汚いガキどもを見つけたので虐待することにした。   作:史上最恐の悪役

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前回のサド視点です!
ちょうどいい区切りが見つからずちょっと長くなってしまいましたが、ゆっくりと読んでいただければ幸いです!


第45話

 

 

 

 

 

 ────時刻はほんの少し遡る。

 

 

 

 ワカモを送り出してから数刻もしない間にとんでもない化け物が出てきやがった。

 その姿はまるで化け猫だ。明らかにこの世のものとは思えない図体と不細工な容姿がなければ辛うじて猫と言える程度だが。

 

 そして、相変わらず銃が効かねェ。この図体から繰り出される攻撃は並のモンじゃねェってのに、有効打もないとありゃまさに八方塞がりだろうが。

 

 「ナグサとアヤメは急所の顔面をひたすら撃て!フィーナとウミカは後方サイドから前足に砲台を当てろ!そんでシズコとシロコはさっき持って来た消防車でコイツに突進してみろ!!」

 「はい!───って明らかに私たちの指示だけ可笑しくない!?それって本当に意味あるの!?」

 「今は時間が惜しい。早く行くよ」

 「シロコに正論言われた……」

 

 ククッ、流石はシロコ、俺の機嫌をこれ以上損なわないように必死にカバーしたな。

 シロコはより長く調教してきたお陰か、すぐさま俺の命令に従う体になっちまったが、どうやらシズコはその領域に至っていないらしい。

 ククッ、まさかここで意識の差が出るとはな……後で要虐待だぜ!

 

 ちなみに思いっきり救急車で轢いてみたが丸っきり効果なしだったぜ。どうなってんだコイツら……

 

 「………ダメそう?」

 「あぁ、とにかく普通の攻撃ではダメだということはよく分かった」

 「結局さっきの状況から何ひとつ変わってないってことよね、それ……」

 

 その通りだが……やはり不自然だ。

 ヤツが、というより魑魅魍魎共にも言えることだが、物体であるというのなら必ず損傷は起こり得る筈だ。だが、どうにも銃痕跡すらも見当たらない。

 当たっているが当たっていない……まるですり抜けているような─────

 

 「やっぱコイツら特攻の武器とかあるんじゃねェかな〜……」

 「───あっ」

 「あ?」

 

 明らかに思い当たる節のある反応をしたよなァ、アヤメ………さっさと教えやがれってんだ!!

 

 「………歴代の百花繚乱委員長にはその証として“百蓮”が授けられるんだけど、その銃の逸話に“幽霊を捕らえることの出来る銃”っていうものがある………けど、何処まで本当なのか……」

 「どういうことだ?」

 「クズノハ様関連のお話は御伽話のようなものが多い。だから、私たち(百花繚乱)にとってもクズノハ様はただの言い伝えだけの存在なんだよ」

 

 …………ん?クズノハ?今クズノハって言ったか?何でここで俺の友達の名前が出てくるんだ……

 まぁ、多分同名のヤツだろ!

 

 「でも、今は噂でも何でもやらなきゃいけませんよね?とにかく“百蓮”を持つ委員長を───」

 「それがダメなんだよ。さっきから連絡してるんだけど、一向に既読がつかない」

 「…………ねぇ、それって……」

 「ん、死んだと思う」

 「縁起でもないこと言うなッ!!」

 

 なるほどな、つまりもう既に()()()()()()と考えた方が良さそうか。

 ヤツの唯一の弱点であろう銃の持ち主から真っ先に叩くとは随分と本気じゃねェか、シュロさんよォ。

 

 「な、なら早く委員長さんがいる場所を探して“百蓮”を回収しないと……!」

 「………………無理だよ、どのみち」

 「え?」

 

 その声はまさしく“諦観”に満ちた声だった。

 いつもの頼り甲斐のあるアヤメは何処へやら、まるで別人のようになってしまったアヤメは言葉を続ける。

 

 「回収しても使えないんだ、私たちには。アレはクズノハ様に認められた者にしか使えない代物。だから……」

 「つまり………どういうことデスか?」

 「………詰み、って意味だね」

 

 巨大な地響きと共に近づいてくる化け猫とは正反対に、ウチのガキどもときたらすっかりお通夜モードに突入してやがる。

 ククッ、なってないな、お前ら!!

