汚いガキどもを見つけたので虐待することにした。 作:史上最恐の悪役
やっぱ真の虐待者って、こんな結末しか辿らせてくれない“運命”なのかもしれねぇな……(執筆後の感想)
奔る、奔る、奔る。
燃えゆく屋台の間を一直線に走り抜く。
そこには私がサド様と訪れた屋台も存在しており、心に宿る真っ黒な炎に薪を投げ捨てられるのを感じながら、ただひたすらに向かう。
もはや真反対と言える位置です、もう彼方の戦況など感じられないため、現在のサド様がどうなっているのかなどこれっぽっちも分からない。
ただ、何か凶悪な存在が出現したということ以外は、何も。
………気にならないと言えば嘘になるでしょう。
事実、後ろを振り返ってしまえばすぐに引き返してしまうであろうことは目に見えている。
だからこそ、私は振り向かずに一直線に向かうのです。
何故なら、私はあの御方からご命令を受けたのですから。
サド様が私を信じて送り出して下さった───ならば、それに応えるのが私のすべきことでしょう。
何も果たさず、ご命令も無視して蜻蛉返りなど、それは忠義でも想いからくる行為でもなんでもなく、ただの自己満足となってしまう。
サド様から課された使命を全うしなさい、狐坂ワカモ。それが私があの方に見せる愛の形でしょう。
「見えた……っ」
ほぼ真反対の戦場は、まさしく混沌という文字が似合うものでした。
傷つきながら戦う生徒たちと、跋扈する魑魅魍魎ども。それらが混ざり合い、一種の風物詩が出来上がっているとすら思える。
「加勢に来ましたわっ!!」
「ん?!ワカモじゃん!こりゃあ百人力なんてもんじゃないね!」
サド様の自称御弟子であるレンゲさんが私の姿を確認すると、より獰猛な笑みを浮かべた後に、周囲に知らせるように大きな声で歓迎して下さいました。
レンゲさんの声は大きくてよく通る。そのため、一々仲介しながら伝令をしなくても済むというのが利点ですわね。
「ワカモ……!?なんであんたが……」
「サド様のご命令ですわ。此方に加勢せよと」
「ッ、そう……私を信じられないってわけ……?」
悔しそうに奥歯を鳴らすキキョウさんを一瞥し、なるべく感情を乗せないように口を開いた。
「………サド様は私を送り出す際、自身が“主”であるから、自身よりも此方を優先したいと仰っていました。癪ですが、サド様はあなたを信じていたと思いますよ。それでも、私を援軍に送り出すことを決断したのでしょう。曲げられない“なにか”のために」
「……何よ、それ。あんたには
「いいえ?私如きがあの御方の御心を読み解けるなど、そのような無礼を申し上げられるわけもありません。ただ、
「…………」
さて、話もここまで。
私は何もメンヘラ猫のメンタルケアをしに来たわけではありません。
ひとまず、この塵芥共は通常の攻撃は通用しないこと。しかし、物理法則は通用するため、落とし穴や瓦礫の下敷きにするのも良い策だということを伝え、状況を見渡すために戦場を駆け回る。
「しかし、何故こんなにも塵芥共が……」
ここ一帯の戦場は主に二分される。
1つは私が現在いる北エリア。ここにはほぼ全ての生徒たちが一箇所に集められていて、その数に比例するかの如く化け物共が出現している。
そしてもう1つは南エリア。此方はサド様がいらっしゃるエリアであり、少数でありながら精鋭を集めたチームが集ってサド様をお守りしている。
改めて戦況の整理をしていて───ふと違和感を感じる。
それは
普通ならばもっと各所で点々と相対している筈なのです。なのに、こうも一箇所に集められて闘っている現状………途轍もなく不気味であると言う他ありませんわ。
……思えば、こちらへ向かってくる最中も人を一切見かけなかったですね。
自然とこうなった?いいえ、戦場においてそれはあり得ない現象です。戦場とは常に混沌であるべきで、今の戦場はあまりにも
僅かな疑問は徐々に膨らみ続け、私はもっと周囲を隈注意深く観察することにした。前を、背後を、屋根を伝って上からでも、敵の動きを見る。
そして、その勘は当たることとなった。
「あれは………隊列?」
南方方面に、戦闘に参加せず、ただ一列に隊列を成している集団を見つけた。それはまるで“
この扇の陣は何を意味するのか、私には分かりません。ですが、彼女ならば或いは───
「キキョウさん、お伺いしたいことが」
「……なに?」
私はキキョウさんに詳細を話す。すると、ほんの僅かに目を見開き、すぐさま扇の陣が出来上がっている方角へと顔を向ける。
「……ねぇ、その陣の外側に人はいなかった?」
「えぇ、いなかったですわ。誰一人」
「ッ、やっぱり……ッ!」
キキョウさんの顔が焦燥を塗りたくったような顔色へと変貌する。その鬼気迫る容貌は、私をもほんの僅かに引かせる程の迫力が込められていました。
「ワカモ!すぐにあの人のところに戻って!」
「え?いえ、ですから───」
「やられた……多分ここにいるヤツらは全部ダミー!私たちを
「ッ」
ここでふと、先ほどの禍々しい威圧感の出現を思い出す。
アレは私があの場を離れた瞬間に出現したように思える。まるで狙っていたかのように、これ以上ないタイミングで。
もし、もしもキキョウさんが仰ったことが本当なのだとしたら、私は────
