汚いガキどもを見つけたので虐待することにした。 作:史上最恐の悪役
今章最終話です!今話は全体的に重いです!
今日も変わらない1日が始まる。
いつも通りの時間に起きて。
体力がつく朝食を食べて。
今日の百鬼夜行のニュースを見て。
歯磨きして。
エプロンに着替えて。
準備して。
百夜堂のお掃除をして。
それから、それから、それから────
「───あれ、なんで私……」
気づけばサドさんの部屋の前にいた。
………あぁ、そうだった。
サドさんとシロコは2人揃ってお寝坊さんだと知ったときは頭を抱えたものだ。
サドさんは『なんか暖かいから』、シロコは『ん、サドと一緒に寝ると快眠』とか言い訳にならない言い訳をして、結局私が叩き起こしに行くのがいつからかお約束になって。
ギィ、と音を立てながら扉を開ける。
そこには
乱雑に捲れた布団、適当に散らばっている紙類、その日出す筈だったゴミ袋。
この場所だけがあの日から取り残されたままだ。私が望んでいた日常、もう戻ってこない大好きな日々───その全てがここにあった。
「サドさん、どうしてくれるんですか。私、百夜堂のオーナーになっちゃいましたよ?」
サドさんとシロコがいなくなって早数ヶ月経った。
サドさんとシロコは行方不明として処理された。目撃者がごく少数で、かつ意識も曖昧だったこともあってそのように解釈されてしまったらしい。百鬼夜行の伝承や土地柄的に、神隠しのような怪談があっても不思議ではないかもしれない。
だけど、掠れる意識と視界で見たものは………
「ッ………?あれ、なんだろう、これ」
嫌な記憶を払拭するように頭を振るっていると、ベッドの端に写真立てが下に閉じられているのを見つけた。
サドさんに写真収集の趣味はなかった筈。ならば、これはシロコのだろうか?いや、シロコにもそんな趣味は……
そう思いながらうつ伏せになっている写真立てを手に取って───
「─────ぁ」
そこには、いつの日か撮った百夜堂メンバーの集合写真が。これは確か……フィーナとウミカが百夜堂で働くことになった初日に撮ったものだったっけ。
今見てもヘンテコなポーズだと思う。だけど、みんな笑顔だ。ウミカも、フィーナも、シロコも、そして私も。
………あはは、久しぶりに見たかも、
私の大切な
私の大好きな
心にぽっかり穴が空いたような虚無感。スースーしてて、他で埋めようにもどうしたって埋められない。
私の大切な、大切な────
「委員長?もうすぐでオープンですが───い、委員長!?大丈夫ですか!?」
「部長!?どうされたんデスか!?」
「えっ?」
ウミカとフィーナが焦りながら駆け寄ってくる。何故かあの子たちの姿が霞む。生暖かい何かが頬を伝った。
───あぁ。私、泣いてたんだ。
「う、ううん!なんでもない!ちょっと目にゴミが入っただけ!」
「で、ですが……」
「大丈夫大丈夫!すぐ行くから下で待ってて!ね?」
「………分かりました。行きましょう、フィーナ」
「部長……」
情けない。あの2人だって割り切れている筈ないのだ。なのに、オーナーである私がこんなウジウジして。
……だけど、どうしても、どうしようもなく。
「……ッ、サド、さんっ。シロコぉ……」
◇◆
『お前ナグサっていうのか!俺はサド!今日からしばらく厄介になるぜ!よろしくなァ!!』
……サドさん。
『おいナグサ!!なんか店継ぐことになったんだけどよ、試しに葱鮪作ってみたんだが食うか───ってもう食った!?あ?うめぇってか!ククッ、まだまだあるからじゃんじゃん食え!!』
サドさん。
『ナグサァ!!最近寒くなってきたなァ!!つーことでこのアッツアツの鍋、一緒に食うぞ!無論、シロコとシズコも一緒にアッツアツの灼熱地獄を体験してもらうがな!』
なんでもいい。どんな仕打ちでも受けるから。
だから……どうか……
『今日も来たのかナグサ!!今日はどうした───あ?なんか元気ねェな。俺の“道具”ならいつでもいい悲鳴を上げれるように常に元気でいろ!話聞いてやるから早く元気になれ!』
私は……
