汚いガキどもを見つけたので虐待することにした。 作:史上最恐の悪役
少しずつ、少しずつ積み上げてきた虐待が、今花を咲かす時────
───ワイワイガヤガヤ。
人々の喧騒が喧しいほどに響き渡る。
それはまるで音に反応する玩具のように、終始絶え間なく浮ついた憐れな観客どもの声が聞こえてくる。
あぁ、何度あってもいいモンだなァ……!お祭りというものは……!
「ハーッハッハッハ!!!今回も来たぜ!血と汗と涙の結晶!!ガキども主催のお祭りが────」
「サド様サド様!!あちらの金魚掬いに行きませんか?」
「サド、あそこにある焼きそば食べたい。だから着いてきてほしい」
「…………先ほども焼きそばをお食べになりませんでしたか?今度は私を優先させてもらいます!」
「ん、お腹が空いた時は何よりも優先してたくさん食べろってサドに言われてる。だから今回も私を優先すべき」
「…………」
………ガキどもは別の意味で喧しいな!!
つーことで楽しんでいるか諸君!!いいや、楽しんでいないとおかしいよなァ!!
なんせ今回はガキどもが贈る虐待祭───じゃなかった、【
お祭りの最終日ってなんかめっちゃテンションブチ上げじゃね?アレよ、ほら、生き物が生命の危機に瀕した際に発揮される火事場のクソ力みたいな?
最終日というお祭りにとっての人生のクライマックス日にドデカい花火打ち上げたるわ!!みたいな勢いと根性が垣間見えるんだぜェ……
まぁ、それはそうと、本当はもっと具体的な理由があってテンションが跳ね上がっているわけなんだがなァ……!
『手前たちとい〜〜〜〜っぱい
あのニッコニコなアイツらの顔を思い出せば、否が応でも期待せざるを得ないだろうぜ!
しかし、この虐待王である俺でもビックリ仰天な懸念点が1つある。それは明らかな
それもそうだろう。なんせ“冬”と“怪談”は絶望的な程に相性が悪いッ!!
ククッ、よもや季節外れにも甚だしい怪談を冬のお祭りでやる度胸は素晴らしいが、そのイベントが面白いか面白くないかは別問題だからなッ!!
つまんないモンだったらお前らとて容赦はしないぜ?
レビューで星3ぐらいの評価にしてやって、謎の上から目線で改善策とか嫌味とか何もかも書いてやるよッ!!
さて、そんなこんなで詳細を一切語られずに最終日まで来てしまったが、なんかもうここまで来るとオオトリを飾るのが怪談のイベントだろうと察しがついてしまった。
まぁ、タイミングとかは全く分からないけどな。
「でも、いうて
今の空は群青を塗りつぶすかのように侵食していく茜色が見えている時間帯だ。
時間的にはまだまだ先だろうが、もう今から楽しみで仕方ねェな!一体どんなイベントになるのか……期待して待っているぜェ?
「つーかシロコ。そろそろお前の当番の時間なんじゃねェのか?」
「………………………大丈夫。あと数秒残ってる」
スッゲー露骨に顔を顰めたな。そうまでして仕事をしたくないのか、はたまた俺にチクチクと言われたことに腹が立ったのか。
ホラ、アレよ、中坊特有のテスト前にゲームをしていたらお母さんにチクチクと勉強について聞かれるヤツ。シロコは今、この心境に近しいだろうと俺は見抜いた。
「ククッ、数秒ですら抵抗の意思を見せるそのメンタリティは褒めてやっても良い……が!俺はいつも何と
「…………約束した時間はちゃんと厳守すること」
「ククッ、その通り!お前は俺の“道具”だ。ならば俺の言い付けは聞いてもらわねばなァ?」
「…………ん、分かった」
クーックックック!!見ろ、シロコの耳がペタッとへたり込んでしまったぞ!!
余程俺の命令を遵守せねばならないことが甚だ屈辱的なのだろう……!これ以上俺の言葉を聞きたくないと言わんばかりに、思わず耳を閉じてしまったようだ!
「ふふっ、シロコさん?サド様のことであればご心配無用ですので、しっかり働いてきて下さいね?」
「…………」
にしてもコイツらマジで仲悪いな!シロコとワカモの間に火花が散っているのが見えるぜ……
結局『サドに何かしたら潰す』という脅迫文を残して去って行ったシロコの哀愁漂う後ろ姿を見届け、改めてワカモに向き合う。
ククッ、コイツには悪いがもう少し嫌な思いをしてもらうぜ!
