汚いガキどもを見つけたので虐待することにした。   作:史上最恐の悪役

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少しリアルが忙しくなってきたので、次の投稿は1週間後の予定です。
終盤の癖して申し訳ない……


第42話

 

 

 

 

 

 

 ────災禍に包まれること、約数分前。

 

 

 ここは現在お祭りが行われている商店街───から少し離れた場所にある百花繚乱専用の駐屯所。

 

 通常であれば現在もお祭りの治安維持のために右往左往している頃の筈である彼女らは、何故かこの駐屯所に集結していた。

 

 「あっ、お〜い!」

 「あ!やっと来た!」

 

 1人、また1人と集っていく。

 しかし、ここに訪れる彼女らに共通する部分は、誰もが“困惑”を塗りたくった顔で敷地を跨いでくるといったことだ。

 

 「何だろうね、いきなり緊急招集だなんて」

 「さぁ?それは呼び出した張本人が説明してくれるでしょ」

 「あっ、来たよ!」

 「委員長!緊急招集って一体何があったんですか?」

 

 どうやら彼女たちは百花繚乱の委員長の呼び出しによって、ここに集結しているらしい。

 

 無論、詰め寄る。わらわらと、まるで光に集る虫のようにお目当ての人物へと詰めていく。

 緊急招集だなんてそうそう発令されることのない、名の通り緊急の案件が発生した際にかけられる号令だ。

 

 故に聞く。どんな事案が発生したのか、場所は、時間は、被害数は。

 

 まるで弾丸のように飛んで来る質問。

 しかし、呼び出した筈の張本人はそれらの解えお一切答えず、むしろ目を点にして周囲を見渡すだけだった。

 

 

 

 

 「え?緊急招集って何のこと?私もここに呼ばれたから来ただけなんだけど……」

 

 

 

 

 「アハハハハッ!!混乱されていますねぇ」

 

 

 

 

 完全な死角(背後)から紡がれる言葉。

 そこには純粋無垢な笑顔を見せる、この世の穢れを知らなそうな少女が立ち竦んでいた。

 

 しかし、百花繚乱の生徒たちが見せるのは“微笑ましさ”ではなく“警戒”のみ。

 あまりに不自然で異質な少女に鋭い目線を投げる。

 

 「おやおやおや?もしかして警戒されているんですかぁ?手前は悲しいですぅ……」

 「あなたは……一体……」

 「これはこれは手前としたことが失礼致しました。語り部がまず名乗り、そして趣旨を伝えるのはマナーですものね」

 

 少女は身の丈に合わぬ羽織物を靡かせ、まるで演者のように丁寧なお辞儀をする。

 そして、彼女はこう告げた─────

 

 

 

 

 

 「お初目お目にかかりますぅ。手前は箭吹シュロ。【花鳥風月部】に属するしがない一部員ですぅ」

 

 

 

 

 「今回手前らにはこの場でご退場されていただくようお願いしに参りました。どうかご理解とご協力の程、よろしくお願い致しますね?」

 

 

 

 

 

 ────それからは一瞬だった。

 

 委員長はほぼ咄嗟に、無意識の脊髄反射で、自身の地位を確固たるものにしている証、【百蓮】をその手に掛ける───が。

 

 

 

 

 

 「───残念。2秒、遅かったですね」

 

 

 

 

 

 彼女たちの背後から、更なる深き者が現れる。

 その4つに分かれた赤目は、彼女たちを覗き込んでいた。

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 「そこだ!ワカモ、でんこうせっか!!」

 「やぁ!!」

 

 ワカモは俺の指示通り周囲にいるモブ傘どもを一掃する。

 傘どもは虫のようにのたうち回るわけでもなく、ただ後退するだけ。そこにダメージという概念はなさそうであった。

 

 

 さてさてさ〜〜て!!いよいよ始まってまいりました!

 今宵最後のフィナーレを飾るのは……じゃじゃん!怪談ゲームで〜〜す!!

 

 

 いやはや、正直お前らのことナメてたわ。いや、ナメていたわけではないんだが、ここまでのクオリティのものをお出しされては些か俺の認識も改めなければならないだろう。

 

 まずはこの傘どもを見てくれ!

 如何にも“モブですよ!”と伝わる容貌でありながらちゃんと迫力のあるこのクオリティ!まるで()()()()()()()()()()と肌で感じ取ってしまうようなその無機質感と滑らかさ!どれをとっても素晴らしいぜ!