『アヤメはアヤメ、お前はお前だ。お前にはない長所をアイツが持つように、アイツにはない長所をお前は持っている。つーかお前も周りから好かれてるしな!……だからそんなシケた面すんな!分かったか!!』
「─────」
…………夢を見た。
彼の夢───まるで走馬灯のように駆け巡って、とても切ない夢だった。
「………ずっと夢の中にいれたら良かったのに」
叶いもしない願いを口にしながら支度をし始める。今日も百花繚乱の巡回がある。急がないと───
彼がいなくなっても時間は止まってくれない。
百鬼夜行はますます発展していくだろうし、争いごとも絶えないだろう。そして、私たち百花繚乱が鎮圧して、誰かに感謝される。きっと、これからもずっと、そんな日々が廻っていくんだ。
ただ、あの日から街の雰囲気が一段と暗くなったように思う。
真実を知る人間は限られている。私もその1人だけど、今も事実を受け入れきれないでいる。
サドさんを飲み込んだ黒い猫は忽ち黒い粒子になって消えて、サドさんの体も一緒に消えてしまった。
もしかしたら、本当に神隠しに遭ったんじゃ……なんて非現実的なことを何度も何度も頭の中で考えている。
やる気が起きない。
アヤメの幼馴染に相応しい自分でいるため、街の安全を維持するため、誰かの生活を守るため……かつて正義感に燃え滾っていた心は冷めに冷めていて、今や街や人の笑顔を見るより空を見上げる回数の方が多くなったような気がする。
アヤメも最近は忙しそうだ。“百蓮”の件もあるのだろう、よりみんなから頼られるようになった。
それでも、アヤメはいつも笑顔だった。まるで何事もなかったかのように振る舞い、みんなの頼れる元気な女の子──私の知っている七稜アヤメだった。
だけど、見てしまったのだ。
路地裏で、1人寂しく、サドさんの名前を呟きながら泣いているアヤメの姿を。
『あぁ、彼女も私と同じ痛みを抱えているんだ』。
そう思えたとき、初めてアヤメの本当の姿を見れた気がした。初めて等身大のアヤメを知れた気がした。
……でも、どうしてだろう。あまり嬉しくない。それどころか、何も感じない。私ってこんなに心が冷たい人間だったっけ。
「…………ここは────」
ボーッと、行くあてもなく彷徨っていれば、見覚えのある場所に辿り着いてしまった。
百夜堂。私の思い出の全てが詰まった場所。あの日から無意識に避けていた場所だ。
「…………」
引き返せばいいのに、足が前へと進んでしまう。行けば現実を直面するだけなのに、心があの場所を求めてしまう。
もしかしたら、もしかしたらって。そう思って……
いつも座っていた縁台はちゃんとある。雪解けも始まり、特に雪も積もってる様子もなかったから、久しぶりに座ってみた。
数ヶ月前だというのに何年ぶりかのような懐かしさを抱く。懐かしくて、でもやっぱり
ここは思い出の場所。私だけじゃない。みんなにとっても思い出の象徴となる場所だ。
彼と出会い、彼と語らい、彼と遊び、彼と笑った場所。
色褪せない思い出が強ければ強いほど私の心を締め付ける。この感情の名を私は知らない。
「…………サド、さん」
名前を呼んでも虚空だけが木霊する。
分かっていたことだ。分かっていたことなのに。
───なのに、どうして今更、涙なんか流すのだろう。
「………サドさんっ……サド、ざんッ……」
顔を覆い隠して、息を殺しながら泣く。あの時のアヤメと同じように、ひっそりと。
彼の声が聞こえない。
彼の姿が見えない。
彼に褒めてもらえない。
彼に撫でてもらえない。
彼の手に触れられない。
些細なもので、でも私にとっては欠けてはならない大切なもの。
それら全て失って初めて、もうあの人はいないのだと、その現実とようやく正面から向き合えた気がした。
「会いたい……会いだいよっ、サドさん゛……っ」
◇◆
きっと、この結果はこれまでの行いに対する罰だったのだろう。
過去の私は他人から大切なモノを奪い、壊してきた。
