてやるべきだろう。

 ただ、今の弁明を聞いたキキョウがさらに目元を黒くして睨みつけているような気がするぜ。

 

 「………………………あぁ、そう。分かった………………あんただけいい思いしたんだ……

 

 すっっっげェ長い間を要した後に了承の言葉を吐いても何も安心出来ないよなァ?

 見ろよ、元々白かった手がさらに白くなったと分かるほどに手を握りしめて怒りを抑えていやがる。

 そして、この冬の寒さにも勝るとも劣らない極寒の視線をレンゲ───ではなくて俺に向けてくる。

 

 ………ククッ、やはり俺に怒りを抱いているらしい。何故かは知らんが、何もしてない筈なんだが。

 

 「それよりやけに不機嫌じゃん。大丈夫?なんか嫌なことでもあった?それとも最近師匠に構ってもらえてないから───」

 「決めた。あんたにはさっきの倍以上働いてもらうことにする」

 「何でぇ!?」

 

 おーおー、随分と理不尽な目に遭ってるなァ、レンゲ。

 だがまぁ、この世界ってのは理不尽で成り立っているものよ。なんせこの虐待を尽くすサディストが何の罰も受けずにのうのうと生きているのだからな。ハーッハッハッハ!!

 

 それにコイツにとってもいい教訓になっただろう。お前らはその理不尽とこれから闘っていく羽目になるんだからなァ。ま、とにかくこれから待ち受けている倍以上の実働頑張れや〜─────

 

 「ついでにあんたのリンゴジュースもらうね」

 「何でだッ!?!?」

 

 理不尽だッ!横暴だッ!こんなことが罷り通る世の中を許しちゃならねェ!!

 

 「別にいいでしょ、リンゴジュースなんてそこら辺に幾らでもあるんだし」

 「ならお前がコップを用意して新しく入れ直せばいいじゃねェか。因みに言っておくが、それは俺の飲みかけ───」

 「分からない?()()()()()()()()()()()って言ってるの」

 

 分かんねェよ!なんだ?嫌がらせか?自分たちがせっせと働いている中アロハシャツで優雅にティータイム入ってるヤツから飲み物を奪い取らないと気が済まなかったのか!?………結構妥当な理由だったな!

 クッ、全部飲みやがって……!俺に見せつけるように舌をぺろりとしやがって……!俺のリンゴジュース……キンキンに冷えていたリンゴジュースが……

 

 「……ほんと、私の()()ながら呆れる。頑張ってきた弟子を労ることぐらいしてよね」

 「だから師匠じゃねェって!」

 

 お気づきだろうか………なんと百鬼夜行には自称弟子を名乗るイカれたガキが2人もいるのだ。

 コイツは兵法学を学ぶのが好きといった一際特殊な趣味を持っている。そこでエセ兵法の知識を持っていた俺がコイツに対して知識マウント&知識分からせという二重の虐待をかましたところ、いつの間にか師匠となってコイツに兵法の基礎を教えていた。

 意味分からんって?俺も分からん。俺だってただ虐待したかっただけなのに……

 

 「だがそうか……労る、労るねぇ……」

 

 コイツらの年代の体力はまさしく無限級。故にそう簡単に疲れ果てたりはしないが、ストレス値は無限級ではなく有限、溜まっていく一方だ。

 ストレス値が限界に溜まってしまえば人は“無”となる。喜びも、悲しみも、疲れも、痛みも分からない植物人間と化してしまう。

 

 俺はそれを望まない。虐待とは常に喜怒哀楽で成り立つものだからなァ。音の鳴る玩具が押し売りの筈なのに故障で何の反応もない玩具になれば面白味がないのと同じように、無感情な“道具”に虐待するほど虚しいものはない。

 ようは飴と鞭の使い分けだ。そして、今ここでは飴を適用すべき場面ということ。

 

 「そうだな……折角ガキどもが一堂を介しているんだ、これを使わない手はないか」

 「……?何をだよ?」

 

 ククッ、お前が1番喜びそうなものだよッ!!!

 

 「レンゲ、喜べ。青春活動するぞ!」

 「本当!?やった!」

 「私はなるべく室内で出来るやつの方がいいんだけど……」

 「ん〜、こればかりはちょいとムズイな。まぁ、今回だけは強制にしねェから別に不参加でも構わねェぜ?」

 「…………………別に参加しないとは言ってない」

 

 ククッ、随分と不満気だなァ?さぞ俺のようなカスに慈悲を見せられたのが屈辱的だったと見える。

 

 

 

 その後、2人に詳細を話してガキどもに知らせるためのパシリとして使ってやったわ!

 ククッ、油断したなァ!これからが飴タイムなわけで、何も今が飴タイムなわけじゃねェから!

