汚いガキどもを見つけたので虐待することにした。 作:史上最恐の悪役
教員になってから『朝チュン』というネット造語をよく耳にする。情報源は主に
何故かは分からないが、聞けば昨今で有名な恋愛ドラマに感化されての話題らしい。
そういや最近シロコも釘付けになって見ているドラマがあったことを思い出した。基本的に虐待以外興味なく、シロコのプライベートなんかにも欠片たりとも興味のない俺であったが、シロコのあまりに鬼気迫る勢いの喰いつきように、ついついネットで調べてしまうぐらいには素晴らしいドラマであるらしい。
あの時は流石の俺も肝が冷えたぜ……
とまぁ、なんか色々妄想を猛々しく燃え広げているようだ。如何にもガキらしいといえばガキらしいが。
そこで、だ。ふと思ったことがある。
────俺って、毎朝シロコと『朝チュン』してるんじゃね?と。
『朝チュン』ってアレだろ?ようは朝起きたら女性が隣で眠っていてスズメが『チュンチュン』鳴く朝のことなんだろ?『だからどうした』とガキどもに思わず問いかければ非難轟々と大粒の石が飛び交いそうな状況だが、ひとまず知ってる。
ならば純粋無垢な哀れなガキどもに良いネタが仕込めそうだ。
『朝チュン』は、お前らが妄想する程素晴らしき朝ではないぞ、と。
朝。頬に感じる微かでは済まされない不快感と共に目を覚ます。目を閉じて耳を澄ませば『チュンチュン』と小鳥の囀る音が。これで『朝チュン』の条件は達成されたワケだが………どうにも素晴らしい朝であるかは甚だ理解に苦しむ。
頬にあるザラザラの不快感の正体、それはシロコの頭だ。コイツ、寝る時は俺と一定の距離感を保ってるくせに、朝目が覚めたらゼロ距離どころか体の一部にめり込む勢いになってんのマジで何なんだよ。叛逆か?
何より熱い。冬の時期ならまぁまぁ助かる人間カイロも、温暖を取り戻しつつある春では不要な物だ。お陰でほら、汗が。
「起きろ、シロコ起きろオラぁ……」
ダメだ、寝起きで声に覇気がない。こんなんじゃちっとも起きやしないというのに……
この後、俺とコイツの朝食を作り、シロコに朝の支度をさせ、シロコの謎のこだわりでチャリ通で学校に向かうこととなる。
ククッ、これはなかなかハードな1日だぜ。ほんの少しでいいから、手助けしてくれる駒使いがいてくれたら、なんて────
「おはようございます、サド様」
起床の挨拶と共に開かれる緑色のカーテン。
健康的な日光が部屋中に行き渡り、春風が充満した。
これも我が家のルーティンである作業だ。俺の代わりにやってくれたことに感謝を示さなければ。
「あぁ、サンキューな。…………………誰だお前!?」
よく考えたらウチに俺とシロコ以外の人間がいること自体可笑しな話だったわ!本当に誰だお前!?
「もうお忘れになられたのですか?昨夜のあのアツいひと時を……」
「なん、だと……」
「ふふっ、どうやら記憶が混濁しているご様子ですね。でしたら、思い出させてあげましょうか?もう一度、あの瞬間を再現して……」
「ろくな思い出じゃないから思い出さなくていい」
危うく飲み込まれかけたところで、いつ起きたのかシロコが俺と謎メイドの間に立ってくれた。番犬がここに活きる。
正直今も頭が正常に回っていない。しかし、その頭脳は限られた情報を正しく理解しようと脳を働かせる。その限られた情報というのが、謎メイドの顔だった。謎メイドは感情を灯さない顔と瞳で俺に何かを訴えかけてくる。
……ん?メイド?メイドってメイドだな。メイド、メイドか………────────
「────テメェ昨日押しかけて来た謎のメイドじゃねェか!?」
「あなただけのメイド、飛鳥馬トキです」
何故メイドがここにいるのか、何も分からないまま。
シロコの舌打ちだけが、この妙な空間に木霊した。
「昨日はあまりに唐突であり、サド様に一考の余地をお与え出来なかったことに深い失念を抱いております。その上で言います。雇ってください」
「スゲェな、こんなにも誠意を込めてる風で謝罪も何もないクソみたいな言葉の羅列を聞ける日がくるとは」
夜、リビングにて机越しに金髪メイドと対座した。隣には不機嫌そうなシロコ。今日も俺の自慢の
朝は時間的にも、心情的にも余裕がなかったため、話し合いは夜へと移行させた。ぶっちゃけ問題の先送りである。だが、この先送りのおかげで少しの冷静さを取り戻すことが出来た。
「まずお前はメイドとして雇われに来たと」
「はい」
「雇用条件は俺の好き勝手にしていいから、とにかく雇えと」
「はい」
「成程確かに魅力的な提案だ。俺がメイドを求めていないという点に目を瞑ればな。よって却下ァ!!」
メイドを雇うって俺は中世貴族のボンボンか?俺たちが住む部屋はメイドを雇うほど広大でもなければ盗人から守るべき骨董品もない。
「そもそも!メイドってオールラウンダーに熟すヤツじゃないと出来ねェよなァ?お前がそんな高水準な能力を持っているとはとても……」
「………ならば能力を示せれば雇っていただけるのですか?」
「ん?まぁ……」
別にそれで雇う雇わないの話に直結することはないが、能力の有無の確認は大事なことだろう。何となく適当に頷いた。
「では、明日の朝から1日のみ、【ドキドキ☆トキちゃんメイド体験デー】をご利用されてみては如何でしょう。今ならオプションで買取も可です」
「スゲェヘンテコな名前」
「これ以上ない素晴らしい名前だと自負しています」
「ククッ、おもしれー女……」
しかし1日体験とは面白い提案だ。大体の物差しは1日で分かっちまうからな。それをわざわざアッチから提案してくるとは、余程自信があるのか、それとも裏があるのか。
どちらにせよ面白そうってことに変わり無いがな!