 

 「たかが手段の1つが潰えただけだろうが!まだ諦めるのには早いんじゃねェか?」

 「そ、そうですよ!もしかしたらまだ他に方法が────」

 

 ここでふと、闇のようにドス黒い気流が周囲を漾っていることに気がつく。

 それには“流れ”があった。まるで何処かに集まっていくかのような“流れ”が。

 触れても何ら感触はない。ただドロりと霧散していくだけで、人体には危害を与えないモノらしい。放っておいても問題ないだろう……そう思えたならばどれだけ良かっただろうか。

 

 ───予感。それは悪寒だった。

 

 その“流れ”の先、そこにヤツがいた。愉快気に音を鳴らしながら近づいていたのに、ふとしたら石像のようにピタリと止まっていた化け猫が。

 俺たちから十分離れた距離にいるアイツは口元に真っ黒なエネルギーを集め、凝縮させていた。それが先ほど触れた黒の奔流の()()()であろうことは五感の全てから感じ取れる。

 

 

 あぁ、なるほど───コイツ、遠距離攻撃出来るのかよ

 

 

 次の瞬間、直撃不可避の超エネルギー砲が放たれた。

 俺はアイツらへ退避命令を出すことも叶わず、その衝撃波によって後方へとふっ飛ばされるのであった。

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 ────起きよ、七稜アヤメ。起きて闘うのじゃ。

 

 

 

 誰かの声が聞こえる。

 それはまるで母親が子供に言い聞かせるような声だった。とても安心するような、だけど何処か厳しさも持ち合わせているような声だ。

 

 あなたは誰なの?ここは何処?なんで私の名前を知ってるの?

 

 

 

 ────そのような瑣末事なぞどうでもよかろう。今は妾がおぬしに言問うておる。立って闘えとな。

 

 

 

 ………無理だよ。だって、全身が痛いんだもん。

 もう起きたくない、立ちたくないよ。ずっとこのまま寝ていたい。

 

 

 

 ────ならば全てを諦めるのかえ?其方の友も、古馴染も、何もかも。いつものように、おぬしが(みな)を救わなくてもよいのか?

 

 

 

 ………あなたは私になにを期待しているのか分からないけど、何度言っても無駄。私にはもう手に負えない。私ではみんなを助けられないよ。

 それに、私じゃなくたって、きっと全部委員長が解決してくれる。あの怪異だってきっと……

 

 

 

 ────くふっ、怠惰甚だしいの。ここに来て他力本願とは軟弱千万、豪語道断ものよ。

 

 

 

 ……なら、どうしろっていうの?

 弱点はない、頼みの綱である委員長もいない。

 どうして私に頼むの?どうして私だけに頼るの?私じゃなくてもいいじゃん。何で私ばかり責めるの?

 

 あんな化け物相手にどうすればいいか分かんない。もう何にも分かんないよ……

 

 

 

 ────少なくともそうやって這い蹲っているうちは何も起き得んし、何も変わらんぞ。それに……ほれ。あやつは諦めてなどおらんようじゃしな。

 

 

 

 あやつ……?あやつって誰のこと……?

 

 

 その時、遠くから声が聞こえた。

 

 

 

 『オイ、アヤメ!起きろ!起きろアヤメ!早く起きないと頬ぷにぷにするぞ!!』

 

 

 

 …………サド、さん。

 

 

 

 『やってやろうぜ!アヤメ!()()()()アイツを倒そう!』

 

 

 

 ッ、だから……私には無理だって────

 

 

 

 『知るかボケナス!いいか?たとえお前自身が無理だと言ってもな、俺はお前を信じている!お前なら出来る!お前1人で無理なら俺がいる!俺たち2人なら絶対やれる!何故なら────』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────お前は俺の最高の“道具(相棒)”なんだから!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは純粋な信頼だった。底抜けの光ある言葉だった。

 とはいっても、相変わらず“道具”扱いなのは変わらないけど……ただ、それでも嬉しかった。

 

 『何があっても(お前)を信じる。だけど、もし無理だと言うのなら自分()が付いている。これで怖いものなしだ』

 