 

 ……さて、俺も準備しますか。

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 少しずつ屋台が立ち並んでいく。

 

 最初は何がどれに使われるのかも分からなかった木の板や鉄の棒から始まり。そこから少しずつ私の知っている形が出来上がって。そしてまた、同じ作業の繰り返し。

 

 何かを壊すことしか出来なかった私の手が、何の笑い話か、何かを作り出すために酷使されている。

 そのことが妙に現実味がなくて、夢と現の間を彷徨っているような感覚に陥っていた。

 

 「ん、そこでボサっとしてないで。早く非常用ホースの点検に行くよ」

 

 シロコさんの鋭い一言で我に返り、視界の端に街並みを収めながら足を動かす。それでもなお、何故か屋台に溢れたこの街並みを見惚れてしまう。

 

 「何だかスゴイですね……ここまで目を惹かれるものだったでしょうか?」

 

 何十何百と見てきた風景なのに、今日は一段とより綺麗に見えた。屋台が立ち並ぶ街並みがより一層期待感を抱いた。

 どうしてこうも胸踊るか───そんな風に思ってしまいます。

 

 

 「ん、当然。だって()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ───しかし、その答えは至ってシンプルで、胸にストンっと落ちるようなものでした。

 

 「私もよく分からないけど、このお祭りでみんなが───サドが喜んでいるところを想像すると………何だか嬉しい。胸がぽかぽかする。あなたもそうなんじゃない?」

 「…………」

 

 ……そう仰られてもよく分かりません。私の場合はいつも悲鳴と苦渋に満ちた顔ばかり拝見してきたので、とても私が作り上げたもので誰かが喜ぶなんて想像も出来ないから。

 ……しかし、もし、もしもサドさんが私が手掛けたお祭りで喜んで下さるのであれば。そして、その記憶が彼の生涯に残る()()()となって下さるのであれば。それは、それは何とも─────

 

 「お〜〜〜い!!みんな〜〜!!一旦作業中止〜〜!!」

 

 答えが出かかっていた中、赤髪の生徒さんの一声で思考が一気にクリアとなった。その赤髪さんは何がそこまで嬉しいのか、目を輝かせながら身振り手振りで作業を中断させようとしてくる。

 

 「なに?レンゲ。サドが何かやるって?」

 「お、流石はシロコ───いや、姉弟子!師匠のことをよく理解しているんだな!」

 「ん、当然。それはそうと私はサドの弟子じゃないし、あなたもサドの弟子じゃない」

 

 サド様が御弟子を取る……何だか想像が付きませんね。

 

 そして、次に赤髪さんの放った言葉が、この場にいる者を彼の下へと駆り立てた。

 

 

 

 

 

 「サドさんから伝言預かってきた!『休憩&ストレス発散がてらに雪山の麓で雪合戦やるぜ!1番多く当てたヤツは賞品つき!やりたいヤツは来い!』だって!」

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 雪景色に紛れ込むのは年端もいかない少女たちと1人の異形。

 彼女たちは冬の季節の代名詞───大人数雪合戦に勤しんでいた。

 

 

 「にゃはは〜、みなさんお強いですわ〜。それに比べて私は非力なもので……ですからどうか堪忍したって───」

 

 「ニヤさまぁああああああ!!日頃の恨みを発散させてもらいますよぉおおおおおお!!!」

 

 「にゃっ!?本気で顔狙ってきよった!?」

 

 

 「寝てるのに避けてる!?一体どんな理屈よ!?」

 

 「ふぁ〜……眠たい……」

 

 

 銃もなければ盾もない。己の武器はただひとつ───柔らかくて砕けやすい雪玉のみ。それはおよそキヴォトスでは考えられないような戦闘方法であるが、しかしこれ以上なく平和な闘争であった。

 その事実を如実に表すように、どの少女の顔を見てもそこには歳相応の笑顔が溢れていた。

 

 

 「ハーッハッハッハ!!我が東軍の城壁は世界一ィイイイイイイ!!誰にも破ることなど出来〜〜ん!!」

 

 「主殿!?そんなに城壁から顔を出されますと……!」

 

 「そう心配するな!どうせ届きやしな───危なッ!?」

 

 「ちぇっ、当てれなかったか」

 

 「おっし〜!結構いい腕してるじゃん!」

 

 「みんな、あの城壁の上にいるアロハシャツの変人が敵の大将だから撃ち落としていいよ」

 

 『お〜!!』

 

 「うわっ、めっちゃ投げてきやがったんだが!?」

 

 「東軍!サドさんを守りますよ!」

 

 『は〜い!!』

 

 

 最初は戸惑っていた者も、普段から笑顔を絶やさない者も、逆に滅多に笑顔を見せない者も、欺瞞に満ちた者も、常時は仲が悪い者同士も今だけは関係なく、全員が平等に笑顔が贈られる。

 

 

 ───それは、あの仮面の少女にも同じことが言えよう。

 

 

 「ククッ、ワカモ!楽しんでいるかァ!?」

 

 「えぇ!もちろんで御座いますわ!」

 

 「そうか!よく覚えておけ!それが“()()()”ってヤツだァ!今後お前の生涯に纏わりつき、()()()()()()()()()よ!!」

 

 「………フフフッ、左様で御座いますか」

 

 

 そこには狂気もなければ歪んだ感情もない───何処にでもいる普通の少女のような純粋で可憐な笑みを携えていた。

 

 

 「───あなた様から与えられるものであれば喜んで頂戴いたしますわ」

 

 

 そしてその笑顔は、彼女の隣にいる異形の顔と共に強い記憶(思い出)へと刻まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拭いたくても拭うことの出来ないほどに強烈で、忘れたくても決して忘れることのない、そんな尊い記憶(思い出)が────今、刻々と彼女を縛り上げていく。

 




思い出になってこの子たちの生涯に残り続けるなんて……!
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