口ではああ言っていたが、本当はちょっと憧れてたんだよ、メイド。中世貴族のメイドなんてそれこそボンボンの虐待道具だったと聞くし、かつての虐待を体験出来るいい機会だと思っておこう。
「……………………私は反対」
しかし、うちの
おふざけは一切なし、狼の如き鋭い眼光が謎メイドに突き刺さる。
「この女、何か企んでる………と思う」
「なんだ、根拠ねェのかよ」
「ないけど、何か目的があってサドに接触しようとしてると思う」
シロコの勘はたまに時折稀に当たる。ということはそこまで当たらないが、当たるときは当たる。野生の勘か、もしくはシロコのいう女の勘というやつが目の前のメイドに警鐘を鳴らしているのだろう。
────下らん。
「ハーッハッハッハ!!!無意味無意味無意味!!たとえ目の前のメイドが何を考えていようと全て無駄!!何故なら、この俺を相手取ろうなど100年早いからだッ!!!」
『だから不要な警戒などするな!』と吐き捨てれば、シロコは何とも曖昧な表情を浮かべるだけだった。しかし、特に反論することなく黙って俺の意向に耳を傾けていた。
きっと心の中で『警告してやった私の良心を返せ』などと宣っていることだろう。返さねェよバーカ!!お前の心は永遠に俺のモノだ!
「…………良い主従関係ですね」
「あ?なんて?」
「いえ、それよりどうなさることに?」
「ククッ、受けてたとうじゃないか!お前はこの提案をしてしまったことを死ぬまで後悔することになるだろうぜ!」
たった1日だけで、思わず墓場まで持って行きたくなるほどの恐怖を埋め込ませてやるよ!
「おはようございます、サド様。朝食のご準備はすでに済ませています」
ナチュラルに枕元で朝の挨拶するのやめろ。
というか───
「お前料理出来たのか!?いや待て、肝心の味は………………あぁ、まぁまぁ、だな」
「サドが『まぁまぁ』って言った……!?」
「今日は午前授業のみだから仕事は少ねェ!ラッキーだぜ!………って仕事用のバック忘れた!?」
「こちらに」
「うおっ!?いつの間に!?気が利くじゃねェか。サンキューな!」
「少しはやる……」
「今日の授業はここまで!もちろん宿題も出すぜ〜!精々家で苦しめ!以上!」
俺の授業では必ず宿題を課すんだぜ!理由はガキどもの苦しむ姿が見たいから!単純明快かつ極悪非道なこれ以上ない理由だぜ!
「き、教授!今日もお手伝いを────」
「いえ、今日から私が担当しますので結構です」
「うわっビックリした!?あなた誰よ!?」
「サド様専属のスーパーメイド、飛鳥馬トキです。以後お見知りおきを」
「メイド!?!?教授、また変な趣味に目覚めて……!」
「元から変な趣味に目覚めてた前提で話すのやめろ」
つーか、コイツいつ出てきやがった?教室違うよな?まるで最初からスタンばってましたと言わんばかりの速さだったぞ。
「まぁまぁ、ユウカちゃんも落ち着いてください。これには何か深い事情が───」
「つまり皆様におかれましてはお役御免というわけです。さよならというわけです。これまで通り一生徒と一教員の間柄に戻るというわけです。何故なら私がいますから。では行きましょう、サド様」
「……………ユウカちゃん、ペンはありますか?今日も日記を綴ろうにも何故かインクが出ないので……」
「へし折れてる!?へし折れてるわよノア!?」
結局4人──途中でシロコが合流した──で仲良く分配して研究室まで持ち運んだ。
いや、そんな人数いらねェんだけど……
「貴様に命じる!好きな服を選べッ!」
「私は?」
「お前は何も言わずとも勝手に持ってくるだろうが!無論シロコもいいぜ!」
午後はメイドを連れてショッピングだぜ!