アイツらの怪談までの時間潰しだッ!!
「ワカモ!行こうぜ!!」
◇◆
日は暮れ、もう間も無くこのお祭りのフィナーレである花火が打ち上がる。
私は───いいえ、おそらくこのお祭りに携わる全ての生徒たちはその花火が打ち上がるのを今か今かと待ち侘びている頃でしょう。
というのも、この花火が今回のお祭りのメインイベントとして位置付けているからに他ならないからです。
何故メインイベントであり最後を飾るのが、何の捻りもない打ち上げ花火なのか───それには理由があるのです。
これはお祭り運営委員会の委員長さんがご提案したものでした。
『色々テーマやらコンセプトやら考えたんだけど、あれこれ手を出しても中途半端に終わる気がしてならないって思ったわ。それに、全員が同じ気持ちで協力しないとより半端になりそうって思ったわけ』
『………うん、分かってる。かといってこれだけの大人数かつ個性的なメンバーが同じ気持ちで協力していけるなんて私も思ってないわ』
『だから、少なくともここにいる全員が抱いているであろう気持ちをテーマにして、このお祭りを通して少しでも私たちの想いを届けられたらって思ったの』
『─────テーマは“感謝”!!』
『あの人から貰ったものを少しでも返したい。そして、これまでの“感謝”を少しでも伝えたい。それはみんなも同じ気持ちの筈よ』
『あの鈍感男に必ず届くかって言われたら断言は出来ないけど……でも、きっと届く筈よ。だって、どんなものであっても、私たちの気持ちが───“
『そして、その想いを花火に乗せて打ち上げるの!彼の好きな夜空にパーッと咲かせてね!』
……故に私たちにとってこのお祭りは普通のお祭り以上の意味があり、これから打ち上がる花火もまた特別な意味があるのです。
その花火を彼と共に見上げる権利を得たのはこの私です。数多いる生徒さん方の中で、たったひとつの当たりを引くことが出来たのです。
これはきっと運命のお導きなのですね。私がこの日に隣に立てることは、きっと神様が私にチャンスを与えてくださったのです。
………伝えなくては。
あなた様に伝えたいこと、伝えなくてはならないことが沢山ある────それなのに、上手く言葉が出せない。
緊張、困惑、不安、焦燥、想い。それらの幾千幾万の感情が交差しては巡り巡って私に二の足を踏ませる。
「ククッ、最後に花火とはなかなかイカした終幕じゃねェの?なぁ、ワカモ」
「えっ、あっ、そ、そうで御座いますね……!」
「────ぷっ……!ククッ、クククッ……!」
「サド、様?」
突然吹き出されたサド様に困惑を隠せない。
何処かみっともない部分でも見られてしまったのか、私が認識していない痴態でも目撃されてしまったのかすらも分からない。
「クククッ、いや、お前とこうして肩を並んでいることが、いまさらながらだいぶ奇妙で面白い話だと思っただけよ」
「……?」
「覚えてないのか?あの痛快で大爆笑な初対面の出来事をよ」
「ッ、あ、アレは……!?そ、その際は大変ご迷惑をおかけしてしまい……」
藪から棒に、サド様は私たちの馴れ初め───もとい、美しき過去でありながら、私が大いに反省している最大の汚点でもある瞬間を的確に突いてきました。
私としては一刻も早く忘れていただきたい過去ではありますが、大事に覚えてもらいたい“思い出”なのです……
「いやいや、別にいまさら責め立てようって話じゃねェよ。ただ、あの出会いからこうしてお前の隣に立てていることが嬉しくてなァ……ククッ、これぞまさしく“
「ッ」
“奇跡”───嗚呼、確かにその表現以外でこの現象を表せる言葉は存在し得ないでしょう。
…………あなた様も私との繋がりを“奇跡”だと、そう仰って下さるのですね。
「───サド様。どうか私のお話を聞いてはいただけないでしょうか」
───今ならきっと伝えられる。
ただ真っ直ぐに、私が思うがままの感情で、あなた様に語るのです。
「私とあなた様との出会いは……ハッキリ申し上げますと最悪の部類に入ってしまうでしょう。人を傷つけることでしか生きてゆけなかった私は、例に漏れずあなた様さえも何度も何度も傷つけてしまいました」
あの頃はただ目に見えるもの全てが破壊の対象だった。
物も、人も、自然も、何もかも。
きっとあの頃の私は、御伽話に出てくる怪物や化け物と同等かそれ以上の“ナニカ”だったと思います。
「ですが、あなた様はそんな私との
安易で安直な言葉で表現などしたくない。
きっとそれは、あの日に対する侮辱となってしまう。
「それからのあなた様との日々は、これまでの人生では決して気付けないことばかりを経験させていただきました」
誰かにプレゼントをされた時の胸の高鳴りを。
初めて誰かの笑顔のために手を動かして、それが叶えられた瞬間の達成感を。
あの丘から見た街並みの美しさを。
燃え上がるような愛情を。
───そして、“思い出”の本質とその価値を。
気づいておられますか?私はもうしばらく破壊活動などしていないのですよ?