 そんな夢みがちな子供のような言葉を、臆面もなく言えるなんて………

 

 

 

 「ほんと、サドさんって………」

 

 

 

 …………………ズルい。ズルいよ、サドさん。

 

 

 そんなこと言われちゃったら…………“絶対に応えたい”って思っちゃうじゃん。

 

 

 ………帰らないと。みんなが────サドさんがいる世界に帰らなきゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───()れる。()れる。()れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真っ白な世界が音を立てて崩れていく。

 

 

 そうして割れた世界の先には────桃源郷があった。

 

 

 緑は生い茂り、透明な水の中で魚がイキイキと泳いでいる。陽と陰が混ざり合う空は、まるで星空を眺めているかのように綺麗で───まさに理想郷と呼ぶに相応しい場所だった。

 

 そんな世界にひとつの人影が現れる。

 

 顔は陰がかかっていて見えない。ただ、その背丈はとても小柄で、狐の耳のようなシルエットが見えた。

 

 

 

 「最後に問おう。一度諦めて地に伏せた其方が、一体何のために闘うのじゃ?何のために戦場に征く?」

 

 

 

 ……確かに、私は一度諦めた。

 

 友達も、幼馴染(ナグサ)すらも諦めて、何もかも全部誰かに丸投げてしまった。

 今まで頼られてきたことに喜びを見出していた癖に、そんな自分に酔ってた癖に、ちょっと苦境に立たされただけで、どうして自分ばかり頼るのかと不平不満すらもぶち撒けた。

 

 私は弱い。ちょっとしたことですぐ崩れる。無理して仮面をつけて、醜い感情すらも蓋をして、誰かに本当の私を晒すのが怖くてずっと逃げていた、未熟な私。

 

 だけど、そんな私を見てくれる人がいる。知ってくれる人がいる。信じてくれる人がいる。一緒に闘ってくれる人がいる。

 ほんの少し崩れただけで全てが崩壊してしまうような弱い私を、関係ないと言わんばかりに否定して信じてくれる。

 

 なら、私は─────

 

 

 

 

 

 「────私は……()()()()()()()()()のために闘うよ」

 

 

 

 

 

 「………()いな。実に()い。なんとも()()()の答えよ」

 

 

 

 別にあなた好みの解答をしたかったわけじゃない。

 

 

 

 「分かっておるわ。もし其方がありきたりでつまらぬ妄言を喚こうものなら、おぬしに()()()を託そうとは思うてのうしの」

 

 

 

 ……この銃?何を言って───

 

 

 

 「鈍い後輩じゃな。仕方なし、そろそろ彼奴も限界が来る頃である故、今ここではっきりと告げようぞ」

 

 

 

 ───日が昇る。

 

 その光は、私と眼前にいる誰かだけを照らし出す。

 

 

 

 

 

 「百花繚乱紛争調停委員会───初代委員長クズノハが()()()。七稜アヤメよ、その“百蓮”の力を以て正義を示し、あやつの守護者となるのじゃ」

 

 

 

 

 

 クズノハって……ちょっと待って───

 

 

 

 咄嗟の呼びかけも虚しく────世界は崩れ、光が霧散する。

 

 その光は灯火のような暖かな光。希望に満ち溢れた光だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……ふむ、行ったか。一先ずこれでどうにかなるじゃろうて」

 

 

 

 「しかし、本来あやつ(七稜アヤメ)はアレを握る資格を持ち合わせておらぬと思うておったが………またしても其方が運命を変えたのかえ?のう、サドよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「────ぁ……こ、こは……」

 「ようやく起きたかこのすっとこどっこい!!遅いわ!!」

 「サド、さん……ッ!?」

 

 目が覚めたらお姫様抱っこされているんですけど!?