もちろん文字通り手足の如く働かせてやったぜ……!なんせ───コイツ用の食器やら生活必需品やらでたくさん買っちまったからなァ!!
「あの………何故服を見繕うことに……?」
「そりゃお前、ウチに来るっつーならメイド服のみなんて許すワケないからだろうが。単調な服ほど怠惰なものはないからな……!」
「いえ、その、それってつまり私を雇っていただけると解釈してもよろしいのでしょうか?」
「ん?…………まぁ細かいことは気にすんな!今は服を選べ服を!値段は気にするな!俺を飽きさせない見目の良い物を選べ!」
「……………」
「ん、諦めるべき。サドはいつもあんな感じ」
おーおー、俺に対する盛大な悪口がこれでもかと聞こえてくるぜ〜。世の中の理不尽さを身に沁みて分かったことだろう。
「朝にも思ったことだが、お前料理上手いな〜」
「悔しいけど………認める」
「ありがとうございます」
家に帰り、さて夕飯を作ろうとしたところ、何とメイドが作ると言い出した。そしたらまぁ美味いのなんの。メイドを自称するだけあって家事スキルは一流のようだった。
メイドお手製の肉じゃがを平らげ、満足そうな腹を撫でていると、何やら厳かな面立ちで対面に座るメイド。
「如何でしたか。私はサド様に仕えるメイドとして十分な素養は備わっていた、でしょうか」
成程、こいつは傑作だ。表情筋はピクリとも動かず、感情をお母さんの中に置いてきたようなメイドがこれでもかと緊張しているらしかった。
何故緊張しているのか甚だ見当つかないが、緊張とは無縁だと思っていた存在が醜態を晒す姿を見るのは気分が良い。
なら、ここでひとつ揺りを入れておこう。
「ククッ、確かにお前のスキルは目に見張るものがある。メイドとして申し分なしだ」
「ならば────」
「だが、メイドとして最も重要な部分が測れていない。雇用するかはそれを確認した後だ」
復唱しながら首を傾げ裁定を待つメイドと、意外そうに瞼を瞬くシロコ。
ククッ、もしやこのまますんなり『はい、良いですよ〜』と通すと思っていたのか?お前もまだまだ俺の性格の悪さを理解しきれていないな。
俺が確認したいもの、それは────
「お前────心から俺に仕えたいと、本気でそう思っているのか?」
メイドといえば何か?───忠誠心。それ以外考えられない。
俺のメイドとなれば、絶対に裏切らないヤツがいいんだぜ。いつ寝首を掻かれてしまうか不安になりながらベッドに包まるのなんてゴメンだね。
それに、忠誠心があるってことはそれ相応に激しい虐待にも耐えてくれるだろう!つまり体のいい虐待人形!お前に求めるのはそれだけだぜ。
メイドは何かを思い出すように目を瞑り、次に開いた時は“覚悟”の灯った瞳をしていた。
「………少ない時間ではありましたが、サド様に仕えることが出来たのなら、きっとこれまで以上に楽しい日々を送れるだろうと、そう勝手に想像してしまいました。そこに嘘はございません」
「正直に申し上げますと、完全な忠誠心を抱けているかは分かりません。しかし、サド様のためなら身を粉にする気持ちで働けると思っております」
「これが、今の私が示せる私なりの忠誠心です」
あぁ、そうだろうなと思った。スカートに皺が出来る程に強く握られた手がそれを雄弁に物語っているのだから。
「ふーん、じゃあ採用で」
「今一度、深くお考えいただければ────えっ」
豆鉄砲に撃たれた鳩とはまさにこのこと。
せっかく欲しがっていた採用通知もこれでは浮かばれないだろう。
「ず、随分とあっさりに……私は忠誠にお応えできたのでしょうか?」
「あぁ、ぶっちゃけ忠誠心とかどーでも良いんだよな」
「え?」
メイドといえば忠誠心っていう固定観念で質問しただけだし。
散々正論を並べ立てようとも、最終的な俺の物差しは虐待出来るか否か、面白そうか否かだ。
「お前は虐待しがいのあるヤツだと俺の慧眼が判断した。これから地獄に足を踏み入れたと後悔するような日々が待ち受けているから覚悟しろよ!クククッ……!」
「これからサドと一緒にいるなら早めになれるべき。サドはこういう人だから。あとお前のことは少しは認める。でもこれからも監視するからよろしく」
「あっ、はい……」
さて、改めて挨拶でもしようか!
「ククッ、これからよろしくな────
「ッ、はい、これからも末永くよろしくお願いいたします、サド様」
「末永くは勘弁だぜ!」