それを見て膝から崩れ落ちる人間を嘲笑い。やめて欲しいと縋りつき涙を流しながら懇願されても耳を傾けず。ただ己の愉悦のままに他人のモノを貪り尽くしてきた。
何故報いを受けないと思っていたのだろう。
何故自分は奪われる側ではないと錯覚していたのだろう。
何故───自分の大切なものだけは大丈夫だと楽観視していたのだろう。
だからきっと、これは報い。
これまでの行いを精算するかの如く、世界は私の最も大切な
理不尽、不公平、憤怒、怨憎、悲嘆、絶望。
この世界に抱いたそれは、かつて私から奪われてきた人間たちも同じ感情を抱いたのだと知り、嘆くことなどできなかった。そんな権利はないのだと理解させられた。
何度もあの方の最期の姿が脳裏を過ぎる。まるで忘れてはならない罪であるかのように、受けるべき罰であるかのように。
何もかも奪われ、失い、私の中に残ったのは虚無。ただそれだけだった────筈だった。
「…………ここも懐かしいですわね」
ここは見晴らしの良い展望台。サド様から緋色の紐を貰い受けた思い出の場所です。
何もかも奪われ、私のすべてを無くした先にあったモノは
サド様と過ごした確かな記憶、それが今私に生きる活力を与えてくれる。
「あっ、あの駄菓子屋はサド様から綿飴をいただいたお店ですね。あれは一緒にお茶をした場所。あそこは────」
気づけば街の隅々を指差しながら思い出を辿る。
こうして振り返ってみると、あらゆる場所で様々な思い出が残されていますね。街のあちらこちらで思い出の残滓が転がっていて、もはや私にとってこの街は思い出そのものと化してしまった。
何度もあの方との過ごした日々が甦る。ここで初めて失ったモノが自身にとって如何に大きな存在だったか気づく。
ポロリと涙が流れた。あまりにも静かで、誰にも気づいてもらえないような涙。
心臓が痛い。張り裂けてしまいそうなほどに胸が苦しい。
この痛みを抱えたままあなた様のいない世界で生きていける自信がない。こんな空虚感を抱えたまま生きていくのなら、ここからいっそ─────
『ワカモ!!』
「ッ」
幻聴ではない。それは確かな声だった。
死んでしまえば。
死んでしまえば、私のこの想いはどうなるのでしょうか。
私だけの想い、私だけのあなた様、私だけの
「………酷いお人です。これではあなた様のお側に行けないではありませんか」
本当なら今すぐにでもサド様の元へ参りたい。
だけど、それは出来ない。だって、私の中であの方は生きているのだから。私が死ねば、私だけのサド様はこの世から完全に消えてしまうのだから。
だから生き続けるのです。生き続けなければならないのです。この命が尽きるまで、何度もあなた様を思い出して。
………だから、もしも。もしも立派に往生できたとしたならば。
その時は、どうか────
「────どうかあなた様のお側で、よくやったと褒めて下さいまし、サド様」
◇◆
「……………」
「マエストロ、何か気になることが?」
展望台とはまた違う百鬼夜行を一望できる場所───そこに異形の2人がいた。
1人は黒い靄を纏ったスーツ姿の異形──黒服と呼ばれる存在。
そしてもう1人、タキシード姿の双頭のドール人形の異形──名をマエストロ。この世の全てに美学を見出した芸術家を自称する存在である。
彼らは数ヶ月前に発生した異変の調査を執り行うために現地へ地赴いており、その調査も終わって拠点へ戻ろうとしている一幕で、マエストロが何かを注視していることに気づいた黒服がこう呼びかけた。
マエストロは沈黙を貫く。仕方がないのでマエストロの視線を辿ってその正体を見れば、そこには狐の少女───狐坂ワカモが泣き散らしながら何かを宣っている姿が目に入った。
マエストロは今もヒソヒソと泣く憐れな少女を指差す。
「あの
自身の考えを整理するように、ゆっくりと語り明かす彼の姿は珍しい。
「“死”を一度でも本気で望んだ者の意志はそう簡単に曲げられないのは貴下も知っているだろう?」
「えぇ、そうですね」