何故なら────今、どうしようもなく
私は今、壊すよりも
だって───もうこの街には、あなた様との“思い出”が染み込んでしまったのですから。
あの駄菓子屋も。あの道も。あのベンチも。あの川沿いも。
全部が全部、色褪せぬ“思い出”の足跡が残されています。
私はただ、その光景を何度でも見ていたいと思ったのです。
幾ら歳を重ねても、あなた様の隣で、あなた様と私だけの“思い出”を。
通常の人であれば誰しもが持つ当たり前の感覚。
それすらも持ち得ず、ただ空虚に物を壊し続けてきた“
「……どんな言葉で告げようとも、私の幼稚な語彙ではどれも陳腐でありきたりな言葉として聞こえてしまいそうです。ですが、どうかこれだけは伝えたいのです」
もっと伝えたい言葉がある。
もっと伝えたい話がある。
もっと伝えたい感情がある。
でも、きっと今は無理だ。
とてもではないけれど、1つにして全てを伝えるにはあまりにも大きくて、重いから。
だから、どうしても伝えなくてはならない言葉を。今、あなた様に────
「────本当に、本当にありがとうございました。あなた様と出会えて………本当に良かった」
彼の焔の顔を真っ直ぐに、心の底からの本音で感謝を告げた。
半ば唖然とした態度がどうにも気になってしまいますが、それもまたサド様らしい。
「────ク、ククッ、そうか……。こんな俺に感謝をするヤツがいるなんざ……お前はやはり“悪”の才能があるヤツだな!!ハーッハッハッハ!!」
いつものように軽くあしらわれている────かといえば、それは違うことぐらい私にだって分かります。
私の言葉に動揺し、心を動かされ、今まさにあなた様の心の大部分を“私”のことで占めていることでしょう。
嗚呼、これ以上の幸福などありません。あなた様の心に私が在る───その事実はどんな高価なものよりも価値がある。
そんな喜悦に浸りながら、そろそろ打ち上がるだろう花火の音にそっと耳を傾け────
────ドゴォォォォォォン!!!
今まで聞いたこともないような巨大な爆撃音と地響きがこの商店街一角に響き渡る。
咄嗟にサド様の前に立ち、周囲を見渡して見れば───
「これ、は……」
────街が燃えている。
燃え盛る炎。私の大好きな火の塊が、私たちが作り上げたお祭りの全てを呑み込まんとするように燃え移るその光景は、かつて私が嫌と思えるほどに見た光景そのもので。
「それに、この音は……」
奇怪な音を鳴らしながら近づいてくる物体を見た。
それは傘のようなナニカ。見ているだけでゾッとするようなナニカが、私を────いや、サド様を見ていた。
「舞台は整い、役者は揃いました。幾多も紡がれた“
「ああ、嗚呼、あゝ……!楽しみですねぇ……!この祝場で木霊するであろう絶望の声が!何より……手前様の心にこの物語が留まるその瞬間が……!!」
「さぁさぁ、救世の物語に選ばれし
───手前と一緒に遊びましょ?
───あは、あはは、あははははははハハハハハハハッ!!!!
何処かから哄笑が聞こえる。
それは何処までも無邪気で、純粋無垢な
※一方その頃、『始まったーッ!!』と内心ウキウキなサドでした。