 ただ、ちょっと冷静になって周囲を見てみれば、彼の服は所々で破けた跡があり、肩越しに背後へと目を向ければ、まるで餌を追い詰めるライオンのように疾走してくる黒猫の怪異の姿が目に映る。

 ……きっと私を庇いながら逃げてくれていたんだ。

 

 「ありがとう、サドさん」

 「ハンッ、なんのことだか。俺はただお前を抱えて持久走しているだけだぜ!」

 

 結構無理あると思うな、それ。

 でも、そんな気遣いもすごく嬉しかった。

 

 「他のみんなは?」

 「あぁ、他のヤツらは全員伸びちまったようだぜ。何とか確認しに行きたいが、今はお前を連れて逃げ──じゃなくて走るのに精一杯だ」

 

 ………改めて考えても絶望的だね。勝率なんてほぼ0。誰もが匙投げる状況だ。

 

 だけど、不思議と今はこれっぽっちも“勝てない”なんて思っていない。逆に体の底から力が湧いてくる。

 

 「それで聞きたいんだが………お前の手に持ってる()()はなんだ?()()()()()ってそんなんだったっけ?」

 「…………あぁ、夢じゃなかったんだ」

 

 私の手には見覚えのない銃が確りと握られていた。

 至って普通の銃。ただ、この銃から滲み出る神聖不可侵のオーラが私の評価を否定する。

 

 「これは“百蓮”。歴代の委員長たちが継承してきた、魔を撃ち滅ぼすための銃」

 「おぉ!!それってさっき言ってたヤツか!?……でもなんでお前が持ってんだ?」

 「さぁ?ただ……随分とお節介焼きな先輩に託されちゃったんだろうね」

 「……?」

 

 そんなやり取りを終え、彼にここまで運んでくれたことに感謝し、ゆっくりと腕の中から抜き出る。

 そして、彼を庇うように前へ。

 

 「ここは私に任せて、サドさんは出来るだけ遠くに逃げて」

 「オイオイ、早速俺を除け者扱いってか?言ったろ、一緒にやろうぜって!」

 「………そうだったね。じゃあ援護お願い出来る?」

 「ククッ、お前がボロボロになるまで扱き使ってやるよ!覚悟しな!」

 

 あぁ、何と頼もしいことか。彼がそばに居てくれるだけで、さっきまであった不安が何処かに行ってしまったみたいだ。

 

 化け猫が咆哮を上げて突進してくる───が、サドさんの回避指示によって難なく避ける。

 そして───

 

 「まずは足!!」

 GRUAAAAAAAAA!?!?

 

 コイツの鋭利で長い爪はかなり厄介だとさっきの戦闘で身に染みて分かっていた。

 だから最初に前足の片足を狙い、的確に潰す。

 

 「やったなアヤメ!どうやらマジで効いてるっぽいぞ!」

 「………うん!」

 

 この“百蓮”は百花繚乱の創設者であるクズノハ様が認めた者でなければ扱えない銃。

 ………本当に認められたんだ。委員長じゃないのに、みっともない姿を晒した筈なのに、何故クズノハ様は私を───

 

 「来るぞ!」

 「ッ」

 

 これまでの思考の一切を切り捨て、指示通り回避行動を取る。その瞬間、私のいた地点に闇の炎が爆発を起こした。

 

 「油断も隙もありゃしねェな」

 「うん……でも、全然心配してないよ。だって、私の側には歴戦の軍師がいるんだから」

 「パッション軍師な!それ以上言ったらキキョウに怒られるから、無駄な喧嘩したくなかったら注意しとけよ!」

 

 むしろ一緒に賛同して会話が大きく盛り上がると思うけどね。

 

 GYAAAAAAAA!!!

 

 化け猫が声を荒げ、動物性本能丸出しに突進してくる。

 そんなヤツの顔面に3発弾丸をぶち込み、怯んでいる隙に上空へと舞い上がり、真上から背中へ惜しみなく銃弾の雨を浴びせる。

 ふふっ、サドさんがやたら興奮してる。ああいうのやってみたいのかな?