「……だが、今やアレからは“死”を望む意思は欠片たりとも見られない。むしろ“生”への活力が溢れているように思える。なんとも理解し難い。“死”を前に恐れた様子もなければ、アレがサドの生存に気付いた様子もない。しかしそれでも何故『生きていこう』と思えたのか」
『嗚呼、理解できない』と言葉を紡ぐマエストロを前に、黒服は何か心当たりがあるようで。
「クックック、これもまた“愛”が為す現象なのかもしれないですね」
「……………“愛”、だと?」
「えぇ、本当に不可思議な現象ですよ」
人は古来より“愛”の力を信じていた。童話にも“愛”にまつわる話も多く、その逸話も多い。“愛”は不思議な力を持つ。それは古来より一貫してある概念だ。
そも知性と理性を兼ね備えた人類が今日まで世界から消え失せていないのは“愛”を持ち得ていたからだろう。
黒服はそれら全て議論するに値しないモノだと考えていた。結局は理論と現実の前に朽ち果てるものであり、生物が等しく授けられる現象のひとつである、と。
そう───アリウスの一件があるまでは。
「………黒服、覚えているか?“愛”、すなわちそれは原初の感情。人が最初に授けられた概念。しかし、その概念は曖昧で、最も近しいモノである筈が真の意味で理解できないモノである……いつしかそう論じたな」
「えぇ、そうですね」
「その結論は間違っていなかった。現に私は“愛”というモノがますます理解ができなくなった」
「私も理解などできていませんよ。しかし、同時に侮れないと認識を改めています。“死”の意志すら揺らがす現象など、探究するには十分すぎる議題ですからね」
黒服の言葉にマエストロはギギギッと軋む音を奏で、再び狐坂ワカモを見る。
「“死”を超越した“
「…………」
「だからこそ面白い。理解し得ないものを探究するのが
───嗚呼、
そう言の葉を紡いた後、体を軋ませながら後方へと歩みを進ませるマエストロの後ろ姿を見ながら、黒服は再び狐坂ワカモを見る。
「“神秘”、我々が観測できなかったもの。そして我々が目指す“崇高”には必要不可欠なもの。故に探求してきましたが、今日に至るまで正体を掴むどころか指先を届かせることも叶わなかったもの」
しかし、と何処か上機嫌に語尾を上らせる黒服は続きを紡ぐ。
「もし、もしも、もしかすれば。我々が理解し得ない“愛”が“神秘”を観測できる
黒服の脳裏にピンク頭の生徒の姿が過ぎる。
彼女が抱くのも“愛”。ならば、それをどうにか
クツクツと薄暗い嗤い声が木霊する。
その姿は探究者そのもの。理解し得ないものを
◇◆
「オイ、シロコ!準備できたか!」
「ん、ちょっと待って。今着替えてる」
「ククッ、早くしろよォ!」
なんてったって───とうとう新たな
「準備OK」
「忘れ物はねェな!?」
「ん」
「うし、行くぞ!!」
ふむ、いい天気だ!春風が心地いいぜ!
かく言う俺も半袖だぜ!そんでシロコは
「それ暑くねェの?もう春だぞ?」
「ん、いい」
「あぁそう……」
まあ、コイツが良いって言ってるんだしいいか。
「行くぞ、シロコ!!次の虐待地に向けて出発だァ!!!」
「おー」
ハーッハッハッハ!!次はどんなガキがいるんだろうな!!楽しみでならねェぜ!!
────One for Gyakutai,All for Gyakutai。
いやはや、かなり時間がかかりましたが何とか完結させました!にしてもこれ以上ないほどにジメジメしてますね……。でも、サドはめちゃくちゃピンピンしてるのでいつか再会してさっぱり晴れるといいですね^^
それに気が付きましたか?なんか急にシロコがマフラー巻いていることに。安心して下さい、マフラーの件は閑話でやろうと思っていますので!
それとシロコが同行する理由について気になっている方も多いと思いますが、これにはちゃんとした理由があります。あんまり詳しくは言えないですし、何か特大な伏線ってわけではありませんが……ただ、ちゃんとアビドスに返す予定ですので安心して下さい^^
次の投稿は多分年明けだと思います!早ければ12月辺りに!それまでに次の被害地はどこか想像しておいて下さい!
ではまた!良い虐待ライフを〜!