 

 次に今も迫り来る炎を見てくれ!!!

 これもやけにリアルで、なんと熱さもリアルな炎そっくりなんだぜ!これが4D───いや、もしや次世代5Dなのかもしれんな!?

 むしろ力を入れすぎて無粋にも“ちょっと熱いな”なんて思ってしまうが、その分滅茶苦茶迫力があるから全て良しとしよう!

 

 さて、あらかた周囲にいるモブどもは一掃したようだ。

 流石はワカモ、動きが速いな!

 

 「お疲れ様だな、ワカモ!よくやった───」

 「スゴいですわ!サド様!」

 

 ワカモは興奮冷めやらぬ様子で俺の両手を握ってはぶんぶんと縦に振り回す。

 頭についてある狐耳がこれでもかと“ぴょこぴょこ”と揺れ動いていやがる。

 

 「だぁーッ!!いきなり何すんだテメェ!?それに言っていることが意味分からん!何故俺が褒め称えられなければならないんだ!?」

 「何故?むしろ何故ご理解いただけていないのですか!?サド様が指示された際に受けたあの全能感、まるで戦場を上から見ているような俯瞰的視点、空気が軽くなったような解放感……その全てはサド様のご指示があったからこそ引き出されたものに違いありませんわ!」

 

 ……な〜〜んか前にこんなやり取りをした覚えがあるなァ〜?

 

 以前も言ったな、俺を褒め称えるにしても時と場合ってのがあるんだと!

 適当に指示しているだけなのに何故拍手喝采を浴びねばならんのだ!?適当に褒められてもちっとも優越感などないわ!

 

 「ククッ、オイオイ、寝言は寝て言うもんだぜ?まぁ、主人を讃えるその精神性は褒めてやってもいいが、それでも何でもかんでも褒めとけばいいってわけじゃ────」

 「まるでサド様に盤上の駒の如く動かされているようで……このワカモ、いたく興奮と高揚を得た次第です!きっとこれは私とサド様の間に結ばれた“愛”の力が成せる業!あぁ、なんて甘美なものなのでしょうか……!」

 「オ〜イ、ワカモ〜、戻ってこ〜い」

 

 ダメだ、完全にトリップしてやがる。

 上の空とはこのことを言うのだろう。何もない虚空に顔をあげてお目目をグルグルさせながら喋っている姿は何処か狂気的に見えてしまうぜ。

 今はいいけどよォ、戦闘になったら頼むぜ〜?ったく……

 

 それにしても、ガキどもは今頃ヒーヒー泣きながら街中を走り回ってるんだろうな〜!

 ワカモはお化け耐性あったから反応は著しくなかったが、こんなバケモンいきなり現れたら絶対腰抜かすヤツいるだろ!例えばナグサとかナグサとかナグサとか!

 あーあ!見たかったな〜!ヒーヒー泣いているアイツら見たかったな〜!!

 

 だが、それはそれとしてちょっとぐらいは楽しんでほしいなって気持ちも……

 まぁ、それもほんのちょっとだがな!ちょっとっていうのは3割か4割ぐらいで残りは全部無様に泣き叫んでほしいっていう嗜虐心で埋め尽くされているんだな!ハーッハッハッハ!!

 

 ……………………

 

 「………なんか……やけに静かじゃね?」

 「えぇ、その通りですわね、サド様」

 「うわっ!?急に落ち着くなァ!?」

 

 さっきまで全身クネクネしていたヤツとは思えないほど理性的な声が聞こえてきたので思わずビックリしてしまったが、ワカモの返事で確信を得た。

 

 あまりに()()なのだ。不気味なほどに、寒気がするほどにだ。

 なんせさっきまでは人の叫び声やら走音やら聞こえていた筈なのに、今ではこうパタリと鳴り止んでいるのだからな。

 オマケにウヨウヨいた筈のモブ傘も急に出てこなくなった。

 

 これをどう捉えるかは人によると思うが───俺は嵐の前の静けさだと、そう感じ取ったぜ。

 

 つまり来るということか………怪談ゲーム、その第2章が。

 

 「ククッ、気を引き締めろ、ワカモ。おそらく次の波はもうすぐそこまで────」

 「ッ、全方向から大勢の気配がします!突然湧き出るように出てきましたがどんな理屈なんですの!?」

 

 ククッ、俺の決めセリフを遮られたことに激しく遺憾の意を表明したいが、今はそれどころではないことぐらい猿でも分かる!