 

 「次は後ろの片足だ!バランスを崩せ!」

 

 そのオーダー通り、片足の筋あたりに弾丸を撃ち込み機能を停止させる。

 

 「一旦下がってから胴体を狙え!臍部が1番いいが、横腹でもありだぜ!」

 

 私の腕を舐めてもらっては困る。当然、ほぼ角度のない位置から連続でお腹のど真ん中に当ててやった。

 

 「最後に前方の片腕を伸してチェックメイトだぜ!」

 

 もはや片足片腕の猫になにか出来るわけもなく、成す術もなく片腕を撃ち抜かれたことでバランスが完全に崩壊。倒れるように前から地に伏した。

 その巨体では片足で支えるのはほぼ不可能。攻撃手段も口からの黒い炎だけ。もはや勝ったも当然────

 

 「ッ、アヤメ!余所見をするなッ!!」

 

 ほんの一瞬だった。ほんの一瞬視界からヤツを外しただけ。サドさんとの距離を確認したくて、一瞬顔を向けただけ。

 その一瞬で───体に強い衝撃がやってきた。辛うじて視界に捉えたのは、片足を軸にして回転させながら、その長い尾で私を攻撃した瞬間だった。

 マズイ……!このままだとサドさんから遠くに引き離されてしまうだけじゃなく、万が一強い衝撃で気絶でもしたら……その時はもう……

 

 (意識を失うことだけは避けないと……!)

 

 半ば祈りながら強い衝撃に備え───誰かに抱き止められる。

 咄嗟に顔を見上げると、そこには馴染み深い顔があった。

 

 「ナ、ナグサ……!!」

 「ごめん、ちょっと寝てた」

 

 随分とボロボロだ。立っているのもやっとだろう。

 だけど、ナグサは私の危機を救ってくれた。感謝してもしきれないよ。

 

 「あっ、私よりもサドさんを……!」

 「大丈夫、もう行ってるから」

 

 もう行っている───その言葉に首を傾げたが、見れば理解できた。

 シロコだ。あの子も息を切らしながらサドさんの前に立ちはだかっていた。その姿はまるで番犬のようで、とても頼り甲斐がある。

 ………ただ、後ろから頭撫でられているのがちょっと気に食わないけど……

 

 「サドさんが無事で何より……だけど……」

 「……アレを何とかしないと」

 

 静かに怪異の方へと顔を向ければ、彼方も私たちの方へと顔を向けており、ふと視線が交わった。その夜よりも深い漆黒の瞳では隠しきれない殺気を放ちながら、それを証明するかのように口元に闇の奔流を集め出した。あの動作、構え……間違いない、さっきの光線をもう一度放つ気だ。

 多分、本来のターゲットであるサドさんより、実害のある私の排除に取り掛かろうとしているのだろう。おかげで怪異の真後ろにいるサドさんやシロコには矛先が向けられていない。

 一先ずそれは良かったけど……このままではさっきの二の舞となってしまう。早く何とかしなければ。

 

 私も“百蓮”を構える───が、上手く持てない。腕の軸がブレブレで、上手く狙いが定まらない。

 ……あぁ、そっか。私の体はとっくに限界を超えていたんだ。これまでの度重なる戦闘と、本来の能力以上の動きを休むことなく連続でやってきて、筋肉が悲鳴を上げているんだ。

 それらの代償が今、この場面って時に出てきてしまっている。なんて間の悪い。来るならもっと後にしろよバカッ……!

 

 あぁ、どうしよう。このままじゃ私諸共ナグサも……

 

 

 「───大丈夫、アヤメなら絶対出来るよ」

 

 

 ナグサは震える私の手を優しく包み込み、私の代わりに確りと銃口を定めてくれた。

 そのひんやりとした手のひらに僅かな力強さを感じながらも、私はゆっくりと流れる時間の中でほんの少しの思いを巡らせていた。

 

 ナグサ…………私の幼馴染で、大事な存在で、そして負い目のある相手。

 この子に対して負の感情を抱いていたことは否定出来ないし、否定してはいけないと思っている。それは私の罪でもあるのだから。

 でもこの瞬間、初めて同じ目線で、初めて同じ立ち位置でナグサを見れたような気がする。ようやく真心から彼女に背中を預けられている。心の底から頼りにしているんだって、本当にそう思っているんだ。

 

 

 「ナグサ────

 

 

 

 

 

 ────ありがとう

 

 

 様々な想いを胸に最後の銃弾を撃ち放つ。

 化け猫もほぼ同タイミングでエネルギー砲を放ち───衝突した。

 

 ビリビリと電流を帯び程のエネルギーのぶつかり合い。凄まじい衝撃波でその場にいることに堪えるのでやっとの中、自身の力を誇示するかの如く輝く闇と光のオーラが戦場を照らし出した。

