汚いガキどもを見つけたので虐待することにした。 作:史上最恐の悪役
第48話
虐待とは、肉体的、及び精神的に傷めつける行為全般を指す。
俺はこれまで主に肉体的虐待に重点を置いてガキどもをひぃんひぃん泣かせてきた。
しかし、肉体的虐待を行うにあたって課題が一つ挙げられる。それは
考えてもみろ。幾千幾万のガキがいるキヴォトスで、オマケに反骨心ばかり育ったガキども相手に、ひとりひとり肉体的虐待を施すとどうなる?当然疲れる、俺が。虐待者が虐待するために虐待紛いの労働力を課せられているのだ。こんな世界間違ってるよなァ?
この問題を何とかして解決したい───そう思った瞬間に天啓が舞い降りたのだ、この虐待IQ350を誇る頭脳にな。
サドよ、ここは精神的虐待に方針転換しても良いんじゃない?と!!!
静謐に整えられた清冽な白廊下を渡る。朝の陽光が廊下を優しく照らし、僅かに開け放たれた窓からは生暖かい春風と共に桜の花弁がひらひらと入り込む。
普通の感性を持つ人間であれば、今日は何とも平穏で落ち着いた日であろうと安堵することだろう。これからはきっと良いことが起きるに違いないと、まだ見ぬ未来に希望を抱かざるを得ないだろう。
陽光に導かれるままにカツカツと廊下を進むと、ふと、とある教室の前で足が止まった。
外からでも分かる、ガキどもの喧しい話し声。笑い声が廊下を跳ねながら反響し、そこに恐怖や不安といった負の感情は欠片も感じられない。
ククッ、なんて哀れな奴らよ。これから魂の髄まで傷めつけられることも知らずになァ!!
「ご機嫌麗しゅうガキども!!!
バカデカい挨拶をかましながら勢いよくドアを開け放ち、周囲を一瞥する。
先ほどまで浮き足立つ雰囲気であった教室は、まるで水面を打って波を立てた後のように、シーンと一気に静まり返る。
しかし、この沈黙は当然のものだと言えよう。何故なら、ガキどもの恐怖の象徴であるこの俺がやって来たのだからなァ……!!
「ククッ、全員いるようだな。始業のチャイムが鳴った後も席につかない愚か者も………どうやらいないらしい」
チッ、相変わらずここのガキどもは真面目でつまらんな。わざわざタイミングをズラしてやって来たというのに。今日こそは大々的に
「じゃあ今日は〜〜……」
しかし、それならそれなりにやり用は幾らでもある。俺に反抗的なガキに罰を受けさせれば良いだけ。
ククッ、今目があったな?見逃さなかったぞテメェ!!
「早瀬ユウカッ!!キチンと挨拶しろよォ!!」
扇形に広がる教室の中央、やや左寄りの席。そこで深いため息を吐くポニーテールガールが目に入る。まるで『嫌だな〜、嫌だな〜』と心の声が聞こえてくるようだぜ。
「起立!」
ユウカの号令に嫌々と、しかしキビキビと、生徒たちは一斉に立ち上がる。
「気をつけ!礼!」
下げたくないよなァ?俺なんかに下げたくないよなその頭ァ!だが従わざるを得ない。何故なら、そう何故なら───!
『よろしくお願いします、サド
俺はコイツらの教員───つまり、敬うべき教授なのだからなァァァァァァ!!!!
◇◆
───〜〜♪〜〜♫
「おっ、丁度よく終わったな。じゃあ次回までにこのページの問題を解き終わっておけよ。ランダムで当てるからな〜!」
『え〜!?』
リズミカルな音が天井スピーカーから鳴り渡ると同時に、ガキどもが嫌がるであろう宿題を置き土産に、今日の授業は切り上げた。
もっと傷ぶることも出来たが、これ以上やるとガキどもが泣き出しちまうかもしれねェからな。俺としてはむしろ大大大大歓迎なんだが、
「……でも、サド先生の出す宿題って、授業で教わったことをちゃんと理解出来ていたら簡単に解ける問題ばかりだよね」
「意味のない難問ばかり出してくる教員とは大違い」
「ねぇ、今日の『俺のダチ!』見た?」
「見た見た!ビナーさんでしょ?すっごく可愛いヘビみたいなヤツ!」
「これもサド教授が自分で書いたんでしょ?こんな可愛い絵を描けるの、なんか意外〜」
ククッ、ガキどもの悲痛の叫び声が聞こえてくるぜ……
さて、改めてここ、ミレニアムについて説明しよう。
科学と技術の街、ミレニアム。元は【千年難題】と呼ばれる7つの難題に立ち向かうために集結した集団であったが、その7つの難題を解くために様々な