 

 「全方向!?ハハッ!!難易度イカれてんだろ!!おもしれー!!」

 「……ふふっ。えぇ、私も久方ぶりに血が逆流するのを感じますわ。それはもうかつてない程に……!」

 

 やはり蛮族の血が滾るというのか、ワカモよ……!

 あぁ、その心情がありありと伝わってくるよ……!なんせお前の拳が血管が浮き出るほどに握りしめられてんだからな!

 思わず“()()()()()()()()()()?”と勘違いするところだったぜ……!

 

 ククッ、こうなってしまえばゲームセットだろう。

 全方向に敵の大群が押し寄せてきてるって?ハンッ、だからなんだ!そんなもの、覚醒状態に入ったウチのワカモが全て蹴散らしてくれるわ!

 

 

 そんなこんなで威風堂々と待ち構えていたら、全方向から()()1()0()0()()()()()()猛軍が俺たちに目掛けて突進してくるのが見えた。

 

 

 …………………ま、まぁどうとでもなる筈さ!

 

 

 

 

 

─────

───

 

 

 

 

 

 ─────結論、どうにもならなかった。

 

 

 「ククッ、多すぎんだろ……!」

 

 “これまでのはただの前座、本番はこれからだ”と言わんばかりに爆増したモブ敵に、如何にワカモといえどたった1人で抑え込むには土台無理な話であった。

 今はもうジリジリと壁際まで追い詰められてしまい、とうとう本当に四方八方囲まれてしまっていた。

 

 オイ、コクリコ!!難易度調整ミスってんぞ!こんな狙い撃ちされたらひとたまりもないやんけ!

 

 「……仕方ねェ。オイ、ワカモ!ここは俺に任せて先に行け!!」

 「な、何を仰いますか!?あなた様を置いていくなど出来ません!」

 「今の状況で最も避けなければならんことは全滅だッ!!お前の身のこなしなら1人で逃げ仰られるだろうが、俺は流石に無理だ。だから、お前がこの惨状を他のヤツらに伝えて対策を練ることがこのゲームの攻略のためになる!分かったか!!」

 「……嫌、嫌です!私がなんとかしてみせます!こんな数だけの塵芥どもなんかすぐに一掃して……!」

 

 この分からず屋め───ってマズイ!?モタモタしてたら唯一の逃走経路も塞がれた!?

 

 これは………詰みか。

 

 あ〜あ、まぁしょうがない。まさかここまでわんさか湧き出るとは思わなかったからな。初見殺しってヤツだ、うん、仕方ない仕方ない。

 それはそうと命令違反をしたワカモには後で牢屋の中でじっくりと虐待を受けてもらうことにしようか。

 

 

 気持ち悪いほど湧き出る傘どもが俺たちに襲いかかる。

 まるで黒い津波だと思いながら、そっと目を閉じ─────

 

 

 

 

 ─────サドさん!!

 

 

 

 

 聞き覚えのある声が聞こえたと同時に、銃の乱射音が響き渡る。

 迫り来る絶望の黒い津波に大きな穴が出来上がり、そこを中心に少しずつ津波が崩壊をしていく。

 そして、その津波の先に見えてきたのは群青色の羽織物───

 

 

 「危なかった〜!間に合ってよかったよ!」

 

 「遅れてごめんなさい、サドさん」

 

 

 ───百花繚乱の陰陽コンビ、ナグサとアヤメがそこにいた。

 

 ……にしてもお前ら……なんか変わった?

 なんつーか、一皮剥けたみたいな感じがするっていうか、顔つきが違うっていうか……

 

 い、一体どんな修羅場を潜ってきたらそうなるんだ……!!気になるぜ……

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 「────なに、これ……」

 

 火、火、火。

 

 大好きな人を想起させる炎が全てを燃やしていく。

 何かが燃え付く匂い。焦げ臭いその匂いが、私にに現実を突き付けてくる。

 

 傘のような魑魅魍魎どもが地表で跳梁跋扈し、何かを探すように物体という物体を破壊して回っていた。

 無慈悲に、無粋に、凄惨に。それに込められた想いすらも壊すかのように。

 

 私はただその光景を眺めることしか出来なかった。

 

 「───グサ、ナグサ!!しっかりして!!今はボーっとしてる場合じゃないよ!?」

 「ッ」

 

 アヤメに大きく肩を揺らされ、ようやく現実逃避から抜け出すことが出来た。

 