 お互いの力は同程度。最初のうちは僅かながらに拮抗した───()()()()()()()は。

 

 光を纏った小さな銃弾は光線を真正面から突き抜け、そのまま怪物の頭部を貫通した。

 

 緊迫感のある静寂。1秒が何時間にも感じる中、警戒心を緩めることなく眼前にいる怪物を睨め付ける。

 『これでダメだったらどうしようか、次こそはみんな仲良くお花畑にいるのかな』なんて冗談にしては笑えないことを考えていると、私の祈りが届いたのか、怪物の体は徐々に崩壊を始めた。先ほどまで強烈な殺気を放っていた瞳に既に色はなく、ただ虚空を写すだけ。

 

 その光景を見てどっと肩の力が抜けた。今はただ、安堵の気持ちでいっぱいだった。

 

 「す、すごいよ、アヤメ……!本当に倒しちゃった……!」

 「ん、あれはすごい一撃だった」

 

 ナグサと、小走りでやってきたシロコは私を褒め称えてくれる。

 もちろん嬉しいよ。嬉しいけど……まだあの人から声を掛けてもらっていない。

 

 「サドさん、どうだった?私、ちゃんと出来た……?」

 「ハンッ、俺の“道具”なら当然だ」

 

 相変わらず言葉は荒く、横暴でぶっきらぼう。

 これが彼なりの褒め言葉なのだろうかと考えていると、『だがな』と付け加え、次の瞬間には頭に軽い衝撃が疾った。

 

 ───その小さな揺れは()()()()()()()()()()()故の振動だと、されてからようやく理解に至った。

 

 

 「よくやったな、アヤメ。お疲れ様」

 

 

 そう、あまりにも優しい声で言われてしまったものだから。

 もう色々と限界で、あまりにも安心してしまって、自身が出来うる限りの最高の笑顔で応えたと同時に、すぐに意識を手放してしまった。

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 「塗り替えられた、か」

 

 絶望から希望へ、惨劇から喜劇へ、涙から笑顔へ。決して覆ることのない救いのない物語であった筈が、彼と彼に呼応した全ての人間によって物語をすげ替えられた。

 なんたるご都合主義か。風情も風流かけらもない、無法の創作。

 

 しかし、()()()()()()()()()と、何処か懐かしむように瞼を閉じ、袖から少し厚みのある古びた本を取り出す。

 その本を愛おしげに撫で、感慨深い感情を抱きながら、先ほどから悶死寸前を繰り返す子供(大切な存在)に目を向ける。

 

 「それで?良いものは書けたのかえ?」

 「いひっ、いひひひひっ……!はい、コクリコ様!サド様の魅力をこれでもかと書き記された物語が出来上がりましたぁ!!」

 

 “あの人(サド)の物語を書きたい”……そうおねだりされた時は一体どうしたもんかと悩んでいたんだがねぇ……

 いやはや、こんなに都合良く百鬼夜行に訪れてくれることなんてあるんだねぇ。此方も此方でご都合主義の恩恵を受けているみたいだ。

 

 「そうかい。後であの人に見せなんし」

 「はい!サド様、手前の小説を喜んでいただけるでしょうか……?」

 「当たり前さね」

 

 さぁ、今宵の怪談の目的は達成した。

 そのひとつがこの子の執筆欲求を満たすこと。そしてもうひとつあったわけやけど………今日見た限りでは問題なく健在そうやったね。

 後はあの人とゆっくり談笑出来る時間を設けられるとええんやけど────

 

 

 「───なんやろ、アレ」

 

 

 ふと夜空に違和感を感じ、見上げれば───そこには暗い星が爛々と輝いていた。

 否、星ですらない。あれは()だ。星のように輝かしい光ではなく、不吉を予感させる深紫(こきむらさき)の光を射し、見ているだけでひどく不愉快にさせられる。

 

 

 「…………まさか───」

 

 

 確信に近い最悪の予感───その答えを証明するかの如く、黒き星は真っ直ぐにクロカゲの元へと堕ちていった。

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 ハーッハッハッハ!!楽しかったッ!!!