つまり、誕生秘話から何から何まで、根本的に研究バカの集まりってこった。まぁ、中には研究にあまり興味を示さないガキもいるけどな。むしろそういう奴らは何故この学校に入学したのかよく分からん。
治安はキヴォトスの中ではマシ。俺にとっちゃどっこいどっこいだが、研究に没頭している分そこに労力を掛けている面が大きく作用しているのだろう。ただし研究事故は頻繁に起こる。何なら銃撃戦の方がマシなんじゃねェかって思うわ。銃より何入ってるか分かんねェ煙の方が嫌だろ。
「ククッ、どれだけ頭が良くても所詮はただのガキってことよ。自身の探究心を抑えられず、好奇心の傀儡と化しているウチはな。むしろ良し悪しも分からない分そこらの不良よりタチが悪いぜ」
「何ですか。教師が教室で堂々と生徒を誹謗とは、少し頂けないと思うんですけど」
出た、と思わざる溢れ出そうになった口を何とか塞ぐ。
たった今放たれた独り言を
早瀬ユウカ。先程のように嫌がらせで朝礼に指名する等、様々な虐待を一身に受けながらも、この虐待王に叛逆する心を抱き続ける高潔な魂を持ったガキだ。
「ククッ、別に隠す気ねェから良いんだよ。それに先週同じ話を教壇の上に立ってしたよな?」
「だから先週も言いました。堂々と言っていれば良いなんて話はありませんと。全く、教師は教師らしく生徒の模範となる言動を───」
「よーし行くかー」
「って聞いてるんですか!?」
すまねェ、俺の耳って悲鳴と絶叫以外聞こえない特別製なんだわ。
「そういえばまた私のこと当てましたね!今月何回目ですか!」
「あ?しょうがねェだろ、目が合ったんだからよ」
「ダウト!真っ先に私のこと見てました!絶対当ててやるという強い意思が垣間見得ましたよ!」
「ククッ、バレたか。そうだぜ?基本的に迷ったらユウカを当てるようにしてるぜ。何となく探しちゃうんだよなァ……」
「もう……!そ、そんなに私のことが好きなんですか!?」
「ん?あぁ、好きだぜ」
「………………ふぇ?」
何やかんや言いながら、ユウカのことは嫌ってない。むしろ好ましくすら思う。
ただし、その感情は音の鳴る玩具に対するものに近しい。虐待すれば毎度良い音を鳴らしながら反応するし、新鮮味が薄れないし、何より何度虐待を受けても立ち向かう心を買っている。反骨であれば反骨である程、心の折れる音は心地良いからな!
「むしろ俺としちゃあ問題はアイツだ。あの記録メモ魔野郎、俺の失言をいちいちメモしやが───」
「そのような方がいらっしゃるのですね。是非ともお聞きしたいです」
「…………」
何故か顔を真っ赤にして焦点合わないユウカの隣で、ニッコリと微笑む白髪のガキ。その雪のような白さと血の気のない笑顔はまるで死神の微笑みのようだと漠然と思った。
「ククッ、テメェのことだ!生塩ノア!今日もメモしていやがったな!」
「はい♪今日は21回、うち学校の上層部への愚痴は11回程です」
半分学校の愚痴かよ。学校の基本的方針にあーだこーだ言ってたのがマズかったか………ってそうじゃねェ!コイツ、またメモしてやがった……!
改めて紹介しよう。このガキの名は生塩ノア。このミレニアムの中で最も危険視しているガキだ。
というのも、コイツ、異様に記憶力が良い。全体的にミレニアム生は物覚えが良いが、その中でもノアは飛び抜けていると言ってもいい。
オマケに、何かあるごとにメモをする癖があるから、なおのことタチが悪い。しかも、何が面白いのか、俺の行動や発言を毎回メモしているらしい。クソわよ。
「フッ、そうやって俺の弱味を握っていろ。いずれお前の反骨心を折り、そのメモを俺への称賛と感嘆で埋め尽くしてやるからよ!」
「ふふっ、なら、もう書いていると言ったらどうしますか?」
「……ハッ、その手に引っ掛かるようなバカだと思われていたとは心外だぜ。だとしても全く心に響かんがな」
コイツは人を揶揄う癖がある。ユウカがその代表的な被害者例だ。凡そ、咄嗟でもそんじょそこらの男児が喜びそうな甘く耳障りの良い言葉を並び立てれば俺の醜態を見れるとでも勘違いしたのだろう。
全く、これだからガキは。テメェらガキに甘い言葉吐かれたって何もトキめかないわ!