 ……そうだ。ここで突っ立っていても状況が好転するか?少なくとも悪化はすれど好転は絶対にしない。

 

 それにサドさんが無事なのかどうかも────

 

 「───サ、サドさんは!?サドさんは大丈夫なの!?」

 「……分からない……けど!あの人なら大丈夫だよ!うん、きっと大丈夫!」

 

 ……アヤメの震えが肩を伝って感じる。

 不安じゃない筈がないのに、今すぐに駆け出したい筈なのに、それでも私を不安にさせまいといつものように笑ってくれているんだ。

 

 ……情けない。サドさんの前であんなにも豪語していたくせに、いざ非常時になったらコレだなんて。

 

 「それにしても……これからどうしよっか。部長や副部長とも連絡がつかないし……ハァ、本当に色々やることが多すぎて手がつけられないって感じだね……」

 

 アヤメは困ったように顔を顰める。

 あの即決即断なアヤメですら悩む現状。そんな状況で私が何かを決断出来るなんて到底思えなかった。

 

 お祭りにいる人への避難指示、この騒動の原因究明、周囲に湧き出た魑魅魍魎の殲滅、燃え広がる炎の火消し、ケガ人の救護、状況把握………百花繚乱として、正義に殉じる者として果たさなければならない責任と義務がたくさんある。

 

 でも、そんな立場や責任から来る義務なんかよりも、たった1つの憂いでその全てが水に流される。

 いくら御託を並べても1番に考えてしまうのは───()()()()()()()、たったそれだけだった。

 

 「私は……どうすれば……」

 

 今すぐにサドさんを探しに行きたい。

 

 サドさんの側にいたい。

 

 見ず知らずの人なんかよりもサドさんを守りたい。

 

 でも、それは七稜アヤメという完璧な人間の幼馴染としてはあまりにも間違った選択であり、相応しくない選択だ。

 

 その選択を取るということは、これまでの私を否定することと同義である。

 

 

 立場と想い。

 

 過去と現在。

 

 

 そんな2つの感情の板挟みによって思考が歪む。本当に求めるものを見失っていく。

 

 

 私はどうしたい。私は何をすればいい。

 私は、私は一体何を選べば──────

 

 

 

 

 

 「やーっ!!このっ、しつこいんですの!!」

 「ッ、この声は……」

 

 何処かから聞き覚えのある声と共に銃声に思考を止める。

 

 すぐに周囲を見渡して────その声の主を見つけた。

 

 「ユカリ……!」

 

 そこには、奇怪な傘の怪物に壁際まで追い詰められていたユカリの姿があった。そして、その側には足を怪我したと思われる1人の女性の姿が。

 きっとあの子は自身がいち早く逃げるという選択を放り出して、あの人を守るためにこうして身を投げ出したのだろう。

 

 ………あなたは本当にすごい子だよ、ユカリ。

 

 「ッ!!」

 

 さっきまで立ち竦んでいたのが嘘であるかのように、全速力でユカリの元へ向かい、奇怪のバケモノたちを一掃する。

 黒い塵となって消えていくバケモノを一瞥した後、ユカリの元へ赴く。

 

 「ケガは?」

 「あ……あっ、はい……大丈夫、です……」

 

 念の為軽く傷がないか見る。………うん、本当にケガはしていなそうだ。

 

 「立てる?」

 「あっ……は、はい!えっと、その……」

 

 ……?なんだろう、ジッと見られているような気がする。

 いや、それよりもこの子とケガ人を避難誘導しないと────

 

 「……ユカリ」

 

 なんて声をかけてあげるべきか。

 よくやったと褒めてあげるべきか、それとも危ないでしょと注意をしてあげるべきか。

 

 いずれにしてもそのどちらかを私は口にする筈だ。

 そんな当たり前のことを考えながら、ようやっと口を開く─────

 

 

 

 「…………どうしてすぐに動くことが出来たの?」

 

 

 

 ───あれ、何を聞いてるんだろう、私。

 

 そう思っても、この口は潤滑油を撒かれたかのように止まることを知らない。

 

 「炎に囲まれて、こんな得体の知れない化け物に襲われて……怖くない筈がない、不安に思わない筈がない。なのにどうしてあなたは……」

 

 私がこの子に発した言葉は労いの言葉でもなければ注意の言葉でもない───ただ、私の中に蠢めく、なんとも自己中心的でエゴイズムな質問だった。

 