「みんな!ここから真っ直ぐに道を作るよ!」
「道ィ!?どういうこと!?」
「疑問に答えてる時間はない!サドが危ないの!」
「ッ、分かった!!みんな、やるぞ!!」
『おぉ!!』
作戦の意義も何も理解出来ていないというのに、すぐさま動ける統率の高さは驚嘆に値する。
そして、見事な連携を以て、数秒後には扇状に展開されていた壁に1つの穴をこじ開けた。
「行って!!」
「なんだかよく分かんないけど、師匠を頼むぜ!ワカモ!」
「ッ、はい!!」
私が敵に邪魔されぬよう行けるように作られた穴。その道をただひたすらに駆け抜けた。
「くっ!?コイツら、ワカモを追おうとしている……!?」
「やばっ!?あっちの妨害が崩れて何体かワカモを追い始めたぞ!追いかけないと───」
「無理にそいつらを追おうとしないで!今はこれ以上追わせないことが大事だから!」
背後から触手のような黒い布を伸ばしながら攻撃してくる雑兵を目にする。
数は数体。今はまだ攻撃範囲外であるらしいですが、いつリーチが届くようになるか分からない状況。しかし、ここで立ち止まるわけには───チッ。
「増えましたわね……」
前方から奇妙な音と共に背後から更に湧き出る。私の周囲を囲むように、およそ10体程の化け物が鎮座している。
なるほど、どうしても私を彼方へ向かわせたくないと。
私は咄嗟に、
『サドさん、見て下さいませ!この綿飴……すごく美味しいですわ!』
『何味だァ?……なるほど、パイナップル味とはまた珍味なモノを作っていやがるな……。ククッ、俺も買うぜ!』
『ふふっ、是非に!』
───目の前にはあの方と赴いたお店があったから。
「くっ!!」
ほぼ無意識に銃へと持ち換えて、銃弾を浴びせた。
消滅はしませんが、足止め程度には動きを鈍らせることは出来たでしょう。ただ……
「…………」
手が震える。呼気も荒く、瞼も痙攣し始める。今の奇行に対する思考が終ぞ途切れない。何故爆破しなかったのか、その答えを必死に探し求めている。
壊すのは得意分野であった筈では?それに、明らかにそちらの方が効率的でした。なのに……どうして私の体は動かなかったのでしょうか。
………考えても仕方ない。今は早く彼の元へ行かなければ。
その後も道中に何度も敵と遭遇し、その度に爆破出来なかった。
この街にある至る場所は
あの綿飴屋も。
あの玩具屋も。
あの和風庭園も。
あのお土産屋さんも。
あの屋台も。
あれも。
これも。
それも。
全部、全部全部全部が………私にとってかけがえのない思い出が詰まった場所ばかり。
壊したくない、穢したくない場所ばかり。
『それでもじゃよ。儂にとってこの街は生まれ育った場所での、至る所に
────またしてもあの言葉が反芻する。
どうして今思い出したのか、この記憶は何が言いたいのか……私には分からない。
ただ、あのご老人が語った言葉が、前以上にいたく痛感しているのだと身に沁みて分かった。
駆ける、駆ける、駆ける。
改めて街を駆け巡ると、よくこの短い期間でこれだけ多くの場所に訪れたなと、私事でありながら驚嘆の限りで御座います。
かつては破壊と略奪でしか悦を見出せなかった私が、今では誰かに寄り添い、分かち合う日々を送っているなんて誰が想像出来たでしょうか。
もともと1人でも生きていける性分ですし、誰かに拒絶されても然程興味もなく受け流せる性格なので、今から元の生活に戻れと言われてもあまり抵抗感なく戻れることは出来るでしょう。
………ただ、今はあの日々に戻りたいとは思いません。
だって、本当の幸せを知ってしまったのですから。
破壊や略奪よりも心を夢中にさせてくれる殿方を見つけたのです。どんな物よりも惹きつけてやまない殿方を。
平穏で、ありきたりで、何もない日々であったとしても………あなた様が隣に居てくだされば、その日はこれ以上ない至福のひと時となるのです。
あなた様さえいれば何もいらないんです。本当に、何もかも投げうってでも叶えたい想いがあるから───
奪わせやしない。取り立てなどさせやしない。
これからも、サド様と共に────
「サド様ッ!!!」
屋台を駆け抜けて、広く捌けた広場へと躍り出る。
先ほどよりも戦火が広がっていて、ありとあらゆる場所に火が付いている。
まさに地獄絵図と評せる場所────その中心地に彼はいた。
この世のものとも思えぬ化け物が、大口を開けて彼に迫っている姿も。
「サドさ────」
周囲の時間がゆっくりと流れていて、とても静かだった。
ただ、その静けさすらも底知れぬ恐怖を感じた。
その時、サド様が私を見た。
彼は何も告げず、ただ右手の親指を突き上げる姿を見せるだけで────
「あ」
伸ばした手は虚しく宙を切り。
サド様はそのまま異形に喰われた。
ちなみにですが、以前の彼女のように全てを壊すことが出来たなら余裕で間に合ってました。
あの時ワカモが思い出に縛られず、何もかも壊して進んでさえいれば、彼は喰われることもなく、完全無欠のハッピーエンドを迎えていたでしょう。
そして、いつしか彼に想いを伝えて、共に生きていく未来もあったかもしれません。
でも、そうはならなかった。ならなかったんだよ、ワカモ。だから───この話はここでお終いなんだ^^