「ところで、お前らは一体何しに来たんだ?別に呼び出した覚えもねーし……」
「そ、それは───」
「ん、サドの研究室に資料を持ち運ぶ手伝いをして少しでも長くいる作戦……そうでしょ?」
「あ?そうなのか?サンキュー───って、いつの間にいたんだよ、テメェ」
顔面茹でタコから蒸し焼きにまで復調したユウカが口籠もりながら発した言葉は、本来ここにいる筈のない人間──砂狼シロコによって遮られた。
ステルススキルがますます磨きがかかっているようだ。
「大体お前授業のクラスだいぶ離れてたろ。何でもうここにいるんだ?」
「ん、疑われるのは心外。ちゃんと授業受けて、猛ダッシュでこっちに来た」
そんなに資料運び手伝いたかったのか?“道具”根性極まってんじゃねェか。
「つーか、資料運び手伝ってくれるって
「いや、その、えっと……」
「ん、サドのお世話は私がする。あなたたちは引っ込んでて」
「〜〜〜ッ!!さっきから黙っていれば何よ、あなた!他所者こそ引っ込んでなさい!」
「他所者じゃない。身内」
「身内……!?あ、あなたはサド教授の何なのよ……?」
「…………“道具”兼ペット?」
「はぁ!?ちょっ、教授!!この子なんか可笑しいですよ!?」
「いや、正しいが」
「はぁ!?!?」
これが百面相ってヤツか。オモロいな。
「………えぇ、えぇ。分かったわ。教授が
「ん、物分かりの良い人は嫌いじゃない。じゃあ、ここから早く立ち去って───」
「でもそれとこれとは話は別!少し計算外だったけど……サド教授を尊敬する気持ちは変わらないもの!それに、あなたに私の行動を妨害する権利はない筈よ!どう?反論出来るかしら!!」
「…………しつこい」
「何やってんだ、コイツら」
「『喧嘩するほど仲がいい』と言いますし、もしかしたら、たった今、彼女たちなりに仲良くなる段階を踏んでいる最中なのかもしれませんね」
「ふ〜〜ん、じゃあ邪魔しない方がいいのか」
「その通りです。このまま口論の行方を見届けるのも良いですが、今はひとまずこの資料をサド教授の研究室に置いてきましょう。良いですね?サド教授」
「ん?あぁ、そうだな」
結局、ノアと2人で資料を運ぶことになった。あのバカ2人と改めて合流したのは研究室に届けた後だった。2人の冷たい視線がノアに突き刺さっていたように思えた。
…………で、結局喧嘩した理由って何だったんだ???
◇◆
ミレニアムにあるとあるモニター室。必要最低限の物のみで構成され、機能性や効率だけを追求したような無機質な部屋は、その部屋の主の性格をこれでもかと表していた。
そんな鉄の空虚な室内に3つの人影がある。そのうちの1人は画面いっぱいに広がる映像の中でも、とある一枠のみを睨め付けるように見ていた。
「おい、リオ。おいって」
「………何かしら」
「何かしら、じゃねぇよ。そろそろあたいらをこんな薄気味悪ぃ場所に呼んだ理由を言えってんだ」
リオと呼ばれた黒髪の少女は、先程まで見ていた映像を指差し、その部分だけ拡大した。
「これ、誰か分かる?」
「あ?何かと思えば人当てクイズだぁ?テメェ、ふざけんのも大概に───」
「はいはーい!ちょっと粗くて分かんないけど、多分サド教授だと思いまーす!」
「えぇ、その通りよ、アスナ」
アスナと呼ばれた少女は大型犬を彷彿とさせる人懐っこい笑みを浮かべ、純粋にクイズの正解を引き当てたことを喜ぶ。
そして、最後の少女──美甘ネルは調月リオという少女の性格を大まかに把握しているため、その先に下される命令をある程度察し、深くため息を吐く。
「………そいつが今回のターゲットってワケね」
「話が早くて助かるわ。彼は今年度になってからミレニアムの教員になった人間よ。これまで何度か監視カメラで動向を伺っていたけれど、どうにも怪しい動きが多いから貴女たちに確認してきてもらいたいの。つまり、監視ね」
「あぁん?なんだ、問答無用でぶっ飛ばすんじゃねえのかよ?」
「えぇ、まだ不確定的要素が多いもの」
リオは映像を何度も見返す。
その映像はアスナが指摘したように粗い。否、『粗い』などという生易しいものではない。まるでモザイクだ。
故に、何らかのやましい事情があって、自身の体に細工を施している可能性が高いとリオは判断した。しかし、この映像だけでは把握できないため、ネルたちに直接確認してもらう必要があった。
「…………」
「……何かしら」
などと問いかけるも、ネルの心中は手に取るように理解出来た。他者を心の底から信頼出来ず、疑うことしか脳にない自分を咎めるような、そんな眼差し。何度も受けてきた、理解を拒む視線だ。
きっと間違っているのは自分なのだろう。実を言えば、自分自身も答えを急いだという意識はある。
しかし、彼が昨今確認された強大なエネルギーを発する正体不明のAI。そのAIたちと同波数のエネルギーが彼から発していることが分かった今、警戒対象から除外することは、リオからしてあり得なかった。
やがて到来する
誰かに理解されなくても、その行動が一般大衆的に悪であると定義され罵られようとも、自身が信じた道を歩むだけ。
そう遠くない未来、キヴォトスは滅亡する───その事実を知った瞬間から、彼女は『躊躇い』という言葉を自身の辞書から消したのだから。
「……もう行ってちょうだい。定期連絡は忘れずに」
「へいへい、分かってますよ」
皮肉混じりに了承の旨を伝え、ネルは踵を返す。アスナもその後を追うのだった。
「つーことで、教授について調べるぞ。それこそ、ありとあらゆる手段を用いてな」
「んー……私、サド教授が悪い人には思えないんだけどなー……」
「しょうがねえだろ、上官の
着崩していた制服を剥ぎ取り、その下から顕れるメイド服。
創部して間もないが、ミレニアムサイエンススクールでは畏怖の象徴として語られる兇弾が、彼の元に差し向けられた。
「