 でも、きっとユカリの答えは私が求めているモノ(答え)だ────そんな確証のない確信があった。

 

 「………身共が動けた理由……考えるまでもありませんの!」

 

 “ババン!” と効果音が聞こえてきそうないつものポーズを取り、昂然とその先を口にした。

 

 

 

 

 

 「身共はただ、身共の気持ちに従っただけ!!動けた理由なんてそれだけですの!」

 

 

 

 

 

 あまりに純粋で、あまりに真っ直ぐな言葉。

 しかし、ユカリの言葉を聞いた瞬間、まるで喉に刺さった小骨が抜け落ちたような感覚があった。

 

 「……そっか。うん、やっぱりそうだよね。ありがとう、ユカリ。おかげで迷いは吹っ切れたよ」

 「え、えぇ!?いえいえ!むしろお礼をしなければならないのは身共の方で……!そ、その、ありがとうございました!」

 「気にしないで。これは百花繚乱として───いや、違うね。1人の人間(御稜ナグサ)として、未来の後輩を助けるっていう当たり前のことをしたまでだよ」

 「み、未来の後輩ですか!?身共が!?」

 

 あれ、違ったのかな?

 私とサドさんと会話してると必ず百花繚乱のことが話題に上がってたから、てっきり入部してくれるのかと思ってたんだけど……

 

 「み、身共!絶対に百花繚乱に入部させていただきますの!!絶対に!!」

 「う、うん……楽しみにしてるね?」

 

 なんだろう、すごく目がキラキラしている。

 

 「なら今日は百花繚乱の期待の新星、勘解由小路ユカリの初任務でございますね!まずはこの方を安全な場所にまでお届けしますの!」

 「あっ、待って、ユカリ。あなたにもう1つ言いたいことがあって……」

 

 やる気になってるところ急ブレーキをかけるみたいで悪いけど、どうしても言いたいことがあってね。

 

 

 「ユカリ」

 「は、はい!」

 「自身を顧みず誰かのために身を投げ出したその姿勢───」

 

 

 

 

 

 

 

 「────すごく、格好よかったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 叱るわけでもなく、正論をぶつけるわけもなく、ただこの子を褒めてあげたかった。

 私なんかよりも早く自分に出来ることをすぐに行動に移したこの子を褒めてあげることぐらいはしてあげたいと、そう思った。

 

 「その人のこと、頼める?」

 「ッ、は、はい!この“えり〜と”な身共にお任せ下さい!!」

 

 またしても“ババン”と効果音が聞こえてきそうなポーズを取り、そのまま女性を背負って郊外の方へと走っていった。

 

 ……本当にすごい子だ。こんな状況の中でもいつもの自分を見失わずにいられるなんて。

 だからこそ、あなたに任せられる。

 

 「……ふふっ、カッコいい先輩の後ろ姿だったね」

 「情けないの間違いじゃなくて?」

 「ううん、そんなことないよ。むしろ今のナグサはカッコよく見えるな。なんか良い意味で吹っ切れたというか、憑き物が落ちた感じがしているなって」

 

 ……そうだね。そうかもしれない。

 

 どんなに演じても、欺瞞で溢れていたとしても、本心まで騙すことは出来なかった。

 この本心のためなら義務も責任も全部捨て去れると今になら思えるから。

 

 嗚呼、なんて自分勝手な人間なのだろうか。

 でも、それが()を人たらしめてくれる。私がただの人形ではなくちゃんとした人間なのだと教えてくれる。

 

 

 

 

 

 ─────アヤメはアヤメ。お前はお前だ。

 

 

 

 

 

 私はアヤメのように完璧にはなれなかった。

 完璧な選択を取ることが出来なかった。

 アヤメの幼馴染として間違った選択をしようとしている。

 

 でも、それでよかった。

 

 ───この答え(選択)()()してくれる人がいるのなら、私は何度だって選ぶことが出来る。

 

 「……どうやら覚悟が出来たみたいだね。じゃあ改めて聞こっか。ナグサはどうしたい?」

 

 さっきまでは持ち合わせていなかった答え。

 しかし、今ならその答えを胸張って言える。

 

 だってここに立つ私は完璧な幼馴染を演じる“御稜ナグサ”でもなければ、百花繚乱の“御稜ナグサ”でもない。

 

 

 

 

 

 「────私はサドさんを守りに行く」

 

 

 

 

 