 

 迫力満点、スリル満点、怪しさ満点!これがアイツらが見せたかった怪談か……素晴らしく楽しい催しだったぜ!!

 

 「アヤメは寝たのか?」

 「うん、そうみたい。でも、今日は本当に頑張ったみたいだから……」

 

 そりゃあこんな大きなゲームのトリを任せられたんだ、もう体も心もヘトヘトだろう。

 ククッ、精々今のうちにいい夢でも見とけ。起きたら地獄の打ち上げ会を開く予定なんだからなァ!!

 

 さて、後はゲーム終了のアナウンスを待つだけ────

 

 

 「───うそ」

 

 

 シロコの震える呟きが鼓膜を揺らした。

 信じられないとでも言いたげな顔は、今も崩れている化け猫の方に向かれている。

 

 「どうした?シロコ」

 「────()()()

 「あ?」

 「()()()()()()()

 

 シロコが指差した瞬間───ヤツは立ち上がった。

 崩壊は止まっていない。その立ち姿に生気もない。なのに、まるで操り人形のようにゆらりと体を動かしていた。

 

 「ッ、サド!!!」

 

 シロコが俺を強引に押し倒す。

 その次の瞬間、黒い影が俺たちが先ほどまでいた位置を横切った。

 

 い、一瞬すぎて見えなかった……

 いやそれよりも、まさかコイツ………第2形態がある系のボスだったのか?

 クソッ、頼みの綱であるアヤメはあっちでナグサの膝枕を受けておねんね中、ナグサも何やら悲痛に歪んだ表情でこっちを見るだけ。まぁ、そのオンボロ具合から察するに動きたくても動けないって感じか。

 シズコ、フィーナ、ウミカも揃ってノックダウンしており、唯一動けそうなシロコはこの通り立っているので精一杯。

 

 ……………チッ、ダメか。こりゃあいよいよ打つ手なしだな。

 

 「シロコ……今回は俺たちの負けだな」

 「そ、そんなこと……ぐっ……!?」

 「ククッ、無理すんな。なんかアイツ危ないし、一応ナグサのところにでも行ってろ」

 「や、やだ……!やだッ!」

 「ってオイ!!」

 

 コイツ、腰に抱きついてきやがった!こんな場面で反抗的な態度取ってきやがって!

 つーか、何も死ぬわけじゃあるまいし、そんな迫真の演技しなくてもいいだろうが!

 

 「このままじゃヤツが────あっ」

 

 気づけば化け猫のデケェ口がもうすぐ先まで来ていた。

 コイツに喰われたらどうなるんだろ、中に休憩スペースでもあんのかな……そんな呑気なことを止まったような時の中で考えていると、背後に()()()が発生し、そこから見覚えのある手が差し出される。

 この黒い渦───これはゲマトリアでよく見かけるワープ装置だ。そして、この如何にも紳士って感じのオーラを出している手───間違いない、ゴルコンダ&デカルコマニーさんだ。

 

 そう判断して俺は、ほぼ反射でシロコをその渦の中に投げ入れた。

 シロコが信じられないような顔で俺を見るが……そんなに驚いちまったか?自身がこんなにも雑に扱われちまったことが……!!

 俺は虐待者、お前のようなガキを放り投げることに良心が痛むわけないだろ!キヴォトス広しといえどガキをここまで乱雑に扱うことが出来るのは俺だけだろうな!

 

 さぁ、これで心置きなく喰われてやる……ヤツの口が目と鼻の先まで来て、残り2秒で喰われるだろうといった時、ふとワカモ()()()ヤツが俺に向かって手を伸ばしているではないか。

 アレがワカモなのか正直分からん。だが、もしワカモならアッチの対処を終えて俺ん所に戻ってきたということだろう。

 ならば褒め称えてやらねばな!よくやった、ワカモ!!

 

 とまぁ、労りの意味を込めてグッジョブをして────そのまま意識が闇の中に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「えっ、何でお前がいんの?」

 

 「久方ぶりの再会にしては随分と辛辣ではないかえ?のう、友よ」

 

 目が覚めたら友人のクズノハがいたんだが、誰か説明を求む。

 




虐待者、死───んでない!?
悪夢はまだまだこれからだっていうのかよ!?
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