 ───ただ大切な人を守りたいだけの、ただの“(御稜ナグサ)”なのだから。

 

 「うん!そう言ってくれると思ってた!ほら、早く行こうよ!」

 「え?じ、自分で言うのもあれだけどアヤメはいいの?私に合わせなくてもいいんだよ?」

 「合わせてなんかいないよ!私だってさっきからサドさんのことばかり考えてるんだからさ!」

 

 ………それはそれで複雑。

 でも、アヤメも来てくれるのなら心強いなんてレベルじゃない。

 

 「よし、行こう!」

 「うん……!」

 

 新たな覚悟を胸に燃え盛る街を駆け出した。

 ───私に絡めついていたしがらみ全てを、そこに置いていくかのように。

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 アヤメとナグサが来たことで形成は逆転した。

 

 元々ワカモ単体でどうにかなりそうだったのを、同レベルのヤツが2人も来たのだ。もはや戦力過多レベルだった。

 ただ、やはりというべきか、斃れる癖して何事もなかったかのように動き出す。おかげで至る所に落とし穴を作りまくったぜ。コイツら、物理法則は通用するらしいからな。

 

 「ククッ、お前らが来てくれて助かったぜ!サンキューな!」

 

 俺だってまだまだゲームを楽しみたいからな!こんなすぐにゲームオーバーなんて洒落になんないっての!

 

 「い、一応お礼は申し上げておきますわ。サド様を守ってくださり……あ、ありがとうございます……」

 

 フハハっ!此奴め、素直に礼を言えぬからと俺を出汁にしてきたな!まったく、とんだツンデレなヤツだぜ!

 

 「ううん、2人とも無事でよかった」

 「というかすごい数だったね。サドさん、あの傘たちに何かしたんじゃないの?」

 「ククッ、こればかりは遺憾の意を示したいなァ!」

 

 何でもかんでも俺のせいにしてると痛い目に遭うぞ!

 

 「さて、まずは第一目標である『サドさんとの合流』は完了出来たわけだし、次はこの火災をどうにかしないと……」

 

 そう言って周囲を見渡すアヤメに倣うように、ナグサとワカモも今も燃え移っている炎を見遣った。

 

 ここで『大丈夫大丈夫!だってこの火は作り物だから!』なんて水を差すようなことは言わないぜ、俺ァ。

 ガキどもがガキどもらしく真剣に取り組んでいるんだ。ならばそれを背後から腕を組みながら眺めるのが“大人”───ひいてはガキどもを束ねる“主人”である俺の役目だろう。

 

 「幸い、火災はまだこの商店街地区だけで済んでいるから、他の地区に燃え移る前に消火活動をしないと……」

 「しかし、その役目を果たせそうな消防車等の消火機器は現在地から程遠い場所にありますわ。とてもではないですが時間が……」

 「う〜〜ん、困ったな〜」

 

 あぁ、確かにここから非常用ホースがある場所は結構遠いよな〜。

 え〜っと、確か今日はシズコをはじめとする百夜堂メンバーが係員として付いていたっけか。その中には当然あの問題児もいるわけで少し心配していたんだが………

 

 ………………ククッ、何故だろうか。すごく嫌な予感がするぜ……

 

 

 

 ───────ファンファンファン

 

 

 

 遠くからサイレン音が鳴り響く。

 俺も、ガキどもも。例外なくその音がする方向へ顔を向けると───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ん、消火活動」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────消防車の上にシロコが立っていた。

 

 

 

 ────火も、家も、屋台も、何もかも水びだしにしながら。

 

 

 

 「あっ、サドいた」

 「え!?サドさんいた!?どこどこ!?」

 「委員長!?ちゃんと前向いてください!!」

 「お頭〜!!大丈夫デスか〜!!」

 

 

 

 ───百夜堂メンバー、ド派手に参戦。

 テロップを付けるならこんなモンか。

 

 それにしても………オイオイ、お祭りは無礼講とはよく言ったモンだが、流石にイベントで街中破壊して回るってのは………それは、それはなァ──────

 

 

 

 「最高だぜ!!お前ら!!!」

 

 

 

 ええい!!もうままよ!!後で俺がコクリコ+その他“大人”どもから怒られておくからお前らは好きに暴れろッ!!

 そうだ、それこそが───この虐待王である男の“道具”というモンだぜ!!

 




ユカリ=サンは圧倒的光属性の“道具”……!はっきりわかんだね……
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